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PR 2017.04.13

対談 InstaVR小島英揮氏と“福祉×VR”登嶋健太氏「VRを普及させるエコシステムの作り方」

エンターテインメント以外にもVRは注目を集めています。ただ楽しむというだけでなくVRが人間に与える良い効果、ポジティブな面の実例が、この数年でさまざまな分野で数多く見られるようになりました。

「福祉×VR」をキーワードに福祉施設でのVR活用の可能性を開拓している登嶋健太氏は、施設にいる多くの高齢者に自らの手でVR体験を直接届ける活動を継続して行っています。登嶋氏は360度カメラでVRコンテンツを撮影し、簡易なVRゴーグルのハコスコを使ってVR体験してもらうという、誰でも制作できるVRコンテンツでもその効果は大きくなることを活動を通じて証明しています。

元アマゾンウェブサービスジャパン(AWS)で大規模なユーザーコミュニティ「JAWS-UG(Japan Amazon Web Service User Group)」によるエコシステムを立ち上げた小島英揮氏は、2017年1月に日本のVRスタートアップのInstaVRのCMOに就任しました。InstaVRが提供する同名のサービス「InstaVR」は2015年の創業からわずか1年ちょっとで世界中の10,000以上の企業や団体に同社のVR制作ツールが導入されています。

VRを体験していくことでどのような効果があるのか、そしてVRを普及させていくためのエコシステムの重要性などを登嶋氏と小島氏に語っていただきました。

InstaVR 小島 登嶋健太(左から)小島英揮氏、登嶋健太氏。対談のモデレーターはMogura VR編集長の久保田

VRで最高の思い出を呼び起こせば、リハビリのモチベーションが上がる

──登嶋さんはVR元年の前の時点から「福祉×VR」ということで福祉の現場でVRを使った取り組みをされていますよね。

登嶋:
はい、最初にVRを介護施設の現場に持って行ったのはもう3年前になりますね。当時はOculus DK1とPCを持参して、施設内のお年寄りの方にVRを体験していただきました。介護施設にOculus DK1を置いてというのは、場違いな空気になってしまいました(笑)。
小島:
なるほど。最初にVRを福祉に活用しようと思ったインスピレーションってどういうものだったのでしょうか?
登嶋:
趣味で写真を撮っていたのですが、写真の延長的な感覚でVRも福祉の現場で使えるんじゃないかなと思いました。「よし!VRを使って何かをやるぞ」といった強い自覚があった訳ではなくて……メディアに取り上げていただく現状に戸惑うコトもあります(笑)。

──日本でもそうですが、世界的に見ても福祉にVRを活用するという取り組みは稀ですよね。アカデミックな医療の分野で研究しているケースはあるのですけれども、登嶋さんのように介護福祉の現場からの発想というのはほとんど無いと思います。

InstaVR 小島 登嶋健太

小島:
どうしてもVRという技術を起点にして考えがちですが、登嶋さんの場合はそうではないんですね。例えば、福祉施設の現場で写真などを使ったりと色々な可能性を探っていく中で、写真などの技術の延長としてVRを捉えて、VRを現場で活用してみようという考えに辿り着いたということですよね。でも本来はこのようにニーズ起点であるべきだと思います。

現在の福祉施設では、どのような環境でVRを楽しんでもらってますか?どんなコンテンツがお年寄りに喜ばれるのでしょうか?

登嶋:
環境については、現場にどう馴染ませるかというのを最も考えています。現在はリハビリを頑張るための1つのキッカケとしてVRを福祉に取り入れています。

どんなコンテンツが喜ばれるかというと「昔の思い出の場所や風景が、現時点でどうなっているか」というものですね。特にお年寄りの方々が集まって談笑している中で「思い出の、あの場所」といったVRコンテンツを体験していただくと、ダイレクトに喜んでもらえることが多いです。

お年寄りの方にとって若い頃の思い出というのは、とても強く記憶に残っているようです。最高の思い出の1つと言えます。お年寄りから「もう行けない」という諦める声も聞きます。しかし、VRで思い出に触れるコトで、もう一度そこに行ってみたいとリハビリの意欲を引きあげられるかもしれません。

すでに自身で感動を経験しているので、行ったことのある場所や記憶を思い出させる目的であれば、ハイスペックなVRではなく、スマホのVRでも思い出すトリガーになることが可能です。スマホVRでは、解像度が高くて高品質なGear VRがあります。しかしハイエンドのGalaxy端末専用ということもあって高価なので施設に複数台を導入するとなると難しいですよね。3年間の活動をしてみて、スペックとしてはハコスコとアプリDL済みのスマホがあれば環境としては十分だと感じています。

