活用事例 2017.07.07

これからVRビジネスを始める人が押さえておくべき先行事例

パネルディスカッション

3人の登壇者がセッションを終えたところで、会は河合氏の進行で、パネルディスカッションに移りました。
 

Q1.サマーレッスンをやったとき、「VRはこれまでのゲームと違う」と確信しました。狙ってクロスモーダル知覚を生起するようなコンテンツを製作するノウハウはありますか?

クロスモーダル現象を活用したコンテンツの作り方が話題になりました。

玉置氏はこれについて「どんなときにクロスモーダル現象が起きるかは、まだ断片的にしかわかっていない」 とし、「現在はどちらかといえば、クロスモーダル生起の研究より、クロスモーダルを起きなくする阻害要因の排除に力を入れている」と語りました。

グラフィックなどの視覚情報のみならず、聴覚やセリフ(設定・コンテキスト)などを整備して、プレゼンスを確保する方が優先事項であり、それができて初めてクロスモーダルを引き起こすことができるのだとか。

ただ、ひとつ例として紹介するのなら「人間の防衛反応(無意識な反応)」を利用するのが良いだろう、と玉置氏は言います。

とっさに避けたり身を守るなどの反応をVRで引き起こすことに成功すると、体験者は「自分はなんでCG映像ごときに身を動かしているのか……」といった悔しさに似た思いを抱きます。この類の感想は、衝撃的で記憶に残りやすく、周りの人に話したくなってしまうものです。「そんな体験が、コンテンツの人気を呼ぶひとつの要因なのかもしれない」とのこと。
 

Q2.VR制作において、どこまで(数字や設定などの)リアリティを採用しますか、どこまでデフォルメをしますか、そしてそれらはどうやって決めていますか?

 
この問いに対しては、秋山氏が次のように回答しました。

“我々はまず「なぜそれをVRコンテンツにするんですか」という話をよくしています。VRは、あくまでエンターテインメントコンテンツの魅力を最大限に引き出す「手段」です。”

ユーザーが本当に望んでいるのは、キャラクターのリアルな身長ではないこともあります。秋山氏がかつてゴジラのVRコンテンツ制作に携わった際、ゴジラの体長を設定どおりの数値にしたにも関わらず、「意外と小さいね」という感想があったそう。

またプレイヤーが感じる「迫力」には、物理的な体長だけではなく、音も非常に大切になると秋山氏。「大きさ」を表現するのにもいろいろな要素があることにも言及しました。
 
【More Info】
【CEDEC2016】シン・ゴジラ/乃木坂 VRから学ぶノンゲームVRコンテンツ制作時の注意点
『シン・ゴジラ』樋口監督らが語った映画とVRのこれから
 

Q3.たとえばVRを使った安全教材を制作するとき、「これまで体験したことのないもの(危険・事故)」から「体験」を引き出さなければいけない。何かコツはありますか?

 
この質問に対しては、秋山氏は「コンテンツの導入部分が最も重要」と述べています。「あなたはこういう体験を今からしますよ」という導入をコンテンツのシナリオにきちんと組み込み、ユーザーが世界に入りやすいようにする配慮がとても大切であり、イントロの完成度で体験の価値の半分以上が決まると言ってもよい、と氏は語ります。
 
一方玉置氏は、「いままで体験したことのないもの」を「それらしい」と感じさせるためにも、プレゼンスを高めるのが良いだろうと言います。氏は触覚、音(聴覚)、視覚、文字情報の順番でプレゼンスに与える影響が大きいと考えているとのこと。インタラクションをしたタイミングでコントローラーが震えたり、ぶつかった音がするなど、行動に合わせて複数の感覚情報の呈示がプレゼンスの向上につながるそう。また音情報は、コンテンツの雰囲気を作る導入の演出に、かなり効果的だとも言います。
 
河合氏はこれに対して「触覚、聴覚、視覚、文字情報というのは、胎児がお母さんのお腹の中で誕生してから獲得していく感覚の順番と同じですね」とコメントしました。
 
 

Q4.ターゲットとなる体験者の年齢を考えたときに、何か工夫できることはありますか?子供向けなら?大人向けなら?

 
「Oculus Riftなどと同様に、PSVRには健康上の理由からそもそも年齢制限がある」と玉置氏。PSVRのコンテンツにおいては、そもそも12歳未満の人は体験することは想定していません。ただ、小さい子については考慮する必要がない一方で、年齢や性別によって「VR酔い」のキャパシティが異なることには注意しているのだそう。主なターゲット層に合わせて操作性や酔いの程度への配慮を変える必要性に触れました。
 
また秋山氏は、セッション中にも強調した「ユーザーを置いてけぼりにしないこと」に基づいて、体験者の性別や年齢などを考慮したコンテンツデザイン(操作性・内容・ナレーションなど)にすべきだと語ります。年配の方に宇宙戦争で大暴れするゲームをやってもらっても、若年層ほど盛り上がらないかもしれません。

最後に

本セミナーの最後に、登壇者から一言ずつコメントがありました。

玉置氏は「業界で得られている知見を、アカデミックな立場から裏打ちしていくのは大事である」、また秋山氏は「近年はプラットフォームが徐々に整い始め、コンテンツそれ自体の価値をあげるフェーズに入ってきた。その中で、アカデミックな土台があるという安心感のもとでビジネスができるようになるのは良いこと」と述べました。二人とも、学術分野とビジネス分野が交流することの大切さに言及していました。

最後に河合氏が「ビジネス分野もアカデミアも、やり方が多少異なっているように見えても扱っている内容が同じことも多い。今後もこういった機会があると良い」と述べ、セミナーは終了しました。
 

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