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Meta Quest 2019.09.30

【体験レポ・解説】QuestとPCを繋ぐ「Oculus Link」驚くほど違和感なし

Oculusは一体型VRヘッドセットOculus Quest(オキュラス クエスト)向けの新機能、「Oculus Link」を発表しました。

Oculus LinkはQuestの登場以降、VRユーザーが待ち望んでいた機能です。これまで、Questのような一体型VRヘッドセットはPCに比べると非力で、Questで遊べるタイトルは専用のものに限られていました。

しかし、今回発表されたOculus Linkにより、QuestとゲーミングPCをUSB Type-Cケーブルで接続すると、PC向けのRift(またはRift S)対応のVRコンテンツができるようになります。Questに移植されているVRゲームは多数あるとはいえ、Riftに対応しているコンテンツはQuest対応コンテンツより圧倒的に多く、画質なども良いためよりリッチなVR体験が可能です。

OculusはPC向けのVRヘッドセットとして「Oculus Rift S」を49,800円で提供していますが、これはQuestと同価格。仮に「Oculus Link + Quest」でRift Sとほぼ同じVR体験ができるのであれば、「Rift SではなくてQuestでOK」という選択肢もありえるでしょう。

本記事ではこのOculus Linkを徹底解説。2019年9月末に開催されたOculus Connect6(OC6)でのデモ体験や、技術的な面もセッション「Oculus Link for Quest」を踏まえて解説します。

Oculus Linkは「驚くほど違和感なし」

デモとして体験できたのはOculus Rift向けの「Asgard’s Wrath」「Stromland」の2作品。いずれも2019年秋に発売される大型タイトルです。筆者は比較のため、これまで何度か体験している多い「Stormland」を選択しました。

デモエリアにあったのは、USB Type-Cケーブルが繋がったOculus Quest。充電中と同じように見えますが、その先はPCのUSBポートへと繋がっています。

ここで気づくのは、ゲーミングPCといえどもGPUへの接続ではないということ。GPUに搭載されたUSB Type-Cの端子を使う「VirtualLink」という規格もありましたが、Oculus LinkではそのままPCのUSB3.0端子に接続しています。


(PCの背面。Oculus LinkのケーブルはUSBポートに刺さっている)

自分の番が来て、いざQuestを装着……しましたが、一瞬戸惑います。それは目の前に映っていたホーム画面が、Questで見慣れたものではなく「Rift向けのホーム」だったから(※)。

(※Quest向けのホームとRift向けのホームは大きく異なっている。Riftでは「ダッシュ」と呼ばれる機能でPCのデスクトップ画面をVRに展開できるほか、部屋のカスタマイズも可能)

そのままアテンドのお姉さんの操作により、Stormlandを起動してプレイ。ひととおり体験してみたところ、違和感がほぼないことに驚かされました。正確には「何か違うような気はするが、体感では分からない」というのが正直なところでしょうか。首をブンブン振っても、手を勢いよく動かしても、Rift Sで体験したときと大きな違いは感じられません。Stormlandは前方の操作しか必要としないため、手のコントローラーのトラッキング範囲の違いも意識することはありませんでした。

5分ほどの体験でしたが、遅延や引っ掛かりを感じることはなく快適に体験することができました。実際に現場でRift Sと比較をしたわけではありませんが、筆者にとってはOculus LinkによるVR体験は違和感がなく、とても満足のいくものでした。

さて、Questで満足のいく体験ができてしまうとなると、気になるのはPC向けのRift Sとの違いです。Oculusの技術トップであるジョン・カーマック氏によれば、「(Oculus LinkでのVR体験は)圧縮とリサンプリングにより、Rift Sとの体験と同じとは言えない」とのこと。それでも目に見える違いがなかなか分からないということは、Oculus Linkのメカニズムに秘密が隠されているようです。

違和感が出ないようにするOculus Linkの仕組み

OculusはOC6のセッションで、Oculus Linkの技術的な解説を行っています。

Oculus Linkは映像端子を使わずにUSBですべてのデータ転送を行う仕組み。データ転送のために、PC側でレンダリングされた映像のエンコードとQuest側でのデコードが必要になります。

USBケーブルの転送量(ビットレート)の制約により画質の劣化や遅延が起き、最終的にVR体験の質が劣ることになってしまいます。そこでOculusは、解像度と遅延、プレイ体験の3つのポイントで技術的な工夫を行ったとのこと。それぞれ紹介していきましょう。

見た目には分からない解像度の工夫


(エンコード前の画質(上)とエンコード後の画質(下)、ボケてしまいグラフィッククオリティはかなり落ちる)

Oculus Linkでは、グラフィックのクオリティを維持しながら転送量を軽減するためにAADT(Access Alighned Distorted Transfer)という仕組みを採用しています。これは、人間の目が見ている視野の中心部のみを高解像度で見ていることを逆手に取り、中心部以外を低解像度にしてしまうというもの。実際はぼやけていますが、周辺視野のためユーザーは「解像度が低い」とは感じにくくなります。


(AADTの解説スライド)

遅延を抑えるためのエンコードとデコードの工夫

VRの天敵として知られる遅延(レイテンシー)。ユーザーの頭や手の動きにVRでのグラフィックの動きが追いつかないと、大きな違和感に繋がります。

通常のエンコード処理では、PC側でエンコードが終わってからQuestでデコードを開始します。Oculus Linkでは、遅延を抑えるためにSliced image transferという方式を採用しています。Sliced image transferは、エンコードを行っている最中にデコードを開始することで、なるべく遅延を減らしているとのこと。


(エンコードとデコードを並列処理している)

使うUSBケーブルの工夫

3点目の工夫は、PCとQuestを繋ぐケーブルに関するものです。Quest側はUSB Type-C、PC側はUSB 3.0の規格ということで、規格が当てはまる市販のケーブルは数多くあります。しかし、VRを快適に体験するためには、長さと動きやすさ、安定動作などが担保される必要があります。

市販の多くのケーブルは短く、さらにVRでの動きのあるプレイに向いていないものもある、とOculus。動作要件は明らかになっていませんが、ユーザーが安心して使うために、Oculus Link用のケーブルを販売することを発表しています。

デモで体験したときにはすでにそのケーブルが使われており、Rift Sのケーブルと比較してもケーブルは遜色のないものでした。

さらにOculusはセッションの中で、「Oculus Linkには他にも多くの技術的なポイントがある」としており、この仕組みは同社の技術の結晶とも言えそうです。

結論:Oculus LinkはRift Sと比較してどうなのか?

技術的な説明も見たところで、結局Rift Sの代替になるのか?という問に戻ってみます。Oculus LinkでのVR体験は「質の劣化に気づきにくいよう、技術的な工夫を凝らしたもの」です。

会場で話をした他メディアの記者も指摘していましたが、Oculus Linkではよくよくグラフィックを検証してみるとアラが気になることも。また、トラッキング用のカメラの数が異なるため、Rift Sの方が手のトラッキング範囲が広いことも大きな違いになります。

なお、Questのバッテリーの持続時間は2~3時間。Oculus Linkがパスパワー(USB経由の給電)かどうかは不明ですが、長時間のプレイの際に気になる「ヘッドセットの装着感」は、Rift Sのバンドの方が良質だと感じます。

いわゆるRift向けのコンテンツの多くは、グラフィックのクオリティも高く作られています。ハイエンドVRの良さをあますことなく快適に体験したい人はRift Sを使う、その選択肢は健在でしょう。

また、デバイス本体の価格はどちらも49,800円で同じ。しかしOculus Link用に専用ケーブルを購入する場合、Oculus Link+Questのほうが若干高くなると想定されます(2019年9月末時点では、ケーブルの価格は未発表)。

Oculus LinkでQuestは“2度美味しくなる”

余談になりますが、既存のPC向けVRヘッドセットが映像端子とUSBの2つを使っていることを考えると、Oculus Linkはケーブル1本で接続できるようになったことは大きな前進です。さらにユーザーは一体型のQuestを1台買うと「PCを使わず持ち運べるカジュアルなVR体験」と「PCを使うリッチなVR体験」の両方ができるようになりました。1台で“2度美味しいデバイス”になります。

なお、デモに使っていたPCのGPUの型番や、要求水準の高そうなUSBケーブルの詳細は現場では教えてもらえず。今後の発表を待ってほしいとのことで、Oculus Linkの動作要件が判明するのはまだ先になりそうです。

さらに、今後が楽しみな情報も。ジョン・カーマック氏は、Oculus Linkを「Wi-Fiでも使えるようにしたい」と発言しており、無線化への意気込みを見せています。最もネックになる遅延も、Quest側のハードウェア改善で実現できるとの話もありました。

OculusはすでにQuestの次世代機の開発を進めていることを明かしており、その次世代機にはPCとのワイヤレス接続が実現する可能性もあります。

(※記事中で取り上げたOculusによるセッション本編は、YouTubeに掲載されています。セッション動画はこちらから)


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