【独占体験レポ】Oculusの新型VRヘッドセット「Santa Cruz」スマホもPCも必要ない「一体型」の実力は?

10月6日に行われた、開発者会議Oculus Connect 3(OC3)の基調講演にて、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏は、スマホ装着型でもなく、PC接続型でもない、一体型のVRヘッドマウントディスプレイ(VRHMD)の開発を発表しました。

Santa Cruz

この新型VRヘッドマウントディスプレイのプロトタイプは、“Santa Cruz”と呼ばれています。発表直後から、アメリカの一部のメディアのみクローズドで体験が行われていました。Mogura VRでは、「体験しないで帰るわけにいかない!」と粘り強く交渉した結果、OC3最終日に奇跡的に体験取材を行うことができました。

日本のメディアではおそらく唯一取材ができたSanta Cruz。その体験はVRの来るべき未来を予見させるに十分なものでした。本記事ではその様子をレポートしていきます。

一体型VRHMD“Santa Cruz”とは

基調講演の中でザッカーバーグ氏は、新たなVRHMDについての発表を、現行のVRHMDが達成できていない点の指摘から始めました。

VRを体験するときに重要な役割を果たすのが、プレイヤーがどこにいるのかを認識する「位置のトラッキング」です。しかし、スマートフォンをHMDに装着するGear VRはこの機能が搭載されておらず、PCに接続するOculus Riftは外部センサーを使わないと位置をトラッキングできません。

ザッカーバーグ氏は、HMDを装着しながらユーザーが自由に動き回れることが理想だと述べ、ワイヤレスで外部センサーにも依存せず、VRHMDだけで位置のトラッキングを可能にする「Inside-out方式」を実現することが将来的には重要だ、としました。

Santa Cruz

そして、Inside-out方式を採用し、Gear VRとOculus Riftの中間に位置するモデルとして、一体型のVRHMDを開発していることを明らかにしたのです。そのプロトタイプが“Santa Cruz”と呼ばれるデバイスになります。

Oculusが公開したSanta Cruzの動画。

https://www.youtube.com/watch?v=LIUYDUlGJzM

なおSanta Cruzの体験は写真撮影禁止ということもあり、文章と動画から切り出した写真のみで説明していきます。

外見は改造型Oculus Rift

筆者が通された体験ルームは、3m×4m程度の小部屋、壁際にはソファが置かれていました。そのにいたOculusの開発チームが手にしていたのが“Santa Cruz”でした。

外見は基調講演で公開された動画の通り、Oculus Rift製品版をベースに作成された改造型Oculus Riftです。

Santa Cruz

フロント部分はカメラを埋め込むためのGear VRのカバーのようなプラスチック製のパーツにつけ替わり、後頭部にあたる部分にプロセッサとバッテリーが装着されています。

フロントにはほぼ4隅に小型の単眼カメラが搭載。Oculusの担当者によると「安い」普通のカメラとのこと。この4基のカメラでInside-out方式の位置のトラッキングを行っています。カメラ以外に特殊なセンサーなどは搭載していません。また、手のトラッキングなどは行われません。

後頭部に搭載されたバッテリーは10cm×5cm×2cmほどの小さなもの。駆動時間は教えてもらえませんでした。バッテリーは黒いビニールテープでぐるぐる巻きに止められており、プロセッサと冷却用のファンはほぼむき出しの状態で最初期のプロトタイプ感が満点の外見です。

プロセッサ部分にはUSBコネクタが2つついており、Bluetooth通信用コネクタがそのうちの1つに刺さっていました。Bluetoothキーボードを接続して、Oculusの担当者がデモの開始などを操作していた模様。改めて、このSanta CruzはPCとの無線接続などは行われておらず、全て独立して駆動するスタンドアローン型のVRHMDです。

装着感はやはり“重い”Oculus Rift

さっそく装着。外観はOculus Riftそのものなので、眼鏡の入り方や一体型のヘッドホン、鼻のあたりの隙間など、何ら変わりない装着感です。

しかし、最大の違いが「重さ」。バッテリーが付属するため、後頭部は非常に重くなっています。Oculus Rift製品版で装着感を極力軽くするために最適化されたという重心も崩れており、後頭部が重くなっただけで、フロントのディスプレイ部分も重く感じられ、全体的にずっしりとした装着感になっています。

Santa Cruz

ケーブルを気にしなくていいハイエンドなVR体験

ここからは体験内容のレポートに移ります。Santa Cruzを装着するとまず広がっているのはSF風の工場のような光景。中空に浮かぶわずかに広がる足場の上を歩き回ることができます。

デモがスタートすると、Oculus Rift製品版向けに配信されているアプリ『Oculus Dreamdeck』の中のミニチュアジオラマの中にいるような体験になります。

