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業界動向 2019.04.16

【講演レポ】バンダイナムコアミューズメント「VR ZONE」チームが振り返る、施設型VRの3年間

2019年3月23日から27日にかけて、大阪でVRの学術国際カンファレンスであるIEEE VR 2019が開催されました。最終日にはVR体験施設「VR ZONE」を展開・運営する株式会社バンダイナムコアミューズメントの小山順一朗氏と田宮幸春氏が登壇、「日本のロケーションベースVR」および「エンターテインメントとしてのVRの未来」について基調講演が行われました。本記事では、この講演の内容をレポートしていきます。


(写真左:田宮幸春氏、写真右:小山純一朗氏。両名ともVR体験施設「VR ZONE」の立ち上げや運営、コンテンツ開発などに携わっている。名実ともに日本における施設型VRの第一人者だ)

目次

1. 日本で施設型VRが発展した理由
2. VR ZONEの誕生と展開
3. この3年間、施設型VRはどうだったのか?
4. 2020年のVRエンターテインメント

1. 日本で施設型VRが発展した理由

VRヘッドセットOculus Riftの開発者版であるDK2がリリースされたのは2014年。当時から日本の開発者の間では、Ocufes(現JapanVR Fest)などのイベントを開催するなど、「VRを使って何か面白いものを作ろう」という動きが見られました。

2016年のいわゆる「VR元年」前後から精力的にVR事業を手がけている企業を、「VRを始めた目的」によって田宮氏は4つのカテゴリに大別しました。

A. 昔からゲーム開発をしていた老舗の会社

まず一つは、元々ゲーム開発を行っていた老舗の会社です。バンダイナムコグループや大手ゲーム会社などが例として挙げられました。このグループは、VR技術を使ってゲームをより良くし、それを利益にうまく繋げていきたいという目的を持っていると田宮氏。

その一方で、VR体験用のハードウェアがゲーム機として広く普及しないうちは、最小限の投資でなんとかする……というリスクヘッジも必要です。結果としてこのグループでは、PlayStation VR(PSVR)で遊べるコンテンツの開発を少しずつ始めることになります。全編がVR対応ではなく、VRモードを搭載したPS4向けコンテンツなども見られます。

そういう意味では、バンダイナムコエンターテインメントが製作したPSVR専用タイトルである「サマーレッスン」や、バンダイナムコアミューズメントが主導となって展開しているロケーションベースの「VR ZONE」はレアケースとのこと。バンダイナムコグループは、一つのグループの中で企画・開発・運営の全ての部門を持っているため、ロケーションベースVRなどをトータルでプロデュースしやすかった、と語りました。

B. ソーシャルゲームで急成長してきたグループ

次に、スマートフォンを中心とするソーシャルゲームで成功を収めたグループ。彼らはスマートフォン向けゲームの時と同様、早い時期からVRという次のプラットフォームにアプローチしたいと動き出しました。

そこでゲームに限らず、将来的に利益を生みそうな実写全天球動画や実用方向にも目を向けて投資活動を始めます。ただし、投資活動はまだ始まったばかりで、回収できる段階には至っていないのが現状です。

C. テーマパークを運営していた

一方で、テーマパークを運営していたグループもあります。このグループは、VRなどの話題になる先端技術を用いて施設の鮮度を保ち、新しい来客を呼び込むという目的があります。

C. いち早くコンテンツ制作を始めたインディーグループ

4つ目は、「とにかくVRの素晴らしさを広めたい」という目的を持つ、いち早くコンテンツ制作を始めたインディー(スタートアップ)のグループです。このグループでは、最初期から開発に取り組んでいたために技術力はあったものの、大勢に体験してもらうことや投資を回収することに苦戦していました。

そこで、こうしたインディーグループがテーマパークと協力する流れが生まれました。技術を持っている集団と、体験を提供する場を持っている集団がうまくマッチングしたのです。これが日本におけるロケーションベースVRの発展の一つの要因だった、と田宮氏は語ります。

2.VR ZONEの誕生と展開

バンダイナムコアミューズメントは、既に1990年代からVR技術について研究開発を行なっています。テーマパークのアトラクションやドライブシミュレータ、「体感ゲーム」と呼ばれる大きな筐体など、様々なプロダクトの開発に取り組んでいました。1990年代からVRヘッドセットを用いた筐体連動型の体験制作も試験的に行なっていたとのこと。


(2006年に稼働した「機動戦士ガンダム 戦場の絆(©創通・サンライズ)」などもその一例)

2005年頃からはドームスクリーン型の没入ゲーム「機動戦士ガンダム 戦場の絆」もアーケードで展開。こうした研究開発の流れにあって、当然2012年に発売されたOculus Rift DK1を使った実験も行なっていたそうです。

2016年には、ロケーションベースのVR体験施設「VR ZONE Project i Can」が、お台場で期間限定オープン。集客力、料金、VR酔い、体験時間、使用したキャラクターの印象などを数値化し、定量的に徹底解析することで次の展開につながった、と田宮氏。


(お台場で期間限定営業した「VR ZONE Project i Can」)

お台場の試験運用から得た知見を活かし、VR ZONEは2017年7月に「VR ZONE SHINJUKU」うをオープンします。

VR ZONE SHINJUKUでは、お台場のVR ZONE: Project i Canから新たに9つのタイトルが追加されました。新しいタイトルのコンセプトは「友達とみんなで楽しめる体験」です。「マリオカート アーケードグランプリ」やなどの多人数プレイから、かめはめ波を放つドラゴンボールVRなど外から見て楽しいものまで、様々なアクティビティが用意されていました。

VR ZONE SHINJUKUは2019年3月を以って無事に営業を終了しています。続いてコヤ所長こと小山氏が、VR ZONEを例にロケーションベースVRの3年間を振り返りました。

3. この3年間、施設型VRはどうだったのか?

