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活用事例 2018.03.26

VR/ARが視線追跡で進化する6つの理由【GDC2018】

目の動きや瞼の開閉を追うアイトラッキング(視線追跡)技術は、VR/AR体験を大きく進化させるポテンシャルを持つ技術として大きく期待されています。そんな視線追跡技術分野において、VR/AR業界で注目度が高いのは2001年にスウェーデンで設立されたトビー社です。同社はGDC 2018 でセッションとブース出展を行い、視線追跡技術の活用例や、同技術がもたらすVR/ARの未来について語りました。

現在のデバイスは盲目である

現在の VR/AR ヘッドセットには本当の意味でユーザーを理解する機能がない、と指摘するのは、トビー社でビジネス部門長を務めるオスカー氏です。今あるVR/ARヘッドセットの多くはユーザーの入力受けて動作する「受け身」の存在であり、また iPhone X など顔認証機能などを備えているデバイスも、その機能はユーザーを理解するという意味ではまだまだ不十分です。

そしてデバイスに「目」を与え、デバイスがユーザーを理解し、より良いユーザーエクスペリエンスを実現する方法として、視線追跡技術に大きな可能性があるという見解を示しました。


Tobii 社のロードマップ

視線追跡を組み込む

同社は、既存のパソコンやVRヘッドセットに、視線追跡の機能を組み込む機器を開発しています。昨年の6月には、HTC Vive に組み込んで視線追跡ができる開発キット「VR4」を発表しました。また同社はVRデバイスのリファレンスモデルを作っているクァルコム社とパートナーシップを結んでおり、次世代のVRヘッドセットに標準的に視線追跡を搭載することを目標に研究開発を行なっています。

視線追跡の活用例

同社は視線追跡の応用先として、現在は6つの分野に注力して取り組んでいます。その6つは大きく分けて、「デバイスの進化に寄与するもの」と「ユーザー体験の向上に直接関わるもの」に分けられます。

デバイス進化に寄与するもの

視線追跡技術を使ってデバイスそのものを進化させ、その結果ユーザー体験の向上させる例は、「フォービエイテッド・レンダリング」「アイポジション」「バイオマトリックス」の3分野が紹介されました。

フォービエイテッド・レンダリング(Foveated Rendering)とは、VRの中心視野ほど高解像度で、そして視野の外側に行くに従って低解像度で描画する手法のことです。視線の動きに合わせて解像度を変化させることで、PCにかかる描画処理の負担を大幅に軽減させ、4KのVR体験や、その先には人の目の解像度に近い超高解像度のVR体験を実現させる可能性があります。
「アイポジション」の分野では目の位置に合わせて、コンテンツの中心を変更することで、VR体験の質を向上させることができます。また「バイオメトリクス」の分野では、瞳の血管のパターンなどからユーザーを認識し、自動ログインを行うことができるなどといった活用例が挙げられます。

コンテンツや体験に直接関わるもの

コンテンツや体験に直接的に関わってくるものとしては「視線追跡による操作」「ソーシャル・インターラクション」「アナリティクス」の3分野が紹介されました。
オスカー氏がこの3分野で特に力を入れて語ったのは「視線追跡による操作」です。スマートフォン登場以前のPCの時代は、操作したい場所を目で認識し、マウスを移動させ、目標をクリックするというユーザー体験が主流でした。しかしスマートフォンが登場し、ユーザーは目標をダイレクトにクリック(タップ)することができるようになってからは、目標の認識からクリックまでの時間が大幅に短縮されています。

このようなユーザー体験に慣れた現代人にとって、今のVR体験のスピード感は遅すぎるものです。そこで視線追跡でユーザーの意図を汲みとり、デバイスを操作することなどによってスピード感を高めることが必要であるという見解を示しました。

また「ソーシャル・インターラクション」の分野では、2017年のGDC で公開されたソーシャルVRのアバターに視線の動きを与える例が紹介され、今後は HTC Vive のようなハイスペックなデバイスだけでなく、一体型のモバイルVRヘッドセットでも実現を目指すとのことです。

GDC2018にて展示されていたクァルコムの最新の一体型VRヘッドセットSnapdragon845VRにTobiiのアイトラッキングを統合したもの。試してみたところ、PCと同じように視線がトラッキングされていた。

ハンドトラッキングの精度向上に活用

また同社は、視線追跡をハンドトラッキングの精度向上に活用するというといった研究プロジェクトにも力を入れて行なっています。現在、スポーツに関するシミレーションやゲームにVRを活用するという事例がたくさん登場していますが、ハンドトラッキングの動作とVR体験を正確に同期させることに課題を抱えています。

たとえば、「ボールを投げる」という動作では、各ユーザーによって投げ方や腕の長さが違うことから、どの位置にボールを投げたかをハンドトラッキングで判断することは難しいという現状です。しかし、視線追跡によって「ユーザーがどの位置を目標にしていたのか」というデータを集めることで、正確な同期が可能になり、スポーツのシミュレーションでの活用はもちろん、実際のスポーツさながらのVRゲーム製作が可能になります。

同社は今後も視線追跡技術の研究開発に精力的に取り組み、VR/ARの体験をさらに進化させていくと力強く語りました。デバイスがユーザーを理解するという、VR/ARの次のステージに向けて、今後も同社から目を話すことができません。

(参考)Tobii公式


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