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活用事例 2016.05.12

「2018年にVRがくる」「産業用VRは世界をリードできる」グリー、コロプラ、米VCの投資家から見たVR投資戦略

5月10日、品川・ザ・グランドホールにて、グリーが主催するJapan VR Summit(以下、JVRS)が開催され、「投資家から見たVR戦略」というテーマのセッションが行われました。

モデレータはgumi代表取締役社長の國光宏尚氏、パネリストにグリー取締役の青柳直樹氏、コロプラネクスト代表取締役社長の山上愼太郎氏、Presence Capitalファウンダー兼マネージングパートナーのAmitt Mahajan氏の4名が登壇しました。

Japan VR Summit

モデレータの國光氏は北米ではVRはインターネット利用のサードウェーブ、第三の波になると指摘されていることを挙げました。インターネットは最初はPCで利用され、次にモバイルで、そして第三番目にVRでインターネットを利用するようになるだろうと思われていると紹介。さらにVR/ARによって「視覚とインターネットがシームレスに繋がる世界」がくるとし、「スマートフォンがいらなくなる」と、VR/ARが革新的な技術であることを述べました。

日本の企業では、コロプラとグリーの両社がVRに対していち早く事業として取り組んでいます。

Japan VR Summit

グリーの青柳氏は、グリーがVRを事業として本格的に取り組むようになったきっかけが、2015年の東京ゲームショウでOculus Rift向けのVRゲーム『サラと毒蛇の王冠』を出展した際の体験者からの大きな反響だったことを明らかにしました。東京ゲームショウの2ヵ月後の2015年11月にはVRゲームを専門とするGREE VR Studioを立ち上げています。

さらに北米のサンフランシスコとロサンジェルスの複数のVRスタートアップを訪問していく中で、VRがビジネスとしても、事業者・開発者のコミュニティとしても成立していたことからVRの可能性を確信し、VR専門の投資ファンド「GVR Fund」を立ち上げるにいたったと述べました。

今はシリコンバレーにおいても投資できるチャンスがある良い時期

Japan VR Summit

コロプラネクストの山上氏は、コロプラは代表の馬場氏がVRに積極的であることを理由の1つに挙げました。さらにVRはインターネットと同じようにあらゆる領域の産業に浸透していくと考え、コロプラ本体が事業として取り組めるVRゲームと360度映像以外の領域をカバーするため、「VR全部」に取り組むため、投資ファンドを立ち上げたと語りました。

Japan VR Summit

世界初のVR専門のファンドを立ち上げているベンチャー・キャピタルPresence Capitalのファウンダー兼マネージングパートナーのAmitt Mahajan氏は、Zyngaでソーシャルゲーム『FarmVille』を開発したこと、モバイルマーケティングの会社を創業しグーグルに売却したことなどの自身の経験から、VRが新しいプラットフォームになる可能性を感じたとのこと。ファンドを立ち上げた時期については「完璧だった」と語りました。

投資の時期的なタイミングについては青柳氏も「伝統的なベンチャーキャピタルはまだ様子見という段階」であり、シリコンバレーにおいても現在は参入のチャンスがある良い時期であると、Amitt氏と同じような見解であることを明かしました。

Amitt氏はVRの中でもどの分野に投資するべきかという問いに対して、「360度動画が伸びると思われている」と北米での一般的な見解を紹介しました。その上でAmitt氏は、「プラットフォームやツールを開発するスタートアップへのシーズ投資」に興味があることを示しました。さらに『Virtual Desktop』のようにVR空間での大きなスクリーンモニタを使用した仕事で生産性が向上するVRアプリケーションや、VR版のMicrosoft Officeの市場は大きいとの考えを明らかにしました。また360度動画以外でも『Tilt Brush』のように簡単に3Dコンテンツを制作できるツールには資金が集まりやすく、実際に『Tilt Brush』はグーグルに買収されていることを挙げました。

Virtual Desktop

Tilt Brush

青柳氏は、投資されるVRの分野はハードウェアが最初の第一歩になると指摘。そして「最後はコンテンツイズキング」だとし、「そのプラットフォームならではの良質なコンテンツ・体験」が必要になってくると語りました。

しかしVR投資のジレンマとして、VRコンテンツの制作費が大きいことを指摘しました。今年に入り、ヘッドマウントディスプレイの出荷台数の現実的な数字が出てきたことで、現状ではゲームのようなコンテンツで投資を回収するのは難しいという問題が投資家や事業家の間で出てきているようです。

そのVRコンテンツが持つ問題を解決するものとして、開発費を下げるツールに対しての注目が集まっていると紹介しました。また、それほど大きな費用を必要としないVR映像も投資しやすい環境にあるとのことです。北米でもVRコンテンツへの投資には議論があること、さらに「別の文脈になるがユニコーンバブルが終わった後で、投資家全体がキャッシュバーン(レート)に慎重になっている」という北米での厳しい環境も指摘しました。

産業向け、BtoBのVRは日本に大きなチャンスがある

コロプラネクストの山上氏は、消費者向けの市場よりも、産業向け・BtoB向けのVRの方が売上を立てやすく、実際に欧州の特にドイツやオランダでは産業向けのVRが動いているということからも注目していることを述べました。日本は自動車メーカーなどが強いことから産業向けのVRはチャンスがあり「日本としては負けられない分野」「日本が世界をリードする可能性がある」と語りました。また、インターネットの広告分野が非常に大きな市場であることから、VRでも広告の分野の可能性が将来的にはあると指摘しました。

