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テック 2016.08.05

【講演レポ】ユーザー目線で実写VRコンテンツをデザインするコツ

7月28日、ParadeAll株式会社主催の『THE VR PARADE』が都内にて開催されました。このイベントのテーマは「エンタテイメント×VR」。VRは今やエンターテイメント領域でも利用されており、VR技術を活用した新しいライブやゲーム、動画配信などが続々と発表されてきています。そんなエンターテイメント業界におけるVRへの関心が高まる中で、クリエイター、放送局、プランナーなどが登壇し、それぞれのVRに対する取り組みについて紹介しました。

VRHMD使用時、VR空間を現実と錯覚する3つの要因とクロスモーダル現象

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イベントを主催したParadeAll株式会社 エンターテック・アクセラレーターの鈴木 貴歩氏は、VRコンテンツを作る上で、そもそもHMDを付けると人間がなぜVR空間を現実と錯覚してしまうか、その3つの要因について分かりやすく紹介しました。

1.視野角100度以上の映像を見せると脳が”自分が動いている”と錯覚する
2.頭の動きから”0.02秒以内”に追いついた映像が出力されると、普段感じている物の見方と同じになる
3.アクションに対して適切な反応がある(双方向性)

また、VRでキーワードとなる「クロスモーダル現象」についても説明がありました。例えばVR空間内にて、人間に模したキャラクターがプレイヤーの密接距離に入ってきた際に、クロスモーダル現象が発生します。クロスモーダル現象とは、五感が刺激された時に触られてもいないのに触られたような感覚や、聞こえてもないような声が聞こえる現象です。様々な実験の結果、HMDを通して体験するVR空間はあまりにも視覚的な情報が多いため、実際に触られたように感じてしまうクロスモーダル現象が発生すると紹介しました。なお、クロスモーダル現象を上手く使うことで、VRコンテンツをよりリアルに感じることのできる体験へと近づけることができるとのこと。

渡邊課が360度映像撮影時に気をつけていること

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渡邊課は、株式会社コンセント内のラボラトリーチームとして発足した、全天球映像コンテンツの制作に取り組むチームです。渡邊課の全天球映像作家である渡邊徹氏は、VRコンテンツ向けの撮影を行っている時に気を付けている点について紹介をしました。

映像制作をデザインの延長として考える
・ユーザー視点のストーリー作り
・ユーザーにさせたい体験から逆算した撮影
・コンテンツ配信後のSNSの広がりを意識

新しい技術を使う
・毎回の撮影ごとにチャレンジを1つ入れる
・単に「VRを体験できる」だけではもう古い

渡邊課が特に重視しているのはユーザー視点のストーリー作り、体験させる人ありきでのコンテンツ作りだと言います。”VR動画は今までの動画と比べて、ユーザーが自由に視点を選べるところに違いがあります。そのため、ユーザーにどういう体験をさせたいかを考えた上で、どういうシチュエーションで撮る必要があるのか”を渡邊課では考えているとのこと。

例えば、上空200mから町の様子を見下ろすような体験ができる恵比寿ガーデンプレイスジャンプや、グラビア撮影の様子を水中で鑑賞できる全天球水中ニーソキューブも、通常ではなかなかできない体験をしたいという発想を元に、撮影シチュエーションとしてドローンを使った空撮や水中撮影を選んでいると言います。

恵比寿ガーデンプレイスジャンプ

全天球水中ニーソキューブ

また、コンテンツを配信した後のSNSの広がりも意識しており、体験自体をシンプルなものにして、一言添えてシェアできるようなコンテンツ設計にしていると言います。”目の前にアーティストが現れた”とか”今、囲まれています”とかシンプルなキーワードで落とし込めるような映像体験することで、コンテンツを体験した人がシェアしやすくなるとのこと。

現在のVR撮影方法はまだまだ確立されていないと渡邊氏は言います。それは日本だけの話ではなく海外にも言えることで、「海外は新しい撮影方法にどんどん挑戦している。そのためには新しい技術を取り入れるなど、撮影毎に新しいチャレンジをしていくことが重要だ」とも述べています。

