【インタビュー】VRで「生きる」アイドルを 講談社のVRアイドルプロジェクト『Hop Step Sing!』

「会いに行けるアイドル」というキャッチコピーが存在することからもわかるように、「アイドルに会う」というのは、ファンにとって非常に嬉しい体験ですが、なかなか実現しないものです。

では、「VRを使ってアイドルを目の前に出現させたら?」というのがいわゆる「VRアイドル」コンテンツで、ライブを間近で見ることができるもの、アイドルとデートができるものなど、様々なコンテンツが公開されています。

今回インタビューしたのは、講談社のVRアイドルプロジェクト『Hop Step Sing!』を手がける講談社の松下友一氏。『Hop Step Sing!』は、虹川仁衣菜(にじかわ にいな)、椎柴識理(しいしば しきり)、箕輪(みのわみかさ)の3人で構成されるアイドルで、「VRコンテンツが大元のアイドル」という、他のアイドルものとは違った特色を持っています。
現在、スマートフォン向けに2曲のMVがVR動画として配信されているほか、PC向けのハイエンドHMD版もあり、現在は第一弾楽曲「キセキ的Shining!」がPCショップの店頭体験会などで体験可能です。


インタビュー前に「キセキ的Shining!」を体験させてもらった筆者の様子。PC向けの「キセキ的Shining!」は、HTC Viveのコントローラーがサイリウムになっていて、実際にライブ感覚で振ることができます。

●松下友一氏プロフィール
ノンフィクション部門や漫画誌「アフタヌーン」の編集部などを経て、現在は講談社第四事業局キャラクターVRチーム。プロデューサーとして、VRコンテンツ「Hop Step Sing!」ではキャラクターデザインのtanu氏、音楽制作のランティス、世界観・デザイン等設計のクロノギアクリエイティヴ、VR映像制作のポリゴン・ピクチュアズなどのパートナーと共に製作を担当。

VRアイドルが「生きている」 キャラクターに命を吹き込むこだわり

――VRのアイドルと言うとキャラクターなので、人間と比べて「実際に生きている」と感じさせるのが難しそうですよね。いくら可愛くても「あ、これはキャラクターなんだ」って思った瞬間に冷めてしまう。工夫などされたのでしょうか。

松下友一氏(以下敬称略):
そこがまさに、一番こだわったところです。あえてコミュニケーションの要素を入れていないんです。

――確かに『Hop Step Sing!』は基本的に見るだけですよね。

松下:
現状の技術だと、僕が満足する自然なコミュニケーションはまだ難しいと思っています。特に、目の前に圧倒的な存在感のあるキャラクターがいるのに、プログラムに則った行動しか取らないとものすごく冷めるんですよね。「こいつは所詮プログラムの入った人形」みたいな感じになってしまって。
『Hop Step Sing!』はキャラものなので、歌の前後にストーリーをつけてもいいはずです。でも、まだVRでのストーリーをつける方式が、自分の中で納得できるやり方がまだ見つけられていないので、歌と踊りだけに絞りました。ただし、観客と演者という距離感の中でできるコミュニケーションは追求していきたいと思っています。

――たとえばどういうところでしょうか。

松下:
2曲目の「kiss×kiss×kiss」のVive版では、キャラクターの目にプログラムが入っていて、ほんの少しだけ自分の方を見るようになっているんです。本当に言われないと気付かない程度ですが。
絵的に破綻のない範囲で動かすと、実際は角度にして数度くらいしか動かないんですけど、それだけでも「生きてる」って感じがします


kiss×kiss×kiss

――リップシンク(唇が歌詞に合わせて動くこと)にもこだわっていますよね。

松下:
ものすごく気を使っています。ちゃんと「あ・い・う・え・お」で全部違うパターンで口の開きを作ってやっています。声優さんの歌唱収録の際に口元も録画させてもらっていて、その動きも参考にされています。その辺は、今回制作をお願いしたのがポリゴン・ピクチュアズさんとILCAさんなので、とても丁寧に作っていただきました。それなりにコストが掛かりましたが、今はVRコンテンツを作ってもどうせ儲からないので、儲からないときにケチってもしょうがないなと。むしろしっかりクオリティを追求して、自分たちの中にノウハウを溜めていった方がいいだろうと思っています。

――実際に、ここまで2曲作ってきてノウハウは溜まってきている実感がありますか?

