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活用事例 2017.04.05

2017年の今、「VR体験施設が直面する法律問題」とは何か? VR Safety勉強会レポート

2017年3月27日夜、VR業界が今後直面するであろう法的な問題などに関する勉強会「VR Safety 勉強会 #1」が開催されました。

今回は、消防法によって設備規定が変更された例や、ゲームセンターなどにも適用されている“風営法”がVR事業に及ぼす影響などが話し合われました。

本記事では、前半の「法的観点から見るVRコンテンツプレイ中の安全性」と、後半の「VR体験施設は風営法の対象となるのか?」について、詳しくレポートしていきます。

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登壇したのは林田奈美氏(写真左)と林田貴光氏(写真右)。

本勉強会では、VR体験が広まるにつれて想定される示唆深い問題提起が行われました。前半登壇した株式会社サードウェーブデジノスの林田奈美氏は、前職で消防関連に携わった経験から、VRコンテンツをプレイ中の人の安全について講演。また、林田貴光氏はこれまでゲームセンターのゲーム機メンテナンスなどに従事し、風営法に接する機会が多かったことから、VR体験施設が風営法対象となるのか?という問について問題提起しました。

なお、講演では「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」を「風適法」として言及されましたが、本記事中では「風営法」と統一しています。

VRプレイ中のプレイヤーの「安全」をどう確保するか?

消防法改定によって、設備が変わった例

リアルの世界で火災が起きている時に、VRコンテンツを体験している人は、果たしてそれに気づけるでしょうか?仮にもし、その人が戦争モノなど、あちこちで火が上がっているようなゲームで遊んでいたら、ゲームと現実の区別が確実につくと言えるでしょうか?」

林田奈美氏が登壇した勉強会前半のテーマは「VR体験中のプレイヤーの安全」。例では火災が挙げられましたが、地震や津波などの災害も同様の問題として考えられます。

こちらが勉強会で共有された資料。 これは消防防災博物館のHPで公開されている、過去の火災事例です。65歳以上の寝たきりの老人76名を収容していた老人ホームで起きた火災は、初期消火に失敗し、17名の死者を出してしまいました。

「この設備は、当時の消防法をきちんと守っており、火災報知機も正しく動作しました。消火は火災の発見後、職員が行うことになっていましたが、結局間に合わなかったのです」

彼女によれば、これを機に、寝たきりの人がいる施設についての消防法が見直され、こういった施設には天井にスプリンクラーの設置が義務付けられたのだそうです。

火災報知器などは、「見える、聞こえる、逃げられる」ことが前提で作られているシステム。寝たきりの人にとってはこれだけでは安全が確保できず、やむなくスプリンクラーのような強制的に火を消すような設備を用意するに至りました。

 

VR体験者の安全確保と、VR事業の展開

火災の例は、VR業界と無関係ではありません。

VR体験をしているときは、現実世界は見えない・聞こえない状態で、災害があったときにそれを察知できない(逃げられない)可能性があります。

もしも何も対策をせずにVR体験施設ができ、そこで火災が起き、誰かが逃げ遅れるなどと問題が起きてしまったらどうなるでしょうか。林田氏は「極端な話をすれば、一度問題が起きてしまったら、ある規模以上のVR体験施設には、スプリンクラーの設置を義務付けられる可能性もゼロではありません」と言います。

「火災に関する設備は、ビル全体に工事が必要でコストがかかります。そんなふうに法律に規制された状況では、VR事業を展開しにくくなり、業界自体が失速する恐れもあります。そうなる前に、できることがあるのではないかと考えています」

氏は、この勉強会発足の経緯とあわせてそう語りました。

ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着中にどのように警報を出すのか、は非常に難しい問題です。映像として警告を出したとしても、単なるゲームの演出だと思われてしまうかもしれません。災害時は一律にHMDの電源を強制停止するのが良いようにも思えますが、いきなり画面が消えた客は、HMDを外したときに周りが燃えていたら、果たして落ち着いて避難ができるでしょうか。

VRは風営法の対象になり得るのか?

勉強会の後半は、林田貴光氏によるセッション「VR体験施設は、ゲームセンターのように風営法の対象となるのか?」についてです。

風営法とは、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」のこと。風営法は業種によって1号から5号まで対象が定められています。

今回の講演で特に取り上げられたのは「5号営業(ゲームセンター)」です。

ゲームセンターはどうして風営法の対象となったのか?

