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VTuber 2020.01.11

夢追翔ロングインタビュー 司会から見た“2019年のにじさんじ”

現在、90名以上のライバーたちが活躍する「にじさんじ」グループの中、さまざまな企画の司会として活躍した夢追翔さん。「にじさんじの日」や「にじさんじ格付けチェック」「ASMRになりたい女たち」など、多くのVTuberが参加する企画をスムーズに進行する上、1人ひとりへの対応も見事にこなすことから、多くのVTuberやファンに信頼され、現在も活躍の幅を広げています。

そんな夢追さんに司会の視点から「2019年のにじさんじ」を振り返っていただきました。また、個人の歌活動や他ライバーとの交流など、個人的な想いについても深く掘り下げます。

1.「にじさんじの日」からはじまった“司会”の役割

――夢追さんにとって2019年はどのような1年だったでしょうか?

夢追:

まさしくこう、激動の1年だったなっていう印象です。自分の司会業に温かい評価をいただき、さまざまな企画に呼んでいただけて、大変ありがたく思いました。自分でも企画を行って、色んなVTuberの方との交流の輪も広がりましたし…何より一番うれしかったのは、当初の目標だったYouTubeチャンネル登録者数10万人を達成できたことですね。自分自身としては、バーチャル界に向けて、“夢追翔”っていう存在を示せた年になったかなって思ってますね。

――2018年9月のデビュー時から振り返っても、かなり大きな変化のあった1年だったのではないかと。

夢追:

デビュー時は…思ったよりも活動がうまくいかないという燻(くすぶ)りがあったんですが(笑)、2019年に入ってから実に色んなことが起きて、ちょっと浮ついた気持ちというか、実感がまだあまり湧かない感じですね。こうして単独インタビューを受けさせていただくのも、まだ信じられなくて…。

――いえいえ! 編集部としては夢追さんが2019年の「にじさんじ」を語る上でのキーパーソンだと考えていました。

夢追:

そう言っていただけるとありがたいです!

――特に、にじさんじグループ内では数々の番組の司会を務められていた姿が印象に残っています。そもそも司会を務めるようになったきっかけは2019年の2月3日に行われた「にじさんじの日」からでしたか?

夢追:

そうですね。僕にオファーがきたときは「死ぬんだ」と思いましたね(笑)。共演者たちの名前を繰り返し見て「あれ、(オファー先が)間違ってるんじゃないかな……?」と。

――そんなに動揺されていたんですね(笑)

夢追:

僕自身は、やっぱり企業所属のVTuberとしてやっていく上で、数字ってものを意識しないといけないっていう気持ちを持っているんですが、あの頃は他と比べても「まだまだ(活動を)頑張らないとな」っていう意識が強かったと思います。そんな心境の中での抜擢だったので、驚くのと同時に、野心を持つ“夢追翔”としてはチャンスだと思いましたね。

――ちなみにこの企画以前から司会的な役割は得意とされていたんですか?

夢追:

そうですね。これは話していいことだと思っているんですけど、ライバーとしての活動以前から、フリーランスとして働いていて、あまりお金が稼げない時期があって…生活がままならないから、塾の先生やアミューズメントパークの案内役などのアルバイトをやっていたことがあるんです。だから、人前で話すという仕事の経験は比較的ありましたね。ただそれでも正直自信は無くて…。「にじさんじの日」の司会が決まったのは、「スマブラ72時間連続放送」っていう公式企画での黒井しばちゃんとのトークが評価されたことがきっかけだったようです。

――当日まで司会役をこなせるよう準備されていたのでしょうか?

夢追:

「当日までに司会をモノにしないとマズイな」って思い、事前にしこたま台本を読んだり、ライバーとの会話の入り方をずっと考えたりとイメージトレーニングをしていましたね。司会業って、台本通り進行しながら誰がどういう会話をしたのかを押さえていないといけないので、シングルタスク向きの僕には無理だなって思っていたんです。
だから、台本の進行だけは、もう事前に全部覚えて完璧にしようと。少なくともそこだけは準備できるじゃないですか。何も考えなくても台本の内容は分かるようにしておいて、あとはライバーの皆さんのトークをひたすら聞いて、ちょいちょい突っついていくという方針でしたね。

――結果的に企画は大成功し、同席していた舞元啓介さんが感想配信で夢追さんの司会ぶりを称賛していたことを覚えています。

夢追:

いや恐れ多いですよ(笑)。ただリスナーの方々が「ゆめお(夢追翔の愛称)の司会は良かった」とありがたい言葉を送ってくださったのが、本当に嬉しいことでした。

2.「にじさんじ」の連携力ってすごいんですよ

――その後「にじさんじ格付けチェック」や「ASMRになりたい女たち」といった大型企画のMCに抜擢されていました。どの企画も夢追さんの役割が非常に重要だったという印象ですが…。

夢追:

まあ、あの…自分で言うのも恐れ多いですけど「地獄といえば夢追翔」みたいな(笑)。最近は自分でも地獄のような企画を作っていますが、当時は地獄にぶち込まれる側でしたね。

――特に印象深い企画はどれでしょうか?

