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開発 2019.05.29

エンタープライズ向け裸眼立体視ディスプレイ「Looking Glass Pro」発表、5,500ドルで先行販売開始

2019年5月29日、Looking Glass Factory社はオールインワン型のホログラフ・ワークステーション「Looking Glass Pro(ルッキンググラス・プロ)」を発表しました。企業などにおける商用利用向けとなっており、販売価格は6,000ドル(約66万円)。2019年5月30日から6月3日の期間限定で、5,500ドル(約60万円)での先行販売が行われます。

(歯のスキャニングデータ提供: Orthoscience)

この「Looking Glass Pro」の発表にあたり、Looking Glass Factory社の共同創立者兼CEOのShawn Frayne氏が来日。新製品を自ら紹介してくれました。


(Shawn Frayne氏)

新機能満載。単体動作やタッチパネル操作・UI用2Dディスプレイを備える

「Looking Glass」は厚みのあるディスプレイに映像を表示し、3D映像を裸眼で立体的に見ることのできるデバイスです。これまではPCに接続して使用する裸眼立体視ディスプレイとして、スタンダード(8.9インチ)とラージ(15.6インチ)の2機種が販売されていました。

これに対して新製品の「Looking Glass Pro」は、15.6インチのディスプレイにコンピュータが内蔵されており、PCを接続することなく単体で動作します。またLooking Glass Proでは、ディスプレイの表面がタッチパネルとなっており、表示された3Dモデルを指先で回転させるなど、直感的な操作が可能になっています。

(歯のスキャニングデータ提供: Orthoscience)

UIナビゲーション用に2Dディスプレイも搭載されており、こちらもタッチ操作に対応。この2Dディスプレイは、折り畳んで背面に収納することもできます。

(歯のスキャニングデータ提供: Orthoscience)

稼働中のLooking Glass Proを背面から見ると、外部には電源ケーブルしか出ておらず、単体で動作していることが確認できます。ただしこれは開発中のモデルとのことで、現在は電源ケーブルが2本出ていますが、製品版は1本になるとのこと。また製品版にはHDMI端子やUSB-C端子が用意される予定です。


(2Dディスプレイが折り畳んで収納されている様子もよく分かる)

Looking Glass Proにはサンプルツールやアプリケーションがプリインストールされるほか、内蔵のWi-Fiで直接インターネットにアクセスしてアプリやコンテンツをダウンロードしたり、無線LANやUSB-C接続を介して他のPCからデータを移動することも可能です。また外部入力デバイスとして、手の動きを認識できるLeap Motionコントローラも同梱されます。

セキュリティなどの関係で内蔵のコンピュータを使用したくない場合は、HDMIケーブルとUSB-Cケーブルで他のPCと接続し、裸眼立体視ディスプレイとして使用することも可能です。他のPCでコンテンツの制作を行って、ケーブルで接続して動作を確認した後、完成したコンテンツを内蔵のコンピュータのストレージに移動させるといった使い方も可能とのこと。

今後もスタンダード・ラージモデルの販売は継続、ProのSDKは商用版

Looking Glass Factory社では、Looking Glass Proを企業向けのエンタープライズモデルと位置づけており、従来のLooking Glassはスタンダード・ラージの2機種とも、開発者向けのディベロッパーズモデルとして今後も並行して販売していくとのことです。

ちなみに、従来のLooking Glassでは開発者向けに、Unity、Unreal Engine、three.jsなどのSDKを使用できましたが、企業向けのLooking Glass Proでは、これらのSDKの商用版を使用する形になります。

「日本の開発コミュニティは世界で最もクリエイティブ」

Looking Glass Factory社のCEOであるShawn Frayne氏は、Looking Glass Proの発表によって同社の今後の戦略がどのように変化するのか、そして日本の開発コミュニティに対する期待について語りました。

Shawn Frayne氏によると、Looking6 Glassは今後、開発者と企業という2つのグループに対してアプローチを行っていくとのこと。Looking Glass Proを企業向けに販売するのと並行して、開発者向けに従来モデルの販売を続けていく、とFrayne氏は明言しました。

「開発者のコミュニティはLooking Glassに新しいアイデアや有用なアプリケーションを生み出してくれるので、非常に重要だ」とFrayne氏は考えているそうです。その一方で、企業向けにLooking Glassを提供することで活用の幅が広がり、開発コミュニティにより良い環境を整備できるようになると語っていました。

Frayne氏としては開発者や企業だけでなく、誰でもLooking Glassを楽しめるコンシューマモデルを将来的には展開したいと考えているそうですが、「実現するのは数年先になるだろう」との見通しでした。

複数の人が同時に立体視できるLooking Glassは、さまざまなビジネスで応用できると、Frayne氏は考えています。今回デモしていた3D歯科用スキャンは、OrthoScienceの開発によるもので、患者と医師が立体的に患部を見ながら診断を行ったり、医師どうしが治療法を相談したりといったことが可能になります。

また、自動車部品の3Dモデルを立体的に見ながら風の流れなどの流体をシミュレーションするといった、設計や造型分野での応用も可能です。さらにエンターテインメントの分野でも、すでにインテルによって、世界初のホログラフィによる3Dミュージックビデオが制作されているそうです。

Looking Glassに関しては、日本の開発者のあいだで勉強会が開催されるなど、日本でも大いに注目を集めています。そこでFrayne氏に日本の開発者に対する印象を聞いてみたところ、「日本の開発コミュニティは、世界で最もクリエイティブな人たちだ」との返答がありました。

Frayne氏によると日本の開発者の中に、Looking Glassで360度3Dの実写動画を再生できるアプリケーションを制作した人がいたそうです。Frayne氏は当初、Looking Glassでそのようなことができると思っていなかったため、とても驚いたとのこと。

現在、Looking Glass Factory社ではVRビデオカメラのKandao Obsidianと共同して、商用レベルの360度3Dビデオアプリを開発しているそうですが、「こうした技術が可能だという道を示してくれたのは、日本の開発コミュニティだ」と語っていました。

こうしたこともありLooking Glass Factory社としては、世界の中でアメリカと日本の2カ国を、Looking Glassのメインターゲットとして考えているそうです。Looking Glassでアプリケーションやコンテンツを作成するためのマニュアル類は、今はまだ多くが英語ですが、現在日本語への翻訳を進めているので、今後は日本のユーザーもより多くの情報を入手できるようになるとのことでした。

エンタープライズモデルであるLooking Glass Proの登場は、日本の開発コミュニティで現在盛り上がっているLooking Glassへの期待が、より広範な層へと広がるきっかけとなる可能性を秘めています。Looking Glassと、このプラットフォームで実現される立体視コンテンツが、今後どのように展開していくか楽しみです。


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