開発者が語る リコー史上初の開発者版を試みる全天球カメラ「RICOH R」の狙い

2017年1月の年明け早々にラスベガスで開催されたCES2017でリコーは、全天球ライブストリーミングに特化したカメラの開発機『RICOH R Development Kit』を発表、展示しました。

(参考)

リコー、24時間連続でライブストリーミング可能な全天球カメラ『RICOH R Development Kit』を発表

リコーのメインブースではなく、会場内のVR/ARセクションに別途設けられた「RICOH R」専用ブースでは、24時間ライブストリーミングという特徴をデモするため、展示会中は、会場からの全天球ライブストリーミングをYouTubeを通して行っていました。

リコーが展開しているTHETAシリーズとは似て非なる「RICOH R」。まだ謎も多い新機種について、THETAの初期開発メンバーでもあったRICOH R開発チームの生方秀直氏に話を聴きました。

株式会社リコー 新規事業開発本部 SV事業開発センター n-PT リーダー 生方秀直氏

他にはないデザインを目指した

――RICOH Rのデザインは目を引きますね。

 

生方:
放熱効果を高めることと、デザイン性の両立を目指しました。僕の狙いとしては世の中に似たデザインがないものにしたかったです。斜めのラインはも世の中にはありません。初代THETAのデザイナーと組んで同じ布陣でやっています。アメリカの写真誌の女性編集長やTech系の人には「ビューティフル」とか「このままだしてよ」と言われていて、人によって評判が違います。

 

生方:
この凸凹はヒートシンクの機能があります。触るとほんのり暖かいのがわかると思います。長時間駆動した際に低温やけどしないように作るのは難しく、システムからデザインをしています。

――このスイッチは何でしょうか(側面の黒い部分を指しながら)

 

生方:
プログラマブルなので電源と録画機能のスタートストップ、モード切替等の機能を入れようかと考えています。プロトタイプなので説明もつけていません。今は、完全に試作機です。形は変わらないですが、内部的な作りこみはまだまだやっていきます。

「場の臨場感を共有する」というゴール

――生方さんはTHETAの“魔改造機”を使って、全天球のライブストリーミングに以前から取り組んでいらっしゃいました。ライブストリーミングにこだわる理由は何なのでしょうか?

 

生方:
2010年にTHETAを社内で提案し、2013年に製品をローンチしました。一番最初のコンセプトとしては「写場(写真ではなく場全体を撮る)」と言っていましてた。写すことが目的ではなく「場の雰囲気を誰かと共有することで新たな感動が産まれてくるのではないか」と考えていました。全天球はあくまで手段で、やりたかったのは当時から場の臨場感を共有することです。静止画もそうですが、やはりライブがやりたかったのです。

しかし、2010年当時は、技術的に未熟なことエコシステムとして整備されてなかったこと、という2つの要因でなかなか世の中に出すことができませんでした。2010年当時はVRはまだ流行っておらず、やりたかったけども技術的に難しい部分が多かったです。そして、基礎技術はありましたが、カメラだけ作っても伝送などの全体のエコシステムが整ってこないと全然ダメだと思っています。今はVRで観る環境もありますし、YouTubeが360度対応しています。機が熟したということで元々やりたかったことをパッケージングして世の中に出せる時期がきた、と思いローンチにこぎつけました。

――THETA Sでもライブストリーミングはできますが、実験的だったということでしょうか?

 

生方:
THETA Sではデュアルフィッシュアイズ(表裏に搭載された2つの魚眼レンズ)で撮影したままの映像が別々に出力されるのでPCでステッチ(貼り合わせ)しないとなりません。リアルタイムでやるのは大変なのであくまでも実験的なものでした。今回のRICOH Rはどなたでも使えるデベロップメントキット(DK)です。YouTubeにそのまま流せる簡便性と元々の狙いである用途開発としていじれるDKとしての要素の2つを両立させようとしています。

――そうなると一般の方も買えますか?

 

生方:
最終的な売り方は決めておらず、協議中です。リコーでDKというのを売るのは初めてのことですから(笑)基本的には開発者や研究者にご利用いただくことを考えています。しかし、PCがあればそのまま配信できるとなったら、ユーチューバーの方でも気軽に買えるようになればいいですよね。

「カメラだけを出してもうまくいかない」

――DKということは製品化が視野にあると思いますが、いつ頃になるのでしょうか?

