ビッグデータと VR で実現する、建築デザインの大幅な向上

本記事は「Redshift 日本版」とのライセンス契約を結んだ転載記事であり、フィル・バーンスタイン氏の執筆した原稿を翻訳したものを、オートデスク株式会社の許諾を得てMogura VRに転載しています。

建築家によるビルのデザイン方法が、ビッグデータによって変わり始めている。今後ビッグデータと VR が融合することで、建築の実践も飛躍的に進展することになるだろう。

Redshift

建築家は、VR を統合する以前から、センサーやクラウドソーシングのデータを活用することで建築を大幅に進歩させてきた。ハーバード大学のジョン・F・ケネディ・スクールは数年前、学生や学部からキャンパスに関する意見を集めてマスタープラン作成を行うという試みをササキ・アソシエイツに依頼した。ササキ チームが取り組んだ最初の問題は「学生たちは、どのような経路で建物内に入るのか」というものだった。

こうした場合、例えば私が働いていた事務所 (Pelli Clarke Pelli Architects) が過去に行っていたのは、大学生を数名雇って数取器を持たせ、人がビルに足を踏み入れるたびにカチカチと人数をカウントさせることだ。ササキ チームは、ビルに出入りする学生の動きを追跡するため、独自の MyCampus プログラムを使用。またケネディ・スクールの学生たちに、ハーバード大学キャンパスのそのエリアでの経路を図に描くよう依頼した。これは、その経路が「どこからスタートし、どこで終わっているのか」を知るためだ。

その結果、学生たちの主要な出入口として機能しているのが、正面玄関ではないことが判明した。ササキ チームには意外なことだったが、学生たちは皆、貨物積降センターを横断していたのだ。

これは陸軍基地の建設の際に、設計と建設のチームが使用していた手法を思い起こさせる。全ての構造物を建設した後、まずは 3 – 4 週間ほど時間を置いて、皆がどこを歩いているのかを確認するのだ。そして、芝生が踏みつけられ、すり切れているところを舗装して道にする。賢明なプランニングだが、現在のササキの手法に比べれば粗野なものだ。また、これから紹介する手法に比べると、その素朴さが特に際立つ。

データ抽出によるバーチャルな学生たち

建築家が取り入れるべきデータは大量に存在している。あまりに多くて、どう取り組むべきか見当を付けるのも難しいほどだ。情報理論の研究によると、人間の脳には 1 秒間に 1,100 万ビットの情報が押し寄せているが、脳が一度に処理できるのは約 50 ビットに過ぎない。だが、1 枚の写真が千の言葉に相当するのと同様、1 度の VR 体験は数千ものデータ ポイントに匹敵する。イマーシブなバーチャル体験へデータを注入することにより、デザイナーは、それをより効果的かつ効率的に扱えるようになる。

今後は、行動モデリングを目にする機会が増えるだろう。これは複雑なシステム シミュレーションでなく、それぞれが個性を持ち、個々の特性に従って相互作用するアバター (バーチャルな人間) を使用するものだ。未来のキャンパスのマスター プランを作成する際に、建築家は授業スケジュールやキャンパス内の約 40 棟の関連建造物の図、各学生を描写するアバターを使用できる。マスター プランの提案は、昼夜を問わず、人々が何をするのかのシミュレーションを実行することで検証可能となる。

行動モデリングが実現する機会は膨大だ。かつて手掛けたプロジェクトに、ウェイクフォレスト大学のため、ロースクールとビジネススクールが共有する建物をデザインする仕事があった。教室数や学部オフィス、学生アクティビティ用オフィス、図書館など、両学部に共通するニーズは多かった。だが、重複するものも多い両学部のニーズ全てを個別に取り上げ、ひとつにまとめようとすると、必要以上に大きな建物になってしまう。

1 枚の写真が千の言葉に相当するのと同様、1 度の VR 体験は数千ものデータ ポイントに匹敵する。

建物の出入口に関する要件を消防署長に相談した際、我々は全員が建物内の全空間に同時に存在することはあり得ないと主張した。ひとりの学生が教室と図書館、中庭、学食へ同時に存在することは不可能だし、ひとりの教職員がカフェテリアとカフェ、オフィス、教室へ同時に存在することもない。最終的には、出入口へつながる階段からトイレなどの設備まで、その必要性は往来予測に従って計算可能であると説得し、結果として建物はより効率的なものになった。

こうしたデータに基づく決断は、今後はずっと簡単になるだろう。建築家が消防署長に対し、主張の正しさを証拠とともに論理的に証明したいなら、バーチャルモデル内でシミュレーションを実行して見せればいい。「ミッドウェスタン州立大学キャンパスの学生」のアバターを購入し、それをシミュレーションエンジンに投入することで、アバターの 1 日の行動を観察できるようになるだろう。

そして「英文学部の新校舎が必要だ」と大学側が言ったら、建築家は英文学専攻の学生数に応じた検証をスタートさせ、実際の授業スケジュールに基づいて、学生の前の授業がキャンパス内のどの教室で行われているのかなどを調べる、というように作業を続けられる。これこそが、経験と直感からビッグ データに基づいた実際の遂行分析への大きな転換だ。

ここイェール大学でも、間もなく同じことを行うことになりそうだ。来年度から学部生数が 15 % 増になるが、キャンパス内に教室が増設される予定はないからだ。

ICUで「I See You」

病院の集中治療室 (ICU) のデザインも、VR とビッグ データのパワーが融合する例になるかもしれない。優れた医療機器メーカーであれば、こうした設備を多数デザインしてきているだろうし、そのデザインも年を重ねるごとに継続的に向上しているはずだ。この種の仕事をしていた 20 年前、最初に行うのはクライアントと膝を交えて「必要なベッド数は?建物全体、フロアの間取りは?」と質問することだった。その後、病院のスタッフと一緒に平面図を確認し、全員がこれならうまくいくと思えるプランができるまで反復を繰り返す。だがその後も細部や微調整すべき点など、無数の決定事項が残されている。

これを 2022 年には実現するであろう、VR を使用した ICU プランニング体験と対比してみよう。建築家は、それ以外の 25 室や 30 室もの ICU から利用データを収集して、往来のパターンを把握できる。また、病院内での用具の流れのデジタル モデルを取得し、ICU の3D モデルを構築できるようになる。ICU スタッフは、見取り図を見たところで正確な理解はできないが、視覚化された環境内を (VR ヘッドセットと Autodesk Live などを使用して) ウォークスルーで体験可能。実際に空間を見て、使用できるのだ。

スタッフは、照明を動かしたり、扉を開いたり、装置のダイヤルを回したりすることができる。また、高解像度の 3D レンダリング画像を用いてリアルなゲームのように提示したり、データを用いて環境を描写し、そこで行われていることをリアルにクライアントへ見せたりすることも可能だ。クライアントは、提案された空間における騒音や室温、空気の流れ、そして最も重要な、ここで最良のケアを提供するにはどうすればよいのかを即座に知ることができる。

今後は、同様の空間で起こり得ることと、それを建築家がシミュレートする手段という両方の観点において、はるかに優れたデータを利用できるようになる。その結果として、未来のビルの、より優れたデザイン決定を行えるようになるだろう。

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