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業界動向 2017.03.10

『狼と香辛料』の支倉凍砂氏が語った「VRアニメーション制作で得た知見」

3月9日に行われた「Mogura VRコンテスト 発表会」ではゲストスピーカーとして人気ライトノベル作品『狼と香辛料』の原作者である支倉凍砂氏が登壇しました。支倉凍砂氏が主宰する同人ゲームサークル「SpicyTails」はVRアニメーション作品『Project LUX』を開発中です。支倉凍砂氏からは、VRアニメーションを制作することで得た知見などについて語っていただきました。

支倉凍砂氏はなぜVRアニメーションを制作しようと思ったのでしょうか。支倉凍砂氏はプログラマでも3Dモデラーでもなく作家です。「物語の創作者としてVRに強い魅力を感じた」と語りました。その魅力とは、VRが二次元の世界に入ることができる装置でありキャラクターが近くにいるとドキドキしてしまう感覚を得られる、というもの。VRが持つこの魅力を活かしたいと思い、VRアニメーション作品の制作をしようと考えたと述べました。

物語を嘘っぽくしないための工夫

『Project LUX』の制作では、モーションキャプチャーを使って、キャラクターの動き全てを人間の演技を元にしたとのこと。面白い発見として「ミスした演技をそのまま取り入れるとキャラクターに人間くささが加わり、体験者からの評判も良かった」と語りました。

またキャラクターには一般的なゲームではよく見られる“待機モーション”(ゲーム中のキャラクターが決められたパターンの動作をすること)は一切使わなかったことを明かしました。“待機モーション”を目の当たりにすると「すごく嘘くさくなる」と感じたことを話し、キャラクターがそこにいるという認識を生み出すために苦心されたことを窺わせていました。他に物語が「嘘っぽくならないために」するためにはBGMは必要ないということにも言及されました。

『Project LUX』は1人称視点で物語が進むコンテンツですが、VRでは操作中に主人公の体から幽体離脱するような俯瞰した視点になる事態が発生してしまうため、その際に主人公の顔のモデルを作るかどうかも悩んだ問題だったとのこと。俯瞰した時に主人公の顔がないと没入感が削がれるのではと考えていたとのことです。しかし、体験したユーザーにヒアリングしてみると「首なしのモデルがそこにあっても意外と没入感は削がれなかった」という結果が出たことで、「賭けではあった」が顔のモデリングは無いものにしたと語りました。

さらに支倉凍砂氏はVRならではの問題として下記の3つを挙げました。

遠近感・距離感

VRでは現実よりも遠くに感じてしまうと指摘。現実よりも近い距離に調整しないと、少しでも遠くにいるキャラクターは表情が見えなかったりしてしまうことを挙げました。

ライティング

支倉凍砂氏はVR空間内の光をコントロールするライティングについては「好みの違いも影響してくるだろう」と話した上で、ヘッドセットで体験すると眩しく感じてしまう問題を挙げました。しかし、光量を抑えてしまうと「もの凄い勢いで色が暗くなる」とし、例えば白い衣装は少し光量を落とすと灰色になってしまい「白い服は絶対に辞めた方が良い。本当に難しい」と述べました。

音声

立体音響で適切に感じられる距離感を出すのは難しいとのこと。現実をそのまま機械的に再現すると強い違和感を感じてしまうことを挙げました。

現実で行われる演劇を見るのに近い体験

支倉凍砂氏は「Mogura VRコンテスト」に集まったクリエイターにVRのアニメーション作品、そして萌え系の作品を作って欲しいと呼びかけました。そして「『Project LUX』もアニメーションっぽく作ろうと思ったのですけれども、体験してみるとアニメーションというよりも演劇っぽいものになりました。そうなったのはカット割りなどの問題ではなく、(物語が)現実で行なわれている何かと感じられるからなのではないかと思っている」と物語とVRの関係性についても語られました。

これまでに体験に焦点を当てたVRコンテンツは多く見受けられますが、物語に焦点を当てたVRコンテンツが出てくることも、VRの普及や盛り上がりには重要になるのはないでしょうか。『Project LUX』は日本語の他に英語と中国語にも対応予定で、日本発のVRアニメーションとして世界的に人気を得られるのか、期待したいところです。


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