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ゲーム・アプリ 2018.10.27

剣と世界に「重さ」を感じるVRマルチRPG「ソード・オブ・ガルガンチュア」

株式会社よむネコが2018年冬配信予定のVR専用マルチプレイRPG「ソード・オブ・ガルガンチュア(SWORDS OF GARGANTUA)」が、9月に開催された東京ゲームショウ2018(TGS2018)にて試遊展示されました。さらに今回は大阪大学の“バーチャルな加速度感覚を生み出すVR用GVS技術”のデモをゲームに組み込んだ形で体験することができました。

VRで剣戟(けんげき)を実現すべく開発された本タイトル。今回はデモプレイの様子や開発者の想いがこめられたインタビュー、そして「UNREAL FEST 2018」で行われた講演の様子とあわせてレポートします。


(火花散る剣戟)

「ソード・オブ・ガルガンチュア」とは

「ソード・オブ・ガルガンチュア」は、剣戟(けんげき)をテーマにしたVRアクションRPGです。これまでのゲーム機では体験できなかった「現実の戦いを感じさせるような剣戟」を味わうことができるよう、VRならではの体験を目指して開発されているタイトルです。開発の当初からマルチプレイを志向しており、リリース版では4人協力プレイが可能。対応デバイスは、Oculus Rift、HTC VIVE、Windows Mixed Realityを予定しています。(今回のデモではOculus Rift + Touchにて、2人同時プレイに2人のNPCが加わる形での試遊でした)

https://www.youtube.com/watch?v=kXWoEXVohFA

武器を振るう重さを全身で感じる! 火花散るTGSデモ

ということで、「ソード・オブ・ガルガンチュア」の大きなセールスポイントである「剣戟」がどのような形でVRで体験できるか、TGSでのデモプレイの様子をレポートします。


(TGSでの「ソード・オブ・ガルガンチュア」デモブースの様子)

デモは4つのステージから構成されていました。1つめのステージはチュートリアルで、ダッシュも含めた移動、武器の取得、攻撃と防御、回復と仲間の蘇生など、一通りのアクションについて説明と体験ができます。

まずは移動の仕方から。今回のOculus Touchを使ったプレイの場合、移動と方向転換は左右のスティックで操作になります。さらに「ソード・オブ・ガルガンチュア」特有の操作として、トリガーを引いた後に体(頭)を傾けると、その方向にダッシュをするというのもあります。

続いて武器の拾い方を習得すると、剣を振るって攻撃できるようになります。一般的なVRゲームで剣を振り下ろすと、手の動きに合わせてヘッドマウントディスプレイ(HMD)の中で目に見える剣も対象物をすり抜けてしまいますが、このゲームでは相手の剣などと衝突したときに、きちんと視覚上の剣も跳ね返ります。そしてそれに合わせて火花が散り、耳には金属音が鳴り響き、そしてTouchコントローラーに衝撃が走るのです。きちんとパリィ(敵の攻撃を盾や武器などで受け流す・弾き返す)アクションもあります。

(モーニングスターで練習台を叩くと……金属音とともに火花が散り、確かに全身で手ごたえを感じられます。エフェクトはこれまでの2Dゲームでのノウハウが全く通用しないので、3DのVR内で自然に立体的に見えるよう気合をいれて開発しているとのこと)

それゆえ、ひたすらに武器を振り回して無双するのではなく相手の動きを観察して的確に腕を振り確実な一撃を狙っていくプレイをしたくなるゲームです(柄の長い武器で振り回しすぎると、オブジェクトとの衝突時に武器のすり抜けが発生しない故に、自分の手の向きからするとあり得ぬ方向に見た目の武器が向いてしまい、それが実在感の喪失を誘発してしまうというのもあります)。

当日は突き攻撃や頭上で掲げてから振る溜め攻撃、ナイフなど投てき武器による遠距離攻撃などもできました。武器を持ってないときは拳で殴る攻撃も可能です。

チュートリアルが終わるとコロシアムのような空間で実戦開始です。甲冑を身に着けた4人のプレイヤーチームが立ち向かうのは、体格が大きな同じく甲冑を着込んだ敵。こちらが剣や盾、モーニングスターなど様々な武具を操るとと同じように、敵もしっかりと武装しています。

