Home » 「ほぼ完全なバーチャル勤務を実現」急成長の米不動産企業に迫る


遠隔コミュニケーション 2018.07.12

「ほぼ完全なバーチャル勤務を実現」急成長の米不動産企業に迫る

今から約10年前に誕生した企業、eXp Realityは前代未聞のペースで急成長を続けています。この企業にはとある特徴があります――オフィスには一人も従業員がいません。eXp Realityの従業員は、その大半がバーチャルな世界で勤務しているのです。

株価は300%上昇、急成長の秘密とは?

2017年10月以来、eXp Realtyの株価は300%以上の伸びという急上昇を遂げています。その後同社は2018年に入ってから、7か月間で取引する不動産エージェント数を2倍近くまで増加させました。さらに2018年5月にナスダックで株式公開した際には、取引初日に時価総額10億ドル(約1,100億円)を記録。驚くべき急成長を見せています。

にわかには信じがたいことかもしれませんが、この急成長の大きな要因は同社の「オンライン・バーチャルワールド」の活用にあります。従業員や建築業者、不動産エージェントといった関係者は全員、バーチャルな世界で会議をし、教育や研修を受けているのです。

VRの世界が成長の源泉

eXp Realtyの事業は、建物の売買を仲介する、ごくごく伝統的な不動産業です。しかし、そのオフィスはVRの中にあります。本社登録や書類の保管のための場所をワシントンに、その他に物理的な住所が必要とされる場所にいくつかの土地を持っているほかは、ビジネス用のオフィスビル1棟すら所有していません。

同社のCTOであるScott Petronis氏は、メディアSingularity Hubの取材に対して次のように述べました。「バーチャルな世界を舞台にしている点は、我々の成長の大きな源泉です。もし物理的なオフィスの制約があったら、これほどまでの成長は出来なかったでしょう

この取材自体もバーチャルな世界の中で行われており、Singularity Hubの記者は同社のバーチャルシステム「eXp World」をPCにダウンロード、アバターを操作してPetronis氏に面会したということです。

互いにアバターを通じて面会したことについて、記者は電話での会話よりも、はるかに「同じ場所に一緒にいる感覚」が強く体験できたとしています。

しかしなぜ、実際の土地や建物を扱う不動産業界の企業が、実際のオフィスを使わないという決断をしたのでしょうか? インタビューの結果見えてきたのは、金融危機が促した独創的な対応力でした。

金融危機によるダメージを防ぐべく、リモートワークへ

eXp Realtyの創立者とそしてCEOを務めるGlenn Sanford氏が同社を立ち上げたのは、今から約10年前、2007年のサブプライムローン問題から連なる住宅バブル崩壊後のこと。当初オフィスを設置するための資金が不足したことから、同氏は事業のやり方の見直しを決断。同様の金融危機が起こった際、事業へのダメージを防ぎたいという狙いもありました。

そして当時は登場したばかりのGoogleドキュメント等やTrelloといったツールを活用し、クラウドベースのビジネスへと舵を切っていきます。バーチャルな世界の中にオフィスを設けることにしたのはそれから3年後、2010年のことでした。

ネット環境だけで勤務可能、通勤時のCO2排出もなし

バーチャルなオフィスのメリットの一つには、スペースを気にせずに人を雇えるということがあります。従業員はインターネット環境さえあれば業務可能です。そして経営陣も、世界中からマネジメントを行っています。CEOはワシントンから、COOはアリゾナから、そしてCFOはネバダから……。Petronis氏自身は米国やドイツ、インドなど、世界中を飛び回りつつ指揮を取っています。

Petronis氏は、「従業員たちは、実際に一緒にいて協力している実感を得られています。現実の物理的なオフィスにいて、直接会話しているのとほとんど同じですよ」と話しています。

また、eXp Realtyの従業員数は約12,000人。このうちのおよそ4分の3が毎月バーチャルな空間を使っているとのことです。これだけの人数の通勤がなくなったというだけでも、莫大な量のエネルギーが節約されたことが分かります。世界の同規模の企業と比べて、明らかにCO2排出量は少ないと言えるでしょう。

課題はコミュニケーションの活性化

現在のところ、コストの観点からVRヘッドセットを使ってオフィスにアクセスする人はほぼいません。オフィスは最新のVRデバイスに対応していますが、2Dのウェブブラウザ上で、アバターを通して歩き、会話しています。

一方でバーチャルなオフィスには課題もあります。Petronis氏は、バーチャルなオフィス内の従業員は自身の仕事だけに集中しがちで、そばにいる同僚と会話するケースが少ないと指摘しています。同氏は「我々はオフィス環境にソーシャルな要素を盛り込むべく取り組んでいます。たとえばバーを作るなど。もっと人々の繋がりを強めたいですね」と話しました。

Petronis氏は他の企業もバーチャルなオフィスを活用することは可能だと考えており、VR技術のさらなる発展を期待しています。現在eXp Realityほど事業に活用できる企業はまだ例がありませんが、今後の企業活動の在り方として、注目に値するでしょう。

(参考)Singularity Hub


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード