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活用事例 2017.12.14

全てをVR内で:ゼロからクリエイトする次世代のVR


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本記事は「Redshift 日本版」とのライセンス契約を結んだ転載記事であり、米ロサンゼルスのJohn A. Martin & Associates Structural Engineersの現BIMディレクター、マルセロ・セガンベルーリ氏の執筆した原稿を翻訳したものを、オートデスク株式会社の許諾を得てMogura VRに転載しています。

建築、製造業界で、ものづくりの方法の劇的なシフトが起こりつつある。近い将来、デザイナーやエンジニアはVR内で、建物や都市をリアルタイムに創造できるようになるだろう。

VRのドラマティックな進化を予測できるような、映画の歴史になぞらえた話を紹介しよう。一説によると、映画撮影用のカメラが登場した当時、俳優たちはセットで、人工の木に囲まれて撮影を行っていた。そのとき誰かが「カメラを森に持ち出して撮影してみたら?」とつぶやいた。これはシンプルだが、大きな変革をもたらす発言だった。VR 技術はすでに実現しており、それが最大限に活用されるようになるのも時間の問題だ。

現状:ビジュアライゼーション

私がBIMディレクターを務めるJohn A. Martin & Associatesのロサンゼルスオフィスにある専用VRステーションでは、同僚たちが視線追跡(アイトラッキング)対応ヘッドセットを装着し、ハンドヘルドコントローラーを使って、BIMソフトウェアで作成された3Dモデルをナビゲートしている。こうした環境でデザインを可視化することにより、ユーザーは他の方法では見逃してしまうような構造上の問題を検出できる。


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例えばVR内では、梁が桁に正しくつながれているかどうかを目視で確認できる。もちろんVRヘッドセット無しでも可能だが、3D環境に完全に没入することで、実際の物理的な位置に立っているような感覚が得られる。そのため、正しい位置にない構成要素の検出が簡単になるのだ。

建築・建設業界におけるVRは、社内での、またクライアントとの活用の両方で、ビジュアライゼーションのツールとして大躍進を遂げている。ハンドヘルドのポイント&クリック式レーザーコントローラーを使えば、エンジニアやデザイナーは3Dレンダリングの建物内を、本人視点のTVゲームのように歩き回れる。階段を上ったり、階下の通路へとテレポートしたり、上階の窓から外を眺めたりすることが可能である。これは素晴らしい体験だ。

デザインのビジュアライゼーションは、関係者へアイデアを売り込むことにも役立つ。建物の3DモデルをRevit Live3ds MaxEnscapeなどのVRソフトウェアを用いてプレイ可能な「ゲーム」として活用することで、デザイナーはクライアントやオーナーを、有望なプロジェクトの没入感を持ったショーケースへ案内できる。

今後:クリエイション

こうした例は、建築・建設業界におけるVRの可能性の、ほんの一部に過ぎない。デザイナーとエンジニアにとっての次なる大きな可能性は、単にビジュアライゼーションを行うのでなく、VR内でゼロから実際に構造や製品をクリエイトすることになるだろう。

VRでRevitを操作する場合で考えてみよう。視線追跡(アイトラッキング)対応ヘッドセットを装着し、掌と手首の動きを使って、フーチングをつかみ、モデルを縮小拡大し、その配置や回転、形状変更できたら、どうだろう?


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こうしたシナリオは、そう遠い先の話ではない。3DVR環境でイラストレーションを作成できるGoogle Tilt Brushのようなプログラムは、VRでの建築・建設プロジェクト作成の今後を示唆するものとなっている。ペイントツールで手首を回すだけで、VR環境内でオブジェクトに色を付けることが可能。この種の物理的なレスポンシブデザイン機能は、大抵の建築・建設が使用しているVRプラットフォームでは使用できないが、その存在は、近いうちに業界にも到来する可能性があることを暗示している。

車体やキャノピー(円蓋)など、スムーズな曲線の有機的な形状を作成できる3Dメッシュ、サーフェスモデラーは存在するが、それらの作成は2D画面で、退屈なマウス操作やキーボードコマンドで行われる。ノードやラインを操作するため、ユーザーはカーソルをドラッグする。これはVRの時代においては不格好な作法ともいえる。

デザイナーが外部のデスクトップソフトウェアを使うのではなくVR内でダイレクトに作成できるようになれば、背面の壁に回り込んで覗き込んだり、接合部や鋳造部分など狭い部分に瞬間移動したりできるようになる。オブジェクトにより近く、より操作しやすい距離で作業することにより、デザイナーは、より詳細で有機的な形状を作成できるようになる。アーティストや職人たちは遠い昔、手を使って石や粘土の造形方法を学んだ。そうした技能が建築・建設デザインの実現に直接応用されることはなかったのだが、それをバーチャルに蘇らせる機会が生まれている。

変化の必要なもの:インタラクティビティ

VRが建築・建設で制作ツールとして幅広く採用されるには、ソフトウェアが大きな飛躍を遂げる必要がある。現在の建築・建設で使われるゲームエンジンテクノロジーでは、ユーザーは見回すことができるだけで、オブジェクトに触れたり、その場の判断で編集したりすることは、完全には不可能だ。VR内で検討中のモデルの梁を修正したいと思ったら、ヘッドセットを外し、オーサリングソフトウェア内で該当する梁を見つけ出して、マウスとキーボードを使って変更を行う場合が多い。そしてゲームエンジンビューワー内でモデルを更新し、再びヘッドセットを装着して、変更が正しく行われたかどうかを確認する。このワークフローは長ったらしく煩わしい。


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未来のVRは、変更を行うのにVRヘッドセットを取り外す必要がなく、マウスクリックやキーボードに頼らないような手法へ移行する必要がある。建築・建設ソフトウェアは、VRのハンドヘルドコントローラーと没入型環境を最大限に活用し、VR体験内で3Dモデルを操作・変更できるツールが一般化するべきだ。

もうひとつの障害は、VR内における自動化されたインタラクティビティの欠如だ。ユーザーがVR内で行う、桁の移動、窓の開閉、照明の点灯などのアクションの全ては、インタラクティブな操作が可能となるよう、経験豊富なゲームエンジンプログラマーが予めプログラムする必要がある。よりよい解決策は、このプロセスを自動化することかもしれない。例えばRevitの3Dモデルを、インタラクティビティを事前プログラムしたVR対応可能なゲームエンジン環境へと自動変換して、ユーザーが自由にいつでも壁を移動させたり、扉を開けたり、VR環境内のあらゆる種類の要素を操作できるようにしておくのだ。

インフォメーション モデリングは、息をする生き物のようなものだ。建物、扉、窓、テーブル、医療機器など、すべてがその特質に適応力を備えている。建築・建設業界で現在使用されているゲームエンジンベースのテクノロジーのほとんどで、現時点では、こうした要素は変化しない。VRは進化を遂げようとしている。それについていく準備はできているだろうか?


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