技術の進化は続く マイクロソフトが発表した眼鏡型ARデバイスのプロトタイプに注目すべき理由


マイクロソフトは、デジタルホログラフィ技術を用いた新型のARディスプレイの論文をSIGGRAPH 2017向けに発表しました。この新型のディスプレイでは、高解像度かつ広視野角(水平80°)、さらに現在市販されているVR/ARディスプレイで問題となっている輻輳調節矛盾を解決し、乱視といった視力異常を持つ人に対しても補正をディスプレイ側で行い裸眼でクリアな画像を見ることができるとしています。

現在のVR/ARヘッドセットの問題

現在のVRヘッドセットに使われているディスプレイやレンズは、人の眼が感じることができる解像度に対して十分ではなく、ディスプレイの粒感や画質の低下を感じてしまいます。光学系自体も物理的に複雑で複数の部品から構成されており、サイズやコスト、重量の面から実用的ではありません。さらに、視力障害を持つ人へは、矯正用の眼鏡が追加で必要です。また、表示するコンテンツの焦点が固定されることによって発生する輻輳調節矛盾も解決する必要があります。

マイクロソフトは、これらの問題を解決し、広視野角、高解像度の光学シースルーARディスプレイが眼鏡型にまで小型化すれば、真に日常で毎日使われるヘッドセットになると述べています。

ホログラフィックによって小型化かつ高解像度なARディスプレイを目指す

近年、これらの問題を解決するためには、従来の物理的な光学系だけに頼って解決するのは非常に困難なため、コンピュテーショナルフォトグラフィ技術を用いて解決を試みる研究が登場しています。これは、通常の撮影とその後の画像処理を組み合わせた撮像技術で、いくつかの手法が他の研究機関から提案されています。その中でもライトフィールド技術を利用したディスプレイが有名です。しかし、この手法も、現状では、「視野角と解像度がトレードオフになってしまう(広い視野角を得ようとすると低解像度となる、逆に高解像度にしたい場合は狭い視野角になる)」、「高解像度(狭い視野角)にした場合は焦点の制御が十分にできない」といった問題があります。

本研究では、物理的な光学系はなるべくシンプルかつ軽量にして、焦点を変化したり乱視の補正などの光学的な制御はすべてソフトウェア技術によって解決しようとしています。具体的な解決手段としてデジタルホログラフィを用い、ホログラムを重ね合わせることで、ライトフィールド技術の問題点であったトレードオフもなく広い視野角で高解像度なディスプレイを実現しました。以下の項目では、提案手法の特徴についてまとめています。

通常の描画パイプラインを利用可能

本手法では、通常のグラフィクスの描画(下図のRenderer部分)処理の後でホログラムの計算、ディスプレイへの表示を行っています。従って、DirectXやOpenGLなどのグラフィクスAPIがそのまま利用可能であり、コンテンツ制作者はホログラムの処理を考える必要はありません。

任意の場所に焦点を合わせることができ、光学的な収差も補正可能

下図において、3カ所青い四角で囲まれている部分がありますが、そのうち竜の胸部分(3点の内一番左)に焦点を合わせているため、表面の線がシャープに映っています。その一方で、中心部と右側を注目すると線がぼけているのが分かります。

また、小型化したプロトタイプを作った際にも、光学的な収差を補正することで、視野全体で高解像度な表示が可能になりました。下図では左側では線がぼやけてしまっていますが、真ん中では格子状の線がシャープに見えており、右側の文字を表示した例では一単語づつ読めるような高解像度を実現していることが分かります。

乱視のような視力障害にも対応

下図の左側(C)は通常の絵、真ん中(D)は乱視の状態を再現した絵、右側(E)は真ん中の絵を本手法で補正した絵です。真ん中と右側の拡大部分を見ると真ん中の絵でぶれていた線が右では上手く補正されていて、左側の元画像と同じように描画されている線がシャープに映っていて補正されていることが分かります。

これらの実際の絵の様子は以下の動画でも確認できます。

https://www.youtube.com/watch?v=lN4tFV16mU8

課題はありつつも実用化へ向けて前進を続ける

マイクロソフトの説明によると、現在のプロトタイプでは、「ディスプレイを頭に装着する際、少しでも眼からずれたり、視線が外れたりすると上手く像が見えない」、「視線に応じて焦点を変えるためアイトラッキングの機構を入れる必要がある」、「ディスプレイのリフレッシュレートが60Hzしか出ない」といった課題も述べられています。今後はこれらの機能を解決しつつ、単一のグラスタイプのハードウェアに統合していくことで実用的なARディスプレイを目指すとのこと。日常で使用できるようなARヘッドセットに向けて着々と研究を進めているマイクロソフトに今後も注目です。

(参考)
Holographic Near-Eye Displays for Virtual and Augmented Reality – (英語)
https://www.microsoft.com/en-us/research/publication/holographic-near-eye-displays-virtual-augmented-reality/

この記事を書いた人

  • あつぽん

    日本でMRシステムの開発に携わった後アメリカへ渡り、VR/MRシステムを企業へ導入するための検討・開発に従事。現在は日本在住。

    人間の能力そのものを拡張させるテクノロジー「ヒューマンオーグメンテーション」のコンセプトに惹かれ、その界隈の動向に強い関心を持っています。その中で実用化フェーズにあるVR/MRの盛り上がりをより広い範囲へわかりやすく伝えていきたいと思っています。

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