 

生方:
製品化がいつになるか、はっきりとはわかりません。用途開発ですので、全天球ライブということでエンタメを強く意識してますが、それ以外にもロボットの目に使ってテレイグジスタンス(※遠くの場所にまるで自分がいるかのような体験)をするなど色々なニーズをうかがっています。さ

まざまな用途に対応できるようにしました。発売してから、色々な使われ方をすることになると考えています。THETAの時も「そんな風に使うんだ」というがありました。フィードバックを得てみると、最終的には個人のエンタメより、BtoBに向けた製品を望まれるかもしれませんし、全くの未知数です。かなりお時間をいただくことになると思います。一方で、今のエコシステムの整備とかコンテンツの使いこなしといった面でも、まだ時間がかかると思ってます。カメラだけを世の中に出してもうまくいかないと考えています。

――2Kという画質は他社の4Kという画質に比べてあえて低く抑えてるように見えますね。

 

生方:
使いやすい解像度を優先しました。YouTubeも対応する解像度は上がってくると思いますが、全天球はライブでみると4Kであってもエコシステム面でも対応できるユーザーも非常に少ない状況です。臨場感の共有のためにもヘッドセットの普及に期待していますが、まだまだこれからです。もちろん高解像度がいいことはわかっていますが、一番使いやすくて全天球ライブの楽しさやポテンシャルを理解いただける適正な解像度で出したいと思っています。ハイスペックにすると値段が上がってしまいますしね。

スマホとカメラだけでも全天球配信できるようになるのか?

――実際にライブするときに必要なのはミニHDMIケーブルとPCになるのでしょうか。

 

生方:
USBとHDMIで出力できます。HDMIは用途開発向けです。ビデオのプロダクション・ワークフローに乗せられるようにしてHDMI出力にしました。PCを使う方でHDMI入力を持っている人は相当マニアックな人なので、一般の方はHDMIではなくUSBを使うと思います。

その場合はPCにUSBでつなげばいわゆるUVC(USBビデオクラス)で映像を流します。(CESでは)HDMIを使っていますが、USBでの出力は現在、調整中です。基本的にはUSBでPCに挿したらChromeを使ってカメラ選択し、そのままYouTubeで流せるような使い方ができます。本体とPCとUSBがあればライブストリーミングができます。CESでやっているのは、HDMIで出したものをCerevoの「LiveShell X」という配信サーバーに入れて、配信サーバーからLANでYouTubeにあげている構成です。PCを使わないので、皆さん驚かれていますが、何にもなく上げています。

――昨年、肩にTHETA Sをつけて全天球ライブストリーミングをしたら好評でしたが、PCがないとできなかった点がネックでした。今回はPCレスということですが、やはり配信サーバーは必要になるのでしょうか。

 

生方:
AndroidスマホでRICOH Rの映像をUVCで取り込める機種があります。ただし、今はYouTubeの仕様でカメラからの即出しはできないという事情もあります。このあたりが解決されると、スマホ用アプリでYouTubeに配信もできるようになります。USBでスマホとカメラで直結して4Gで流す、そうすれば本当に素晴らしい世界がやってくると思います。

そこまでいかなくても、LiveShell Xをテザリングで使い、スマホに通してスマホのUSBテザリングであげてやるということはできかもしれません。

――スマホと接続して直接ライブストリーミングできるようになるまであと一歩というところですね。

ウリは、簡単に全天球ライブストリーミングができること

――全天球でライブストリーミングというのは1つのトレンドになっていくと思うのですが、RICOH Rの強みはなんでしょうか。やはり長時間駆動でしょうか。

 

生方:
そういう前に他がまずライブストリーミング自体できていない状況があります、全天球をライブストリーミングするのは非常に難しい技術です。カメラサイドでエクイレクタンギュラー(Equirectangular)のフォーマットの出力がちゃんとできるのかという点。そして、ちゃんとできるとしてUSB経由で何かにつなぐことも実は技術的に難しいです。

