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活用事例 2017.07.26

VR内で直感的なアニメ制作 元ピクサーのLimitless Ltd.社CEOインタビュー

※本記事は、2017年7月11日にHTC社公式ブログに掲載されたStephen Reid氏の記事を翻訳したものです。

3Dアニメーション制作はとかく時間と手間がかかるもの――Limitless Ltd.はその常識をくつがえそうとしています。CEOのTom Sanocki氏にお話を伺いました。


まずは自己紹介をお願いできますか。

Tom Sanocki氏(以下、Tom):
Limitless Ltd.の創業者でCEOのTom Sanockiです。もっぱら経営担当で、会社の対外的な顔を務めていますが、ときどきデザインもやっています。他にも何でもやってますが。

クラウド環境で動作するVRアニメーションスイートに取り組んでおられるそうですが、これはどのようなもので、どんな意図で開発されているのでしょう。

Tom:
VRの制作には難しい部分が多く、プロでも時間がかかります。ソフトウェアは扱いを覚えるのに何か月もかかり、作業のほとんどは平面スクリーン上で行わねばなりません。しかもユーザーインターフェイスは昔ながらのマウスとキーボードに合わせて設計されています。VR分野にいわゆる「キラーアプリ」がなかなか出てこない一つの原因が、それだと思うのです。
VRコンテンツをもっと速く作れて操作も覚えやすい、数か月でなく数分で使えるようなツールがあれば、開発サイクルもそれだけ速く回せるでしょう。初めからすべてをVR内で構築して、アイデアをすぐ形にできるようになれば、消費者に「これがやれるのならVRヘッドセットを買おう」と思ってもらえるような、魅力的な体験の発見にぐっと近づくはずです。

最近Viveportに、インタラクティブな短編VRエクスペリエンス『Gary the Gull』と『Reaping Rewards』を公開されましたね。

Tom:
その2本はプロモーション用に制作したものです。よく言うでしょう、「語るより見せろ」って。弊社のキャラクターテクノロジーを使って実際にどんなものが作れるのかというサンプルをお見せすることで、自分でもこれで何か作ってみたいと思っていただければと考えたわけです。これはEpicやPixarといった企業が昔からやっている方法なんですけどね。
たとえばPixarの初期の短編映画は、同社がまだハードウェアメーカーだった頃、自社製品を使うとこんなすごいことができますよと見せるために制作されたものです。弊社としては、自社のキャラクターテクノロジーをまず自分たちで使ってみることで、制作の苦労やユーザーの悩みを身をもって理解しておきたいという思いもありました。

Sanockiさんご自身もビジュアルエフェクトとアニメーションのキャリアはPixarが出発点でしたね。そこで学んだことで現在も役に立っている教訓は?

Tom:
「シンプルにとどめること」です。Pixarにはアーティスティックな問題をできるかぎりシンプルな技術で解決する方法を探す、そしてアーティストに全面的なコントロールを持たせる必要を理解し尊重する、というすばらしい考え方がありました。また、技術上の困難へ果敢に挑むという優れた気風もありました。
今となっては想像しにくいでしょうが、『ファインディング・ニモ』などの初期の作品は技術上・制作上の巨大な課題の山みたいなものでしたよ。比較的「複雑でない」作品とされている『カーズ』でさえ、表面の光沢や映り込み、しゃべる車、ランタイムモデルのパフォーマンス、広大な環境など、大きな課題はいくつもあったし。Pixarの文化は、困難を避けるのではなく、進んで向き合い、シンプルできれいな解決方法を見つけることを教えてくれたという点で非常に優れていました。じっさい適切な人物が適切な姿勢で取り組むことで、難しい問題を信じられないほど簡潔でエレガントな解決方法で解決した実例をいくつも見てきました。

Limitlessはとかく時間のかかるアニメーション制作を劇的にスピードアップすることを目指しているそうですが、具体的にどのようなことができるのですか?

Tom:
最大の、そして最も重要な点は、アイデアを形にするまでの時間の短縮です。たとえば、あるキャラクターをA地点からB地点まで動かしたければ、ユーザーが自分の手を使ってすぐに動かせます。ポーズをとらせたければ、キャラクターの腕をその形にするだけ。リアルタイムのフィードバックと直感的なUXで、コンピュータが介在しているということすら忘れて作業できます。
コンテキストを見ながら作業できるというのも大きなメリットです。キャラクターを見ながら周囲のライティングや環境を調整したり、逆にキャラクターを調整したりできます。質の高いVRを作るためには共同作業が欠かせませんから、どうしてもチーム間でデータの共有が必要になってきます。その点、Limitlessはクラウド上で動いていますから共有は簡単で、誰とでも共同作業ができます。

従来のアニメーションワークフローにはどのように組み込めますか?