相手の剣の攻撃を盾で防ぎ、隙ができたところに剣を振り下ろす。これまでゲームコントローラーでやっていた操作が、腕を振ることで実現できる。そして、手に伝わる振動と耳に響く金属音、飛び散る火花が闘いの場にいる感覚を強化する。VRゆえに直感的にできる剣戟が、これほどまでに身体に高揚を生むのか。これはもう、疲れて腕を振るうことができなくなるまでこの世界に浸っていたいですね。うっとり。

しかしですね。この世界はそんなに甘くないのです。1対1だと互角に戦えていたのですが、複数人の敵が同時に襲い掛かってくると一気に難しくなります。敵が集中してボッコボコに攻撃を受ける→やられる→武器を手放した状態でリスポーンする→再び複数人で襲い掛かってくる→地面に落ちた武器を拾う余裕がない→あわててしまい素手で殴って敵を押しのけようとする→素手の威力は弱いので重量のある敵は離れてくれない→再びボッコボコにされる、というコンボを喰らってしまいました(デモ版ではプレイヤーに敵がめり込むほど集中してしまったというのもあるかもしれませんが)。


(剣をもってにじり寄ってくる敵兵士。うまく立ち回らないとこいつらが一斉に襲い掛かってくる)

そう、戦場では剣術だけでは生きていけないのです。戦局を冷静に判断する力、地の利を読み利用する力、仲間とコミュニケーションをとり作戦を遂行する力、そういったもの全てが闘いに勝つには必要です。

敵のパターンも増え複雑に、巨大ボスを前に生き残れるか

続いて、接近戦を仕掛ける戦士だけでなく、遠距離攻撃を仕掛ける魔法使いとも闘わなければいけない、段差のあるステージ。


(奥の段差に遠距離攻撃を仕掛ける魔法使いが待ち構える中、いかに兵士を振り切って攻めていくかが課題です)


(このように、Oculus Touchを振ることで、敵との剣戟が繰り広げられます)
そこを抜けると、試遊プレイの最終ステージに辿り着きます。今までは閉鎖的な空間が戦場になっていましたが、最後は夕焼けの中に雲が浮かぶ、黄昏を予感させるエリア。そして現れるのは、プレイヤーの身長の何倍もの長さの剣を持つ、見上げる程大きな巨人。


(美しい黄昏、それに見惚れる暇もなく攻撃を仕掛けてくるボス・ガルガンチュア。手前にいる小さいのがプレイヤーキャラクター。VRの中でも見上げるほどに巨大)

剣に当たらないよう、巨人の背後に回り込んで攻撃をしましたが、筆者のチームでは残念ながらタイムアップ。今後が気になるデモ体験でした。

世界観もずっしり重厚!

近接武器や魔法、甲冑など見た目から見るに、中世ファンタジーを舞台にしたゲームかと思いきや、重馬敬氏(LUNARシリーズのシナリオ担当など)によって作られた世界観は、なんとSFでした!

今から数百年後、人類であったものたちが恒星間を移動した先の惑星での物語。

プレイヤーが倒すべきはガルガンチュアと呼ばれる巨人たち。

ガルガンチュアよりもうひと世代古い巨人たちがおり、彼らが戦争を行うことを目的とした巨人ガルガンチュアを生み出した。

しかし、古い巨人達はガルガンチュアに滅ぼされてしまった。

唯一生き残った古い女神は、わずかな人間たちに働きかけてガルガンチュアへの反抗を企てている。

ゲームでプレイするガルガンチュアのステージは、はるか昔に恒星間宇宙船として使われた構成物を分解、再構成して作られたものということです。

このような世界観をレベルに落とし込んだのは、近代コンクリート建築風のデザインを得意としているレベルデザイナー・佐藤孔盟氏。ゲーム中にじっくりと観察していきたいところですが、激戦続くのマルチプレイ中だと自分一人だけゆっくりする時間はないですよね……と新氏に聞いたところ、世界観の断片を何かしらの方法で提示したり、360度のスクリーンショットを撮ってストーリーモードを提示したりすることを検討しているとのこと。闘いを巡る重厚な世界観も「ソード・オブ・ガルガンチュア」の楽しみの一つのようです。

