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テック 2017.12.29

VR酔いの症状・原因、開発者向けの対策を紹介

現在、家電量販店などで一般消費者向けのVR機器が販売されています。また、個人でVRデバイスを持っていなくても体験できる、アミューズメントパークのようなVR体験施設が増え、格段にVRを体験しやすくなりました。

しかし、VRを体験した際に、乗り物酔いのも似た”VR酔い”が発生することがあり、せっかくのVR体験も酔ってしまうと楽しさが半減してしまいます。実際にVRを遊ぶプレイヤーだけでなく、VRコンテンツ開発者としても、自分の作ったコンテンツを楽しく体験してもらうために酔い対策は気になるところです。

今回はその”VR酔い”がなぜ起きてしまうのか、またコンテンツ開発者向けに、開発の際の酔い対策にはどんなものがあるのか、実際に導入された例を紹介していきます。

目次

・VR酔いの症状
・なぜVR酔いが起きるのか
・VR酔いの対処法、実際の事例紹介

VR酔いの症状

VR酔いは、VR体験によって気分が悪くなる症状のことを指します。主な症状としては次のようなものが挙げられます。

・胃のむかつき
・吐き気
・頭痛

これらの症状の種類や程度には個人差が大きくあります。

一般にVR酔いは「動揺病(motion sickness)」の一種と考えられています。

動揺病とは、視覚・前庭・体性感覚などが関与する酔いのことで、例として船酔いや車酔いなどの乗り物酔い、大画面映画による映画酔い、シミュレータ訓練による酔い、宇宙で生じる宇宙酔いなどがあります。

なぜVR酔いが起きるのか

動揺病(そしてVR酔い)が起こる原因には諸説ありますが、有名なものには「感覚不一致説(感覚矛盾説)」が挙げられます。感覚不一致説とは、自分が今実際に知覚している感覚と、過去の経験から予測される感覚との矛盾が原因で酔いが起きるというものです。

たとえば、VR内で車に乗った時、視覚情報に基づき「本当ならこんな時はこう揺れるはず」、「曲がったらこれくらい圧力を感じるはず」などと、実生活での記憶に基づいて身体が感覚の予測をしますが、実際には揺れや圧力は無く、予測と体験が矛盾し、酔いが発生しやすくなります。

ただ、感覚不一致説ですべてが説明できるわけではなく、「酔い」のメカニズムは完全に解明されているわけではありません。また船や車などの乗り物酔いに関しては振動、そして宇宙酔いに関しては重力の欠如も主要因として挙げられます。

(参考)
・日本バーチャルリアリティ学会(編)(2011) 『バーチャルリアリティ学』 東京 コロナ社 49-52頁
・中川千鶴、大須賀美恵子(1998)『VE酔い研究及び関連分野における研究の現状』 TVRSJ、Vol.3、No.2、31-39頁

VR酔いの対処法、実際の事例紹介

ここからは、VRコンテンツ開発者向けに、コンテンツを作る際のVR酔い対処法として、実際に導入された事例を紹介していきます。

「視覚情報」に着目した酔い対策:『Eagle Flight』の開発事例

実際にコンテンツに導入された例としては、Ubisoftが手掛ける鷲になって50年後のパリを自由に飛び回るVRゲーム『Eagle Flight』があります。『Eagle Flight』では開発プロジェクト発足とともに、“酔い”に関する知見を学び始めたと『Eagle Flight』のゲームディレクター、オリビア・パルメリ氏は述べています。

人間の耳の内部にある平衡感覚をつかさどる器官、人間の視線に関する研究、NASAの「宇宙酔い」に関する知見、といったあらゆる学術的な知見を集めたとのことです。

『Eagle Flight』のゲームディレクター、Ubisoftのオリビア・パルメリ氏は次の5つが酔いの原因であると述べています。

1.視覚情報と平衡感覚のズレ
2.フレームレート不足・処理落ち
3.至近距離での激しい動き
4.視界だけが加速度運動をしていること
5.VRの壁を通り抜けてしまう

これらを対処するために『Eagle Flight』では、それぞれに対応した回避方法が取り入れられています。

『Eagle Flight』では飛行(移動)に関する操作はすべてプレイヤーの「頭の位置・向き」で行うことで、プレイヤーは必然的に「前(向いている)方向に直進」しかできません。視覚と顔の方向・傾きを一致させることで、VR酔いの軽減につながっています。