「5号営業」というのは、法律で「本来の用途以外の用途として、射幸心(※)をそそるおそれのある遊戯に用いることができるものを備える店舗」などと定義されています。

※射幸心:偶然に財産的利益を得ようとする欲心。(内閣衆質192第123号 平成28年11月18日 衆議院議員緒方林太郎君提出風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する質問に対する答弁書より)

4号営業とされるパチンコなどのマシンは、もともとが射幸心を煽るものとして開発されている一方で、通常のゲーム機は、それ単体では(普通に遊べば)射幸心をそそるおそれはないとされています。

かつてゲームセンターは風営法の対象ではありませんでした。しかし、陰で違法賭博が行われる実情があり、「たとえばテーブル型のゲーム機が改造され、テレビポーカーやビデオ麻雀などとして使われていた」と林田氏は語ります。こうした状況から、「ゲーム機は賭博に容易に流用できる」と判断され、また当時は少年非行の温床でもあったことから、ゲームセンターは1984年、風営法の対象となりました。

風営法で「5号営業」と定められたことにより、ゲームセンターには(1)賞品の提供の禁止や(2)未成年者の立ち入り制限などの規制が課されました。

風営法の対象となるVR体験施設とは

「VR体験施設は風営法の対象となるのか?」という問について、林田氏は「答えはYesであるものと、Noであるもの両方がある」と言います。「スコアなどが出るゲーム系と、純粋な体験をするアトラクション系の2種類に分ける必要があるだろう」とのこと。

風営法施行規則でテレビゲーム機は、「ブラウン管、、液晶などの表示装置に遊技内容が表示される遊技設備で、人間と人間もしくは機械との間で勝敗を競うもの又は数字、文字その他の記号が表示されることにより、遊技の結果が表され、優劣を競うことができるもの」とされています。

ゲーム系のVRコンテンツを体験できる施設は風営法の対象になると考えるべきだが、アトラクション系は風営法対象外とみなして良いだろう」と林田氏は述べます。

埼玉県のイオンレイクタウンmoriでは、常設のVRアミューズメント施設「VR Center」が営業しています。VR Centerではゲーム系とアトラクション系が混在しており、通常なら風営法対象の5号営業ということになります。しかし、風営法の規定には「大規模小売店舗敷地内に設置されるものは店舗にあたらない」という例外があるため、これは5号営業にはならないのだそう。

氏は続けて「デパート以外の一般の店舗でゲーム系のコンテンツを展示して営業を行いたい場合は、5号営業の許可を取る必要がある、と考えた方が無難だろう」と言います。過去には「これは風営法には引っかからないのでは?」とさまざまなグレーゾーン的な試みがなされてきましたが、結局は取り締まりを受けてきた歴史があります。

『VRは体験型コンテンツだからゲームではない』という考えは通じないと考えた方が無難です。プレイヤーのスキルによってスコアが表示されるようなものは、これまでの歴史から見て、5号営業の規定を逃れることはほぼ不可能でしょう」と林田氏は語ります。

確かに風営法には『実物に類似する運転席や操縦席が設けられていて「ドライブゲーム」、「飛行機操縦ゲーム」などを行わせるゲーム機は、当面は規制対象としない』といった旨の例外も書かれています。しかしこれには、「スコアなどが表示されるものは、コクピットなどを備えていてもゲームとみなす」という趣旨の文が続きます。ただし、「クイズやドライブシミュレーターなどで成績などが出ても、それが教育目的だったり、純粋に運転者の技術を測定することを目的としていれば問題ないと考えられる」と林田氏は補足しました。

林田氏は、「VRコンテンツをノンゲーム系=5号営業対象外であるE区分と、ゲーム系=5号営業対象であるA区分に明確に分けること」を提案しました。

E区分・・・Entertainment(ライド、アクション)、Enterprise(産業)、Education(教育)
A区分・・・Amusement(ゲーム)、Adult(アダルト)

