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テック 2017.09.13

話題の360度カメラ「Insta360 ONE」徹底レビュー バレットタイム撮影の実力とは…?

ワンショットでカメラ周囲の全景を360度撮影することができる360度カメラ。従来のカメラと違い、空間をそのまま丸ごと切り取ったような全天球の写真や動画を楽しめます。誰でも手軽にVRコンテンツを撮影することができるカメラとして人気を集めています。

この1・2年で世界中のメーカーから様々な360度カメラが販売されるようになりました。中国VRスタートアップのShenzhen Arashi Visionが2017年9月に発売した「Insta360 ONE」は、バレットタイム撮影機能を打ち出した印象に残るプロモーションビデオで、360度カメラユーザー以外にも注目を集めています。

※2017年9月15日修正・追記あり

開封してみた

現在、Amazonでは在庫切れの「Insta360 ONE」ですが、編集部では発売日に入手しました。スペックだけを見ると非常に高性能な360度カメラですが、実際に撮影をしてみた使用感についてレビューをします。

内容品は下記の6つです。

・カメラ本体
・8GB Micro SDカード
・カメラケース
・クイックマニュアル(日本語あり)
・レンズクロス(レンズ拭き)
・紐

カメラ正面。Insta360のロゴがある方が表になります。

シャッターボタンのある側面にマイク穴が1あります。動画はモノラル録音となります。

iPhoneに直挿しするLightning端子。収納式となっています

カメラネジとmicroSDカードの差し込み口。microSDカードは128GBまで対応可能。

ケースはスタンドしても利用できます。スマホスタンドとして活用することも可能。

「Insta360 ONE」の価格・スペック・性能

「Insta360 ONE」の価格は約43,000円(税込)。360度カメラで人気のある「RICOH THETA S」(実売価格で約36,000円)や「Gear 360(2017)」(実売価格で約29,000円)と比べても、高価な部類になります。

しかし、「Insta360 ONE」のスペックを見ると、非常にコストパフォーマンスの良い360度カメラだと言えます。競合するスペックの360度カメラとしてはGARMIN製の「VIRB 360」(日本未発売)が挙げられますが、こちらは約800ドル(日本円で約88,000円)です。また、高性能360度カメラとしては今秋発売されるTHETAの最上位モデル「RICOH THETA V」(実売価格で約50,000円)と、どちらかを購入するか、検討している方も多いのではないでしょうか。360度カメラはカタログスペックだけで判断するのが難しい製品ではありますが、スペックで見ると下記の順番に分けることができます。

1. 「VIRB 360」(約800ドル)
2. 「Insta360 ONE」(約43,000円)
3. 「THETA V」(約50,000円)

では、「Insta360 ONE」の特徴的な性能を見ていきます。

・解像度:静止画は7K(6912×3456)、2400万画素
・解像度:動画は4K(3840×1920 @30fps)
・高フレームレート撮影可能(60fps、120fps(※))
・6軸スタビライザー搭載
・Bluetooth接続可能
・RAWファイル、LOGファイルに対応
・HDR撮影対応
・タイムラプス撮影対応
・ライブストリーミング配信対応
(※)60fpsは2560×1280、120fpsは2048×512

プロモーションビデオで話題になった「バレットタイム撮影」で重要となる機能は、上のスタビライザーによる水平を維持する機能と、高フレームレートの120fpsによるスーパースローモーション撮影、さらに自撮り棒や紐を消す機能の3つ。付属する紐か自撮り棒を「Insta360 ONE」に繋げて、撮影対象を中心に置いてカメラを水平に振り回すとバレットタイム撮影ができます。

そもそもバレットタイム撮影とは……

バレットタイム撮影とは一体何なのでしょうか。バレットタイム撮影は、マトリックスで有名になった撮影方法で、複数台のカメラを使いスーパースローモーションなのにカメラワークは高速で移動するというものです。Wikipediaでは下記の説明がされています。

バレットタイム(英語: Bullet-time)はSFXの一つで、被写体の周囲にカメラをたくさん並べて、アングルを動かしたい方向にそれぞれのカメラを順番に連続撮影していき、被写体の動きはスローモーションで見えるが、カメラワークは高速で移動する映像を撮影する技術、またはその効果を指す。タイムスライス、マシンガン撮影 ともいう。また、並べたカメラを一斉に同時撮影すると、被写体は静止ないし低速で動作した状態でカメラアングルが動く映像が作れる(『マトリックス』で、ネオが足に弾丸を受けるシーン)。

