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イベント情報 2017.02.07

VRと舞台芸術の融合を目指す意欲作『リトルプリンスVR』体験レポート

2017年2月3日、4日にプレス関係者と音楽座メイト会員限定に『リトルプリンスVR supported by VIVE』(以下、リトルプリンスVR)が先行公開されました。

リトルプリンスVRは株式会社UEIソリューションズ(以下、UEI)と株式会社ヒューマンデザインが協力し、音楽座が上演しているミュージカル「リトルプリンス」の第1章にVR演出を盛り込んだVRミュージカルです。

舞台作品とVRというと、360度カメラを舞台上か客席に設置して撮影する360度映像が多いです。客席の置き方によっては舞台が遠くて見えづらいことも。逆に舞台上に置くと、360度見回せるからとカメラの周りをぐるっと出演者が囲み、見る側は首が疲れるだけで長時間見ようとは思えなくなることもあり、制作は一筋縄というわけにはいきません。

リトルプリンスVRは舞台をただ360度映像で撮影するのではなく、「もっとVRを演出にとり入れたい」との考えから、実写+CG+生の舞台と3つの要素から成り立っています。

今回の上演場所は音楽座の稽古場、舞台は客席とステージが同じ高さとなる床。客席は半円状に置かれています。

VRヘッドマウントディスプレイを被って鑑賞

それぞれの椅子替わりの箱にはVRヘッドマウントディスプレイが1台ずつ計10台用意されています。舞台「リトルプリンス」に出演している俳優がアテンドとして1人ずつつきます。筆者の担当は飯田 良太氏。

用意が整うと、機内アナウンスと共に機長とCAが登場。VRヘッドマウントディスプレイと衛生用アイマスク「ニンジャマスク」のつけ方と体験時の諸注意をコミカルに説明します。VR体験の導入部を飛行機旅行として入りやすくし、また飛行機が不時着したことから始まる『リトルプリンス』にもかけているようです。

アテンド役はにこやかに挨拶からVRヘッドマウントディスプレイの装着まで行います。VRヘッドマウントディスプレイを被ると見えるのは黒いスーツの男性(『リトルプリンス』飛行士役広田 勇二 氏。今見ていた舞台に丁度立っているかのように、現実で照らしていた照明と同じように照明を受けています。

この飛行士は、イントロとして象を飲み込んだウワバミの絵の話を語ります。彼がが闇の中に退場すると、場面は替わり3DCGで描かれた雲海を飛ぶ飛行機の操縦席の中です。この飛行機はサンテグジュペリが乗っていた飛行機を再現しているとのこと。窓から頭を出し下を見ると雲の切れ目から砂漠が見えます。飛行機の窓はガラスがはまっていないため実際に顔に風を受けます(前から人力で風を送っていたようです)。突然飛行機が揺れだし、急降下(座っている椅子を実際に揺らされます)砂漠が急速に近づきます。

シーンが変わり、再び実写シーンへ。自分は舞台中央、飛行士役です。目の前には金髪のマフラーをまいた王子(森 彩香氏)が、ヒツジの絵を描いてとせがんできます。

自分を中心に周囲を囲むように歌い踊る、ヒツジと王子。体験者の背後でもリアクションをとっているので、歌に合わせて首をひねらないとならないシーンも。箱に入ったヒツジの絵を描いてもらい、自分の星に残してきた花について語りはじめる前に、VRヘッドマウントディスプレイを外すよう案内されます。

外すと赤い花(井田 安寿氏 )と先ほどまで見ていた王子が舞台に。目の前で実際に歌われる花の歌は迫力があります。

花のシーンがおわり、砂漠の飛行士とのシーンに戻るとまたVRヘッドマウントディスプレイを被ります。3DCGで描かれた砂漠の夜、不時着した飛行機のそばで満天の星空を眺めます。通常の舞台では観客それぞれの想像力に任せるしかないシーンでもVRなら同じイメージを共有できます。