ポリゴンの粗いシンプルな造形の世界が自分の周りで動いています。近くにある家の中を覗き込んだり、花に近づいてみたり、VRの中を文字通り歩けます。

Santa Cruz

その体験はきわめて“自然”なものでした。自然すぎて「すごい技術が駆使されている」ことを思わず忘れてしまうほどに。VRの中を自由にスタスタと歩き回り、座ったり、何をしても視界が遅延したり、ブレることも、カクつくこともなく、そしてHMDから伸びるケーブルを気にすることもなく、自由にまさに現実同様に歩き回ることができました。

Santa Cruz

Santa Cruz

なお、安全面が気になるところですが、Santa Cruzを装着中に壁に近づくと自動的に青い柵状のグラフィックが現れます。HTC Viveのシャペロン境界と同様のグラフィックです。HTC Viveの場合は事前に設定した範囲に合わせて境界が出現するのに対し、Santa Cruzでは現実の壁を認識して柵が現れます。この機能により、現実の障害物を認識した、安全な体験が可能になります。

なお、ヘッドトラッキングに関しては、特に違和感を感じないものでした。米メディアUpload VRがOculusのCTOジョン・カーマック氏に取材を行ったところ「詳しくは分からないが、60fps程度ではないか」と発言しており、Gear VRと同等の60fps前後という説が濃厚です。60fpsはOculus RIftの90fpsには及ばないものの、気になる程度の残像はなくカクつきもない高品質なVRを実現する最低限のフレームレートとなります。

解像度はOculus Riftの筐体を使用しているため、Oculus Riftと同じ片目1080×1200のディスプレイです。Oculus Riftと同等のクオリティの視覚情報をワイヤレスで体験できる点は衝撃的でした。

使用してるプロセッサについての詳細は聴くことができませんでしたが、PCと比べると圧倒的に小型のプロセッサを使用しています。ヘッドトラッキングにはAsynchronous Timewarp(非同期タイムワープ)が、位置のトラッキングにはOC3でOculusが発表したAsynchronous Spacewarp(非同期スペースワープ)といったOculusの遅延低減技術が駆使されていることは間違いありません。

ハイエンドのVRをワイヤレスで体験できる衝撃

PCに接続するOculus RiftやHTC Vive、PS4に接続するPlayStation VRでのVR体験は、解像度もフレームレートも高いため非常に滑らかで、ハイエンドの名にふさわしい、非常に没入感の深い体験です。

しかし、いずれのデバイスも体験したときに誰もが感じることは「ケーブルが気になる」「設置とセッティングが必要」といったデメリット。今までのハイエンドVRヘッドセットでは、PCやゲーム機に接続することで動作するものばかりだったからです。

一体型のSanta Cruzは、ハイエンドであることの代償としてこれまで存在していたこのようなデメリットを一気に解決するものでした。ワイヤレスで、何かに接続する必要もなく、センサーの設置もいらず、ただVRHMDを装着するだけでハイエンドなVR体験が可能になります。

一体型VRHMDは、ハイエンドなVRをより手軽に身近にするデバイスと言えるでしょう。

来るべき未来と課題

Santa Cruzの体験はVRHMDの未来を予測する上で示唆深いものでした。外見や設計などまだ最初期のプロトタイプではありますが、Santa Cruzは現時点の技術ですでに「体験できるレベルで、現行世代のハイエンドなVRをワイヤレスで楽しめる」ことを証明しています。

バッテリーの駆動時間や、それに比例する重量、発熱、コントロール方法、またGPUの性能、障害物の認識限界など、今回の体験で分からなかった点・解決すべき課題も多くあります。

製品化に向けて1~2年はかかることが想定されますが、非常に近い将来、一体型のVRHMDが一般消費者が購入できる範囲で登場することは間違いありません。

2016年8月にはインテルとクァルコムがそれぞれ一体型のVRHMDのリファレンスモデルを発表しています。いずれも体験の機会はなかったようで、Santa Cruzとの比較はできません。

Santa Cruz

Santa Cruz

インテルの「Project Alloy」、クァルコムの「Snapdragon VR820」いずれも一体型のVRHMD

手軽にハイエンドなVRを体験できるようになる一体型のVRHMD。VRの普及をどの程度後押しするのか、今回のSanta Cruzの体験から、筆者はそのポテンシャルは非常に高いのではないかと考えています。

この記事を書いた人

  • KFtb1VIM

    慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、環境省に入省。環境白書の作成等に携わる。ECベンチャー勤務を経て、現Mogura VR編集長、株式会社Mogura代表取締役社長。
    現実を進化させることができるVRに無限の可能性を感じ、身も心も捧げている。これまでに体験したVRコンテンツは展示、配信合わせて500作品以上。現在ももちろんコンテンツを体験し続けており、VR業界の情報集約と提供、コンサルティングに強みがある。また、海外の主要なVRイベントでは必ず現地に足を運び、取材やネットワーク構築を行っている。2016年は6回渡米。

    Twitter:@tyranusii

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