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業界動向 2017.12.13

特集:ARクラウド 注目のトレンドはこれだ! シリコンバレーVR/ARニュース11月号

GVR Fund古森です。今月もよろしくお願いします。11月も資金調達やプラットフォームをはじめ多くのニュースがありましたが、今回はシリコンバレーのVR/AR界隈で話題となっているARクラウドについて記事を書いていこうと思います。

ARクラウドブームの火付け役となったのはARを専業とするVC、Super Venturesのマネージング・パートナーであるOri InbarMatt Miesnieksの2人のブログ投稿です。このブログの前後からGVR FundとしてはARクラウドの会社に2件投資を実行し、ARクラウド関連の会社にも10社ほど実際に会ってきました。これらの記事を日本語でわかりやすく要約しつつ私自身が見聞きした内容を付け加えていこうと思います。

火付け役となったARクラウドに関する投稿は以下の2つです。
・ARKit and ARCore will not usher massive adoption of mobile AR by Ori
(Mogura VR日本語訳記事:モバイルARの本格的普及の鍵となるのは「ARクラウド」
・Why will AR Apps struggle for engagement without ARCloud? by Matt

目次

1.ARクラウドとは?
2.なぜARクラウドが必要なのか?
3.ARクラウドの技術的なアプローチ
4.なぜ”今”ARクラウドなのか?

ARクラウドとは

ARクラウドとは、簡単にまとめると現実世界のコピーとそれに紐付くデータをクラウド上に保持する技術のことです。過去に存在した一番近い例で言えば、2009年にリリースされた「セカイカメラ」でしょうか。セカイカメラはGPSをベースとしてコメントや画像を現実世界に記録できる日本発のソーシャルAR体験と言えます。


(セカイカメラはすでにサービスを終了しており、ドメインであったsekaicamera.comもすでに明け渡されている。Google画像検索で当時の様子をうかがうことができる)

ARクラウドのコンセプトはセカイカメラに非常に近いのですが、現実世界の建物や床により正確に3Dオブジェクトを配置、記録、シェアできる技術です。いくつかのスタートアップから話を聞く限りは、技術やユースケースによってさまざまな違いが存在します。例えば、あるスタートアップはエンタープライズに特化したARクラウド技術を提供し、あるスタートアップはコンシューマー向けのARクラウド技術を提供しています。

なぜARクラウドが必要なのか

2017年9月にAppleからARKitがリリースされました。それ以降、多くのARのアプリケーションがこの世に出てきましたが、そのほとんどがソーシャル体験がなくシングルプレイヤーのAR体験が主流です。まさにインターネットが登場する前のパソコン時代を彷彿とさせます。パソコンは当時すでにワードやエクセルなど素晴らしい機能がありましたが、パソコンが本格普及し始めたのはインターネットによってパソコンとパソコンがつながってからだと思います。

ARもまさにソーシャル体験を必要としていて、それを支える技術がARクラウドです。ARにおけるソーシャル体験は、例えば友達と”正確に” 同じ場所に置いてあるチェスを楽しんだり、友達が渋谷のハチ公前に残した3Dアバターを見ることができたり、といったマルチプレイヤーのAR体験です。こういった体験を支える技術がARクラウドです。

ARクラウドの技術的なアプローチ

(概念図)

ARクラウドはSuper VenturesのOri氏によれば、以下3つの機能を含む基礎技術のことを指します。(少し私の言葉で補正しています)

  1. クラウド上に現実世界の点群データを保持する(=現実世界のコピーをクラウド上に保持)
  2. どのデバイスからでも瞬時に絶対位置を”正確”に把握することができる
  3. 3Dオブジェクトをクラウド上の現実世界のコピーに配置し、それをリアルタイムでAR空間に配置・インタラクトできる

1.クラウド上に現実世界の点群データを保持する(=現実世界のコピーをクラウド上に保持)

