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VTuber 2018.02.11

バーチャルYouTuber輝夜月 おはよー!で世界を目覚めさせた秘訣とは?

2016年から活動しているキズナアイに続き、明るくバーチャル世界を渡るミライアカリ、ゲーマー層から強い人気を誇るシロなど、バーチャルYouTuber(バーチャルユーチューバー)が次々生まれた2017年。中でも12月9日に誕生し、多くの人を仰天させたのが「輝夜 月」でした。


輝夜 月

登場したばかりで、動画再生数100万超え連発、登録者数うなぎのぼり。しかも最初の頃の動画は、特別すごいネタをやったわけではなく、自己紹介、早口言葉、あいさつ。これには海外のYouTuberたちもびっくり。

彼女の活動を探ると、バーチャルYouTuberのバズるキャラクター構造や人気の秘訣が見えてきます。
 

付いた呼び名は「見る抗うつ剤」

 
輝夜月はMika Pikazoによる、近未来的なデザインが特徴の女の子。帯に和の匂いを漂わせつつ、黒を基調に信号機カラーをあしらい、鎖骨部分と頭の飾り(本人いわく、チーズらしい)でサイバー感も出している。開いた胸元がとってもセクシー。半開きな瞳がとってもキュート。

第一回目、開口一番「ういいっす!」と元気いっぱい。「うるせぇな(怒」とツッコミもキレッキレ。しゃべりは滑らかで聞きやすい。編集は「ジェットカット」と呼ばれる、こまめにトークを切ってつなぎ、スピーディーに見せる手法を使用。YouTuberが生み出した動画の見せ方の技術がしっかり使われている。
 
話題になったのは、耳にやたら残る声質。鼻にかかったような特有のアルトボイスで、抑揚が激しく、発音ひとつひとつにパンチがある。煽り気味でありつつも口調は軽快なので、聞いていて心地がいい。声質から「とっとこハム太郎」を思い出した人が多かったようで「首絞めハム太郎」なんてあだ名も付けられました。


「おはよー! こんちはー! こんばんわー! おきてええ」。強引かつハイテンションな彼女を象徴するセリフの一つ。キズナアイをはじめとする他のバーチャルYouTuberたちも、好んでモノマネネタに使っています。

輝夜月のノリは、どの動画も終始アッパー。躁状態な彼女の動画の、話がどこにいくのかわからない酩酊感と底抜けな明るさは、ファンから「ストロングゼロの擬人化」「見る抗うつ剤」などとも呼ばれるようになりました。
 

攻めの姿勢のバーチャルYouTuber


輝夜月は強めの煽りキャラです。最もわかりやすいのは、クリスマス前にアップされたショート動画。少年少女がナイーブな時期に「クリぼっち」を煽るという、ニコニコ動画や2ちゃんねる的なノリ。「癒し力」を優先にしてきたバーチャルYouTuberはまずやらないであろう、未開拓地でした。

視聴者同士がTwitterのリプライで、輝夜月の動画のスクリーンショットを使って会話しているのを受けて、自主的に素材を提供したこともあります。これがまた「めずらし!! 喋れるゴリラだ!!」など、尋常じゃなく煽り力が高く、使いやすい。視聴者はSNSで彼女の画像を利用し、他人に見せることで、輝夜月と煽り共犯関係を築いていける仕組みです。

「みんなの友達」思想

彼女は色々なバーチャルYouTuberと、Twitterで絡んでいます。特にキズナアイと仲がよく、「親分」と呼んで慕っています。キズナアイは「つきちゃん」と呼んで彼女をかわいがっており、動画で公式にコラボ要請をするほどのお気に入りっぷり。他にもミライアカリを「みーちゃん先輩」、バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさんを「わきにぎり先輩(動画でおにぎりをわきで握ったことがあるため)」と呼ぶなどして、もりもり仲良しの輪を作っていきました。

こうして輝夜月には「パリピノリの元気で明るい女の子」「後輩キャラ」という属性がついていきます。

「月あの、友達感覚で見てほしいなって思います。動画見て、おお、ルナじゃん!!! ルナが投稿してんじゃん! みたいな感じのノリできてくれたらうれしいです」「みんな友達!」
 
「ファン」や「視聴者」というくくりが、輝夜月にはありません。自分が教室に居たら、クラスメイトのギャルっぽい子が「血液型あててあげるよ!」と元気に話しかけてきてくれた……という状況に限りなく近いシチュエーションを、動画で見せてくれる。意味もなくみんなでウェーイと雑談しながらだべっている、ゆるいけれどもポジティブな空気が、心地いい。馴れ馴れしさがかわいらしい、バーチャル後輩・バーチャル同級生です。
 