最初に、VR ZONEに来店した客層の時期的な変化について。

まず、2016年のオープンから1年間は「先端技術に興味を示す好奇心旺盛なギーク」がメインでした。彼らは好奇心を満足させた後、リピーターになることはほとんどないそうです。

2017年までにギーク層のほとんどはVR ZONEに来店し終わり、そこから現在に至るまでは代わりに「リア充グループと外国人観光客」が入ってきたと小山氏。リア充グループとは、友人間で話題になるオシャレな体験に興味を示し、SNSに体験の写真などを投稿する層のこと。彼らはほとんどの場合、友達と共に来店します。彼らもまた、一度体験したものを再び話題にすることは少なく、リピーターにはなりにくいのが現状なのだとか。

このギーク層とリア充層はそれぞれ特質が異なりますが、どちらも「普段はゲームセンターやアミューズメントパークに来ない」という点で共通していると小山氏。

日本は2000年代初頭に、法律改正によって巨大な大型ショッピングモールができました。こういった施設には必ずといって良いほどゲームコーナーが併設されています。ただし、ショッピングモール内のゲームコーナーでは、施設の主な客層であるファミリー層に合わせてクレーンゲームやシールプリント機、メダルゲームばかりが増えていきます。

 

そこでアーケードゲームを展開する従来のゲームセンターは、「音ゲー」や「格ゲー」、麻雀など、ライバル同士で競わせるゲームに焦点を当ててサービスを展開していくようになりました。ゲームセンターは一タイトルだけを目的にしてくる「ゲームマニア」向けの店になり、その結果としてギーク層とリア充層の足が遠のいたのだと考察しています。

小山氏によると、施設事業の売り上げは以下の3要素でできているそうです。

 (1)新規顧客が来る
 (2)リピーターが増える
 (3)顧客一人あたりが体験に費やす金額が多くなる

ロケーションベースVRでは、VRの話題性から(1)、そして一体験が1000円程度と従来のゲームセンターに比べて高いので(3)も達成できています。しかし(2)のリピーター獲得はなかなかできておらず、現状最大の課題なのだとか。最初は盛り上がったけれど、来店する客が徐々に減っていったのがロケーションベースVRの3年間だったそうです。

4. 2020年のVRエンターテインメント

2019年3月にVR ZONE SHINJUKUは営業終了を迎えましたが、今後VR ZONEは、そしてVRエンターテインメントはどのように発展していくのでしょうか。

小山氏は「一体型で6DoF対応(※)のVRヘッドセットが登場することで、ようやく必要なものが揃い、エンタメVRが一気に広まるための準備が整いつつある」と言います。例えば2019年には、6DoF対応の一体型ヘッドセットOculus Quest等がリリースされる予定となっています。

(※6DoF……ヘッドセットであたりを見回すことが出来るだけではなく、現実で動くとバーチャル空間においてもその動きが反映されること。例えば現実でしゃがむと、バーチャル空間の視点も下方向に低くなるなど)

VR ZONEに関しては「2019年現在までに、もともとVRに興味を持っていた人達はほとんど来店し終わっている」と小山氏。そこで2020年以降、VRが広がっていくにつれて、VRに興味を持っていない人たちをターゲットにするように戦略をシフトしていくとのこと。

例えば、値段を下げてVR体験のハードルを下げる、繰り返し遊びたくなるコンテンツを開発する、体験者を満足させることに特化したサービスタイプのコンテンツを開発するなど、「一回の鮮烈な体験を作っていた」という現在から、「繰り返し簡単に遊べる」スタイルへと方針が変わっていきます。

小山氏は「2019年は、その大きな第一歩となると思います。現在ほとんどの人が『リッチな映画』『座って周囲を見回すもの』程度に思っているVR技術は、6DoFの一体型ヘッドセットによってついに真価を発揮しはじめるでしょう」と、小山氏は語りました。


(VR ZONEで体験できる「ドラゴンクエストVR」体験風景。現在はバックパックPCを背負って体験しているが、こうした「歩き回る」VR体験に使われるデバイスは、将来的には一体型ヘッドセットに置き換わるだろう)

「今後、VRは『VR』という名前でお客さんを連れてくることはできなくなる」と小山氏は語ります。かつてカーナビや人工衛星のために開発されたGPSという技術が、今や空気のように透明なもの、どこにでもあるものとなり、実用からエンタメまで様々なところに応用されているように、VRもやがてインフラに浸透した透明な技術になる可能性は十分にあります。

「すでに社内での技術検証や研究開発も進んでいます。一体型ヘッドセット出ないと実現できないユニークなアイデアがたくさん見つかっており、我々は非常に興奮しているところです」と小山氏がコメントし、講演を締めくくりました。


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