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業界動向 2019.09.19

VRを使った施設は“ゲームセンター”から脱却できるのか?バンナムが「MAZARIA」に込めた狙い

8月4日に開催されたゲーム開発者向け勉強会「出張ヒストリア!」にて、東京・池袋で7月にオープンした「アニメとゲームに入る場所 MAZARIA」に関するセッションが2つ開催されました。

その中で、株式会社バンダイナムコアミューズメント「Project i Can」のコヤ所長ことクリエイティブフェロー・小山順一朗氏タミヤ室長こと企画開発部イノベーション課マネージャー・田宮幸春氏「VR ZONEがMAZARIAになったワケ」というセッションを行いました。


(左から、コヤ所長こと小山順一朗氏、タミヤ室長こと田宮幸春氏)

どうして「MAZARIA」には「VR」という言葉がついていないのか。「MAZARIA」が持つことにした「テーマ」をいかに施設・運営設計に盛り込んだのか。それらが語られたセッションの様子をレポートをします。

「VR ZONE」進化の歴史

「MAZARIA」が「VR」という名前を冠していないことについて、2016年より「VR ZONE」のトータルプロデュース(開発&運営)を行ってきたコヤ所長とタミヤ室長は「VR ZONE」の歴史から説明を始めます。

「VR元年」と言われる2016年4月、バンダイナムコエンターテインメントはお台場にて「VR ZONE Project i Can」をオープン、VRエンターテインメント研究施設として実験を始めました。

当時のVRは、VRが好きな人がコンテンツを作ってお互いに見せ合っていたという時代でしたが、「VR ZONE Project i Can」では最終的に9タイトルのアクティビティを展開しました。お客さんが来るか不安であったそうですが、VRエンターテインメントに関する知見と集客実績を上げることができ、次の展開へと繋げることができました。

そして翌年2017年7月にVR専用のエンターテインメント施設「VR ZONE SHINJUKU」をオープン。「マリオカート アーケードグランプリVR」や「エヴァンゲリオンVR」、「ドラゴンクエストVR」など、新たなタイトルを開発、展開をしていきます。

そして2019年3月31日、当初の予定どおり21か月に及ぶ営業を終えることになります。

「VR ZONE SHINJUKU」では、来場者の約70%がバンダイナムコが不得手とする10~20代のふだんからアニメ・ゲームにあまりがなじみがない人々で、新宿歌舞伎町の奥であるのにも関わらず60%が女性の来場者、外国人比率が約30%とインバウンド層にもリーチし、「また来場したい」と回答する人が95%にも及ぶなど、来場者の評価はよかったものであったそうです。

VR施設が持つ課題

一方で、「VR ZONE」を運営していく中で、以下のような課題も見えてきました。

・どんな体験ができる施設か、事前にお客様に伝わりづらい。
・2018年からVRだけでは話題性に乏しくなってきた。VRの認知は90%だが、実際にロケーションVRを体験しているのは6%ほど。「VRってこんな感じでしょ」と知っているけど、そこで「行かない」という判断が終わってしまっている。
・ゴーグルを被ってのVR体験は写真映えしない。「いいね」がたくさんもらえる写真や動画が撮れない。来場者の承認欲求まで満足させる体験を演出しないとお客さんが増えない。

そこで「VR ZONE OSAKA」がある関西圏にて、「VR ZONEを知っているが来ない人たち」に対してグループインタビューを行ったそうです。

関西圏にある様々なアミューズメント施設の名前が書かれたカードを見ながらグループ分けをしてもらったところ、「VR ZONE OSAKA」や(VR施設ではないが「V」で始まっている、バンダイナムコアミューズメントの)「VS PARK」は、VRという言葉は聞いたことはあるけれど、それが何であるか消費者は説明できないため、誰も語らないものとして扱われていたとのことでした。

さらに、「VR ZONE OSAKA」についてマインドマップを書いてもらったところ、VRは最新のものというイメージから、「ゲームセンターの進化版」であるという認識がされていたということが分かりました。

そして「VR ZONE OSAKA」に行かない理由が次々と上がって来たそうです。ただこれは、「興味がない」「自分には関係ない」という、モチベーションが低い人が行かない理由をあげているのであって、これらを解消したからといってVR施設に人が来るというものではないという点は留意すべきです。

「ゲームは面倒くさい」「ゲームは苦手」という人に最新の「ゲームセンター」という認識をされるということは、つまり「自分とは関係ないもの」「自分向きではない」と判断されているということです。

そんな彼ら彼女らであっても、VR ZONEのPVを見ると態度が変わったそうです。
その理由として、「彼氏や友達と一緒に取り乱すほどはしゃげること」に共感したり、「ドラゴンクエストVRをやってみたくて、友だちを集めたくなった」ことがあげられていました。

これらを踏まえ、「VR ZONEを知ってるが来ない」人たちを呼ぶには

・友達、彼氏と一緒に超はしゃげること
・遊園地であると最初からわかること
・たくさんのアトラクションがあること
・「VRなんとか」とは屋号で言わないこと

といった項目をコヤ所長はあげました。

「ゲームセンターの進化版」から「テーマ」を持った遊園地へ

ロケーションVRのターゲットについて、(日本の人口の0.8%である)VRに関心がある人々は既に来店していると考えられるため、今後はVRに関心が無い人々を対象とした、リピートを強化したサービスなると二人は語ります。