続いてのシーンではコントローラーを手渡されます。コントローラーはVR内では青い羽になり、ボタンを押したり、振ったりするとキラキラした無数の小さな星が空に舞い上がっていきます。星のデザインは「星の王子さま」の挿絵からとったとのこと。

横を見ると、他の体験者が持っている羽が見えます。他の人に羽を振って合図してみましたが、誰も反応してくれませんでした。ほとんどの体験者は膝の上に置いているだけのようでした。VRに慣れてない人はVR内で物を動かすことに慣れていないことと、ライブのサイリウムのように振りやすい曲調かどうかも関連がありそうです。

空に泡のように登っていく星々は非常にきれいですが、360度映像に合わせると、立体的なCGの星と比較して実写映像が平面的に見えてしまうこと。星を出すことに注意をしていると、後ろの映像を見落としたり、星が多くて映像が見にくかったりします。インタラクションは体験者を傍観者ではなく、作品世界への参加者になれる重要な演出ではありますが、課題は多そうです。

10人分の映像を撮るために10回撮影

360度カメラを置くと、置いた位置からの映像しか撮影できません。撮影された映像を見る限りは体験者は常に同じ視点からの映像を見ます。配信の場合は問題はありませんが、今回のように実際の舞台同様に客席がある場合は問題があります。

どの客席に座ってもVRヘッドマウントディスプレイで見る映像が舞台正面の席から見える景色では、被る前の景色とのズレから体が移動したと感じるか、見ている映像の中にいると感じるより、大きなスクリーンを見ている感覚になるからです。

またVRヘッドマウントディスプレイを外した時にもVRの中の位置と現実の位置が違うことで、舞台に集中していた気持ちが途切れ、見た後の余韻が損なわれます。

『リトルプリンスVR』は10人それぞれ座った位置からの映像が見えるように、カメラの位置を変え何度も同じシーンを撮影したとのこと。VRヘッドマウントディスプレイを被っても、被る前と同じ方向に舞台が見えることで違和感がなくなりVRが初めての人ほど凄さに気づかないでしょう。


飛行士役広田氏

360度撮影は周囲がすべて映るため、撮影中は俳優だけ残してスタッフはいなくなります。飛行士役の広田氏は、「舞台上で1人になるシーンを何回も撮影されたときは、孤独でした」とのこと。また、「10人分すべての映像で声のタイミングを合わせるため、1回目以外は口パクで撮影しました。よく見ると口の動きがあっていないシーンがある」との裏話も話してくれました。

VR体験中にも、演者が現実で“歌って踊る”意味

VRでは臨場感を出すには音響が重要です。現実では正面から聞こえた音が、後ろを向くと背後から聞こえるように、VR内でも同様に再現ないとVR内にいる感覚は損なわれます。

VR体験ではヘッドホンを使うことが多いですが、今回はヘッドホンを使わず、実際にライブで合唱をしていました。

VR内で出演者が歌うシーンで、現実でもVRヘッドマウントディスプレイをつけた体験者の前と背後で合唱していたのです。体験者には見えていないにも関わらず、振りもつけています。

体験中は全く気付かず、音はスピーカーからでていると思っていました。体験後に実際に歌っていたと説明を受け、かなり驚きました。事前に説明されていた方が生の贅沢さを楽しめたと感じます。

UEIの水野氏によると、「音楽座からは360度カメラをもっと動かしたいといわれましたが、動かせば数秒でもVR酔いを起こす人がいるから止めた」とのこと。

『リトルプリンスVR』は企画当初からVR技術の知見があるUEIが関わることで、単なる360度映像ではなく、VR酔いも感じにくい作品になっています。

どこにいても同じ体験はVRのメリットでもありますが、特定の場所で1回ごとに違う体験となる生の舞台の魅力をあえて取り入れることで特別な1回きりの体験としてVRと現実の演出を組み合わせています。

演出面、コスト面での課題はありますが、挑戦的な作品になっていました。


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