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VTuber 2019.08.02

15歳のバーチャルシンガー花譜と、新時代の始まり――1stワンマンライブ「不可解」レポ

8月1日に開催された、15歳のバーチャルシンガー花譜の1stワンマンライブ「不可解」。花譜という存在のプロローグであり、VTuberのライブシーンにおける新時代の幕開けだった。

映像、演出、会場、観客、このライブに存在するあらゆる要素は、花譜と花譜の音楽そのものを最大限に表現し、世界に知らしめるために集約されていた。

あらゆる場所で観測し、拡散できるライブ

「不可解」は開催のためのクラウドファンディングが数分足らずで目標金額を達成し、最終的に4,000万円以上にのぼる支援を集めるなど、開催前から大きな話題を呼んでいた。クラウドファンディングのストレッチゴールにより、本会場の恵比寿LIQUIDROOMに加え、全国の映画館・カラオケでのライブビューイング、さらに無料で観られるYouTube配信が用意された。

さらに、撮影・録音はNGとした上で、全会場で携帯電話の使用を許可されていた。ライブ中であっても、「#花譜不可解」で目撃した出来事を拡散できるのだ。「#花譜不可解」のハッシュタグは盛況で、ライブ開始前から日本のトレンド入りを果たしていた。ライブを観た人だけの体験では終わらない、花譜という存在が広がる準備が整った。

リアルに降り立つ事で際立つ、花譜の存在感

ライブが始まると、ポエトリーリーディングのようなオープニングSEとともに花譜が現れる。1曲目の「糸」を歌いだした時、舞台の「奥行き」に驚いた。舞台は背景映像の前に生演奏バンドと花譜が立ち、さらにその前に歌詞が表示される三層構造になっている。2つの映像に前後を挟まれ、生演奏バンドが左右に並び立ち、中心に花譜がいる。

注目したいのは、舞台の内側にリアルバンドが存在することだ。KANA-DEROやマジカルミライといった生演奏とVTuberやARを組み合わせる事例はあるが、バンドはスクリーンの外に位置することがほとんどで、舞台の内側にいるのはメインアーティストのみだった。

「不可解」では、リアル会場の舞台の内側にリアルバンドと花譜が並列に存在することで、バーチャルな存在である花譜が一際目立つ構造になっていた。花譜を中心とした前後左右の舞台配置が「リアルの中に際立つ、奥行きのあるバーチャル」を表現する。画面の中にいるようでありながら“そこ”にいる、不思議な存在感。

歌いたい歌を歌う、幅広い世界を表現する15歳

ライブパフォーマンスは圧巻だった。花譜の綺麗で儚げな歌声が、驚くほど幅広い世界を表現し、背景映像と鮮烈なリリックモーションが彼女と彼女の歌を引き立てる。「忘れてしまえ」「雛鳥」「心臓と絡繰」と既存のオリジナル楽曲を歌った後、新曲が2曲立て続けに披露された。

切なく恋を歌うしっとりとした「エリカ」の後、ポップで可愛らしい「未確認少女進行形」が披露されると、会場が一瞬どよめきに包まれる。切なく神秘的な「忘れてしまえ」「雛鳥」から、ロック調の「夜行バスにて」「過去を喰らう」、ポップで可愛らしい「未確認少女進行形」、異様な迫力を放つ「死神」(楽曲カバー)まで、花譜の歌の幅は底が知れない。あらゆる異なったジャンルの歌が、花譜の歌声という一本の糸でリンクして、花譜の世界観を形作っていく。

楽曲カバーを連続して披露する際、花譜は「わたしがすきなうたをうたうよ」とMCで語った。楽曲カバー動画をツイートする時にも、動画の概要欄にも書いてあるあの言葉だ。どれだけジャンルが幅広くなっても、誰かに想像されるイメージと違っても、「すきなうたをうたう」という想いだけで歌を歌う理由になる。