Tom:
方法はいくつかあって、使う人がそれぞれに使いやすい方法を見つけていっている感じです。ほとんどの人はまずプロトタイピングに使うところから始めます。アイデアがVRに向いているかどうかは実際にVRで体験してみないとわかりません。ですから、アイデアをすぐ形にして動かせることが望ましいわけです。プロトタイピングの高速化は、現在のVRで最も重要で、最も難しい課題です。
Limitlessをキャラクターアニメーションに利用しているユーザーもいます。プロの間で標準的な他のツールと組み合わせていることが多いですね。今後はLimitlessのインタラクティブ機能や共有機能のサポートを拡大していくつもりなので、それがどういう風に使われていくか非常に楽しみです。

LimitlessにとってVRはどれくらい重要ですか?Viveが実現するルームスケールVRについてはどう思われますか?

Tom:
VRはもちろん、なくてはならないものです。場面の中に入りこみ、モーションコントローラーでそこに干渉すること。それが私たちの取り組みの軸となっています。将来はVRよりARやMRのほうが重要になると言う人たちもいますが、本当にそうなるかどうかはさておき、VRは、インタラクションとコンテンツにかかわる難しい問題を、それも今、解決できる場なのです。Limitlessはさまざまな使われ方をサポートしていますが、ルームスケールVRはやはり人気があります。自分の創り出した世界を歩き回れるというのはいいものです。

現在Limitlessを利用できるのは一部のスタジオに限られていますが、将来的にもこのままビジネスツールとして運用されるのでしょうか? 趣味のアニメクリエイターでも使えるようにする予定はありますか?

Tom:
現在はプロフェッショナルに的を絞り、大手スタジオでの利用に重点を置いた開発を進めています。しかし「プロフェッショナルとは何か」と考えだすと、ちょっと面白い。かつて動画編集は、高度なトレーニングを受けた人材が高価な動画編集マシンを使って行うものでした。キーボードまで特別製だったぐらいです。それが今では、誰でもスマホでできるようになりました。
弊社のLimitlessが、作業の高速化と操作の覚えやすさで評価されているのは本当にうれしいことです。これから使いやすさを向上させていけば、VR制作のプロフェッショナル人口は劇的に増えるでしょう。その中から革新的なVRエクスペリエンスを作る人も現れるでしょう。それは専業のプロフェッショナルかもしれないし、本業の余暇で活動するプロシューマーかもしれません。

Limitlessでは現在、モーショントラッキングにViveコントローラーが使われていますが、これだと手の動きしか追えません。全身の動作や細かい仕草にも対応できるように、ViveトラッカーやValveが開発中のKnucklesコントローラーなどのサポートを追加する予定はありますか?

Tom:
もちろんです。ViveトラッカーやKnucklesコントローラーの登場で、本当にこれからが楽しみになりました。LimitlessがViveコントローラーへの対応に注力してきたのは、あえて対応機器を絞ることで、シンプルで直感的なユーザーエクスペリエンス(UX)を最小限の入力で実現したいという考えもあったからです。たとえば、iPhoneはあらゆる操作が指1本か2本でできるようになっていますよね。

VRアニメーション制作アプリというと、現在開発中の『Mindshow』をはじめ、他にもいくつか存在します。Limitlessがそうしたアプリと異なる点は何だと思われますか?

Tom:
Limitlessはプロフェッショナルによる3Dコンテンツ制作、とりわけキャラクターのアニメーションに特化したツールです。弊社はMindshowの開発元とは仲良くさせてもらってますし、誰でもVRの中で映画を作れるようにするというコンセプトはとてもいいと思います。
要するに、Limitlessとはターゲット市場が違うのです――こちらはプロ向け、あちらはコンシューマー向けというわけで。プロが作るコンテンツは、コンシューマーが作るコンテンツとはかなり種類が異なります。自然とワークフローやツールも大きく違ってきます。ですから、私たちは他の企業を競合とは考えていません。VRエコシステムの中でそれぞれの方法で成長しようとしている同士です。

HTCのViveXアクセラレータープログラムの支援を受けていらっしゃいますね。他の開発者のために、貴社にとってはどのようなメリットがあったか聞かせていただけますか?

Tom:
ViveXプログラムに参加したことは、HTCのVRに対する戦略的イニシアティブにより深く関わっていけたという点で有意義でした。特に、VRをコアゲーマーだけでなく、もっと大勢の人に広めていこうとするHTCの姿勢には非常に共感が持てます。ViveXに参加して本当に良かったですし、将来は弊社も他の企業を支援できればと考えています。

本日は貴重なお話をありがとうございました。


実際にLimitlessを使って制作された作品『Gary the Gull』および『Reaping Rewards』は、どちらもViveportで公開されています。


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