【体験レポ】実験的VRホラー『眠れぬ魂』360度映像と2D映像の融合作に迫る

VRでのホラー体験は、お化け屋敷やホラー映画など通常のホラーと比較しても格段の恐怖を味わえる没入感が魅力です。これまでにも、『バイオハザード7』などのVRゲームや、テーマパークで楽しめるホラーアトラクション『VR生き人形の間』など様々な作品が作られてきました。

今回も、4月上旬に発売予定のPlayStation VR専用ソフト『眠れぬ』(株式会社wise)を紹介します。一足早く体験をしてきました。

https://www.youtube.com/watch?v=iDy89pyB_-M

『眠れぬ魂』では、娘を失った父親の元に、雨の夜、少女の霊が現れ、森へ誘います。そこ父親で見たものとは……というあらすじの物語。物語自体に謎が隠されています。

突然机の上に現れ迫ってくる白い手、目の前にいきなり現れる幽霊、割れる鏡などおどろおどろしい演出がありますが、根底に流れているテーマは親子愛。ホラー好きにはやや物足りない怖さでしたが、見終わったあとは少し切なくなる作品です。

実写で分岐があるストーリー

『眠れぬ魂』は15分ほどの短編映像作品で、360度映像と通常の映画のような2D映像を組み合わせています。ゲームのように分岐が存在し、エンディングは2種類あります。両方のエンディングを見ることでストーリーが完結します。

体験中に画面のどこを見るかで、何か動きがあったり、回想が始まるなどストーリーが展開されます。

360度映像ではありがちなのが、あらぬ方向を見ていて自分の視界の外にいつの間にか幽霊がでていたということや、重要なシーンを見逃してしまうこと。この作品ではそういう事態はありえません。誰でもどのタイミングであっても、突然目の前に幽霊が現れます。

没入感を損なわない徹底した雰囲気づくり

『眠れぬ魂』では、体験中に「こちらを見る」、「矢印」、「はい」と「いいえ」など体験者を誘導するための「アイコン」が出現しません。これは、余計な人工物を表示させずに映像に没入させるための工夫だと考えられます。アイコンがあると体験としてはわかりやすく、迷うことがなくりますが、雰囲気が重要なホラーの場合は没入感をそいでしまいます。

本作では、どこを見れば次に行けるか迷う面はありますが、全編通して映画の中にいるような感覚が続きます。

1人称と3人称、2つの視点を組み合わせた実験作

この作品は、360度映像ともゲームでもないインタラクションのある新たな映像表現という意味で「インタラクティブシネマ」と銘打れた作品の第一弾です。開発元である株式会社wise代表取締役/ディレクターの尾小山良哉氏によれば「映像の中に入って体験しているかのように感じるVRでストーリーを体験するということは、ゲームや映像とは全く違うのではないだろうか?」ということを試した、実験的な作品とのことです。

本作が360度映像のみで構成されていないことにも理由があります。「1人称視点の映像の場合、主人公とは誰だろうか?」「ストーリーに入り込みたい場合、観客はそもそも主人公になりたいのだろうか?」ということを踏まえ、主人公1人称視点の360度映像と、3人称視点の2D映像の2つの視点で構成されています。

苦労した点

『眠れぬ魂』の原作・脚本・監督を務めた尾小山良哉氏にお聞きしました。

『眠れぬ魂』同様、実写360度映像で分岐がある作品では、昨年のフジテレビ「お台場みんなの夢大陸」で展示されていたPSVR対応の実写360度映像、『月9「好きな人がいること」オリジナルミニドラマ』があります。実写でありながら分岐があることは珍しく、選択するシーンでは画面が止まり「はい」「いいえ」などアイコンが表示されました。選択肢があることで自分がストーリーに関われる楽しさがある反面、選択肢アイコンが浮かぶことや、画面が止まることでストーリーへの没入度は損なわれやすくなります。

一方、分岐のある『眠れぬ魂』ではアイコンはでません、アイコンがないことでストーリーが切れることなく、没入感が損なわれません。ただし映像の切替が速いと気づかないか慌ただしく感じ、長いと切り替わる前に他に目線を移動してしまうなど、どの程度体験者が見つめればいいか試行錯誤したとのこと。