松下:
そうですね。1曲目はほぼVRを作ったことのない人たちで作ってたんですけど、2曲目はかなり変わったと思います。空間音響も搭載しましたし、空間音響を活かせる演出も盛り込んでいます。
まだVRにおける映像の演出技法も確立されてない状況ですから、いま頑張れば、自分たちのやったことが業界のスタンダードになるかもしれないっていう興奮はあります。早くからやっておけば大きなアドバンテージになるかな、と思っています。

「Twitterでの活動日誌も一つのVR」VRアイドルのプロデューサー業

――ところで、『Hop Step Sing!』はどのようにしてスタートしたのでしょうか。

松下:
もともとは2014年にあった社内公募でした。「若手よ、新規事業企画を出せ」っていう謎のおふれ。僕はもともとパソコンとかが大好きだったので、「デジタル発」でキャラクターを作っていく企画を出したら運良く通りました。

――もともとはただのキャラクター企画だったということですか?

松下:
そうですね。ただ、計画の中に「いずれはVRも」と思ってはいたんですよ。

――声優さんのキャスティングはどのように?

松下:
完全オーディションです。「こういうことやるかもしれない」って目一杯条件つけて、それでもやってくれる人って募集をかけたんですよ。
かなり無茶な条件つけたんですけど。「モーションキャプチャースーツ着てもOK」とか(笑)
具体的な数は出せないのですが、若手の方を中心にそこそこの人数が集まってくれました。指出毬亜さん(虹川仁衣菜役)はオーディションのときにはまだ高校生した。


指出さん演じる虹川仁衣菜ちゃん

――松下さんの役回りとしては、やっぱり「P」(プロデューサー)になるんでしょうか?

松下:
PはPでも、どちらかというと営業ですかね。ものを作ったはいいけど、どうやってお金に変えればいいかを考える役割です。
あとはどんな技術で遊ぶかっていうところですね。Perception Neuron(※)を買ったのもそれで、「これがあれば新しいキャラクターの魅せ方ができるな」と。

Perception Neuron:モーションキャプチャーデバイス。モーションキャプチャーデバイスとしては安価な価格帯、制作ツールとの高い互換性などが特徴です。

――VRの展開だけでなく、「活動記録」としてTwitterでマンガを配信されていますよね。

松下:

僕はあれも1つのVRだと思っています。ちゃんと現実の日時とシンクロさせてあるんですよ。学校帰りの話だと4時半くらいとか、アルバイトは平日ならたいていは5時〜9時でやっている設定になっているので、仕事中の話だったらちゃんとその時間帯に出したりとか。そうすると、一緒に日時を送っている気分になれるんじゃないかと思っていて。だから、僕の中ではあれも1つのVR。

国境を超え、「どこにでもいるアイドル」を目指して

――今はスマートフォン向けの配信のみですが、対応するプラットフォームもやデバイス少しづつ増やしていくのでしょうか?

松下:
そうですね。一応「全方位戦略」を掲げていまして、SteamでHTC Vvie向けにも配信するつもりなんですよ。僕らの理想としては「VRやってたらどこ行ってもこのキャラいるな。もういいよ!」って言われるくらいまで、「VRといえばこの子たち」ってところまで持って行きたいなって思っています。開発費はかかるけども、ここで「どこ行っても見るな」にしておけば、この先、好きになってくれる人が世界的に増えるかな、と。
マネタイズの中心は海外だと考えているため、海外市場にも注目しています。VRをやっている以上、国境を問わずいろんな人が参加できるものがいいな、と思っています。どこの国に住んでいても見られるようにしたいですね。
実は公式サイトは英語と中国語に対応しているんです。

識理ちゃんこと椎柴識理ちゃん(左)、みかさこと箕輪みかさちゃん(右)

