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VTuber 2019.07.27

14歳から15歳へ、大人になっていく異彩のバーチャルシンガー「花譜」。彼女とその歌の魅力に迫る

2018年の終わり頃、彗星のごとく現れたバーチャルシンガー「花譜」。“14歳”のシンガーとして登場した彼女は、年末に行われたVTuber(バーチャルユーチューバー)たちによる歌合戦イベント「Count0」にて、視聴者に動揺を与えるほど鮮烈なステージデビューを果たしました。

彼女の半年間は激動でした。人気作曲家カンザキイオリさんからの楽曲提供、オリジナル楽曲心臓と絡繰が100万再生を突破、高校受験による活動一時休止と再開、ニコニコ超会議への出演、実写映画「ホットギミック  ガールミーツボーイ」の主題歌担当への抜擢、そしてファーストワンマンライブ「不可解」のクラウドファンディングが4,000万円を超える莫大な額を獲得したこと。彼女にまつわる何もかもが規格外でした。

筆者はライターとして何度か花譜さんのニュースを執筆したことがあります。今並べた出来事はどれも大きなニュースでしたが、もっとも心に刺さったのは別のことでした。それは14歳だったバーチャルシンガーが、ひとつ歳を重ねて「15歳」になったことです。

“とある事情”からバーチャル空間にその身を宿し、現実と同じく年を重ね、大人になってゆく今をまざまざと見せていく少女、「花譜」。今回の記事では、彼女とその歌の魅力に迫っていきます。

バーチャルシンガー界隈に現れた異才

彼女を語る前に、まず、“バーチャルシンガー”について解説します。2017年末からVTuberが一大ブームとなり、動画配信や生放送といった活動をしていく中で、歌を得意とするVTuberたちは“歌ってみた”とタイトルに付けた楽曲カバーを投稿するようになりました。

これは、ニコニコ動画で流行した歌謡曲やボーカロイド楽曲をカバーする文化で、YouTubeをメインとして活動するVTuberでも自然と広がるようになりました。さらに、2018年の後半頃からは、ボーカロイドブームを牽引してきた作曲家たちからオリジナルソングを提供されるケースも目立ってきました。

花譜さんもまた、そういった流れの中で出現したバーチャルシンガーのひとりでした。ただ、彼女が他のシンガーと違ったのは、(誤解を恐れずに言うならば)ダウナー系であったことです。まるで泣いて震えるような歌声や孤独を感じさせるMVなど、活動初期の彼女の姿は、少なからずアイドル路線を持っていたこれまでのバーチャルシンガーとは一線を画すものでした。

「さよならミッドナイト」が象徴する、光るカバーセンス

彼女のスタンスを象徴する楽曲があります。それはカバー2曲目として配信されたさよならミッドナイトです。楽曲の出だしから“テーブルの上に 缶ビールとコンドーム”という歌詞が展開してドキッとさせられるこの曲は、男性シンガーソングライターの大柴広己(もじゃ)さんの楽曲です(※)。大人の恋と別れが男性目線で歌われており、14歳の少女とは程遠いところにある曲でもあります。

ですが、楽曲のコメントには「わたしがすきなうたをうたうよ。」と書いてあり、この言葉の通りであれば、花譜はこの楽曲を自らセレクトしたことになります。しかも、気恥ずかしさなど一切感じさせず、彼女の声が生み出す世界観と絶妙にマッチしています。


「さよならミッドナイト」以外にも、猛独が襲う」「またねがあれば」「打上花火」「想像フォレスト」「凍えそうだ」「シンクロサイクロトロン・スピリチュアライザー。」「少女レイ」「bin」「フロントメモリーなど、彼女のカバーした楽曲は、女性曲や男性曲、新しい曲や古い曲も問わず高い完成度を誇ります。セレクトされた楽曲にはどれも魂が込められており、彼女が歌にかける情熱を垣間見ることができます。