縛りの少ないVRデバイスであれば、スタッフのスマホも借りて多くのゴーグルが用意できます。複数人のお年寄りが同時に楽しめる環境もできます。

VR体験は現実へのアウトプットにも影響を与える

小島:
昔の記憶を思い出させるという意味では、例えばDVDの動画でも良いわけですよね。しかし、それだとリハビリに影響を与えるような行動の変化までに繋がりにくかったりするのかなと、私は思うのですが……。VRでインタラクティブに視聴することとTVなどで受動的に視聴することには何か違いがあるかと思うのですが、現場での活動を通して何か感じられたことはありますか?
登嶋:
VRのインタラクションのある、見たいポイントが自分の動きに合わせて能動的についてくる映像というのは、反応が全く違いますね。VRは普通の動画とは刺さり方が別物です。
小島:
自分で見るシーンを能動的に選べるというのは1つのキーになるんですね。知的好奇心を刺激するということでしょうか。

InstaVR 小島 登嶋健太

登嶋:
そうですね。それにVRを体験するとコミュニケーションが活発になるんですよ。VRは体験者の1人でしかコンテンツを見れないじゃないですか。そうすると体験した人がその周りの人達に何が見えていたのかというのを説明したり会話したりと、コミュニケーションが良い意味で変化しますね。
小島:
VR空間に没入することが、逆に現実のコミュニケーションを生み出すトリガーになるというのは面白いですね。例えばみんなで黙ってテレビを見ているのとは違うということですよね。こういうのって意外と知られていない現象じゃないでしょうか。

VRについて詳しくない方からは「結局、360度の動画が見れるだけでしょ」とか言われることもあるのですが、VRというこれまでとは違うインプットをすると、アウトプットも違ってくるというのは興味深いです。

登嶋:
狙ったというよりも結果論ですよ(笑)。

小島:
3年近く現場で行動した中での発見というのが素晴らしいと思います!

InstaVRは「VRの民主化」を目指す

──登嶋さんはコンテンツの制作もご自身でされていますよね。撮影用のカメラはどんなものを使っているんですか?

登嶋:
市販されている360度カメラで撮影を行っています。THETAやGear360、Insta360などですね。
小島:
少し前では360度の写真を撮るには特殊な機材が必要だったと考えると、量販店で誰でも買える360度カメラで撮影できて、写真を繋げたり編集したりといった手間もいらないというのは、進化のスピードを感じますよね。
登嶋:
僕の制作するコンテンツはある程度は自分で編集をしますけれども、360度カメラがあるのと無いのでは作業量が全く違ってきます。あとリハビリ施設で見てもらうというのを考慮して、高齢者の方が元気になってもらうために工夫しています。映像にあえて僕が映り込むことによってキャラクター化したりとか。見ている人がVRの体験を自分事として捉えてもらえるように制作しています。
小島:
ある程度は編集されるという点でいくと、InstaVRはVRコンテンツをどれだけ短時間で、かつ誰でも簡単に制作できるかというのを実現しています。

私たちは「VRの民主化」という言葉をよく使っているんですよ。つまり、これまで特殊な人だけが作っていたVRを誰でも作れるようにするということですね。それがコンテンツの本来あるべき姿だと思っています。それにVRの視聴環境も、今はスマホを持っている人がとても多いですよね。制作面でも視聴面でも環境は整っているので「VRの民主化」も、今すでに実現できると思っています

InstaVR 小島 登嶋健太

──実はMogura VRでは、InstaVRを使わさせていただいているんですよ。できるだけ読者の方がシームレスにハコスコやGoogle CardboardでVRコンテンツを見れるというのを考えると、やはりアプリだとハードルがありますよね。メディア側の理想は記事に360度コンテンツを埋め込めるということだと思っていて、しかもInstaVRはオリジナル画質で埋め込むことができるんですよね。ゲームショウなどのコンパニオンさんを360度カメラで持ってもらって撮影するということをしているとやはり高画質に載せたいので、オリジナル画質の360度コンテンツを掲載できる点は大きいですよね。フェイスブック経由で埋め込むことも可能なのですけれども、フェイスブックは画像が圧縮されてしまうので、どうしても劣化してしまうんですよ。

VRコンテンツの出力は、360度カメラで撮影した写真をドラッグアンドドロップで選択していくだけなので、とても簡単ですし。しかもオリジナル画質の出力もこちらから要望を出したんですよ。「オリジナル画質で出力できますか」って。そうしたらなんと数日で実装していただきました(笑)。