バレットタイム撮影は非常に大規模な準備が必要です。キヤノンの公式チャンネルにバレットタイム撮影のメイキング動画がありますが、カメラだけでも数十台が必要など大掛かりなシステムを整えることが求められます。

https://www.youtube.com/watch?v=WDdxMBq2GW8

「Insta360 ONE」のバレットタイムは、あくまでバレットタイム風の撮影です。2つの魚眼レンズを使い、カメラの真下が中心になるように画角を固定して、超スローモーション撮影でバレットタイムのような映像がカメラ1つでそれも簡単に撮影できるというもの。注意点としては、一定の光量が無いと綺麗な画が撮れないこと。晴天の野外かライトが十分な室内でバレットタイム撮影をするのが良いでしょう。

こちらは筆者が自撮り棒に「Insta360 ONE」を付けてバレットタイムモードで振り回した動画です。水平にして自撮り棒を360度一回転させるように振り回すのはなかなか難しく、コツがいります。

「Insta360 ONE」では自動で自撮り棒を消す処理が施されますが、カメラの角度を変えられるタイプだと、自撮り棒や雲台が写り込んでしまいますので注意。

付属する紐。切れやすそうで怖いですね。

ただし、バレットタイムモード自体は簡単です。まず始めに「Insta360 ONE」をiPhoneにLightning接続して、アプリで設定をします。

1. iPhoneに「Insta360 ONE」をLightning接続する
2. 「Insta360 ONE」のアプリを開く
3. 「設定」から「三回クリック設定」、次に「バレットタイム」をオンにする

4. 紐か自撮り棒にカメラを付けて電源を入れる(シャッターボタンを1回押す)
5. (インジケーターが緑色になったら)シャターボタンを素早く3回連続押しする
6. 振り回す。公式によれば「1回転/1秒」の速さが良いとのこと
7. シャッターボタンを1回押して撮影終了
8. 「Insta360 ONE」をiPhoneにLightning接続すると編集画面が自動で起動再生速度や動画の始点・終点などを編集

また、バレットタイムモードは上述したように、ジャイロセンサーによる水平を取る超スローモーション撮影、かつカメラの真下(底面方向)にいる撮影者を中心に置くというものです。そのため、カメラを水平に振り回さなくても、ユニークな超スローモーション動画を作ることができます。

バレットタイムモードで撮影した動画は通常の2D動画なので、再生環境を選ばないのも利点の1つ。360度カメラの普及には、こういった通常の静止画・動画に変換し、SNSで共有する機能も大切だと思わされます。THETAのリトルプラネットモードの写真も、インスタグラムなどSNSで人気があります。360度カメラだからこそ撮影できる動画というアプローチも重要なのだと、SNS上に流れてくる多くの「Insta360 ONE」のバレットタイム動画を目にして感じました。

7K2400万画素の360度静止画の実力

高解像度(2400万画素、6912×3456)な360度静止画も特徴の1つですが、実際にところはどうでしょうか。撮影した360度静止画を見ると、拡大してもなかなか綺麗に写されていることが確認できます。

・ズームアウトした画像

・ズームインした画像

・360度静止画

上の拡大した画像を見ても分かる通り、スペック通り非常に綺麗な写真を撮影できますが、発色に関しての鮮やかさ(上の画像がフィルター加工済)と画像の繋ぎ目(スティッチングライン)は「THETA S」の方が綺麗な印象を受けます。特にスティッチングに関しては、率直なところまだ十分では無いと言えるでしょう。しかし、このスティッチングラインを後処理で修正する機能がアプリにあります

この「スティッチ機能を最適化します」をタップすると数秒でスティッチング修正が行われます。

・スティッチング最適化前

・スティッチング最適化後

上の「スティッチ機能を最適化します」を行う前後の写真を見比べると、赤線で囲んだ肘の箇所が修正されているのが一目瞭然です。ただし何回か試してみて分かったのですが、このスティッチング処理もカメラから距離が近い部分の修正は難しく、カメラから40~50cmほどは離れて撮らないと崩れてしまいます。

また、同じInsta360シリーズの「Insta360 Nano」と「Insta360 Air」は綺麗にスティッチングできています。「Insta360 ONE」の方が「Insta360 Nano」よりも、スティッチングで重要になる2つのレンズ間の距離が長いですが(「Insta360 ONE」はカメラ本体の幅35.34mmm、「Insta360 Nano」はカメラ本体の幅21mm)、今後のアップデートでリアルタイムスティッチングが改善されることを期待したいです。

