【体験レポ】現実と虚構の世界が混じり合うVRアート作品『Neighbor』

VRはゲーム・エンタメに限らず幅広い分野にて活用されています。エンターテインメント以外の分野ではトレーニングや教育の分野での活用を目にすることが多いですが、VRを使ったアート作品『Neighbor』を体験してきました。本記事は『Neighbor』の体験レポートとなります。

https://www.youtube.com/watch?v=ARfRAylxjE0

『Neighbor』は、体験者がVRヘッドセットを被るメディアアートパフォーマンスです。東京新宿にあるNTTインターコミュニケーション・センターにて、11月4日(土)と11月5日(日)の期間限定で公演されました。

この『Neighbor』を監修したのは、ハコスコ社代表取締役の藤井直敬氏。藤井氏が提唱する「SRシステム(Substitutional Reality:代替現実)」を応用した『Neighbor』はアート作品としてもVR作品としても、新鮮でユニークな体験をもたらすものでした。

「SRシステム(Substitutional Reality:代替現実)」とは

レポートの前に「SRシステム」について、簡単な説明をしていきます。「SRシステム」は、「代替現実システム」と訳されます。ヘッドセットに映される現在と過去の映像を切り替えることで、体験者は今と過去を区別して認識することが難しくなり、今でも過去でもない「もう一つの現実」を認知するという体験を提供するものです。

過去と現在の映像を繋げるダンサーの存在

『Neighbor』は、VRヘッドセットを装着した体験者2名と、VRヘッドセットを装着していないダンサー2名による計4名のパフォーマンスです。体験者とダンサーは男女のペアで、約5分間のパフォーマンスを行います。体験者はヘッドセット越しのカメラの映像から、現実にいるもう一人の体験者とダンサーの動きを見ることができます。

まず、体験者は黒と白のミニマルな舞台の中央に並んで立ち、ダンサーは体験者にVRヘッドセットを装着します。このVRヘッドセットは、スマホを差し込むタイプのもので、現実の世界をスマホのカメラで撮影するビデオスルー型のVR体験を提供します。そして、このアートパフォーマンスで重要になってくるのが体験者の周囲を踊る男女のダンサーです。

舞台上のダンサーの踊る映像がVRヘッドセットに映し出されるのですが、体験してすぐに小さい違和感に気が付きました。VRヘッドセットに流れる映像は、今の映像と過去に記録されたビデオ映像が交互に映し出されるので、例えば過去の映像の時は自分の手ではなく他人の手が映し出されます。過去の映像が映されていると思うと次の瞬間には今の映像が映し出され、自分の手が自分の動かした通りに映し出されます。そして次の瞬間には過去の映像に切り替わるというのが繰り返されます。また、時には過去の映像と今の映像が重なるように映し出され、まるで今と過去が混在して存在するような不思議な世界を体験できます。

ゲームのチュートリアルのような「導かれる」感覚

ここで過去の映像が今起こっている本物の体験だと体験者に勘違いさせるのが、触覚にも働きかける仕掛けです。『Neighbor』で映し出される映像は、自分がダンサーたちの踊りに参加しているというもの。映像の中でダンサーは体験者の手を繋いだりするのですが、その映像に合わせて今の世界でありVRヘッドセットの外の世界にいるダンサーの手の温かみが体験者に伝わってきます。さらに、対になるもう一人の体験者ともお互いに手を取って踊る場面もあり、その映像に導かれるように体験者と手を繋ぐことになります。目の前に見える映像は、スマホのビデオスルーの今の映像であったり、過去に撮影された360度映像であったりしますが、映像に映る人の手の感触から、目の前に人がいることを実感できます。

過去の映像の目の前にいる体験者は決してその瞬間目の前にいる体験者ではなく、そして過去の映像にいる自分自身も本物の自分ではないのですが、今の映像と過去の映像が交互に映し出されていることで、過去の映像にいる人物が自分の分身のように感じることになります。正確に言えば、少し先の未来が見えている自分の分身といったところで、例えるならゲームのチュートリアルで説明通りにキャラクターを動かすように、自分自身を動かす感覚になります。上述した「導かれる」というのは、ゲームのチュートリアルを行なっているのに近い感覚を表した言葉です。

この「導かれる」という感覚が非常に新鮮で、体験者はイタコのように身を任せることになり、宗教的儀式を体験しているような感覚にもなります。

また、ダンサーが過去の映像とどのように同期を取っているのかは、正確には分かりませんが、おそらくパフォーマンス中に流れる音楽を使って同期を取っているのではないかと思われます。

体験者が体験後に「仲良くなる」

『Neighbor』を監修した藤井氏は「体験者同士がパフォーマンス後に仲良くなる」と説明します。現実と虚像が混ざり合い、自分の意思とは違った何かによる緩やかな命令に体を任せることで、自分のエゴイズムが消えていくのも、体験者同士が仲良くなるトリガーになるのかも知れません。藤井氏によれば、海外で『Neighbor』の公演を行なった時には、体験者の中にはパフォーマンス後に自然とハグをした人たちもいたとのこと。ちなみに筆者は体験当日に風邪を引いており、体験中も「相手に風邪を移したら申し訳ないな」「相手も嫌がっているだろうな」と雑念を抱いていましたので、終わった後にそれほど親近感を感じることができませんでした。心なしか相手もすぐに離れて帰ってしまったような気が……。

ただし、お互いに不思議な体験の共同作業を行なったということは間違いなく、他の体験者の方々も皆とても楽しそうな表情をしていました。

さらに『Neighbor』を評価するとすれば、きちんとアート作品として成立していた点も言及したいところです。アートと言いつつもそうでは無い作品を目にすることもある中、そういう意味でも誠実な作品であり、VR愛好者だけでなくアート好きな方にも受け入れられる広い間口を持ったVR作品と言えるでしょう。『Neighbor』は、アートとVRの相性の良さを感じられた作品でした。今後アーティストによるVRを活用した作品が増えていくことを期待したいところです。

この記事を書いた人

  • VR修行中のライターです。VRの可能性の大きさにワクワクしています。「Mogura VR」では編集周りのお手伝いと360動画の狩人を担当しています。

    Twitter:@oo2gu

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