小島:
開発チームが日本にいるメリットですよね。海外に開発拠点があると要望が伝わるまでにどうしても、もう1ステップ2ステップ必要となるので時間が掛かってしまいます。特に今のように新しいユースケースが多く出てくる状況だと、実装にかかるステップが短い体制は重要になってくるはずと考えています。

VRのような新しい分野は、実際のユースケースに基づいた、使用者のフィードバックをいただかないと、必要な機能やスペックが分からない部分も大きいですので。

InstaVR 小島 登嶋健太

ロールモデルの登場と制作ツールの発達でエコシステムが生まれる

登嶋:
制作のハードルが下がってツールが発達すれば、VRコンテンツの制作にみんな来てくれるのかなと期待しているんですよね。今は僕が1人で撮影に行っているので、それを変えていかないとより広がっていかないだろうとは考えています。「福祉×VR」と自分では言っていますけれども、まだ足し算でしかないのが現状ですので……頑張んなきゃ!
小島:
“広がる”というのは、登嶋さんと同じようなことをする人が増えるという意味でしょうか?
登嶋:
そうですね。VRに日常的に接しているお年寄りは自分が元気になるためのツールとしてVRを利用するんですよ。しかもVRで得た体験が現実に帰ってくるというか、VRで見た場所に実際に行きたいと思う方が増えてきています。だからリハビリを頑張ろうと思えます。

また介護スタッフからの立場で言うと、介護保険外サービスが業界でもトレンドになっています。たとえば旅行とVRを掛け合わせたサービスを外部の企業、旅行代理店などと協力してパッケージ化することができれば、高齢者にとってもスタッフにとっても、双方に役立つと感じています。前向きに取り組むべきツールになります。

小島:
介護施設の外のサービス、例えば旅行に行こうという気持ちにさせるトリガーとして、VRがすごく有用なのではないかということですよね。

高齢者の方が、外に一歩出てもらうための魅力的なコンテンツは何だろうと考える時に、おそらく介護士の方だけで考えるよりも、外のサービスの方々から「こんなコンテンツはどうですか?」とオファーが出てくるという方が、エコシステム化して良いと思いますよ。

登嶋:
そうですよね。今は1人でやっているのですが、制作と視聴のツールが発達していくことで、みんながVRの活用をしにきてくれると良いですよね。

InstaVR 小島 登嶋健太

小島:
誰もがVRコンテンツを作れるツールが普及して、業界の外部からどんどんコンテンツが流れて来ると、ムーブメントが起きていると言えますよね。でもツールだからあくまでも道具なんですよ。大事なのは「魅力的なVRのコンテンツをお年寄りの方、施設にいる方に提示すると次のアクションが生まれますよ」という事実をもっともっと発信していくことなのかなと思います。

あとムーブメント作る上で大切なのは、登嶋さんがロールモデルになって、登嶋さんのような活動をしたいと思ってくれるフォロワーを作ることだと思います。そうするとVR活用の取り組みがさらに広がっていくはずです。

登嶋さんは、どうしたらもっとリハビリの結果を良くできるか、リハビリのやる気を引き出せるかという視点で、テクノロジーを選択されているのが素晴らしいですよね。でもそれは今のところおそらく突然変異なんですよ。

登嶋:
みんな思いつかないんですかね?
小島:
思いつかないんですよ!だいたい一番初めに実践した人ってそう言うんですよ。だけど、みんなが思いつくのであれば、もうやってる人に会ってるはずですよね。
登嶋:
なるほど。
小島:
これをもっと一般化していった方が、みんなにとってハッピーですよね。登嶋さんが先頭で走っていることを、どんどん周りに見せていくことが大切だと思います。そして走っていく上で道具が便利な方が良いはずなので、そこでInstaVRの使いやすさが生きてくると思います。簡単だと他の人にもやってもらいやすくなるので。

ウェブテクノロジーの延長にあるVR。だからVRは必ず来る

──InstaVRの方向性としては、ロールモデルを作ってエコシステムを作っていくというものなのでしょうか?