夢追:

一番はやっぱり「格付けチェック」ですね。一番緊張していたと思います、正直「にじさんじの日」よりも圧倒的に。

――一般的なバラエティ番組のような企画で司会を担当するのは相当に大変だったのではないかと。

夢追:

僕はダウンタウンの浜田さんみたいな役割を担わないといけなくて(笑)、一発目に「格付けチェック~!」っていう特徴的なセリフを真似することは決めていました。その後ライバーたちに「うるせえ」って突っ込めたことで、「今日はいけるかもしれない」って思いましたね。

――それまであまり接点のなかった先輩ライバーの方々とのやりとりも非常に刺激的で面白かったです。

夢追:

直前まで企画内容を、主催の緑仙でびでび・でびると入念に確認していたし、本番ではライバーさん1人ひとりが進行に協力してくださって、全員が最高のパフォーマンスを見せてくれましたね。だからこそ、企画も盛り上がったのかなと思っています。

――にじさんじグループは、ライバー同士が非常にうまく連携して企画を面白くしている印象があります。

夢追:

間違いないですね! 全然僕だけの力じゃないっていうのが一番の思いとしてあります。本当にね…にじさんじってすごいんですよ(笑)。僕はデビューする前からにじさんじのファンで、所属後もやっぱり本当にすごい箱なんだなって思います。みんな何を言っても面白いし、連携力がある。それぞれがプロフェッショナルだなって思いました。

――そんな中でも夢追さんは、にじさんじグループの中でも個性的なライバーの方々をうまく繋げる歯車のような役割を担っているように思います。

夢追:

そうなっているのなら嬉しいですね。いろんなライバーさんにイジっていただいたり、いろいろな関係性を築かせていただいたりしたことが、今の活動に全部繋がっているのかなって。

――司会業を多く務めたことで、個人的に成長したと感じていることはありますか?

夢追:

準備の仕方は学んだかもしれないですね。企画で人と喋るにしても、絡み方って色んなパターンがあるじゃないですか。めちゃくちゃアグレッシブに話しかけてくるタイプにはこちらも積極的に返してみたり、落ち着いて話をするタイプには向こうが興味を持ちそうな話を振ってみたりと、タイプに応じたやり取りをイメージしています。
そもそも、にじさんじってライバーの数が多く、色んなタイプの方々と接することができるので、より多くのコミュニケーションのパターンを学びとして得られていると感じますね。

――お話を聞いていると、準備に関してのこだわりが非常に強いように感じます。

夢追:

いやっ…怖いんですよ。準備なしっていうのが。言い方は悪いですけれど、1回1回の配信が死に繋がるんですよ我々(笑)。僕個人としては、死なないために準備するのって当たり前のことだなと思っていて「どうすれば生存率を上げられるのか」、「どうすれば爪痕を残せるか」、「どうすれば次また呼んでもらえるか」ってことを必死に考えています。

――これまでのご活躍は、そんな覚悟の強さがあるからこそなのですね…。

夢追:

だと嬉しいですけどね。本人の心境としては毎回を必死に生きているだけです(笑)。

3.バーチャルシンガーソングライターとして出来ること

――夢追さんの歌活動についてもお聞きします。2019年の自身の作品作りについては、どういった印象がありますか?

夢追:

反省というか、受け入れるべきことだと思っていますが、司会業に多く呼んでいただいた反面、音楽活動に関しては多忙につぶれてしまったという印象があります。「歌ってみた」以外のオリジナル曲は半年ほど出せていない状態なんです。

ただ2019年の6月に出した『人より上手に』は僕にとって大事な位置を占める曲になりました。当時は「にじさんじの中で自分に何が出来るんだろう」という気持ちが強くて…。他の方と比べて伸び悩んでいるという自覚がありましたし、自分はどうやって食い込んでいけるんだろうと考えていた時期でもありました。

――そういった心境が当時の歌詞にも反映されていると。

夢追:

その後は司会業から僕の名前を見かける機会も徐々に増えてきたので、音楽活動に関しては、今の活動がこの先のステップに繋がってくるだろうと、ポジティブに捉えていますね。

――夢追さんは架空のCMソングをつくったり、ヒプノシスマイクを伴奏含め全部歌いきったりと、音楽活動にしても工夫が凝らされていると思います。

夢追:

他の歌の上手な方に対抗したとき、自分に何ができるかなって考えてみると、これまで培ってきた作曲のスキルを活用して工夫してみたいと思ったんです。毎回「ウケてくれ、頼むぞ!」って気持ちで出していますね。

――2019年、歌に関する配信で特に思い出に残ったものは何でしょうか?