GVSを用いてゲームに臨場感を増す取り組み

TGSのデモでは「ソード・オブ・ガルガンチュア」のプレイにあわせて、GVS(前庭電気刺激/Galvanic Vestibular Stimulation)を用いて、頭部に微弱な電流を流し人にバーチャルな加速度感覚を感じさせる技術を体験することができました。

「前庭電気刺激技術」とは、内耳の奥にある“前庭”に微弱な電気を流すことで加速度感覚や角速度を感じさせる技術です。今回はゲーム中で歩いて移動しているときや剣戟をしてる時に刺激を与えることで、より臨場感を与えるというデモになります。




(HMDの装着部分から左右の額、ヘッドフォンから左右の耳の後ろ、と計4箇所から刺激を与える。なお、耳の後ろのものを上下に分け6極にすると上下の感覚も与えられるが、立位でのプレイだと重力の都合であまり感じられないので、今回は4極での体験としたそうです)

GVSについての詳細はこちらの記事をご確認ください。

GVS装置を付けてのプレイですが、はっきりと「きた!」という実感はありませんでした。一緒にプレイした記者によると「ない時よりもあったほうが酔いにくかったかも」ということでした。何かあるかという感覚というよりは、自然にのめり込んでいたというのが正しいところでしょうか。

……という体験をしたのち、開発を担当した大阪大学情報科学研究科の安藤英由樹准教授と、大阪大学GVS事業化グループ代表の北尾太嗣氏にお話を伺いました。


(女神アストレイアを囲むように並ぶのは、よむネコの新清士氏(一番右)と
大阪大学の安藤氏(中央)、大阪大学GVS事業化グループの北尾氏(右から二番目))

今回のGVSの仕組みをエンターテインメント分野で応用したのは、ファーストパーソン(一人称視点)かつ自分で移動するゲームは初とのこと。すでにジェットコースターや車の運転などで試されているようです。

今回のデモ向けのチューニングは、歩いているときに自然な臨場感を出す、VR酔いの特異な違和感がでないような方針で行ったということで、すごくわかりやすいという形ではなくなんとなく感じるような弱さにしていたと話していました。確かに違和感はありませんでしたね。

今後としては「車の自動運転時の酔い止めなどへの利用も考えられるが、医療機器となると製品化するまでに関係省庁の許認可が必要となるため、最初は安全性を確保したうえでエンタメ用途での製品化を狙っている」そうです(ということで、今回の「ソードオブガルカンチュア」以外にも様々なエンターテインメントへの取り込みをしていきたいとのことなので、興味がある方はそちらにも是非ご連絡を!)。

本プロジェクトの事業化に向けて動いているのは、学生でもある北尾氏。去年の3月くらいから事業化に向けて動きはじめ、ピッチコンテストなどで総務大臣賞を獲得するなど、評判のようです。現在では大阪大学からの支援も受けて活動しています。あわせて、保険会社を巻き込んで、同意書を書かなくても使えるようにするスキーム作りにも動いているそうです。
安藤氏は「日本では研究と製品化に乖離があるんです。アメリカも近いかなと思うけど、やはりそちらも乖離があって。中国は研究者が引き抜かれて、すぐ作ってすぐ出しちゃうから流動的」「コンテンツではまだいけているが、VRハードなどでは海外に持っていかれているので、僕らが出したら……他もやるかもしれないですね」と大学発ベンチャーである意義や心意気を語ってくれました。

コアVRゲーマーを意識して開発されたVR RPG、それを実現する技術

そんな「ソード・オブ・ガルガンチュア」はどのような点を重視して開発されているのでしょうか。よむネコの代表で本タイトルのエグゼクティブ・プロデューサーである新清士氏へのインタビュー、およびに10月14日に開催された「UNREAL FEST EAST 2018」(以下、UE FEST)の『VRならではの剣戟体験の実現~「ソード・オブ・ガルガンチュア」メイキング~』セッションからまとめてみました。

新氏によると、本タイトルは北米のハイエンドPCとVR HMDを持っているゲーマーを意識したVRファーストの作りになっているそうです。


(UE FESTのセッションより。先に紹介した世界観も北米ファンを意識したものだそうです)