あえて「ない」ことの強み

輝夜月ファンですらも大困惑したのが、1月25日にアップされたこの動画。全く話の中身が無い。なのに輝夜月というキャラクターの元気な魅力は、ちゃんと一通り詰まっている。初見さんには勧めづらい、上級者向けの動画でした。

輝夜月は「ない」のが強みのキャラクターです。
まず設定がほとんどない。一番最初の自己紹介動画でわかることといえば「みんなを笑顔にできるYouTuberになりたい」ということ、「ダンスが苦手」という特徴、あとは当たりさわりのない趣味嗜好。結局彼女が何者なのかは、わからない。

後に「寒さを感じない」「竹の中にいた」「143歳」「お風呂が飲める」など情報が出てきますが、きちんとした説明はされていない。適当に言っているのか、本当の設定なのか、やっぱりわからない。

「質問答えたったワwwwwwww」メディアでのインタビュー動画では、輝夜月は多様な質問に答えています。しかし見ても、言っていることが支離滅裂なので、何ひとつ彼女を知る手がかりがありません。その曖昧さこそが輝夜月であることを、この2つの動画は実証しました。

動画に目的が消失することもたまにあります。スタートラインはあるものの、はっきりした方向性はなく、問題が解決されるわけでもない。例えば「斉藤さん」という無差別に人と接続できるアプリを使った動画では、血液型を当てるはずだったのに、途中から目的を見失う展開にまでなります。転じて「目的を忘れるほど、輝夜月が日々楽しんでいるのを見る動画」として、非常に完成度が高い。


 

キャラクターを存在させる

輝夜月は「キャラクター」そのものを、あらゆる事象にとらわれないコンテンツとすることに特化した動画づくりをしています。

設定がほとんどない輝夜月は、「かわいい」「お姫様」以外直接的な言葉でキャラクター性を語りません。そのため視聴者は、見た目や行動からキャラクターを類推することになります。説明はしないけれども、言動を聞けば「輝夜月ってこういう子だよな」と認識できるだけの、アクの強さはきちんとある。考える余地があるからこそ、視聴者は思い思いに考えた輝夜月像を、Twitterなどで言葉や絵にしていきます。

ファンアートを見ると、彼女が両手で襲いかかるポーズが非常に多い。これは普段彼女が自然に取っている体勢であると同時に、視聴者に対して飛びかかるような攻めたトークで動画を撮っているのが印象に残るからでしょう。あらゆるバーチャルYouTuberと絡んで愛されているのも、二次創作化しやすい要因のひとつ。
 

彼女は毎回、動画の最初の20秒の間に、なにかしらネタを仕込んでいます。下の動画の回にいたっては、開始4秒で「ブブーハズレーwwww」と、鮮やかに煽ってきます。ドライブ感のある、突っ込む間もないトークのリズムは、それ自体が「輝夜月らしさ」になっていきました。

きっちり演じるアニメと違い、バーチャルYouTuberはキャラクター演技部分と、声優の素の部分がごちゃごちゃになってキャラ化していくのが魅力の一つ。特に輝夜月は、その境界線を限りなくあやふやにしています。

インタビューなどでの制作スタッフの言及によると、収録の際、最初の言葉とオチだけ決めて、あとは全てフリートーク、という台本無しのスタイルで行われているそうです。収録する度に自然にキャラクターができあがっていく、バーチャルYouTuberならではの特色を最大限に活かした作りです。

彼女は、なにがあろうと折れない柔軟さを持った存在でもあります。気ままな言動のキャラなので、発言に整合性がなくても全く問題とされないのは、かなりの強みです。

視聴者に「残念だったなおまいら!」と言えるバーチャルYouTuberは、なかなかいません。むしろ、破天荒で心地いい煽りを視聴者は期待してしまう。

とはいえ、なんでもありに見えて、実は誰に対しても好意を向けるというスタンスが徹底されているあたり、「愛される煽り」の下地つくりも、きちんとされています。

今後もアメーバのごとく変幻自在に成長しそうな輝夜月。次回どんな発言をするか全く想像ができない。存在してしゃべるだけで楽しませてくれる彼女は、さらにバーチャルな友達の輪を広げていってくれるはずです。

次回は、個人が創るバーチャルYouTuberのパイオニアになった「バーチャルのじゃろり狐娘YouTuberおじさん」こと、ねこます氏を紹介します。
 

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