Ori氏の記事に私が実際にスタートアップに会って見聞きした事実を少し付け加えると、点群データ(ポイントクラウド)は一番ポピュラーな手法であるものの、メッシュ化された3Dモデルだったり、2Dの画像だったりと現実世界のコピーを収集・保持する手法はいくつか存在するようです。また、いかにして現実世界のデータを収集するかということがARクラウド関連のスタートアップの一番の関心事で、実際に車やドローンを使用したり、APIやSDKを公開してARクラウドの機能を提供しつつデータを収集したり、3Dモデルをプロバイダーから購入したりと収集の方にもさまざまなアプローチが存在しています。

この現実世界のコピーを正確に最も早くクラウド上で手中に収めたスタートアップないしは大企業がARの覇者になるのではないか、とシリコンバレー投資家の間では話題になっています。それはまるで、ソーシャルグラフを完成させたFacebookのような存在ではないかと期待しています。

2.どのデバイスからでも瞬時に絶対位置を”正確”に把握することができる

こちらも現時点で最もポピュラーな方法は、リアルタイムに取得した点群データをベースにクラウド上の点群データからマッチする箇所を検索し、デバイスの絶対位置を正確に把握する方法です。これをローカリゼーション、レジスターなどといろいろな言葉で表現していますがローカリゼーションと呼ぶのが現実点では主流に思えます。

ローカリゼーションの後はARKitやARCoreが後を引き継ぎ空間内のトラッキングを継続します。ローカリゼーションをさらに早めるために、GPS、Wifi、ジャイロセンサー、電子コンパス、画像の特徴点などスタートアップによってありとあらゆるデータを使用してローカリゼーションを高速化させています。私が確認できた中で最速のローカリゼーションは数秒程度でしたので、数年もすればARグラスの体験に耐えうるレベルの遅延が実現できることは間違い無いと思います。

3.3Dオブジェクトをクラウド上の現実世界のコピーに配置し、それをリアルタイムでAR空間に配置・インタラクトできる

この機能では、”(A)世界のソフトコピー”とそこに保存された”(B)プレイヤーの3Dオブジェクト”を一緒にダウンロードします。(A)は、”1”の機能で少量の点群データをデバイスがキャプチャし、その後空間全体の点群データやメッシュ化された3Dモデルをダウンロードして来て瞬時に空間全体を3Dモデル化します。

わかりやすい例で言えば、現在のAR体験において事前に空間を認識する操作が不要になるうえ、デバイスのパフォーマンス次第ですが、より広範囲の3Dモデルを取得することが可能になります。

(B)は、(A)に保存してあった過去の3Dオブジェクトやリアルタイムに保存された他プレイヤーの3Dオブジェクトです。これらを一緒にダウンロードすることにより、ソーシャルな体験の実現を可能にしてます。

なぜ ”今” ARクラウドなのか?

今記事を書いているのは2017年12月上旬ですが、なぜ”今”ARクラウドなのでしょうか?

ひとつは2017年9月のARKitのリリースによって、一般ユーザーがAR体験をできる土壌が整ったことが一番大きな理由です。ふたつめは、ARグラス登場への期待です。今から10年以内には、一般に普及するであろうARグラスの登場が予想されています。ARグラスがこの世に出て来たときに、街でAR空間内で広告を見たり、友達とAR空間でインタラクトするときに、必ず必要になるのがARクラウドの技術です。

幸いにもARKitやARCoreといったモバイルARの登場によってARグラスの登場を待つことなくARを支えるエコシステムの構築が始まりました。ARクラウドもARを支えるエコシステムの1つであり技術的にはデバイスに左右されないサーバーサイドの技術です。ARグラスが出てからスタートしたのでは遅いとスタートアップが考え始め、来たるARグラス時代に備えて、スタートアップの競争がスタートしたのが2017年12月現在です。

ARクラウド関連のスタートアップは将来のGoogleやFacebookになる可能性を秘めていると投資家が考えているので、AR分野におけるシード投資はかなりの熱狂ぶりが伺えます。詳細は明かせませんが、シード投資にしては高めの時価総額が付き、資金も瞬時に集まる案件が少なからず存在しています。

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(12月5日に行われたARクラウド関連イベントの様子。撮影者の後ろにも多数人がおり、ARクラウドだけで150人ほどが集まった。サンフランシスコで開催された「Augmented Reality San Francisco Bay Area Meetup (ARBA) 」にて撮影。)


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