夢追:

8月の「にじロック」ですね。緑仙の企画で、リレー歌配信をやらせていただいたんです。「夏フェスの季節でもオタクたちは外に出ないだろう」という理由で(笑)、家でも聴けるイベントとして開催されました。1人30分ほどの歌枠をもらったのですが、セトリも演出も全部個人の自由だったので、僕らの世代に刺さるような、そんな曲を選びましたね。何かこう…「全員ぶっ飛ばしてやる!」って気持ちで歌わせていただいて(笑)、無事に皆さんぶっ飛んでくれたようで、かなり手応えを感じました。

――緑仙さんといえば、夢追さん、加賀美ハヤトさんと3人組で「le jouet」というユニットを組まれていますね。

夢追:

個人的には「le jouet」は今後もガンガン押し出していきたいと考えています! 3人とも音楽の好みや人生の通ってきた道筋などが全然異なるので、彼らと歌うだけで本当にいい刺激をもらっていますね。僕個人としては後ろ暗い、気持ちの落ち込んでる曲を書いてるんですけれども(笑)、緑仙っていう敏腕プロデューサーが「このタイミングでこのファン層に向けて、これを出す!」って狙いを決めてくれるので、あとは3人で話し合いながら活動を進めています。

――この1年でにじさんじは音楽活動に関して、かなり積極的になった印象がありますが、夢追さんとしては、そうした動きをどのように受け止めていますか?

夢追:

先日の両国国技館でのライブやメジャーデビューの告知、2周年記念アルバム発売など、どんどん規模が拡大していますし、ファンもよりそうした活動を応援するようになっています。「にじさんじ Music Festival」ではインタビュアーとして参加して、ファンの生の声をリアルに体感できたのはとても良い機会でした…。でもやっぱり、音楽界にアプローチしていくっていう方針の先頭に立ちたいですよね。にじさんじのビッグウェーブに乗るっていうのもありますが、自分もその波を起こす一端になりたいですよね。やっぱりブームを広げる側になりたいです、夢追翔としては。バーチャルシンガーソングライターですから。

4.緑仙のあとを必死に追いかけている

――2019年、個人的にうれしかった出来事は何でしたか?

夢追:

印象に残っているのは、僕がYouTubeチャンネル登録者10万人を達成した数日後に「絶対にすべる話」っていう企画に呼ばれたときのことですね。台本もペラ紙1枚で、内容も地獄が生まれそうな感じだったので、大変な企画だなと思っていたのですが、実際は僕のサプライズお祝い企画だったんです。

夢追:

僕は人生であんまり人からお祝いを受けることがなくて、そもそも人間関係に対して一歩引いた目で見ちゃうタイプの人間だったんです。でも、その上でサプライズを仲の良いライバーさんたちが企画してくれたことは本当に嬉しかったし、みんなの中に夢追翔の存在が認められたのかなって思って、これまでの活動をやってきて良かったですね。

――夢追さんは初期から「廃墟セッション」などで多くのVTuberの方とコラボされていたので、今の「人間関係から一歩引く」というお話は意外でした。

夢追:

あの全然孤立したいというわけではなくて、今の活動は楽しいと思っています。ただ何て言うんでしょうね、う~ん(笑)……27年間生きてくると、人間関係でも信用ができない場面ってどうしても出てくるので、対人関係もそれなり距離をおくべきかなって思っていたんです。ただ、ライバーの方々がわざわざ向こうから僕のために祝ってくれたことから、ようやく良い関係が築けたんだという実感が湧いてきたという感じです。

――特に先程からお話にたびたび上がる緑仙さんとは、企画配信での良きパートナーなのではないかと思っていました。

夢追:

緑仙はにじさんの中でもかなり交流しているライバーですね。だいたい仕事の話をしているんですが、かなり仲良く話せますね。

――緑仙さんは、にじさんじの中でもかなり攻めた企画を次々と生み出していますが、夢追さんも配信をする上で影響を受けた部分はあるんでしょうか?

