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テック 2017.05.17

火星の生活?VRで火星向けデザインに取り組む建築家たち

バーチャル基地 Mars City [提供: KieranTimberlake]

本記事は「Redshift 日本版」とのライセンス契約を結んだ転載記事であり、キム・オコネル氏の執筆した原稿を翻訳したものを、オートデスク株式会社の許諾を得てMogura VRに転載しています。

幸運な建築事務所であれば、ひとつのプロジェクトで歴史的建造物の保存とエネルギー効率の両方を優先させられる、一石二鳥の解決法を実現できるだろう。だがフィラデルフィアを拠点とする KieranTimberlake のチームの場合は、無償で行うプロジェクト Mars City Facility Ops Challenge で、実に 4 つもの野心的な目標の達成を目指している。

建築家のファティマ・オリヴィエリ氏、エフリー・フリードランダー氏、ローランド・ロペス氏は、米国国立建築科学研究所(NIBS/National Institute of Building Sciences)、NASA、トータル ラーニング研究所(TLRI/Total Learning Research Institute) と提携して、バーチャルに機能する火星上の都市を建設しようとしている。これは、複数の恩恵をもたらすかもしれない。

ケリー・ジョエルズ氏(TLRI 所長、元 NASA 物理学者) と KieranTimberlake の第 1 の目標は、今後の STEM 労働者(科学、技術、工学、数学分野の訓練を受けた労働者) の、特に建築とファシリティ マネジメントにおける技能不足を埋めることだ。2 つめは、このプロジェクトを、KieranTimberlake 内で行う VR 作成の検証に使用すること。第 3 の目標は、ジョエルズ氏と建築家たちが、地球上のスペースキャンプのような Mars City 構築の資金調達を実現することで、4 つめの目標は、深遠な研究とデザインの努力が、将来的に実際の火星基地計画に影響を与えることになっている。

バーチャル基地 Mars City のパブリック スペース [提供: KieranTimberlake]

地球から 平均 2 億 2,500 万 km の距離にある火星は、遠く離れた惑星ではあるが、数十年にわたって植民地化の可能性が議論されてきた。その環境は人間が居住不可能な厳しいものだが、岩石の多い地形は親しみを感じさせ、また水の存在が判明したことで植民地化の可能性は維持されている。イーロン・マスク氏も、次世紀中の火星植民を予見している。

Mars City プロジェクトは、火星に関する STEM 学習プログラムを作成すべく、NASA の助成を受けて2000年代にスタートした。その助成をもとに TLRI が立ち上げた「Mars Facility Ops Challenge」プロジェクトはダッシュボードをベースとするシステムで、学生グループはこのシステム内で、火星上の建物における力学的な問題に共同で取り組む。

このプロジェクトに参加した KieranTimberlake は、そのシステムを、光と自然環境、機械系、居住空間などを含み、完全にリアライズした BIM モデル(Autodesk Revit を使用) へとアップグレード。その後、地球とは異なる惑星の厳しい生活環境における、建物への考慮を加えている。

「火星基地では、必要な電力と食糧を自給する必要があります」と、オリヴィエリ氏。「その空間と、そこで人間がどう生活するのかに関する考慮が必要です。例えば、毎日一度か二度は外に出てPV(ソーラー発電) パネルに積もる埃を払えるようにしておかないと、十分な電力が得られません」。

建築家ローランド・ロペス氏がワシントン D.C. の USA Science & Engineering Festival で学生に Mars City を案内している様子 [提供: KieranTimberlake]

100名が自活可能な居住環境を生み出すため、建築家たちはジョエルズ氏と連携し、火星で最もうまく機能する材料や技術、さらには球状の建物の外形についてまで、ひとつひとつ検討していった。「ケリー (ジョエルズ氏) は、私たちが間違っている点を明確に指摘しました」と、フリードランダー氏。「この形状は適切ではない、気圧の維持を考慮すると角張っていては駄目だと指摘され、角を排除した形に再設計しました」。

宇宙空間での生活として想像するのは、ほとんど外部環境とのつながりがなく、取手やチューブが張り巡らされている廊下や、居住や娯楽ではなく仕事向けに作られた国際宇宙ステーション (ISS) のような窮屈な空間だが、建築家たちは、それを超越するような基地を提案しようと努めた。Mars City では公共とプライベートの空間バランスが重視され、地球上で学んだ人間同士の交わりに関する建築学的な教訓が生かされている。

「(NASA の助成を受ける前に作られた) 当初のデザインは、用途が定義された空間の少ない、閉ざされた空間を提案していました。その球体内に長く暮らすであろう人々が、精神的に落ち込むことのないような場所を作りたかったのです」と、ロペス氏。「廊下にバリエーションを取り入れ、自分の現在地を確認できる場所に開口部を持たせ、景観設計とつながりを持てるようにしました」。

このプロジェクトで重要だったのは、Gilbane Building Company、Travis Alderson Associates の MEP(機械、電気、配管)エンジニアたちのコラボレーションと、NIBS、International Facilities Management Association からのフィードバックだった。KieranTimberlake は彼らの助力により、地球上でのシステム運用に基づいてシステム要件にデータを盛り込み、それをバーチャルの世界に移植することができた。

Vimeo にポストされた KieranTimberlake の Mars City シミュレーション

Mars City は現在、教育ゲームとして 1,200名を越える中・高校生が試用している(直近では 2017年の NIBS カンファレンスで実演された)。VR ヘッドセットを使用することで空間を歩き回り、異なる管理シナリオに対応して、そのソリューションをテストできる。

デザイン チーム、学生のどちらにとっても、火星で起こり得るシステム機能の不具合を確認できるのが、とても貴重な機会だ。「地球上の建物では、ドアが壊れたとしても、それは大した問題ではありません」と、オリヴィエリ氏。「でも火星での加圧された環境でドアが壊れた場合、コミュニティにとって致命的な問題となるかもしれません」。

その正確なイメージを VR 体験で得るため、チームは、 Autodesk Revit Live3ds MaxStingray を組み合わせて使用。それによって地形の色や宇宙服の細部など、バーチャルな世界のさまざまな部分を微調整できた。材料の見極めには、材料科学の発展の理解と、今後数十年でテクノロジーがどう進化するのかを予測する能力が要求された。

バーチャル基地 Mars City のレイアウト [提供: KieranTimberlake]

「Mars City がいま構築されるなら、透明な材料を使うのは不可能でしょう。放射線を防ぐのに十分な層が得られないからです」と、フリードランダー氏。「もしこの基地が20年後に建設されるなら、その際に使用できる、透明な材料は登場しているのでしょうか?こうしたことを、少し現実的に考慮に入れながら、20年後に何が使用できるようになるのかを予測しようと努めました」。

子供たちへファシリティ マネジメントに興味を持たせるという、Mars City の目標は重要だ。この分野の重要性はますます高まっている。「世代的に、建物がより複雑になるにつれ、業務用不動産の管理はさらに難しくなっていくでしょう」と、オリヴィエリ氏。「その役割を引き受けたいと考え、現代の建造物が有する、そして未来の建造物が有するようになるであろう洗練されたテクノロジーの知識を持つ人々が必要になります」。

Mars City の次段階は、バーチャルな空間を補完する、地球上での物理的な学習の場であることが期待される。人間が実際に火星での居住と建設をスタートさせる日までは、Mars City がその目的を果たすことになるのだ。


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