レーザーとMEMSを使った新しいトラッキングシステムを元Oculusの技術者が研究中

元Oculusの副社長ジャック・マッコーレイ氏は、VRにおけるポジショントラッキングシステムに、「MEMS」(※)を用いた新しい手法を導入するための研究をしています。マッコーレイ氏はこの新システムを、MEMS・トラッキング・システム(MTS)と呼んでいます。

※MEMS・・・Micro Electro Mechanical Systems、微小電気機械システムを意味する
MEMS(MTSでレーザーを発するデバイス)

VRにおけるポジショントラッキングは、大きく分けて「カメラ」「レーザー」の二種類があります。MTSはHTC Viveで採用されているLighthouse方式と同様、レーザーによる方法です。なお、Oculus RiftやPlayStation VRはカメラによる手法を採用しています。

https://www.youtube.com/watch?v=cR8y4wG8Ipg

(MTSトラッキングの様子)

MTSはまず、計測範囲の隅から、まるでマス目を塗りつぶしていくかのように順番にレーザーで調べていき、トラッキング対象を探します。端から順に探しているために無駄が多く、ターゲットの発見までに数秒を要します。しかし、一度対象を見つけてしまえば、まるで糸で結ばれたかのように、以降はどんなに速く動いてもピッタリとレーザーがくっついて回ります。

マッコーレイ氏の開発しているMTSには、光に対して滑らかに角度を変化させる鏡が使われています。鏡が取り付けられたこのMEMSデバイスは、既に世の中で様々な製品に用いられているものです。

MEMS(MTS内部。中央にある鏡は可動式。滑らかに向きを変えて、あらゆる方向に光を発する。)

光を強く反射する物質をターゲット(再帰性のある反射マーカー)として採用し、それがMTSレーザーをどの程度反射したかを測定することで位置情報を割り出しています。ターゲットが反射した光の方角に応じて鏡は柔軟に向きを変え、絶えずトラッキングを続けることができます。

レーザーの出力によっては、18m程度まで遠ざかってもトラッキングできるとのこと。

MTSとLighthouseの違い

同じようにレーザーを使用してポジショントラッキングを行っているHTC ViveのLighthouseは、MTSとどのように違うのでしょうか。

https://www.youtube.com/watch?v=oqPaaMR4kY4

(Lighthouseスキャンの様子)

まずLighthouseシステムは、回転するモーターを利用して縦横に走るレーザー光線を動かし、部屋全体を、隅から舐めるようにスキャンします。この手順を毎秒100回程度という高速で繰り返し、ターゲットの位置座標を(ターゲットが動く度に)逐一計測しているのです。

HTC Viveとそのコントローラーには光センサが多数付いており、レーザーを感知すると位置情報がPCに送られる仕組みとなっています。

一方でMTSは先に述べた通り、柔軟に向きを変える鏡によってターゲットを追跡しており、受光ではなく反射を行う仕組み。一度ターゲットを見つけた後は、いちいち部屋全てをスキャンすることはしません。Lighthouseが高速でシャッターを切ってターゲットを繰り返し捉えているとするなら、MTSはターゲットを常に矢印で指して追いかけているイメージです。これによって、位置情報の頻度をLighthouseの10倍以上にまで高めることができます。

何らかの物をおいてしまうことでレーザーを遮ったり、ターゲット以外の反射物があるとトラッキングの邪魔になってしまうというのは両者で共通です。

ただMTSでは、現状ターゲットの発見までに数秒の時間を要しているのが課題です。

カメラとレーザーの違いから見るMTSの強み

そもそもポジショントラッキングの方法としてOculus RiftやPlayStation VRの「カメラ」によるポジショントラッキングと比較して、MTSやLighthouseなどのレーザーはどのような特徴があるのか、簡単に補足しておきます。

MEMS(Oculus Rift製品版に付属するカメラ)

カメラによるポジショントラッキングは、「HMDやコントローラーが発する赤外線などの光を、PCに接続されたカメラが捕らえる」ことで成り立っています。位置情報を割り出しているのはPC側です。

問題点としては、カメラから離れすぎると正確な測定が難しくなることが挙げられます。近くの対象はカメラに大きく映るため正確なトラッキングができますが、対象が遠くに行くにつれてカメラに映るものは小さくなり、精度が落ちてしまいます。

他にも、カメラが捕らえられる範囲は放射状に広がるため、限界があり死角が多いことや、PCとの接続が必要なこと、強い光源が他にあるとトラッキングに支障がでることなどの問題もあります。

レーザー

MEMS

一方でレーザーによるポジショントラッキングは距離がトラッキング精度に影響を与えないことも利点のひとつです。近くでも遠くでも、光は関係なく一直線に進むからです。(光の強度と人体への影響の兼ね合いから、Lighthouseは現在、5m程度の距離まで届くレーザーを使っています。)

MTSはレーザーを用いた新しいポジショントラッキングです。まだまだ課題はありそうですが、可能性を秘めた技術の一つでしょう。マッコーレイ氏は今後も研究を続けていく意志を示しています。

(参考)
Exclusive: Former Oculus VP of Engineering Demonstrates Long Range VR Tracking System – Road to VR
http://www.roadtovr.com/mts-virtual-reality-vr-tracking-system-jack-mccauley-oculus-vp-engineering/

Oculus Co-founder Jack McCauley’s Next Challenge: The Perfect Head-Tracker for VR – IEEE spectrum
http://spectrum.ieee.org/view-from-the-valley/consumer-electronics/gadgets/oculus-cofounder-jack-mccauleys-next-challengethe-perfect-headtracker-for-vr

この記事を書いた人

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    工学専攻の大学生。好きな科目は国語。趣味は歌などの創作でボーカロイドも使います。SAOのような物語が引き起こす、自他の文脈や人と世界の関係の集積へダイブすることを切望して止みません。将来もVRの傍に立っていたいと思います。

    Twitter:@yunoLv3

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