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ゲーム・アプリ 2018.02.08

AWSのAR/VR開発ツール「Sumerian」国内初レビュー

 

みなさん、初めまして。「ARおじさん」改め、MESON COOの小林と申します。MESONはVR, ARのクリエイターの方々がよりコンテンツを作りやすくなるような3D モデルの検索エンジンを開発しているスタートアップです。

普段はCOOとしてサービス設計などにも関わりながら、エンジニアとして開発も手がけています。以前より業務での開発や趣味で触れたVR/AR周りの技術をTwitterやブログで紹介しており、今回その一つであるSumerianのレビュー記事をMogura VR様に寄稿させていただくことになりました。

個人的にこれからのVR/ARの大きなトレンドの一つとしてWeb VR/ARは注目しており、
今回のレビューを通じて、SumerianはWeb VR/ARの制作ツールの中心になりうると感じました。

本記事を通じて、Sumerianの魅力やWeb VR/ARの可能性を感じていただければ幸いです。

ブラウザベースのVR/AR制作ツール「Sumerian」

昨年末のAmazonのRe:Inventにて発表された数々のAWS新サービスの中で、一際僕が注目したのがAmazon Sumerianでした。

アマゾン、プログラミング無しでVR/ARを作れる「Sumerian」発表
VR&ARコンテンツ作成サービス「Amazon Sumerian」が発表されました! #reinvent | Developers.IO

SumerianはVR/ARコンテンツを作成、ビルド、公開できるアプリケーションです。VRやARのコンテンツを作るツールとしてはUnityやUnreal Engineなどがありますが、Sumerianはウェブブラウザで実行できることが特徴として挙げられます。OculusやHTC Viveのほか、iOS,、Androidアプリにも対応しており、Unityのプロジェクトもインポートできるそうです。

Sumerianのプレビュー審査通過! 実際に試してみる

そんなSumerianを発表された当初からずっと使いたくてうずうずしてたのですが、プレビュー希望者は申し込みをして審査を待つ、という状況でなかなか触らせてもらえませんでした。

しかし、2018年1月17日の朝、メールボックスを見るとなんと「Sumerianのプレビュー審査に通過しました」という旨のメールが!!

あまりにも嬉しすぎて、その日は朝からしばらくSumerianばかりいじっていました(笑)今日は、そんな「Sumerian」を触ってみた感想を世界最速(ARおじさん調べ)で紹介したいと思います。

ちなみにプレビュー版の中身や成果物をブログやTwitterに掲載しても良いかどうか、Sumerianのゼネラルマネージャーに問い合わせたところ、快く受け入れてくださいました。ARおじさん、AWSのGMにゲリラリプライを飛ばすの図。

またSlackグループも用意されているようで、こちらで質問や自分の作ったプロジェクトのシェアなどもできます。(お察しの通り英語です)

用意された豊富なテンプレートとチュートリアル

早速AWSのコンソールからSumerianの画面に入ると、プロジェクト作成の画面が表示されます。プロジェクトは空のシーンから作成しても良いですし、用意された豊富なテンプレートを活用することもできます。

現時点では空のプロジェクトも合わせると12個のテンプレートが用意されています。ARKit用のテンプレートやSumerianの公式キャラクター(?)のプレスティンやクリスティンがインポートされているものもあります。

テンプレートを選択すると、シーン名の入力画面のあと、実際のエディタ画面が起動します。「Training Room」などの手の込んだ背景がすでに用意されているテンプレートは、エディタ画面に遷移するまで若干時間がかかる印象です。またチュートリアルも豊富に用意されていて、これに沿ってSumerianをいじればある程度の機能は網羅できるようになっています。

(参考)
Learn Amazon Sumerian | Learn Amazon Sumerian

エディタ画面について

今回は空のプロジェクトを開いてみましょう。エディタ画面は以下の図のようになっています。

Unityを触ったことがある人なら、なんとなくどの場所でどう操作するのかは分かるかな、と思います。ただUnityと違って各操作パネルを自分の好きな場所にアレンジできる機能は現状無いようです。

左上がEntities Panel、左下がAsset Panelになります。SumerianにはEntityとAssetという概念があり、Assetは「SumerianのAsset Libraryや外部ソフトで作成した3DモデルをSumerianにインポートしたもの」で、Entityは「それらのAssetでシーンに追加されたもの」です。Entityはヒエラルキー構造を取れるので、親子関係も構築できます。

画面の真ん中がCanvasで、作成したシーンを視覚的に確認でき、右側はインスペクタパネルでシーン内で選択されたEntityの各パラメータを操作したり、Componentを追加したりできます。上部にある「Create entity」を押すと簡単な3D, 2Dの図形やパーティクル、ライトなどを簡単にシーンに追加可能です。

試しに「Box」を追加するとこんな感じになります。

個人的に面白い機能だと思ったのは「HTML 3D」です。HTML 3Dはエディタ空間内にHTMLやiFrameタグを埋め込める機能で、例えば空間内にYouTube動画を流したい場合、動画のURLを挿入するだけで実現することが可能になります。

シーンに追加するとUnityでいうところのPlaneのようなオブジェクトが登場します。実際にYouTubeのiFrameタグを入れて動画を流してみました。HTML3Dのインスペクタの下部に「HTML3D」という項目があります。

「Open in Editor」を押すとHTMLを記入できるエディタが別ウィンドウで表示されます。ここで自分の表示したいHTMLを記入することでVR,AR空間内で表示することが可能になります。