また、360度映像に加えて2Dの通常の映像を同時に再生するなど、動画の仕様もまちまちで重ねて再生することも通常ないためシステム設計から大変だったとのことです。

作品に込めた想い


左から制作者の、神田健斗氏、宮城惟織氏、尾小山良哉氏、山口和也氏、安優輔氏。

本作を全編360度にしなかった訳

尾小山氏は、「体験型のストーリー」をどうやって作るかを考えた場合、映像作品を作ってきた経験から、「360度の撮影という技術面で考えるのではなく、映画の話法で考えた方が楽だ」と考えたとのことです。通常の映画では不可能なインタラクティブな要素を足していくと考えた結果、360度の映像に通常の2D映像を組み合わせたものになりました。

なお、ハイエンドなフルCGではなく、撮影にこだわったのは、フルCGで作った場合はゲーム分野の人の方が強いことと、予算を抑える意味があったとのこと。

体験型ストーリーの課題

尾小山氏は、今回の取り組みが「体験型ストーリー」の正解とは考えておらず、次回作で通常の2D映像と360度映像を組み合わせるかはわからないようです。

また「通常の映像と比較して、VR作品で必要なことは、体験者が映像に干渉することだが、必ずしも主体的に干渉する必要性はないとも語りました。

例えば、雪が降っている中、落ちてきた雪が自分に当たって横にずれるということ。これは雪がずれることで体験者自身がそこにいる感覚はしても、ストーリーの軸として、雪が当たる現象は関係ありません。このように、没入感のある演出と没入感のあるストーリーは分けて考える必要があるとのこと

加えて尾小山氏は、「現在のVRコンテンツはキャラクターの目線がこうだったら、こういうことが起きれば没入感が強まるなどといった動きを中心に作られているように感じるが、誰が誰になって何をするか?を含め、ストーリーの構造自体をVR用に設計することが必要なのでは」と述べていました

VR内での体験者の役割

VR内では「体験者は、この世界では何者なのか?」という役割が重要です。体験者が空気として存在する場合は強烈な疎外感を感じます。ストーリーの中の登場人物になっていても、「誰なのか?何をすればいいのか?」といったことがわからない場合は困惑し、没入できません。

VR内で誰になるか、という点について尾小山氏は「例えば、もしホームズを題材にするなら、体験者がホームズになるよりは、ワトスンにする。ワトスンならホームズのそばにいてストーリーに関わり、他のキャラクターからも認識される存在だから」と述べ、本作の制作を通して、体験者がストーリーの主役になることは難しく感じたとのことです。

没入できるVRコンテンツの課題

VRコンテンツで没入感を感じるには、自分が世界に干渉できるインタラクティブな要素が必要になってきます。しかしVR以外の映像作品、舞台作品などで自分自身が関われなくとも没入することがあります。

尾小山氏はこういった没入感について、下記のように語っていました。
「映画などの通常の映像作品、舞台などの空間を使った作品が長く楽しまれていることには、自分が体験してないにも関わらず、登場人物同様に興奮したり、悲しんだりできる程、ストーリーに没入するからではないか。

VRは体験であると言われ、驚きを提供するVRコンテンツが多いが、驚きは長くは続かない。インタラクティブな要素は必要だが、VRコンテンツが今より広がり、長く受け入れられるためには、それだけでは十分ではない段階にきているように思う」

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今回紹介した『眠れぬ魂』は、一見、普通の360度映像に見えますが、インタラクションがあり一部2Dの映像を混ぜるなど、「VRにおける没入できるストーリーとは?」という現在世界中で取り組まれているテーマに挑戦した意欲作です。

キャスト

上野なつひ
さひがしジュンペイ
高野麗
原作・脚本・監督 尾小山良哉

ソフト情報

タイトル眠れぬ魂
ジャンルVR映画
サブジャンルJホラー
上映時間約15分
開発元株式会社wise
発売日2017年4月上旬
対応プラットフォームPlayStation VR
希望小売価格1000円
プレイ人数1人
CEROB

この記事を書いた人

  • アニメや特撮、VR・ARが好きなだけな人です。Oculus等HMD、VR・ARの魅力を沢山の人に広めていければと思っています。

    Twitter:@kure_kure_zo

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