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にじさんじ 2019.06.08

永遠の中学生マインドで突き進む異端児、にじさんじ「卯月コウ」その“3つの魅力”とは



「お前らまだ社会人気分でいるのか。そんなんじゃ中学生やってけねぇぞ!」

2018年6月6日でのデビュー配信、卯月コウは視聴者に向けて吠えた。視聴者に「本当に中学生か?」とコメントされ、とっさに出た発言だった。

その後、会話の弾みで問題発言をしたため配信アーカイブはお蔵入りとなったが、才能の片鱗をのぞかせる初回となった。
 
卯月コウは、にじさんじ所属のバーチャルライバーだ。当時は「にじさんじSEEDs」という枠組みのシークレット枠として発表された。13歳の中学生で、卯月財閥の御曹司。金髪の髪は日本とイギリスとのハーフを物語っている。外見が発表された当初は爽やかな好青年をイメージしていた視聴者が(記者含め)少なくなかった。
 
しかし、配信するや否や印象は激変。納豆かき混ぜすすり音の垂れ流し配信にはじまり、ブラジリアンワックスで鼻毛を抜くチャレンジ、NGワードスレスレのラップ披露、女性VTuberの甘い声を聴きながらオギャる企画、女性ものの衣服に着替えてのボイス収録など、アブノーマルな放送が多く、その度に視聴者を困惑させていた。現在も、彼の名前には“にじさんじの異端児”、“ヤバいやつ”といったイメージがついて回る。

そんな彼の配信には熱烈なファンが多い。例えば、キズナアイがメインを務めたTV番組「のとく番」の企画「のとく番オリジナル! バーチャルYouTuberランキング2018」では、多くのVTuberの中で第16位を獲得している。VTuber界全体での彼の知名度を考えると驚きの結果だ。また、他の有名VTuberに先駆けてWikipediaに専用記事が作成されたり、彼をテーマとした合同の同人誌が企画されたりと、盛んに応援している姿も見られる。
 
もちろん先のような企画の配信が話題となった影響もあるだろう。ただ生放送のチャットでは、内容の過激さを求めている視聴者よりは、卯月コウの人柄に惹かれて集まっている視聴者の方が目立っている印象だ。
 
一体、卯月コウのどこに魅力があるのか、魅力の一端だけでも言葉にしたい。

視聴者をより“低み”へと導く雑談スキル

卯月コウ配信の魅力は彼自身の“雑談スキル”だ。もちろんVTuberにはトークスキルが高い人が非常に多く、お喋り上手なだけでは強い個性にはならない。しかし、卯月コウがチャットの視聴者たちと交わすトークは、いわゆる学校の友だちとの取り留めのない会話のような雰囲気だ。

印象的だったのは、2018年12月13日に行われた配信「【Vtuber】冬休み妄想会議」。年末年始の冬休みの過ごし方を勝手に妄想するもので、「コタツで〇〇ちゃんとゴロゴロ」や「勇者になって見習いサキュバスと戦う」など、視聴者が理想に思うシチュエーションを発表した。中には、その妄想にツッコミを入れる流れも見られたが、卯月コウはこう返す。
 
「もういいんだよ。ただただ瞬間的に熱い部分を考えるだけだから、俺たちは。この高みに…いや、低みに降りてこい」
 
卯月コウは、一見取り留めのない会話の中から、その瞬間だけ輝くもの、熱くなれるものを拾い出して、的確な言葉にする。そうして生まれた発言がファンの心を掴んで離さない。「くっさマインド」、「視聴者コンプレックス」、「正論でアドバイスするのは優しさじゃない」などの発言からさかのぼって配信をたどれば、その魅力の一端が分かるはずだ。
 
実際、卯月の配信中の発言はニコニコやTwitterなどで動画として切り出され、拡散されている。にじさんじの非公式wikiを閲覧すれば、彼の名言が異様なほど登録されているのが分かるだろう。彼の放つパワーワードに惹かれ、ひとつひとつの発言に熱心に耳を傾けているファンは少なくない。

視聴者の「エモ」を引き出す、卯月コウのやさしさ

卯月コウを語る上で欠かせないキーワードが「エモ」だ。いわゆる流行語の「エモ」は、2016年ごろから感情を揺さぶる表現として、広い意味で使われている。しかし、彼が配信中に用いる「エモ」はかなり独特で、ありえたかもしれない過去や成し遂げられない未来に焦点が当てられている。