ちなみに下記のデモで再生している動画は自分がUnityとARKitを使って、初めてARアプリを作って公開した動画になります。

個人的には、これは非常に嬉しい機能です。Unityでは、iOSやAndroidに対応した空間上にHTMLをレンダリングできるアセットがなかったので、YouTubeを流したりブラウジングしたり……といったことができなかったのですが、これなら超簡単にできますね。

また「Import Assets」を選択するとすでにSumerianで用意されている3Dモデルをインポートできます。

下の方には音楽ファイルらしきものもあります。

また、右側の「Import From Disk」から自分の持っている3Dモデルなどもインポートできます。

Sumerianのメリット

あくまで1日という短い時間の中ですが、Sumerianを使ってみた個人的な所感を述べたいと思います。Sumerianを使うメリットは大きく二つあると思っています。

コンテンツを素早くローンチできる

Sumerianはブラウザベースなので、各種ツールのインストールなどをする必要がなく、デプロイも基本的にはWebベースです。したがって、Unityに比べて、コンテンツを素早くローンチできると思います。ネット環境さえあればどの端末でもプロジェクトを編集し、デプロイできるのは便利です。特に僕は別の記事でも述べている通り、VR/ARはよりWebベースのアプリケーションをもっと出していくべきだと考えているので、WebベースでアプリケーションをローンチできるSumerianはオススメしたいところです。

AWSの各サービスとの連携

二つ目はAWSの各サービスとの連携です。個人的にSumerianの正式ローンチが楽しみな最大の理由はここにあります。僕はいろんなARアプリを実験的に作ってきました。例えば自分が喋った言葉が空間に浮かんできて、それが英語に翻訳される視覚的な翻訳アプリやVR/AR空間の中でWatsonが自動生成した文書を音声として流すデモなどなど。これらは全てUnityで作っていますが、そこには「他サービスとの連携」というちょっとしたハードルが存在します。

例えば、入力された音声を翻訳したければまずGoogle CloudやIBM CloudのSpeech to Textを使ってテキストに変換して、それをTranslaterにかけて翻訳して、またText to Speechで音声に戻すなどの作業が存在します。Unityにはそれらを実現できるサービスがないため、他社のクラウドサービスと連携しなくてはならないわけですが、それらはUnityAssetStoreに売られているAssetや他社が出しているプラグインを使用する必要があります。

しかしSumerianが用意されているAWSには豊富なサービスが用意されています。当然同じプラットフォームで動作するため、Sumerianとの連携とも容易です。例えば以下のチュートリアルではAmazon Pollyを利用して3D空間に存在するBoxが喋るデモを行なっています。このデモはAWS内だけで完結することが可能です。

Text-to-Speech with the Speech Component

このようにAR/VRアプリケーションを拡張するための機能が、各種AWS内サービスで実現できるというのはかなり大きなメリットであると感じます。将来的にはAlexaがVRやAR空間内でアシストしてくれるようなアプリケーションも登場するでしょう。

また、Sumerianと同じ時期に発表されたRekognition Videoを活用すれば、AR中の外部環境認識がより簡単に実現できます。こういったAR/VRの機能拡張が容易にできる3Dエディタを作れるのは、これまで様々なクラウドサービスを提供してきたAWSだからこそ成せる技でしょう。

Sumerianのデメリット

Sumerianを褒めてばかりいると「もしかして、Amazonからお金もらってるの?」なんて言われそうなので、デメリットについても述べておきます(笑)

デメリットとしては、メリットで述べた1点目とのトレードオフにはなるのですが、ブラウザベースなので、ネット環境がないと仕事になりません。またネット環境が安定しない場所ではサーバーとのコネクションがつどつど切れるのでその際にも作業が難しいです。

ただ2020年に実運用が始まる5Gやネット環境の充実などを考えると、時代的にはブラウザベースのアプリケーションの方が時代の流れに沿っているのかな、とも感じます。

ARStudio、LensStudio、そしてSumerian

ARビルドツールといえば、FacebookのAR StudioSnapchatのLens Studioなども最近ローンチされて話題となりました。これらはどちらかというとデザイナー寄りな印象で、非エンジニアでも簡単にARを実現することを目指しています。

一方、Sumerianはこれらよりもより複雑なことができるようになっていて、想定しているユーザーもエンジニア寄りの方が多いなという印象です。

この違いは各プラットフォームが「エンドユーザーにARコンテンツを作って欲しい理由」に起因すると考えています。FacebookやSnapchatはユーザーが自社のプラットフォーム内で見て楽しんでくれるようなコンテンツをたくさん用意したい。そして、そのコンテンツによってプラットフォーム内にユーザーを滞在させ続けたい。そのためにコンテンツは出来るだけ多くの人にたくさん作ってもらいたい、と考えているように思います。

一方、AWSはユーザーが作った ARコンテンツについてはそこまで関心はなく、 ARコンテンツを作る過程で自社のAWSサービスをたくさん使ってもらうことでキャッシュを生んでいます。この違いによって各プラットフォームの ARビルドツール間の立ち位置が少し違って来ているのではないでしょうか。

結局、最後の最後まで結局Sumerianを褒めてしまいました(笑)以上、簡単ではありますが、Sumerianを軽く触ってみた感想になります。近日中にもう少し突っ込んだSumerianの機能や触った感想などをまたポストしたいと思います。面白いと感じていただけた方は、ぜひSNSでのシェアなどもいただけますと幸いです!

またTwitterの@AR_OjisanアカウントでARに関するつぶやきなどを発信していますので、フォローもぜひお待ちしています!

(※本記事は、筆者である小林様のMediumより、許可を得て編集・転載しています)


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