夢追:

しこたまありますよ! それは。緑仙は…何もかもがすごいんですよ! すごすぎて、段々自分に腹が立ってくるんですよね(笑)。「こいつよりもすごいことしてみたい!」って。だから、企画力で盗めるところは全部盗もうと思って、真剣に話しちゃったり、僕が企画を立てるときはアドバイスをもらったりしていますね。そういう意味で僕が一生懸命追っかけている感じですね、緑仙を。

――お互いに切磋琢磨しあえる相手ということですね。

夢追:

緑仙が「配信でこれとこれをこの順番でやりたい」という企画の概要をつくって、僕がそれをより詳しく台本に書き直して、それを元に演者と共有して話し合うというのを、一週間スパンで何度もやっている時期もありました。

――まるでプロデューサーとディレクターの関係ですね。

夢追:

だからいい刺激になっているんだと思います。司会者としても企画の作り方というのを学べていると思いますね。

5.にじさんじはチャンスの詰まった宝箱

――2019年は、にじさんじライバーの数が急激に増え、司会として新人の方と関わることも多かったと思いますが、その中でもインパクトのあった方はどなたでしょうか?

夢追:

もう名前出しちゃいましたけど、加賀美ハヤトですね。彼がデビューしたときは「歌も喋りも顔も一級品のヤツが来たな…」と。僕は日々作品を作る者としてポジティブな劣等感というもの、つまり「すごいヤツが来たから自分も何とかしないと!」っていう想いを常に持っているのですが、加賀美ハヤトに関しては特にそれを感じましたね。今ではプライベートでも友人として交流していますが、やっぱり緑仙と同じく、早く追いつきたい存在ですね。

――そもそも夢追さんは「にじさんじ」を、どういった場所だとお考えですか?

夢追:

にじさんじの一番良いところは自由なところだと思っています。各々やりたいことがあるので、ライブをしたいとか普通に生活をしたいとか、色んな選択肢がそろっている。そういった何でもありの雰囲気こそ、バーチャル界の良いところだなと思っています。
また、にじさんじは「チャンスの詰まった宝箱」だなと思っていますね。それは先輩方が築いてきてくれたからこそ、こうして活動の幅が広がっているのですが。

――にじさんじに入ったからこそ、さまざまなチャンスに恵まれたということですね。

夢追:

僕は2018年の9月にデビューしたんですけど、正直ライバーの注目度が一番分散する時期だったなと思うんです。それでも腐らずにやってこれたっていう自負が、自分の中に生まれていたので、デビューしたこと自体が本当に良い選択だったなと思います。

――その当時デビューされたライバーは、団結力と企画力が非常に高い方々が多いと感じていました。

夢追:

そうですね。ライバーそれぞれで考え方は別々ですが、僕個人の意見としては、同じ頃にデビューしたライバーの方たちって、全体的に負け犬根性というか「全員ブッ飛ばしてやる!」っていう気概がめちゃくちゃ強かったなと思っています。それがパワーとなって今活躍しているライバーもいらっしゃいますね。

――皆さんファンの見えないところで努力を重ねられていたのですね…。

夢追:

アハハハ(笑)面白いですけどね。今が一番面白いですよ、人生で。一番やりたいことをやっているし。

――夢追さんとしては、今後何を目指して活動していきたいでしょうか?

夢追:

具体的な話ではないのですが、「外へ出たい」っていう気持ちがあります。現状、自分たちの活動を、ひとつのコンテンツとして見たときに、まだまだバーチャル界の中では内向きのスタイルだなと思っていて、もっと外側に広がる手段を見つけていきたいなと。
今後生きていくためにも、バーチャルYouTuberに全然興味のない層やメインカルチャーの外側にいる人たちなどにアプローチしていけるように取り組みたいと思っています。その手法のひとつとして“音楽”があって、ニッチなことを徐々に拡大して、知名度を上げられるようにしていきたいですね。

――活躍の幅を広げながら、外側のジャンルに向けても発信していくということですね。

夢追:

活動当初からの夢は、「ひとりのアーティストとして大勢の人に認められる」っていうことなんです。それを達成するためにも、バーチャル界全体での、自分の位置づけを高めると共に、そのバーチャル界全体の客層を広げていきたいなっていうのは思ってます。

――ありがとうございました。最後に2020年の抱負をお聞かせください。

夢追:

さっきまでカッコつけたことを言っていたんで、最後までカッコつけますけど(笑)、2020年は“主役”になりたいですね。2019年は、誰かに引っ張ってもらったり、誰かと一緒に組んで知名度を上げられたりといった企画が多かった印象でした。おかげで、司会者として全力でライバーの方々を受け止められたので、それはそれで本当に良かったなと思います。だから、2020年は自分が主体となって、メインの音楽活動で目にモノ見せてやりたいっていう感じです。要は「全員ブッ飛ばしてやる!」っていうことです!

協力:いちから株式会社
取材&執筆:ゆりいか


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