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活用事例 2018.02.27

特集:活況のAR シリコンバレーVR/ARニュース1月号

こんにちは、古森です。今月もよろしくお願いします。2月14日よりGVR FundからGFR Fundに名称が変わりました。VRだけでなく、ARやMRなどの未来(Future)のRealityに投資するという意味を込めての変更です。活動自体は大きくは変わらないので、引き続きよろしくお願いします。

2月頭に、『ポケモンGO』や『Ingress』で知られるナイアンティック(Niantic)が、AR企業Escher Realityを買収するというニュースが入って来ました。2018年に入ってから、このニュースだけでなく、AR界隈で資金調達や買収が盛んになりつつあります。今月はAR周りのニュースをまとめ、現在のトレンドを解説します。

目次

ARトレンドのまとめ
ARジャイアントになりつつあるNiantic
資金調達1:テクノロジー・プラットフォーム
資金調達2:ナビゲーション
資金調達3:インストラクション
資金調達4:ディスカバリー

ARトレンドのまとめ

まず結論からまとめていきます。2018年2月現在では、ナイアンティックが資金・技術・データを集めており、他の追随を許さないARジャイアントになりつつあります。

その他ではARを支えるテクノロジー・プラットフォームへの投資が盛んで、実際のユースケースであるアプリケーションへの投資は多くは実行されてないという印象です。ARクラウドに代表される、マルチプレイヤーでの体験を支えるためのテクノロジーが整備されていないため、そういった一段上のARを開発する土壌が整ってないことが理由と思われます。ただ、ナビゲーション・インストラクション・ディスカバリーの分野に限っては投資が進んでいますので、これらの分野がARのユースケースとして先行してくると予想されます。

ARジャイアントになりつつあるNiantic

Pokémon Go creator raises $200 million ahead of Harry Potter game launch
Pokémon GO creator Niantic buys Escher Reality AR startup

ナイアンティックは2017年11月、2億ドル(約210億円)の資金調達に加え、『ハリー・ポッター』シリーズをテーマとするの新プロダクトに着手することを発表しました。また、2018年2月1日にはARクラウド関連スタートアップであるEscher Realityの買収も発表しています。2億ドルはも十分「ジャイアント(巨人)」たる資金力ですが、そこにEscher Realityが加わったことにより、技術でも大きく競合を引き離したことになります。

ARクラウドの記事でも書いた通り、ARでのマルチプレイヤーの体験(同3Dオブジェクトに複数人でインタラクトできる)にはARクラウドの技術が不可欠です。現時点では、マルチプレイヤー体験が提供できるデベロッパーはナイアンティックくらいではないかと思います。

また、データに関しても他の追随を許さない状況になっています。『Ingress』と『ポケモンGO』においてさまざまな場所のデータを記録し、Escher Realityの技術を組み込んだゲームがさらに点群を収集、世界のコピーをクラウド上に作り上げていくことになるでしょう。技術だけでなく、データの点でも大きく先行しているため、ナイアンティックはまさにARジャイアント(と言っても過言ではないと思います。『ハリー・ポッター』シリーズをはじめ、今後の展開が楽しみな会社の一つです。

資金調達1:テクノロジー・プラットフォーム




Augmented reality developer tools startup 8th Wall raises $8 million
AR Startup Mira Raises $1 Million, Starts Shipping Dev Kits
GridRaster to bring high-end virtual/augmented reality experience on mobile devices

AR関連で資金調達が活況だったのは、テクノロジー・プラットフォーム関連銘柄です。
1つ目は、6DoFを全てのスマートフォンで可能にする、クロスプラットフォームのARテクノロジーを開発している8th Wall。こちらは2月8日に800万ドル(約8.5億円の資金調達を発表しました。2つ目はVRやARデバイスに対してエッジコンピューティング(※)の技術を提供するGridRasterで、こちらは2017年10月に200万ドル(約2.1億円)の資金調達を発表しています。3つ目はさらに前になりますが、スマートフォンを差し込んで使用するARグラスを開発するMiraが、2017年9月に100万ドル(約1.1億円)の資金調達を行っています。

(※編集部注:ネットワーク上でユーザーに近い位置にサーバーを配置し、負荷の軽減と通信の低遅延化を図ることを指す)

これらの記事は一部にすぎませんが、2017年の後半から2018年2月に到るまで、記事にこそ出ないものの、多数のARテクノロジー/プラットフォーム関連のスタートアップの資金調達を確認しています。特にARクラウドはシードラウンドの投資が活況で、GFR Fundの投資先のSturfeeDottyARを始め5社ほどの資金調達を確認しています。このことは、ARの体験を支える技術がまだ十分ではなく、基礎技術やプラットフォームへの投資が先行していることの現れであると考えられます。

よくARのユースケースについて質問を受けますが、私がシリコンバレーで見聞きしている限りは、アイデアやスタートアップこそあるものの、ARを支えるテクノロジーやプラットフォームが不十分であるため、ARアプリに対する投資はなかなか進んでいないように思います。しかし、そのような状況でも「ナビゲーション」「インストラクション」に関しては先行して投資やビジネスへの転用がスタートしており、ARでお店や観光地、人を発見する「ディスカバリー」においても徐々に存在感が増しつつあります。