さらに「Insta360 ONE」は、マニュアル撮影にも対応。ISO感度とシャッタースピードを調整できます。ただし、シャッタースピードは最大2秒までと「THETA」の様な長時間露光はできず、星空など暗所で撮影したいという場合は「THETA」の方が適しています(※2017年9月15日修正・追記)

シャッタースピードはiPhoneに繋げた状態で撮影する際は最大2秒ですが、Bluetooth接続でリモート撮影する際は最大60秒までの長時間露光ができます。「THETA」と同じような夜空の星を撮影することも可能です。

・ISO:100~6400
・シャッタースピード:1/4000~2秒
・ホワイトバランス(「自動/Suny/曇り/白熱灯」の4モード)

360度静止画を編集ソフトで本格的に加工したいという方にとっては、RAW形式で撮影できるのも魅力です。RAW形式の静止画はスマホアプリからプレビューできませんので撮影後すぐにSNSにアップロードなどはできませんが(RAW形式とそうでない形式の2つが保存され、構図などはスマホアプリからも撮影後に確認できます)、USBケーブルとMicroSDカード、スマホからネット経由でPCにデータ移転することが可能です。

ステッカーやフィルターなど遊べる機能も満載

筆者お気に入りのステッカー機能。360度静止画だと、普通の写真よりもたくさんのステッカーを貼れます。これが意外と面白い。

最近ではインスタグラムなどのSNSの他に、CDのジャケットやテレビCMでも目にする機会が増えたリトルプラネット写真/動画。「Insta360 ONE」でも標準搭載されており、360度カメラのスタンダートな機能になったと言えます。

発色の部分などは、フィルターを上手く使えば結構ごまかせます。商業用途や写真が趣味という拘りのある方でなく、SNSに共有して楽しむという方であれば、フィルターで加工してしまうのが良いでしょう。

また、撮影と編集が同じ1つのアプリで可能なことも特徴。「Insta360 ONE」をiPhoneに直挿しした状態であれば、スマホに写真を転送する時間もゼロなので、撮影後すぐに加工編集して、SNSにシェアできます。このユーザー体験の良さは「Insta360 Nano」と「Insta360 AIr」から引き続き健在。また、Bluetoothでのリモート撮影も可能。「Insta360 ONE」独自の接続方式で、アプリの撮影画面からBluetooth接続させるため、最初は違和感を感じましたが(そして非常に分かりにくい……)、慣れると一手間省けるので楽に感じられます。既存の考えに囚われないUI/UXを採用する姿勢は、スタートアップ製品ならではと言えるのかもしれません。

左下のBluetoothボタンを押すと接続するカメラの選択画面に移ります。

驚異の60fpsの360度動画とライブストリーミングも簡単で安定した動き

「Insta360 ONE」の360度動画は、4K(3840×1920)30fpsが標準となります。また、カメラ単体で撮影する際にはフルHD(2560×1280)60fpsの360度動画で撮影されます。

上の動画は実際に「Insta360 ONE」単体で60fpsの360度動画を撮影したものです。こういったコンシューマー向けの360度カメラで60fpsの360度動画を撮影できるのは驚きです。解像度は低めの設定ですが、オリジナルデータの発色は綺麗です。PCとスマホの小さめのディスプレイで見るという用途ならば問題ない印象を受けました。ただし、カメラ単体撮影時に4K30fps動画とフルHD60fps動画のどちらかを選択できないのが、現状の課題の1つと言えるでしょう。また「バレットタイム」だと水平がしっかりと取れているのですが、動画だと補正が弱いのが不思議です。手ぶれ補正機能はあるはずなのですが、この動画ではその効果が少ないように感じます。

そして、撮影直後に転送時間無しで、数十分の360度動画であってもiPhoneのモニターで確認できるのは、Lightning端子直挿しの大きなメリットと言えるでしょう。360度動画は記録容量が莫大なため、Wi-FiやBluetoothの転送時間に長ければ1時間を超えてしまうなど、大きな時間がかかってしまうことがあります。スマホで動画をチェックできる機能は大きな魅力に感じました。

また、「Insta360 ONE」の360度動画の欠点に感じたのが、現状のアプリではジャイロセンサーによる水平の補正ができないこと。Insta360が無料で提供する編集ソフト「Insta360 Studio」で「ジャイロスコープスタビライゼーション」機能を使い、動画編集をしないと水平の補正ができません。LOGファイル形式の編集やInsta360独自の高度なスティッチング方法「オプティカルフロースティッチング」などは仕方無いかとは思いますが、やはりスマホで撮影から編集まで完結できると便利です。