小島:
エコシステムを作るのはすごい大事です。そのため、今はVRに対するデマンドを広げていっている状況だと思います。これは市場そのものを立ち上げているのと同じことなんですよね。

動画の場合も同じだったと思うんですよ。最初はみんなが簡単な、取るに足らない内容の動画を楽しんで共有している中で、色々な新しい使い方が生まれてきて。その過程でカメラやツールもどんどん高性能で使いやすくなっていきましたよね。それは利用者がいてこそなんです。

デジタルは表現を豊かにしていくという方向性で進めていくべきなんですよ。ウェブの歴史を見ると分かりやすいですよね。最初はテキストから始まって、次に写真や動画を貼れるようになって。僕らがインターネットを始めた時なんかは、写真を貼るなんてとんでもないと。当時は写真を表示するのに信じられないくらい時間が掛かったんですよ。でも今は普通に動画も貼れますよね。

そうやってウェブテクノロジーの延長として考えると、VRは動画よりももっとインタラクションがあってシズル感(※)のある情報を表現できますよね。だからVRは絶対来るんですよ。ムーブメントが来るのは確実なのですけれども、どうせなら自分たちでムーブメントを起こしたいよねという意思がInstaVRにはあります。

※広告表現で、消費者の五感に訴えて購買意欲をそそる手法(参考:goo国語辞典)。

登嶋:
ムーブメント来ますよね!3年前に活動を始めた時は、こんなに早くVRの認知度が高くなるとは(笑)。
小島:
でも意外とみんなテクノロジーの連続性に気づかなくて、VRを新しい別のテクノロジーと感じてしまい、VRにハードルを感じてそこで終わってしまっている状況も多いのかなと思いますよ。

InstaVR 小島 登嶋健太

登嶋:
VRがテクノロジーとして完成に近づいて普及するのが、3年後なのか、それとも5年後?10年後?になるのかは分かりません。僕は今あるものをフル活用したいと考えています。たかが数年ですが旅立たれてしまう高齢者もいるからです。

VR体験すると「実際に行ってみたい!」と思うようになる

──お二人ともターゲットとしているのは、VRを今まで一度も体験したことがなくて敬遠されてもおかしくない方々ですが、満足度は高いというのは素晴らしいですね。

InstaVR 小島 登嶋健太

登嶋:
施設にはいるのですけれども、頭もクリアで体力もあるアクティブシニアと呼ばれる層をメインターゲットにしています。平均年齢は80歳ほどで、要介護度で言うと要介護1〜2の方々ですね。アクティブシニアの層は寝たきり状態や要介護状態にはなりたくないという思いの方々が多く、そうならないために勉強家だったり努力される方々が多いというのはありますね。VRという新しい技術が受け入れられて、満足度も高くなっている要因の1つかもしれません。
小島:
我々がよく話すInstaVRの事例で、サンリオピューロランドに導入された事例があるんですね。この事例は、VRの中でサンリオピューロランドの主要なアトラクションを体験できるようになっているんですよ。

これは海外からの観光客の方向けに、来日する時にはピューロランドに行ってみたいと思わせるのが目的なんですね。どうしても紙のパンフレットだと魅力が伝わらないという声があって、こういうアトラクションがあるんだということをVRの体験で理解すると「じゃあ実際に行ってみよう」と思っていただけているようです。

──アクティブシニアと海外からの旅行者というのは両方ともモチベーションが高いという共通点もありますね。

登嶋:
さらに介護施設はVRを体験するための場所がありますし。VRのできる環境を整えると逆に贅沢な場所になります!
小島:
確かにそうですね。すでに人が集まっている場所なので集客コストはいらないですよね。すごく良いと思います。
登嶋:
初めてVR体験する高齢者の方で、最初はピンと来ない方もいますけど、介護施設という場所なので、何回も体験をさせていくことも可能ですし、VRの体験回数を重ねるごとに反応が良くなっていくという傾向もあるんです。そういう方には、もうゴーグルとスマホを置くだけで、あとは自分たちで勝手にVRを体験してくれるという感じですね。

初めてのVR体験は感動やリアクションが良いと思うのですけれども、その先を考えて、VRの日常体験によって体験者の行動に変化がでたり、ポジティブな結果につながるトリガーにしていきたいです。

また写真や絵にQRコードを貼って、QRコードを読み込むとその写真の世界に入っていくように感じさせるなど、VR体験の入り口の部分をアナログに溶け込ませると満足度や反応が良くなります

小島:
最初にテレビやラジオに触れた人と同じで全くの初体験時は勝手がわからなくて戸惑うこともあると思いますけれども、一回覚えてしまうと新しいVRのコンテンツを体験したくなってくるということですよね。まさにVRの新しい利用者を作っていく活動をされているのだなと感じました。

利用者からのフィードバックがあるからこそツールも進化するので、ぜひ今後もトライを継続していただいければと思います。それがないとエコシステムは大きくならないですし、InstaVRも一緒に進んでいきたいですね。

──登嶋さん、小島さん、貴重なお話をありがとうございました!

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