VRコンテンツというのはVRを体験する側のコストが高いため、一回体験してつまらなかったら、ユーザーは次のコンテンツはもう体験してくれないと思っており、VRコンテンツを作る時はVRを体験するユーザーが面白がってくれるようなおもてなしを特に意識しているとのことです。

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実写のVR表現で向いていること
・スケールや空間をリアルに認識できる
・五感で感じる体験になる
・時間と空間を超えることができる
・デジタル空間と現実空間をブリッジする

続いて渡邊氏が語ったのは、実写のVR表現について。「実写のVR表現で向いていることは、平面の映像では印象に残りにくかったものも、空間におけるスケール感だったり物の奥行き感によってリアルに感じられ、何がどこにあったのかより鮮明に認識できるようになること」と渡邊氏は言います。例えば落下するコンテンツを体験している時に扇風機で風を送るなど、コンテンツ内容に即した形で体験者の五感を刺激することで、より没入感の高い体験にすることができます。

「デジタルコンテンツの演出はもちろんだが、コンテンツに入る前の現実空間内で役割を与えてあげる設計を行うことこそ必要。VRの映像を体験するときに「あなたはこういう役でこういう映像をみるんです」という前段階の演出がリアル世界であって、その上でVR空間に入るだけでも普通の体験よりリッチな体験になる」とのこと。

例えば、”あなたはマネージャーです”という役割を与えられて楽屋という体験を与えられると、単にVRを体験するものとは違って、マネージャーという役割からアーティストをみる視点になることができる。そうすることで、今まで感じたことのない距離感や雰囲気を感じることができるVRコンテンツへと変えることができ、単に体験するだけのコンテンツより面白いコンテンツへとすることができる、と言います。

VRコンテンツをカジュアルに体験できるように

DeNAの子会社であるSHOWROOM株式会社・代表取締役社長の前田 裕二氏は、ライブ動画ストリーミングプラットフォーム事業「SHOWROOM VR」から見えた、VRコンテンツに必要な”カジュアルさ”について紹介をしました。
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SHOWROOM VRでは、これまでのVRコンテンツにはでは手薄だったカジュアルさを大事にしていると前田氏は言います。SHOWROOM VRには、HMDをつけて体験することができる”ゴーグルモード”のほかに、ゴーグルをつけなくてもその場でスワイプしながら画面を動かせる”ノーマルモード”の2つの視聴方法が存在します。

「現状、Gear VRやハコスコ等を用いてスマートフォンをHMDにして楽しんでいる人は多くはなく、むしろノーマルモードのように画面を手でスワイプして3D空間を楽しむ人の方がまだ多く、まずは3D空間に多くのユーザーが慣れてハードルを下げていく必要がある。そのためには、スマホだけで気軽に体験できるようにすることが重要だ」と前田氏は言います。

「SHOWROOM VR」デモ・概要ムービー

https://www.youtube.com/watch?v=AZ0-KZ60g_E

SHOWROOMはカジュアルさを出すためにVR撮影ならではの工夫を行っているそうで、撮影時にはVR動画撮影用のカメラと通常カメラの2種類のカメラを用意し、それぞれのカメラで配信を行っています。通常カメラは演者がカメラを意識をしながら話をするために使って、VR動画撮影用のカメラは、あえて演者の意識がVRカメラの方に行き過ぎない設計を行っている。演者の意識をVRカメラの方に向けないことで、演者の”隙”を作るようなコンテンツ作りをしており、その”隙”こそが視聴者と演者との距離を埋め、演者さんのそばにいるような体験ができるようにしていると言います。

現在は視聴者がVRコンテンツ内のどこを見ているのかわかるように視線のヒートマップ化を行い、男性や女性でのヒートマップの違いや、視聴者がどこを一番よく見ているのかなどを分析することによって、コンテンツの質を更に今後高めていきたいと前田氏は言っています。


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