※花譜さんがカバーしたものは、「さよならミッドナイト」のボーカロイドカバーがベースとなっています。

カンザキイオリ、川サキ ケンジ、運営チーム……花譜を支える大人たち

もうひとつ、彼女の方向性を決定づけたのは、ボカロPとして知られるカンザキイオリさんからの楽曲提供です。カンザキイオリさんといえば、人気楽曲命に嫌われている。に代表される突き刺さるような歌詞とメロディが特徴ですが、花譜さんの震えるような歌声との相性は抜群で、バラードからロックナンバーまで歌いこなしています。

このふたつの才能の化学反応へさらに拍車をかけているのは、映像クリエイターの川サキ ケンジさんが手がけるMVです。花譜さんが現実風景に溶け込む映像は、リアルとバーチャルの境界を曖昧にするもので、まるで彼女が近くで生きているような錯覚を覚えさせます。実力派クリエイターたちが作り出した花譜さんのMVは、彼女の表現力に重なることで、誰にも真似できない独自の世界観を創造しました。

一方で、花譜さんの活動はすべてが順風満帆ではありませんでした。ほぼ無名状態からスタートした彼女が「心臓と経絡」で突然100万再生を叩き出したことで、何らかの再生数の操作を疑われたことがあったのです。

そのとき、彼女を守るため表に出たのが花譜さんの運営チームでした。Twitterにスタッフアカウントを作成し、海外も含めた広告を出したことで想定以上に再生数が伸びたことを説明。まだ若い彼女の才能を見出した大人として責任を果たし、花譜さんとの二人三脚での活動を続けていきます。

活動休止と“再会”……中学から高校へと成長を重ねる少女

運営チームが語ったように、花譜さんは年齢や住む場所などの事情から、本来表に出るはずのなかった才能でした。事実、彼女は高校受験の準備を理由に、オリジナル楽曲忘れてしまえをリリースした1月31日より、活動の一時休止を発表しています。活動開始からわずか4ヶ月での出来事でしたが、彼女の残した「またね」の言葉は、ファンの心に強く焼き付きました。

そして約束通り、花譜さんは新曲雛鳥とともに帰ってきます。彼女は志望校に無事進学し、本格的な活動を再開しました。その後、ニコニコ超会議2019の舞台で再びステージに立ち、オリジナル楽曲夜が降り止む前にが映画「ホットギミック」の主題歌になるなど、その活動の幅は目に見える形として大きく広がっていきました。

特にCAMPFIREで行われたワンマンライブ「不可解」開催のためのクラウドファンディングでは、開始後わずか83秒で500万円の目標を達成し、最終的にはVTuberのクラウドファンディングでは類を見ない4,000万円以上という莫大な支援額を獲得しました。彼女がどれだけ多くのファンに支えられていたのかが可視化された瞬間でした。

クラウドファンディングが成立したあと、運営チームはひとつの“問い”に答えています。それは、彼女が本当に15歳の少女であることです。彼女が13歳のときにプロデューサーと出会い、前記のような複数の諸事情の中で「バーチャルシンガー」という選択肢に希望を持ち、活動し始めた経緯が語られました。本来VTuberの実年齢に公式が答えること自体が異例でしたが、その言葉には彼女の才能にかける並々ならぬ熱意と、閉ざされた現状に挑もうとする真摯な思いが伺い知れます。

観測者たちとともに未来を切り開く、彼女のこれから

花譜さんのファンの名称は、公式で「観測者」と呼ばれています。ファンに見つけてもらったことからこの名前になったそうですが、花譜さんを取り巻く変化のうねりをファンひとりひとりが目撃し続けていることを考えると、この言葉にそれ以上の意味が生まれつつあるように感じます。

筆者が“観測”した15歳への成長もまた、彼女がこの閉ざされた世界から羽ばたこうとする軌跡の一部であり、まぎれもなく、花譜さんがバーチャルとリアルの中で今を生きている証明なのだと思います。

8月1日に行われる花譜さんのワンマンライブ「不可解」のチケットは完売となりましたが、クラウドファンディングの成功により、YouTubeでのライブ中継の実施や映画館・カラオケ施設でのライブビューイングが決定しています。

若き彼女の物語はまだ始まったばかり。次の物語を観測するのは、他でもないあなたかも知れません。

【参考 / 関連リンク】
花譜 YouTubeチャンネル
花譜 公式Twitter
花譜 information(運営チームTwitter)


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