Hop Step Sing!制作秘話

――1作目2作目ともに有料(360円)で配信していますが、価格設定について悩まれたのではないでしょうか。

松下:
悩みましたね。誰も見たことがないものなので。まあ音楽配信1曲分くらいが妥当かな、と思ったんです。体験としては聴くだけですし。今思うと少し安かったかな、という気もしますけどね。Steam版はクオリティも上がるので、スマホ版よりは少し高く設定するかもしれませんね。
VR単品では絶対に儲からないので、そこを軸にどうやって広げていくかっていうところで毎日考えています。一応会社員なので事業計画とか書かなければいけなくて、そこには華々しい内容がいっぱい並んでいますけど(笑)

――目先のマネタイズにこだわらず、中長期的な目線で進められているんですね。

松下:
これからVRがどんどん普及していくだろうという予測のもとに取り組んでいます。VRがある程度普及するときまでに、作品を群として持っておきたいんです。たとえば、番組を作っていたとしたら、その録画を50本とかポンと出せるわけですよね。VR用の「hulu」みたいなサービスが出てくると思うんですが、そういうところに出していくことができるようにしたいなと思っています。

――『Hop Step Sing!』はリッチなグラフィックが特徴的ですが、移植のときに苦労しそうですよね。

松下:
そうですね。スマホ版はプリレンダリングムービーなので、実態は360度動画なんです。でも、ポジショントラッキングがあるとやはりVRとしての楽しさが全然違うので、リアルタイムレンダリングで楽しめる場面を増やしていきたいと思っています。
※プリレンダリングとリアルタイムレンダリング:プリレンダリングは事前に演算して動画として書き出したもの、リアルタイムレンダリングではその場でリアルタイムに演算を行うもの。プリレンダリングを用いると、再生するのに要求されるスペックは低くなる一方、ポジショントラッキングが不可能という欠点も抱えています。

――曲を作って振り付けを考えるだけでなく実際にキャラを動かして……。1曲作るのにどれくらいの期間がかかっているのでしょう。

松下:
最短で3ヶ月ですね。1曲目、2曲目は3~4ヶ月くらいでできたんですけど、今取り掛かってる3曲目はもう少し時間がかかってしまいそうです。

Hop Step Sing!の今後

――ここまで2曲出されましたが、3曲目も制作中なのでしょうか。

松下:
ちょうど作っているところです。1曲目、2曲目は3ヶ月くらいでできたんですけど、3曲目はもう少し時間がかかってしまいそうです。1曲目はわかりやすくアイドルらしい曲で、2曲目がずいぶん大人っぽい方面に振ったので、じゃあ3曲目は割とパワーのある感じで行こう、と。あと、リリース時期が夏の匂いがしてくる頃になってしまいそうなので夏っぽい曲にしようかと思っています。

――楽しみですね。今後の展開としてはライブをしたりする計画はありますか?

松下:
ライブもいつかはと思っていますが、他にはVR空間で生放送のバラエティ番組をやろうと思っています。Perception Neuronを使って。
大げさに言うと「SMAP×SMAP」を作ろうって話ですね(笑)。彼女たちの冠番組を作りたいんですね。
準備は整っているので、あとはもうやるだけです。

――そういう意味ではかなりクオリティの高い3Dモデルなので活用の可能性が高そうですね。

松下:
どんな形になるかわからないですけど、Windows Mixed Realityに対応したARアプリを出そうとは思っています。
また、ゲーム化も、一緒にゲームを作りたいって言ってくれる会社さんと出会えたら、ぜひとも前向きに検討したいと思っています。
ほかにも、いつかVR空間での合同フェスをやりですね。ステージ4つくらいあって、常時どこかでバーチャルアイドルがライブしてる、みたいな。

――松下さんの親としての発想が次々出てきますね(笑)3曲目やトークライブなど今後の展開に期待しています!

この記事を書いた人

  • writer_N/R

    高校2年生です。ニコニコ超会議でOculus Riftに出会い、その後友人にGear VRを布教されてVRの世界に入りました。VRの楽しさと可能性を伝えられればと思い、ライターをやらせてもらっています。

    Twitter:@8088nrN

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