PSVR品切れの裏で VR周辺機器Viveトラッカーが発売後2時間で売り切れたワケ

VR関連の製品で品切れが続いている商品といえば、2016年10月に発売されたソニー・インタラクティブエンターテインメントのPlayStation VRが注目を集めています。一方、PlayStation VRの品切れが話題となる中で、3月下旬に発売されたとあるVR周辺機器が販売開始から2時間で完売しました。

3月28日、PC向けのVRヘッドマウントディスプレイHTC Viveの周辺機器である「Vive  トラッカー」が国内で販売を開始しました。価格は1つあたり12,500円(税込)。HTCの日本支社であるHTC NIPPONによると、このトラッカーは「午前10時に販売を開始し、午前中には完売した」とのこと。販売台数こそ明らかにはされていませんが、2時間程度での完売で非常に人気であったことが伺えます。なお、このVive トラッカーは2017年4月11日現在アメリカでも入荷待ちとなっています。

一見、地味な形状のViveトラッカー。この「Vive トラッカー」とは一体何なのか。そして、なぜ売り切れるほど人気なのでしょうか。

HTC Viveの世界を拡張するVive トラッカー

HTC Viveの基幹技術である「Lighthouse」トラッキングシステム

Viveトラッカーは、HTC Viveの周辺機器です。どういう機能を持ったデバイスなのかを説明するには、HTC Viveの仕組みを簡単におさらいするところから始まります。

HTC Viveの最大の特徴は、ルームスケールと呼ばれる機能です。最大3m×4mの範囲をプレイヤーは自由に動き回ることができます。VRの中で歩いたり、かがんだり、様々な行動が可能になります。また、左右の手に持ったコントローラーによって、手を動かせるため、物を掴んだりするといったインタラクティブな行動も可能になります。このルームスケールによって、体験者の「自分がVRにいる感覚=実在感」が非常に強くなります。

このルームスケールを支えている技術がLighthouseというトラッキング・システム(追跡システム)です。日本語で「灯台」を意味するLighthouseですが、プレイエリアの両端に灯台のように設置した2基のセンサー(ベースステーション)を使用します。

このセンサーにはモーターが搭載されており、レーザーが照射されます。そのレーザーをヘッドセットとコントローラーの受光部が受け取り、位置座標を特定します。


HTC Viveのヘッドセットとコントローラーにある窪みが受光部、センサーはヘッドセットに32個、コントローラーに24個搭載されています。

Lighthouseの誤差は1.5~2mm程度と非常に高精度で、アクションゲームなどの激しい動きも違和感なくトラッキングします。

Vive トラッカーをつけることで「何でも」VRに持ち込める

Lighthouseでは、ヘッドセットがプレイヤーの頭の位置を、コントローラーが手の位置をトラッキングします。他にも色々な物をトラッキングできれば……という発想から生まれたのがVive トラッカーです。

Vive トラッカーはLighthouseの中でヘッドセットやコントローラーと同様に位置を特定できるデバイスです。単体では、HTC Viveのコントローラーの先端のような形状ですが、「VRに持ち込みたい物」に固定することで、その物体の位置をVRで反映することができるようになり、その真価を発揮します。

たとえば、銃を構えて戦うゲームでは実際に銃型のコントローラーにVive トラッカーを固定すると、現実とVRで実際に銃を持って構えることができるようになります。他にも、椅子にトラッカーを固定すればVRの中にある椅子に「実際に座る」ことも可能になります。向きも検出できるため、きちんと椅子のグラフィックを作っておけば、“椅子の向きを間違えて座った場所に椅子がなかった”といった事態も回避できます。


銃にトラッカーを装着し、VRでも本物の銃を持っている感覚で体験できる


放水ホースにVive トラッカーを装着し、VR内で消防士の訓練を可能にした利用例

Viveトラッカーにより、さまざまな物をVRに持ち込めるようになり、VR体験の幅が広がります。すでに吉祥寺のゲームセンターで体験可能な『カプドン』など、Viveのコントローラーを足に装着して足のトラッキングを行うなど、コントローラーを使って頭と手以外の物をトラッキングする試みは広く行われています。

人気のワケ

購入されたViveトラッカーは「ロケーションベース」へ利用か

さて、このVive トラッカーですが、購入しているのが一般消費者というのは考えにくい話です。家庭で使用するには、「何にトラッカーをつけるのか」開発側と消費側で一致されてなければなりません。