資金調達2:ナビゲーション

Blippar Launches App Allowing People to Navigate the World with Augmented Reality
Alibaba leads $18 million round into augmented reality car nav startup WayRay
(動画) WayRay Navion — The first holographic AR navigation system for cars
Mapbox raises $164M funding led by SoftBank’s $100B fund
Must-have AR SDKs you need for your apps and games
Mapbox acquires augmented reality activity tracking app Fitness AR
Mapbox acquires neural network startup Mapdata to help it expand into AR maps

ナビゲーションはもっとも分かりすいARのユースケースであり、昨年の後半から資金調達・買収・リリースが多い領域です。ARナビゲーションを簡単に説明すると、住所や地名を検索したら道路に矢印などが表示され、目的地まで道に迷うことなくたどり着ける機能です。ARに先駆けて取り組んでいるBlipparは昨年11月に「AR City」というARを使ったナビゲーションを発表しました。現在は300都市で使えるとのことです。

ARナビゲーションといえば、自動車への応用が一番期待されていますが、現在ではスイスのWayRayが先行しているようです。記事によれば中国のSAIC Motorと提携し、2018年モデルに組み込まれるとのことです。WayRayは昨年の3月にアリババなどから1,800万ドル(約19億円)の調達を実施しており、資金の面でも優位に立っています。

AirbnbやSnapなどに地図情報のSDKを提供しているMapboxは、昨年の10月にソフトバンクのVision Fundなどから1億6400万ドル(約174億円)を調達しました。その後立て続けに、地図データのAI処理を得意とするMapdataやランニングなどの経路を3Dの地形に描写するFitness ARなどを買収しました。同社はすでにナビゲーションに関するAR SDKを発表していますが、買収によりMapboxのSDKの機能を向上させるだけでなく、より多くのデータ収集が可能になると記事では指摘しています。Mapboxもナイアンティックと同じように地図データを使ったAR技術ではジャイアントになってきています。

資金調達3:インストラクション

Boeing Tests Augmented Reality in the Factory
Upskill raises Series B from venture arms of Boeing, GE
(動画) The Next Generation of Skylight
Atheer Labs Raises $12.3 Million
Scope AR raises $2 million seed round for enterprise AR
Streem raises $1.7M, brings augmented reality and streaming tech to home service professionals

ARを使ったインストラクションも投資が活発なエリアの1つです。例えば、航空宇宙機器の開発製造で知られるボーイング社では、工場における複雑な配線をARを使って際配線を可視化、エラーを減らすことに成功しているようです。そのボーイング社が使用している『Skylight』というソフトウェアを開発するUpskill社は、昨年4月にシリーズBでの調達を発表しました(金額は非公表)。

ARグラス及びARインストラクションのプラットフォームを手がけるAtheerは2017年の10月に1,230万ドル(約13億円)の資金調達を発表しました。また、この領域にいち早く取り組んでいるScopeARは2016年の7月に200万ドル(約2.1億円)を調達して以来、シリコンバレーではこの領域でもっとも有名なスタートアップです。両社ともボーイングのような製造メーカーがARインストラクションを簡単に作成できるCMSプラットフォームを提供しています。

GFR Fundの投資先でもあるStreemは、2017年12月に170万ドル(約1.8億円)の資金調達を発表しました。家電やインターネットの配線などのメンテナンスや見積りをリモートからインストラクトできるプラットフォームを構築しています。簡単な修理であれば修理工が来なくても対応ができるほか、実際に現場に行かなくても正確な見積もりがARによって可能になります。

資金調達4:ディスカバリー

First Minute Capital joins $5.8M seed for AR treasure hunt game Snatch
FlirtAR App Raises $1.5M Seed Funding To Connect People Online Through Geolocation Based Augmented Reality

まだ、活発ではありませんが徐々に存在感が増しているのが“ディスカバリー”です。ナビゲーションと多少領域が被りますが、評価の高いレストランやオススメの観光地などをARを使って発見する機能です。

2017年11月に580万ドル(約6.2億円)の資金調達を発表したSnatchは、ARを使ってパーセル(小包)を発見し、それを他のプレイヤーと奪い合うゲームです。パーセルの中には、お店のクーポンや特定の店で使えるポイントなどが入っています。ユーザーに対しては、近くのお店のお得な商品を無料で獲得できるチャンスになっている他、お店にとっては近くにいるユーザーに効果的にアプローチできる手段になります。

2017年の10月に150万ドル(約1.6億円)の資金調達を発表したFlirtARは、おそらく世界初のARを使った出会い系アプリです。記事やウェブサイトによると、ARを使ってFlirtARの登録ユーザーかどうかを知ることができる他、プロファイルなども表示されるため現実世界でマッチングの可能性が高まるとのことです。

上記の2社のように、ARを使えば効果的に今まで発見できなかった人・場所・物が見つかるようになります。資金調達は発表してませんが、AR x ディスカバリーに取り組むスタートアップは徐々に増えて来ているように思います。私個人としてもディスカバリー領域に注目しており、今後精力的にAR x ディスカバリーを探っていきたいと思います。

 


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