「スマートフォンで体験するVRは、PCやPS4のハイエンドなVRよりも質が落ちる」
これまで歴然としていたハイエンドVRとスマホVRの差が技術により急激に縮まりつつあります。グーグルの新しいモバイルVR向けレンダリング技術「Seurat」のデモとして、ILMxLabによる『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のデモ映像が公開されました。
映画品質の素材をリアルタイムに描画
Seuratは、デスクトップにスペック的に劣るモバイルVR端末において、デスクトップに匹敵しうる品質のVR映像を実現する新しいレンダリング技術です。
Seuratに用いられている“サーフェスライトフィールド”は、オリジナルとなる高品質の3Dデータをもとに、プレイヤーの位置から見える範囲だけを再構成することで処理を低減する技術です。高品質の3Dデータはプレイヤーから見える範囲では外観を維持しつつ、モバイルVRハード上でシーンを描画できるほどまで大幅にポリゴン数が削除されます。
グーグルはこの新技術のデモとして、ILMxLabと協力してSeuratによる『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の映像を制作しました。
ILMxLabは、実際に映画用にレンダリングするには時間がかかるほどのCGIレンダリングをSeuratを通じて実行し、GoogleのモバイルVRハードウェアでリアルタイムに再生できるようにしたと言います。
ルームスケールを歩き回れる
米メディアRoad to VRのレポートでは、本デモを開発中の一体型Daydreamヘッドセットで体験したところ、「確かにモバイルVRハード上で期待される最高のグラフィックだった」と述べています。「ディティールの細かさ、床の鏡面反射など、PC向けVRと遜色ない品質だった」といいます。
Seuratは高品質なだけでなく、単純な360度映像とは違い、頭を動かしたときの位置トラッキングや視差の表示が可能です。
Googleのスタンドアローンヘッドセットはインサイドアウトトラッキングを備えているため、ルームスケールの範囲で自由に歩き回ることができます。
ライトフィールド技術による「動けるVR映像」は徐々に登場し始めていますが、どれも「動ける範囲が小さい」「レンダリングに時間がかかる」「ファイルサイズが大きくなる」といった問題があります。
一方Googleによれば、SeuratによるモバイルVR体験なら、一般的なモバイルアプリ程度のサイズで配信可能だともいいます。
品質とインタラクションを両立
ライトフィールドによって描画されるシーンが動的に変化する場合、各フレームのライトフィールドデータが必要になるため、膨大なファイルサイズの問題が付きまといます。一方、ゲームなどインタラクティブなコンテンツには動的なオブジェクトが欠かせません。
Seuratでは、Seuratレンダリングと通常のリアルタイムレンダリングを組み合わせることで、静的な要素と動的な要素を混ぜ合わせることができます。
床や壁といった静的な環境は高品質に、動的なオブジェクトやキャラクターは通常のモバイル品質ながらリアルタイムに描画することで、品質とインタラクションを両立しています。
またコンテンツが「レンダリングの品質」と「リアルタイム処理」のどちらを重視するかによって、開発者は簡単にその割合を調節できるといいます。
動きの少ないコンテンツであればSeuratレンダリングに、動的な処理の多いゲーム系コンテンツであればリアルタイム処理に処理能力を割り振ることで、それぞれ適した出力でコンテンツを動かすことができます。
ただしSeuratでは、どこにでも自由に行けるリアルタイム環境とは異なり、膨大なデータ容量を抑えるために動ける範囲を限定する必要があります。
ストーリーテリングに焦点を当てた作品、敵が迫るwave式シューティング、移動ポイントの限られたアドベンチャーゲームなど、動きの少ないゲームが候補に挙げられます。
Seuratの詳細はまだ不明な部分もありますが、モバイルVRの可能性を広げる技術であることは間違いないでしょう。
(参考)
Road to VR / Preview: ILM Uses ‘Star Wars’ Assets to Show Potential of Google’s ‘Seurat’ VR Rendering Technology(英語)
http://www.roadtovr.com/preview-google-seurat-ilm-xlab-mobile-vr-rendering/
Mogura VRはRoad to VRとパートナーシップを結んでいます。