歌いたい歌を歌う、ごく普通の15歳

その歌声と外見は幻想的だが、花譜が話す姿は歌うことが好きな15歳の少女そのものだ。年相応にたどたどしくMCをし、カバーする楽曲について心底楽しそうに話し、好きな音楽やアーティストについて話せば「神」「沼にはまる」といった女子高生らしい言葉遣いを覗かせる。クラウドファンディングのストレッチ―ゴール達成によって作成された新衣装「特殊歌唱用形態 星鴉」をお披露目し、照れながらも感謝を述べる一幕も見られた。

「不可解」の2時間ほどのライブの中で披露された楽曲は約20曲、うち初披露の新曲は7曲(CFのリターンで先行公開された1曲含む)と、いずれもかなり多い。負担も少なくない中、それでも楽曲カバーを数曲披露するに至ったのは、きっと「わたしがすきなうたをうたうよ」の言葉通りなのだろう。

聴く者の心を震わせる歌を歌い、年相応の話し方や性格をあわせ持った、不可解な魅力を放つ花譜そのものを世界に伝達する。緻密な映像や演出も、花譜という存在に指向性を持たせるのではなく、花譜そのものが持つ魅力をさらにブーストするように作られていた。「不可解」はアーティストとしての花譜でもなく、普通の少女としての花譜でもなく、花譜そのものを表現するためのライブだった。

アンコール後、「御伽噺」と題されたパートが披露される。観客への呼びかけなのか、詩の朗読なのか、花譜自身の過去についての話なのか、はたまた本当におとぎ話なのかも分からない。ただ、「忘れてしまえ」の歌詞や「雛鳥」と言ったワードが含まれている以上、全くの無関係ではない可能性もある。現時点では、確定していない可能性としての「おとぎ話」として捉えておくのが良いだろう。最初は花譜にフランクに答えていた会場が、段々と静かに聞き入っていたのが印象的だった。

アンコールもいよいよ終わりに差し掛かり、2つの新曲が披露される。このライブをテーマとした楽曲「不可解」、そして今の花譜の全てが詰め込まれたという楽曲「そして花になる」。

挑戦的なまでに力強いメッセージが込められた「不可解」。今までの楽曲名が歌詞に散りばめられ、「大層な風景はない 私は普通の人」「私が歌を歌うのは 歌が好きだったってわけさ」とストレートな想いが綴られた「そして花になる」。花譜そのものを様々な音楽・映像・演出・MCなどで表現されたライブの最後に、等身大の“これから”への想いを歌うことで、花譜という存在のプロローグは締めくくられた。

不可解な花は世界に観測された

ライブ「不可解」は、YouTubeでは同時視聴者数2万人を突破し、Twitterでは世界トレンド1位にまで到達した。こうした目に見える数字だけでなく、余りに多くのファンやVTuber、関係者がこのライブの衝撃を口にしている。それぞれがこの素晴らしき不可解なライブから何かを受け取り、次の形にしていくだろう。

現在のVTuberは、VTuber業界の外へ拡がることができるかどうかの転換点にいると筆者は考えている。そんな中、「不可解」は1つの可能性であり指標となった。「不可解」が示した感動や意義、言葉では言い表せない「何か」が、きっとバーチャルの未来を作る先駆けになるのだろう。8月1日、世界は変わり始めた。

「不可解」は、バーチャルな存在がリアルでライブをすることの意義をありありと示したライブでもあった。VTuberシーンがあったからこそ生まれた花譜は、バーチャルであることに依拠するのではなく、自らの在り方としてバーチャルを活用している。何者なのかを定めるためでなく、その人そのものを表現する手段としてのバーチャル。バーチャルの可能性は、また拓かれた。

ライブのエンドロールでは、1stフルアルバム「観測(観測α観測β)」の発売が発表された。色とりどりの歌を歌う不可解な花、15歳のバーチャルシンガー花譜は、既にさらなる自分へと羽ばたき始めている。


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