360度のライブストリーミングもスマホに直挿しして4G回線で行えるのも非常に楽です。ライブストリーミングのプラットフォームはYouTube、Facebook LIVE、Twitterの運営するPeriscope、RTMPなどに対応しています。

筆者がライブ配信を試したところ屋内で45分程は問題なく配信できました。スマホ本体も発熱してしまうので数時間連続での配信などは難しいのと、カメラのバッテリーも連続70分までとあるので、最大60分程を前提にするのが無難でしょう。また、カメラ単体での撮影の場合はモバイルバッテリーで給電しながらの動画撮影も可能です。

360度カメラの標準搭載になることを感じさせた「フリーキャプチャ」動画編集

筆者が特に気に入った機能が「フリーキャプチャ」とも「自由編集」とも呼ばれる動画編集機能です。これは、360度動画を2D動画に変換するというもの。特徴としてはカメラ角度を自由に変更することができ、ズームイン・ズームアウトなども行えることです。

「フリーキャプチャ」を使えば、1つの360度動画から異なる複数のカメラワークの動画をスマホで簡単に制作できます。また、通常の2D動画なので、配信プラットフォームを選ばないのも特徴です。360度カメラならではの2D動画を撮影することができ、リトルプラネットモードの静止画のようにTLで流れてきても自然と目に止まりやすく、また何よりも編集すること自体が楽しいです!初めてインスタグラムに触った時の「スマホで簡単にオシャレな写真をフィルター加工できる楽しさ」に似た感覚を感じました。

参考:話題のあの動画の作り方―Insta360 ONEを使い360度動画から2D動画を作る
http://www.moguravr.com/insta360-one-2/

この「フリーキャプチャ」機能自体は、先にGoPro製「Fusion」が発表をしましたが、市場に出すのは「Insta360 ONE」の方が早いという結果になりました。「Insta360 ONE」のプロモーションビデオも良く言えば「Fusion」のプロモーションビデオから強い影響を受けている、穏やかに言えば非常にとても良く似た連想させるシーンを使っていることが分かります。

「Fusion」のプロモーションビデオ

「Insta360 ONE」のプロモーションビデオ

製品への満足度は高いが、発売時の完成度には疑問も……今後のアップデートに期待!

「Insta360 ONE」は、非常にハイスペックな360度カメラで、筆者も身近な知人やMogura VRの読者に対してオススメできる製品であるのは間違いないのですが、正直な感想を言えば「これは果たして完成品なのだろうか……」と思わざるを得ませんでした。多くの日本企業ならば、市場に出さないベータ版の完成度でしょう。少なくとも日本企業ならあの不安を与える細い紐は間違いなく同梱しません。

スティッチングのズレが出てしまうのは、最初はこんなものかなとも思うのですが、アプリで操作していると急に中国語が出てきたり、HDR撮影がまだできない点、特にiPhoneに接続した際にスマホのジャイロセンサーと連携できずに静止画や動画が横に回転したものになってしまうのは、正直なところ勘弁して欲しいなと思いました……。スマホのジャイロセンサー連携はカメラの個体差かiPhone本体が原因なのかもしれませんが、iPhone SEとiPhone6Sで確認したところ、2つともジャイロセンサー連携が取れていませんでした。

上の画像は「Insta360 Nano」アプリのAppStoreの更新履歴。「Insta360 Nano」のiOSアプリは月に1回以上のペースで更新されてきました。
「Insta360 Nano」は定期的にカメラファームウェアが更新され、現在はv1.43と1年で4回の大型アップデートがされています。

上の画像のように、Insta360はアプリとファームウェアの更新を頻繁に行うのも特徴ですが、次回のアップデートでどれだけ改善されるのか。すでに所有している方はもちろん、購入を検討している方や興味を持っている方も、更新時に改善項目だけでもウォッチするのが重要かと思われます。

「Insta360 ONE」はハードウェアの性能としては非常に優れていますし、「バレットタイム」と「フリーキャプチャ」といった360度カメラの新しい楽しさも提供しています。課題はソフトウェアの部分がほとんどなのは間違いないです。筆者は「Insta360 ONE」を個人のお金で実費購入しているので、今後のアップデートを祈るばかりです。


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