では、どういう人がこのVive トラッカーを購入しているのでしょうか。HTC NIPPONは筆者の取材に対して、「複数購入している人が多く、1月のCESでの発表以降、『いつ買えるのか』という問合せが多かった」と回答しています。

実際に購入しているのは、開発者やコンテンツ制作者だと考えられます。それも配信用のVRコンテンツではなく、アーケードなど外で多くの人が体験できるいわゆる「ロケーションベース」のVRコンテンツを企画・制作している法人です。

現在、ロケーションベースでのVR体験において、HTC Viveが使用されることが非常に多くなっています。2016年にお台場で半年間オープンしていたバンダイナムコエンターテインメントの「VR ZONE」は全ての体験がHTC Viveで、そして渋谷アドアーズにある「VR PARK TOKYO」も大部分がHTC Viveでの体験となっています。

VRシステム以外に特殊なデバイスを使うことの多いロケーションベースのVRにおいて、今後、トラッカーを用いた仕掛けが多く登場するかもしれません。

研究開発へ~Vive トラッカーで広がる表現の幅

トラッカーは、今後さまざまな使用方法が見込まれています。その研究開発とも言える取組の萌芽がすでに見え始めています。

「Vive トラッカーにより、手足や小道具のポジションを取る、というのは使用例として示されています。これらは既存のコントローラーを使えばある程度できることでもありますが、軽量・無線・複数個使用できることで表現の幅は広がると思っています。」そう語るのは、VRアトラクションの制作を手がける株式会社ハシラスの代表取締役、安藤晃弘氏。

同社は、トラッカーを使った「親はVIVE、子は単眼HMDで親子で楽しめるVR」の仕組みを考案しています。

https://www.youtube.com/watch?v=akRgl-Vr4aY

池袋サンシャイン展望台の『TOKYO弾丸フライト』やVR PARK TOKYOの『ソロモンカーペット』など、これまでも数多くのVRアトラクションに取り組んできた同社。Vive トラッカーの使用時の注意点についてもすでに検証を重ねており、「たくさん使えるとはいっても2台のベースステーションとの間が遮られては満足に楽しめません。見下ろしの角度をきつめに確保する必要があるでしょうね。今後、ロケーションVRのスペースを確保する際は、天井高2.7m前後は考えておいた方がいいのではと思います」とコメントしています。

VRにとどまらない使い方

「このデバイスによって大きく変わるのは、1.ARやプロジェクションマッピング等、非HMDのVR的表現 2.13歳未満の方のハイエンドVR体験 3. 一方はHMD、多方は非HMDと、入り交じった体験、などになると予想します」と3点を挙げた安藤氏。非HMDのVR的表現やAR表現など、既存のViveの使い方をさらに拡張するような表現が可能になるとして期待を寄せています。同社は今後もVive トラッカーの使い方を模索していきたいとし、興味を持った企業からの問い合わせも歓迎とのこと。

AR表現では、1-10driveとメディアアーティスト坪倉輝明氏の共同で、プロジェクションマッピングで戦車を投影し動かすといった使い方を試みています。

https://www.youtube.com/watch?v=q8MK_PHdMTI

また、海外には「精確にトラッキングができる」特長を活かし、身体にViveトラッカーをつけることで格安のモーションキャプチャシステムを作っている企業もあります。

https://www.youtube.com/watch?v=TyCc2186viY

Vive トラッカーは、VRという枠すら超えて使われ始めています。売切れという今後どのような使われ方をするのか楽しみです。Vive トラッカーの日本での再入荷は4月下旬を予定しています。

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この記事を書いた人

  • 慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、環境省に入省。環境白書の作成等に携わる。ECベンチャー勤務を経て、現Mogura VR編集長、株式会社Mogura代表取締役社長。
    現実を進化させることができるVRに無限の可能性を感じ、身も心も捧げている。これまでに体験したVRコンテンツは展示、配信合わせて500作品以上。現在ももちろんコンテンツを体験し続けており、VR業界の情報集約と提供、コンサルティングに強みがある。また、海外の主要なVRイベントでは必ず現地に足を運び、取材やネットワーク構築を行っている。2016年は6回渡米。

    Twitter:@tyranusii

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