また「加速度を伴う移動は避け、なるべく等速運動にするべき」という知見を利用しており、これについては「正面方向なら加速の影響も少ない」とは言われていますが、『Eagle Flight』では酔いを軽減するために、正面加速にも配慮。加速・減速は緩やかに、パラメタを試行錯誤して最も快適になるような度合いで加速するように調整されています。

VR酔いを避けながら、壁との衝突をどう演出するのかについては

(1)急に動きを止めること
(2)プレイヤーの方向を勝手に変えてしまうこと
(3)壁を通り抜けさせてしまうこと
は、それぞれV酔いを引き起こす5つの原因の中に含まれるため、できれば使いたくない手法です。

『Eagle Flight』では、壁との衝突の直前に、視界が黒くフェードアウトする、という解決策が採用されています。さらに、衝突後、暗転し、葉っぱなどのパーティクルを出現させ、少し時間を置いてから「衝突しました」という文字を出現させています。

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さらには地平線や太陽など、ほとんど動かないものを描画しておくことで、視界が安定し、動きのコントロールがしやすくなるとのこと。

これら以外にも様々な対処や試行錯誤を行ってVR酔いを軽減させているということです。
詳細は下記の記事に記載されています。

VRでの「移動速度」に注意:Oculus公式ガイドの事例

PC向けハイエンドVRHMDであるOculus RiftをリリースしているOculus社からは、同社が提供しているベストプラクティスガイドの中に”酔い”に関する記述があります。

こちらの記述によると、動作の速度および加速について、基本的に遅い動作のほうが一般的に快適ですが、本当に気を付けなければならないのは「加速」とのこと。内耳の中にある前庭器官が感じ取る加速度と視覚により感じられる加速度に差があると感覚の矛盾がおき、不快感につながることがあるようです。

この対処法としては、長い時間をかけて徐々に加速するよりも、瞬間的に加速することで、快適性がまし、酔いが軽減されると述べられています。

また、ユーザーによる自主的な制御も重要であると述べており、たとえば体験者の意思とは別にカメラが動いていく、といったユーザー主導のもとに行われていないカメラ動作は酔いを引き起こす原因になるとのことです。

もし、ユーザーに重要なイベントを見せる際には、ユーザーの視点を勝手に動かすのではなく、効果音でイベントの合図をしたり、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)に目標の方向を向かせることで、自然と視線を誘導することなどが求められます。

Oculus公式ベストプラクティスガイド

「描画遅延」などにも注意を:SIEの講演事例

2016年8月に行われたCEDEC2016では、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の大貫善数氏は、PSVRコンテンツ開発者向けのアドバイスを含む、快適なVR体験を実現するための知見を発表しています。

講演では特に、VR酔いを引き起こす原因となる
1.描画遅延(レイテンシー)・フレームレート(Latency)
2.プレイヤーの移動(Control Scheme)
3.カメラ制御(Camera Control)

そして、目への刺激になりうる

4.深度違反(Depth Conflict)

の4つが挙げられました。

特に描画遅延(レイテンシー)に関しては、Oculus Riftのベストプラクティスガイドでも記されるなどはほぼ定説になりつつあり、「フレームレートは画質を犠牲にしてでも絶対に確保するべき」とされています。

PSVRのコンテンツではソニーが品質管理も行っており、下記の3つのみを許可しているとのこと。90Hzの水準は必ず満たすよう設定されているのがわかります。

1.初めから120Hzで作られたもの
2.60Hzで作ったものをリプロジェクション機能という次に描画する画像を予測して疑似的にフレームを補完する機能で120Hzにするもの
3.90Hzで作られたもの

また、直接VR酔いの原因にはなりませんが、深度違反が起きていると、眼精疲労など別の問題が引き起こされ、結果としてVR酔いにつながる可能性があります。


深度違反とは、VR内で深度情報を無視して描かれたオブジェクトが、別のオブジェクトに重なって目に入った時、プレイヤーはピントを合わせることが難しく眼精疲労を引き起こすという問題です。特にいわゆる”メニュー”などのUIや字幕で問題起こりやすいものです。


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