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テック 2016.07.24

Oculus直伝「VRで没入感を損なわないシーンデザイン」

Oculusの社内スタジオであるOculus Story Studioは、今まで直面してきた最大の課題の1つとして「シームレスな位置トラッキングの実現」を挙げ、自社ブログにて問題点とその解決方法を語っています。

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トラッキングエリアにおけるユーザーのトラッキング

Oculus Riftでは赤外線カメラの追跡可能範囲内(以下、トラッキングエリア)において、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)に実装されたLEDを認識することで現実の動きをVR内のキャラクターなどの視点とリンクし、深い没入感を生み出します。このシステムでは、プレイヤーの位置はカメラに対し相対的な位置データとして認識されます。

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トラッキングエリアを表す図

この時、トラッキングエリアと現実の領域(部屋の広さ)は必ずしも一致している必要はありません。もちろんトラッキングエリアより広い部屋を用いることが理想的ですが、実際は壁やソファなど現実の物が現実の領域を決定するため、トラッキングエリアより狭い空間での体験になることがほとんどでしょう。

トラッキングエリアと現実における領域との”ズレ”

そしてVR体験を開始する際、プレイヤーは開発者が決めたVR内の任意のポイントに出現(スポーン)します。

この方法でプレイヤーが自然に世界に入っていけるかどうかは、現実におけるプレイヤーの位置がトラッキングエリアの中心点にどれだけ近いかに依存することが判明しました。下の画像においてプレイヤーは青丸、点線はカメラのカバーするトラッキングエリアを表し、実線は部屋の領域を表すものとします。

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上の画像の状態は最も理想的であり、部屋の領域をトラッキング可能領域がカバーしており、プレイヤーはいずれの領域に対しても相対的に中心点に立っているため、VR内および現実においてどの方角にも均等に移動することが可能です。

しかし以下の画像に表すようにプレイヤーがトラッキングエリアの隅に立っており、部屋の領域とトラッキングエリアにズレが生じている場合は、VR体験にとって非常に好ましくない状態だと言えます。現実世界では部屋の中心点に立っているにも関わらず、VR内のおよそ75%の領域へのアクセス(移動)が制限されてしまいます。

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トラッキングエリアの領域外においてプレイヤーは”いない”ものとされる

よって最高のVR体験を実現するためにはトラッキングエリアと、現実の部屋の領域とのズレを修正し空間認識のミスマッチを防ぐ必要があります。

実はUnreal Enginie4とUnityのいずれのゲームエンジンでも、デフォルトで修正を行わせることができ、この問題は簡単に解決しています。Oculus SDKがプレイヤーのトラッキングエリア中心点からのズレを報告し、カメラが常にVR内における出現ポイントと現実の領域とのズレの修正を行います。これにより以下の画像に表すように、トラッキングエリアのどの位置に立っていてもVR内の位置とリンクされ、VR内のいずれの方向にも均等に移動することができます。

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新たな問題の浮上(行ってはいけない部分への到着)

しかし2つの領域のズレの修正を可能にするこの方法によって、プレイヤーの視線の方向やVRのフレームのコントロールが失われ、ゲーム開始時もしくは場面転換時に、プレイヤーがゲームロジック部分(本来行ってはいけない場所)に到着しうるという新たな問題が浮上します。

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十二分に大きなトラッキングエリアを確保している場合、もしくはVR内で次に到達した部屋がトラッキングエリアに対し狭い場合、いわゆる ”到達してはいけない領域(色部分)” に到着してしまうことが懸念される。

プレイヤーの誘導

この新たな問題に対しては、同社が”antechamber(副室)”として定義する空間を用い、プレイヤーを誘導することで解決を図ります。

メインワールドに入る前、プレイヤーは例えば真っ暗な中にスポットライトで照らされた台座のみが存在する空間に入れられます。台座には”ココに来てこの書物を読め”のような表示がされており、プレイヤーはその指示に従って台座へと進みます。そして書物を読み終えると同時にその空間はフェードアウトします。そして次の瞬間、ゲームのメインの部屋が現れたときには、プレイヤーはクリエイターの望んだ位置に望ましい方向を見て立っているのです。

このようにメインコンテンツの開始前、もしくは場面が切り替わる前に自然な移動指示を与えることで、プレイヤーを理想的なスポーン位置へと誘導する方法がとられます。(下画像参照)

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事前の空間でユーザーを誘導することで望ましくない位置(色部分)からのスポーンを回避させる。

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ゲーム内のトリガー位置の設定によっては任意の位置へプレイヤーを誘導することが可能に。

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台座等のトリガーを設けず、前後の(VR内の)部屋を考慮した空間のデザインによってユーザーの位置を誘導する方法も。

常にユーザーの位置を管理することが必要

以上のことをまとめると、VR内のセットと現実の部屋のレイアウトは相互に影響し合うということを考え、VR内および現実のプレイヤーの位置を常に管理する必要があるということが分かります。

Oculus Story Studioはシームレスで快適なトラッキングを実現するには、VR内のレイアウトやセット・シーンを劇場の舞台のように優雅に遷移させ、”俳優”であるプレイヤーを心置きなく演じさせることが重要だとしています。物理的な制限が私たちの遊び場に与える影響について、VRセットデザインを考慮する必要があるでしょう。

(関連)
なぜ13歳未満の子供は、Oculus Riftを使用してはいけないのか?医学的な見地からの警鐘

(参考)
The Problem with Reality(英語)
https://storystudio.oculus.com/en-us/blog/the-problem-with-reality/


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