本タイトルはプロジェクト当初よりソーシャルVRを意識して開発されており、ゲームのメインモードはソロプレイではなく4人同時のマルチプレイを前提としたものとなっています。そのためにネットワークもソリッド(堅固)に構築をしているそうです。今回の幕張メッセでのTGSの試遊も北米にある専用サーバーにアクセスしてのプレイでしたが、特にラグもなくプレイできました。

移動については先述のように、スティックによる移動形式となっています。よむネコが2016年冬にリリースしたアクションパズルVRゲーム「エニグマスフィア」ではVR酔い対策としてワープ移動形式を取っていましたが、コアユーザーにとってはワープ移動は不人気でとの言が。体質的にVR酔いをしないユーザーも一定数いて、そういったユーザーにとってはワープ形式は「邪魔なもの」となりがちなのだそうです。

そこで、RPGの冒険しているという感覚を生み出すために、テストを繰り返し徹底的に酔い対策を取った上でスティックによる移動形式を採用することにしました。

例えば、スティックを倒したときの移動量を実際に人間が経験する移動量と近い、前方なら4m、横移動なら3m、後方移動なら1mとしたそうです。さらに、この移動方法だけであると酔いを抑制させるために等速、つまりトップスピードが固定になるため(Oculusベストプラクティス参照)、頭の動きで移動速度を変える「ダッシュ移動」も併せて採用しています。


(移動時に周辺視野を抑え集中線のパーティクルを表示させることでさらに酔いを抑える。なお、こういった機能も邪魔だとするユーザーもいるそうなので、コンフィグによって制御できるようにするとのこと)

また、キーコンフィグも、アイテムを掴む時はTouchのGripボタン行うようになっていたりと、テストプレイからコアVRゲーマーの意見を聞いてのカスタマイズになっているとのことです。

先の試遊の様子でも書いたようにVR上での「剣戟」が本タイトルの売りですが、武器のコリジョン判定(オブジェクト間の接触判定)についてもかなりの工夫をしているそうです。
いわく、現在のVRゲームの多くでは手持ち武器のコリジョン判定がいい加減で、武器を敵に的確に当てるのではなく、武器を敵にめり込ませて小刻みの振るわせることが敵にダメージをあたるのにベストであると新氏は言います。

よむネコのチーフプログラマ・鈴木孝司氏による解説によれば、「剣のやりとり」を実現させるために、Unreal Engine 4でのコリジョン処理に留意しているそうです。さらにプレイヤーの剣さばきの動きがネットワークを介したプレイでも違和感が無いように、処理のローカルクライアント/サーバーの切り分けについても吟味を重ね実装をしているようです。

(※実装に関する詳細はUE FESTの『VRならではの剣戟体験の実現~「ソード・オブ・ガルガンチュア」メイキング~』セッションのスライドにて)

コアVRゲーマーに向けた「重さ」を感じるタイトル

と、ここまで紹介してきた「ソード・オブ・ガルガンチュア」。剣を敵と重ねた時に全身で感じる「重圧」、闘いの場を作り出す「重厚」な物語と舞台、そして開発者のコアVRゲーマーに向けた熱く重い「想い」と、様々な「重さ」を感じるタイトルでした。

実際に9月に米国シアトルで開催されたPAX(Penny Arcade Expo) Westに出展したところ、ふたりでHTC VIVEを持っているという親子が朝からブースに来て試遊したうえで、さらに二日目は夫婦で来てくれたと、コアなVRゲーマーの心を掴んでいるそうです。

しかしながら体験してみて、その「重さ」とともに分かったのは、「TGSのデモでは物足りない!」ということでした。実は「ターゲットロックした状態でダッシュして、裏側に回り込んで斬る」など、ただ剣を振るうだけでなく移動も含めた複雑なアクションもできるそうなのですが、初見でそこまでいろいろ試すには短すぎる! もっと遊びたい!

現在、itch.ioにてコンバットデモが配信されていますが、リリースに向けて新しいデモ版の配信を企画しているとのこと。今後の動きに注目です(筆者は配信が来るのを楽しみにしています)。

「ソード・オブ・ガルガンチュア」は2018年中にアーリーアクセスでのリリース予定です。

・関連リンク
– SWORDS OF GARGANTUA(よむネコ)
– Swords of Gargantua (STEAM)
– 安藤 英由樹准教授の紹介ページ(大阪大学大学院情報科学研究科)

 

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