先のグループインタビューを踏まえ、「ゲームセンターの進化版」と認識されているうちはゲームが不得意な消費者は来店する理由がないと言います。いっぽうで、得意・不得意という概念が不自然である遊園地については、「新しい遊園地」ができたと消費者に伝えると「どんな遊園地?」と返ってくると続けます。

テーマを持った遊園地のことを「テーマパーク」と呼びます。では、どうしてテーマが必要なのでしょうか。

それは、日常では様々な属性を持った人々が「バラバラな方向」を向いて生活していますが、境目(スクリーニング)をくぐった先の非日常では、皆が同じ方向を向いて、安心して楽しむことができるようになるためだとコヤ所長は言います。テーマの存在が、バラバラな属性な人たちであっても受け入れられる、共感できるストーリーを作ることができるということです。

しかしながら、「VR ZONE」にはそういったテーマが無かったとコヤ所長は述べました。心が普段着のままゲートをくぐり、アクティビティに並んでいた「VR ZONE」では、中にあるアクティビティだけが目当てになり、新作がないと客が来なくなると言います。

そこで、新しく作ることになった「MAZARIA」はバンダイナムコが得意な分野を活かしたテーマとして、「アニメとゲームが大好きな全ての人々に」向けた「アニメとゲームに入る場所」と定義を行いました。そこでの哲学は「アニメとゲームの世界でロールプレイすることこそが正義」というものです。

2.5次元へいざなう施設設計とサービス設計

新施設「MAZARIA」が2次元(アニメ・ゲーム)と3次元(人間社会)の狭間にある2.5次元の場所とテーマを定義したところで、心が普段着、つまりヨロイを着た状態の3次元の我々に対し、いかのそのヨロイを脱がせて2.5次元に入らせるか。年齢・性別・価値観……それぞれがバラバラな人々が一瞬で理解できる共通のテーマを作ることにしたとのこと。

まず最初に、施設の入り口(ファザード)の壁一面に巨大スクリーン「ウォールマザリア」を作り、前を通る人々をひきつけるような、アニメとゲームのキャラクターを題材にした、ドット絵から最新のVRの表現までが入り混じる映像が流れます。

そして気になってちょっと奥に入ると、「アニメとゲームの中に入れる」という施設の魅力を伝えるPVが流れます。


https://www.youtube.com/watch?v=je_yBzNZ6N0

そして、料金を支払い入場すると、「はじまりの部屋」があり、そこで2.5次元の世界、つまりアニメとゲームの世界に入ることができると説明されます。

「ウォールマザリア」と「はじまりの部屋」については現地レポートもご覧ください。

このように、いくつもの仕掛けで来場者の心のヨロイが取り外された、つまりテーマパークである「MAZARIA」のテーマについて伝えた後も、パックマンのメリーゴーラウンドや巨大プロジェクションマッピングによるゲーム、そしてアクティビティを体験するブースもそれぞれの世界を伝える装飾で、VRゴーグルを被らなくても見ただけで伝わり、そして写真で伝えたくなるような施設作りをしたそうです。


施設だけでなく、運営面でもクレド(企業活動の拠り所になる価値観や行動規範を簡潔に表現した文言ツール)を作成し、運営面でも来場者が2.5次元で楽しめるようにしているそうです。

目的、課題、手段の因果関係を明確にしたプロジェクト

開発者向けである本セッションの最後にコヤ所長とタミヤ室長は、「正しいと思ったら舵を切り直そう」というスライドを提示しました。そしてあわせて、目的、課題、手段の因果関係について示し、目的を決めておけば、その課題を解決するための手段に集中できると強調。目的、課題、手段の関係が流れているからこそメンバーはブレなく試行錯誤に集中することができると述べました。
(あわせて、プロデューサーが目的を忘れ手段に翻弄され続けとプロジェクトは迷走し、それが「デスマーチ」であるとも付け加えました。)

実際、今年の7月オープンのMAZARIAも、「アニメとゲームに入る場所」というコンセプトが決まったのは春先だと言います。しかしながら、コンセプト、つまり目的が明確に決まっていたからこそ、従業員が同じ方向を向くことができ、無事MAZARIAのオープンを迎えることができたということです。

また、日本だけでなく世界各地で展開されている「VR ZONE」というブランドではなく、「MAZARIA」という名前を新施設につけることも、社内でいろいろ議論があがったそうです。
そうであっても、やはりVRを見せるのではなく場所を愛してもらえる施設を作るという目的をはっきりさせたこそ、「MAZARIA」になったということです。

セッション後にお二人に話を伺ったところ、やりたいことはまだまだあり、また特に海外では「VR ZONE」に比べ「MAZARIA」という名称の知名度もこれからであるといいます。いっぽうで、「MAZARIA」の階下にある「ナンジャタウン」とは施設内の階段をオープンにしたことで実際に人の流れもあり、両施設の来場に効果的であるそうです。

最新鋭の「VR」を売りにしたアクティビティ施設からVRを含めた「テーマ」パークへと、次のステップを踏んだ「MAZARIA」。他の施設も含め、今後のバンダイナムコアミューズメントの施設の展開を期待しましょう!


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