彼の定義する「エモ」が分かりやすいのが、2018年8月10日に行われた配信「卯月軍団、エモグランプリ」である。視聴者自身が体験した(思った)「エモい」エピソードを募集して審査するもので、「中学生の頃に届いたラブレターを無視して後悔した」や「夢の中に出てくる女子大生に恋をした」など、強い印象を残す投稿が絶たなかった。
 
グランプリに輝いたのは「甲子園で活躍している友人の姿をTVで見て、オタクで陰キャな自分の高校生活と比べてしまい、苦しい」というエピソード。他の投稿に比べれば特別な体験でもないこの投稿に、卯月は目を輝かせる。
 
「日陰者には日陰者なりの青春があったはずなんだけど、勝手に正しい青春があるって決めつけて、『俺はそんな青春を送れていない』って勝手に傷ついている独りよがりさ、あまりにも“エモ”の真髄!」
 
投稿者を馬鹿にしたり笑ったりはしない。投稿の意図を汲んだ上でこう語る。
 
「誰よりも負けていて、でも負けた者たちが集まっている者の中で、今日お前は勝った。
ここでなら、お前はこの星の一等賞!月にタッチして帰ってくるなんてワケないよ!」
 
ともすれば、マウント合戦に発展しやすい内容の企画だ。しかし、人の感情のあり方を素直に受け入れていく卯月コウだからこそ、投稿者の「エモ」を引き出せた。視聴者が普段なら胸に隠しておきたい生々しい感情を、配信でストレートにぶつけられるのは、彼の視聴者に対するやさしさが根底にある。
 

マインドで制服を永遠に着続ける中学生

「おれ実はね、『リトルバスターズ!』で感情を知ったんだよ。それまでピクニックに行って『楽しいな』って思っても全然感情が顔に出なくて、プライドが高かったから絶対に泣きたくなくて、とにかく無感情だったんだけど、小5くらいのときに『リトルバスターズ!』に出合って、終盤の『遥か彼方』が流れたとき、おれの感情は決壊して、目ん玉からぶわーって涙流しちゃって…声を上げて泣いたんだよ。」
 
「リトルバスターズ!」とはKey制作の恋愛アドベンチャーゲームである。小5で感情を発見した彼は、自分の“好き”を何より大切にしている。配信では、好きな美少女ゲームやポケモン、VTuberなど、夢中になっているものを喜々として話し、会話の節々にも好きな作品のセリフを織り交ぜる。
 
特に「エモくて百合と噂の「ライフ イズ ストレンジ / Life is Strange」を実況プレイ」や「クリスマスイヴ、俺はロボットに恋をする」など、好きなゲームではしゃいでいるときの彼は、中学生そのもの。挑戦的な配信スタイルの影響で、子どもらしさを感じられないという声も一部あるのは事実だが、時折見せる純真な“好き”が、彼を中学生たらしめている。

そうした彼の姿に救われた視聴者もいた。2019年3月14日の配信「男性視聴者は男性Vtuberをどうみてるの?【集まれ!コウボーイ】」では、既婚の社会人男性が卯月コウの配信で、
VOCALOIDのピノキオピー(ピノキオP)の話をしたことから、はじめて自分の“好き”という感情を自覚できるようになったと感謝する投稿があった。
 
「コウ。お前がリアル中学生かは、この際どうでもいい。ただお前は『侵食型中学生』だ。お前が好きなことを語ったり、逆張りにウキウキしたり、バカな冗談言ったりするのを聞いてる時だけ、聞いてる俺もまた、中学生になってるんだ。」
 
卯月コウはこの投稿に、喜びを噛み締めながらこう語る。
 
「俺はマインドで永遠に制服を着続ける存在。そういう気持ちでやっています」
 
ここまで書いてもなお、卯月コウという存在を捉えきったとはいえない。彼と同期の出雲霞や鈴木勝との3人グループ「おなえどし組」や魔界ノりりむとのコンビ「おりコウ」では、違った側面を見せるからである。しかし、彼の「中学生マインド」が、多くのファンに愛されている事実は揺るがない。

これからも卯月コウの言葉のひとつひとつに耳を傾けていく。


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