またAmitt氏は、國光氏からの「クールな会社を教えて欲しい」との問いかけに対して、投資先でもあるSCOPE ARBaobab Studiosの2社の名前を挙げました。SCOPE ARはトレーニング用のARサービスを展開するスタートアップで、NASAやボーイングに導入実績がある会社。Baobab Studiosは高品質な360度映像・アニメーション作品を制作しています。

SCOPE AR

Baobab Studios

青柳氏は、GVR Foundの投資先でソーシャルVRの分野であるVRChatと、ライブスリーミングVR映像などを手掛けるNextVRの2社を挙げました。VRChatに関しては実際に体験してみて「使い続けていても楽しい。人に勧めたいと思えた」と話しました。また、NextVRがFOXスポーツと提携をしたことから発想を得て、フジテレビとのVR事業での共同プロジェクトに繋がったことを明らかにしました。

VRChat
https://www.youtube.com/watch?v=vEt1_uzAGI4

決裁権のあるキーパソーンに高品質なVRを体験させるのが近道

また、フジテレビのような大きな会社を巻き込むにはどうすれば良いのかと國光氏から言われると、青柳氏は様々な業界の会社がVRに興味を持ってはいるが「(VR事業への)決済を得るのは大変」と認め、各企業内で決済権のあるキーパーソンに高品質なVR体験をしてもらうのが近道だとしました。グリーも代表の田中氏にVRヘッドマウントディスプレイを被ってもらい「スゴイ!」と思わせてから、自社での全方位的なVRビジネスを進めていく上での後押しを得ることができたというエピソードを紹介しました。

「日本は一回動き出すと、一斉にスピーディーに動き出す」と山上氏は日本の特性を挙げ、コロプラネクストはVR業界全体を後押しすることで「大手企業も動き出すようなムーブメントを生み出していきたい」と語りました。

また北米と比べるとVRコンテンツ・体験の量に差がある中で、日本のスタートアップがエコシステムとしてどうすれば良いかという点についてAmitt氏は「日本が遅れているとは全く思わない」と声を上げました。そしてモバイルは日本が10年ほど米国の先を行っていた事実を指摘。今後はモバイルのVRが発展していくだろうとし、モバイルのVRデバイスの性能が向上すれば「日本のスタートアップが、数の面でも飛躍する可能性がある」としました。

青柳氏は、日本のVRスタートアップに「半年前まで悲観していた」と話します。まず「2018年にVRがくることは間違いない」と強調し、それまでに生き残ることができるかどうかが鍵になるとしました。日本でもシードステージでの投資家は現れましたが、その次のステージでの投資家が少ないのが課題と指摘。さらにビジネスとしての市場規模・環境も厳しく、かつては日本のスタートアップに「サンフランシスコに移住すること」まで提案したこともあると述べました。しかし、日本国内であっても、BtoBの市場やバンダイナムコが運営するVR ZONEのようなアトラクション施設、イベント向けのVR体験を提供していくことで、たとえVRを専業にしても「ビジネスとして算段することができると思えるようになった」と語りました。

また、スマホゲームの『ブレインウォーズ』のようにテキストを用いないものであれば海外でも受けいられることができるとし、そういった一般向けコンテンツの戦略も示しました。

スタートアップに投資をする基準

青柳氏は、スタートアップが投資を得るには「VRでビジネスをどう展開していくのかというストーリーを提示していく」のが大切としました。さらに日本のVR業界の発展には、国内でのVRコミュニティをさらに発展させ、VRに関する情報が集まる場所を作っていくことも重要になってくると指摘しました。

Amitt氏は、Presence CapitalがVRのスタートアップに投資するには以下の基準があるとしました。

● 素晴らしいチームであること
その中で危機感を持って柔軟に対応することが大切であるとしました。Oculusのケースでも、Oculus Touchが出てきた時にコンテンツの質・デザインを変える必要性が生じたように、VRは数ヵ月ごとに大きな変化がある世界だと語りました。そういった場合に対応していく力、判断力、忍耐力が求められると指摘しました。

● 技術力があること
VRにおいてはただ技術があるだけでは不十分で、教科書的なこれをすれば良いというものがまだ決まっていなく、何をすれば良いのか、何を最適化すれば良いのかを自分たちで考えていかなければいかないとしました。

● プロダクトを見極める力があること
ハイエンドのVRで求められるコンテンツと、モバイルVRで求められるコンテンツが違うように、プロダクトがどのような位置で影響を与えていくのか、また影響を受けるのかを考えていかなければならないとしました。どのようなプロダクトを開発すれば、自分たちの目的を達成するのかというのを明確にし、コンテンツに意味を持たなければいけないとしました。日本人だけが作れるコンテンツというのも、そういう意味ではあり得ると語りました。

さらにAmitt氏は“もし”という仮定つきで、VRゲームを作るなら「モバイルVRのカードゲーム、ポーカーゲームです。これは100%です」とし、そして大きく成長するポテンシャルがあると考えているのは「VRのAdobeです。プロフェッショナル向けの制作ツールです」と話しました。

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