こうした棲み分けを行うことで、「VR体験可能な施設は一律に風営法の対象とする」といった状況を回避することができます。もしもVRコンテンツすべてがゲームとみなされてしまうと、「建築関連の企業が自社のモデルルームをVRで見せる」といった商業利用をする際にも、5号営業が必要になってしまう可能性がある、といいます。

ひとつ注意すべきなのは、仮に「モデルルームを顧客に見せる」という体験でも、その中に「〇〇を見つけたらプレゼント!」などとコンテンツにゲーム性を織り込んでしまうと、風営法に引っかかる恐れがあるということです。

5号営業としてのVR事業

さらに、林田氏は、5号対象(ゲーム系)のVR体験施設を事業として展開する場合の注意点の解説に移りました。

今回特に詳しく触れられたのは、(1)「室内の見通しを良くすること」、そして(2)「接待営業の禁止」です。

(1)「室内の見通しを良くすること」について
カーテンやついたてを設置する場合、高さ1メートル未満、または透明なものである必要があります。天井から吊り下げる場合は地面から1.7メートルの高さ以上でなければいけません。これは「少年非行などを防ぐ」という風営法の目的のためです。

たとえば現在ではHTC ViveのトラッキングシステムLighthouseは、複数セット並べると互いに干渉し、動作に支障が出るという問題があります。このためにイベントでは、Viveブース間を仕切る暗幕などが利用されることがありますが、5号営業を行うのであれば、囲いは一部にするなど工夫をしなければいけません。

(2)「接待営業の禁止」について
これは「店員が客と一緒にゲームをプレイすること」を禁じているものです。プレイ方法を説明するためであっても、客と一緒にプレイをすることは接待とみなされ、キャバクラと同等の1号営業の許可が必要になる行為になってしまいます。

ダーツ業界の失敗

林田氏は、風営法によって影響を被った業界として、「ダーツ」業界を挙げました。

1980年代に輸入されたものの、初心者に馴染みがなく普及に苦しんだソフトダーツ(点数がデジタルでモニタに表示されるタイプのもの)は、2000年代に入り、表示がわかりやすくなるなど徐々にハードルが下がってきました。しかし、馴染みやすいソフトダーツが広まることで2005年、ソフトダーツは5号営業(ゲーム)とみなされてしまいます。

当時まだまだ一般的とは言えなかったダーツは、5号営業対象とみなされてしまったために、インストラクターが客に教えながら一緒にプレイすることができなくなってしまったのです。

こうして、「5号対象のマシンが置いてあるのに、店舗自体は5号営業の許可を持っていない」という状況が生まれてしまいました。5号営業許可を持っていない店舗にゲーム機の類を置きたい場合は、営業面積の10%以下の面積にしかゲーム機を置いてはいけない、ということになっています。(駄菓子屋にゲーム機を置くのは見逃してもいいだろう、という意図で設けられた例外であるとのこと。)

ビリヤードやボーリングと異なってダーツだけがゲームとみなされたのは、スポーツ振興会などの団体が存在しなかったからだろう、と林田氏は言います。現在ではソフトダーツ振興会が設立されましたが、一度決まってしまった法律を覆すのはなかなか厳しいものがあるようです。

風営法から思わぬ制限を受けてしまい、市場全体が停滞してしまった一例です。

VR業界がなすべきこと

林田氏は最後に、「いまのVR業界は、かつてのアーケードゲーム業界と似ている」と言います。

そもそもVRコンテンツにはゲームだけではなく、体験、教育、企業向けなど様々な形態があります。さらにはゲームと一口に言っても、アーケードやPC向け、スマートフォン、ひいてはHMDを使わないものまで様々な種類が存在しています。

そんな中で、仮にどこかの団体が風営法を違反してしまった際、すべてを「VR」としてまとめられて、全体が制限を受けるようになってしまう可能性もゼロではありません。

こういった危機感を関係者が持ち、これらの問題について考える場を設け、問題が起きる前に行動を起こしていくことが重要だろう、と林田氏は締めました。

総括

勉強会では、参加者全員による自己紹介タイムや、終了後に名刺交換タイムが設けられるなど、参加者が自由に発言をし、意見を交わすことのできる雰囲気が作られていました。

この勉強会の様子は、後日動画で配信されるとのことでした。反響次第では、他のテーマも取りあげつつ、今後も継続していくとのことです。


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