僕らのRICOH Rはしっかりと動いています。技術的な細かいところもわかっています。そして用途開発のために連続稼働を目指した点です。ここはまだ並ぶ機種がないと思います。もう1点は、RIOCH Rだけでライブストリーミングができる点です。PCにさらに外付けボックスを使うカメラシステムもありますよね。

――ありますね。

 

生方:
システムとしてはアップロードする仕組みがあれば良いので、コンパクト性や簡便さ、ハンドリング性は他機種と比べてもまったく別次元だと思っています。さらにHDMI出力でビデオ系プロダクションとの親和性も考えていますので幅広い使い方ができる点が特徴です。2016年の年末にTwitterがInsta360 Nanoでライブストリーミングをやっていましたが、それくらいならコンシューマー向けの360度カメラでもできるようになると思います。

(参考)

Twitter、360度ライブ配信に対応 体験の共有へ

――そこから先がなかなか難しいと。

 

生方:
そうですね、監視カメラに使うとか遠隔操作に使うとなればコンシューマーカメラとは異なるレベルが求められます。DKにしたので、そういったスペックはスペック表に現れません。使い勝手の工夫に関してはこれまで80時間以上の全天球配信実験をやってきているので、豊富な知見というアドバンテージがあると思っています。

―今まで何回位実験をやってきたのでしょうか。

 

生方:
7、8回で合計80時間以上です。我々には番組制作のノウハウはないので他社、たとえばドワンゴさんとかDeNAとかテレビ局と組んでやってきました。YouTubeにだしているものはアーカイブになっていますので、後からも見ることができます。

https://www.youtube.com/watch?v=TP8eF07VOIQ

―そんな実験を経て、こだわられた工夫はたくさんあるのではないでしょうか。

 

生方:
連続運用の際、温度の問題が大きく、高い負荷がかかるので処理が難しいですが、そのコントロールをきちっとやっていることです。本体が熱くなると周りの機能にも悪影響を及ぼします。

それから、USBでもHDMIでも出力できるようにしたこと。端子を横出しにした理由は、三脚を使うことを考えるといわゆるTHETA棒がなくともダイレクトにこのままどんなものにも固定できる。当たり前と思われますが実際に横出しにしているところは少ないです

ミニHDMI、マイクロUSB端子は側面についている

―横出しは技術的に難しいですか?

 

生方:
いえそんなことはありません。そういう設計を最初からしたというだけです。

―皆さん揃えていて、端子が同じ方向からでていることが不思議ですね、

 

生方:
DKとうたっていることの拡張性です。カメラコントロールAPIを公開して今カメラコントロールのツールを作っています。世の中に提供してオープンソース化しますので色々な人が色々な形でカメラを外からコントロールをし、何かを作れるようにしますし、僕らも皆さんが作るものに期待しています。

THETAと全天球ライブは異なる

―開発体制について。リコーさんの社内ではTHETAチームはセクションがかなり固まってきたと聴いていますが、今度は新たにRICOH Rということで新たにチームを結成されたのでしょうか。

 

生方:
現在、THETAはカメラ事業部と一体化になっています。THETAはTHETAで一つの統合カメラとしての完成形を提示できたと思っていますし、フォロワーも多く生まれたと思っています。THETAと全天球ライブの世界は、基盤技術は同じでも違った展開が必要だと思っていてそのためにプロジェクトチーム化して分けています。プロジェクトチームとして別動隊にして特化してやっています。

―ブースも今回リコーさんの本体ブースとは別でしたね。チームは何名いらっしゃるんですか?

 

生方:
チームは7人。エンジニアに、量産になっていくと何十人となりますので社内の色々な人の力を借りながら引っ張ているのが我々のチームです。

―今後はDKをだして色々な人に使ってもらっていじってもらう。そこにまかせるというか一緒にやっていくスタイルですね。

 

生方:
DKとしては使いやすい素材を作れたと思ってます。これをどのように料理してくれるのか、期待していますし、僕ら自身もいろいろな方々と一緒に取り組んでみるつもりです。フィードバックをどんどん集めたいですね。

―ありがとうございました

ROCOH Rブースの皆さん

この記事を書いた人

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