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テック 2015.04.18

「VRで遊ぶゲームとは何か」を求めて―コロプラ・森先取締役が語る

現在開発中のVRヘッドマウントディスプレイOculus Rift。2015年中から2016年にかけて、製品版の発売が予想されています。製品版の発売と同時に気になるのは、「どんなソフトが遊べるのか」ということ。Oculus Riftの一般発売に向け、各メーカー、開発チームがソフトを鋭意制作しています。

VR向けコンテンツの制作は主に海外で進んでいます。ゲームのプラットフォームであるSteamにOculus Rift対応のコンテンツの開発初期段階の物を公開したり、Kickstarterで体験版を公開しながら支援を募ったりと、動きが盛んです。また、ゲームメーカーも本格的に開発に取り組みつつあります。

一方、日本では、VR向けコンテンツの制作は個人開発者によるものが中心です。そうした中で、ゲームメーカーとしていち早くVR向けゲームの開発に取り組んでいる会社があります。

それが株式会社コロプラ(以下、コロプラ)です。コロプラは『白猫プロジェクト』、『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ』など人気のスマホゲームを開発・運営してきました。そのコロプラは昨年8月、自社のゲーム『the射的!』のVR版を公開しました。その後も2015年1月に人気作『白猫プロジェクト』のVR版を公開し、企業としてVRゲームの開発に本腰を入れていく姿勢を明らかにしています。

今回は、コロプラの森先一哲取締役に、コロプラのVRに懸ける想いをインタビューしました。

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森先一哲:コンシューマゲーム業界でデザイナーおよびディレクターとしてさまざまなゲーム開発に携わったのち、2012年3月に株式会社コロプラへ入社。同年10月にはKuma the Bear開発部長に就任し、『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ』『白猫プロジェクト』といったスマートフォンアプリのヒットに貢献。2014年12月、取締役に就任(現任)。

VRゲームは今までのゲームと「全然違う」

――2014年8月、Oculus Shareに『the射的! VR』をアップロードしたのがVRへの最初の取り組みではないかと思います。コロプラがVRへの取り組みを始めたきっかけは何だったのでしょうか。

森先(敬称略)
直接の理由はOculus Riftをつけてみたこと、です。去年の春だったと思います。その後『the射的! VR』の開発を始めて、リリースまで半年くらいかかりましたから。当時流通していたのはOculus Rift DK1だったんですが、VRゲームは今までのゲームと「全然違う体験」になる、と感じました。

――一番最初にやったコンテンツはなんでしたか?

森先
ジェットコースターに乗るコンテンツです。あれは衝撃を受けました。

image08ジェットコースター「Rift Coaster」(2013)

――画質は最新のプロトタイプには遠く及びませんが、未だにあれが一番いいコンテンツだと言う人も多いですね。

森先
VRの世界は解像度だけではありません。視覚だけの情報で身体がこれだけ反応してしまうのか、と感じました。

――その後も色々と体験されたと思いますが、一番印象的だったコンテンツは何でしたか?

森先
最初の頃は『Rift Coaster』にとにかく衝撃を受けていました。その後、いくつか印象的なコンテンツを体験しました。Oculus Riftの新型プロトタイプであるCrescent Bayのデモで体験できた「目の前に箱庭の街が広がっているコンテンツ」(※)ですね。『Rift Coaster』と同じで、解像度だけではないという印象でした。物が目の前にあることを感じられました。そしてもう一つ、同じCrescent Bayで体験した、「鏡の前に自分がいるコンテンツ」(※)です。鏡の下に置いてあった彫刻がまさにそこにある感覚だったんですよね。Crescent Bayを体験したときに、VRはプラットフォームになるなと確信しました

(※)Crescent Bayで体験できるデモは正式名称が明らかにされておらず、画像・映像等も公開されていない。

image01新型プロトタイプ「Crescent Bay」、フレームレートはDK2の75fpsを上回る90fps、解像度は明らかにされていない。

――VRの世界は解像度だけではない、とのことですが、VRコンテンツの没入感を深めるためにはどういうことが重要なのでしょうか。なぜ、体験されたコンテンツでは、画質が粗くてもVRの中のものが実際にそこにあるかのように感じられたのでしょうか。

森先
fps(=リフレッシュレート)が大事です。映像がどれくらい滑らかに描画されているか。描画が滑らかになるだけで、ローポリゴンであったり、シンプルなテイストの絵柄でもリアルに感じられる。それから、VRの中の物には裏側もあること。回りこんで見ると正面から見えなかったものがあった時に、ここは本当にリアルの世界と同じなんだなと思いました。

――VRはゲームの体験を深めるものになっていくということでしょうか。

森先
もちろんゲームの体験は深まると思います。しかし、VRが関わるのはゲームだけではないと思います。スマホも色々なことができ、単なるゲーム機ではないのと同じです。ゲーマーではない人も、みんながスマホを持って色々なことができます。VRコンテンツもスマホと同じように、体験できるものであれば「なんでもあり」になるでしょうね。

――そうしたVRの可能性への期待と「これまでのゲームと全く違うものができるぞ」という想いが、本気でチームを組んで取り組むという展開につながっていった、と。

森先
そうです。現在、私が管掌しているKuma the Bear開発本部(※、以下「Kuma the Bear」)でVRコンテンツの制作を進めています。3年ほど前は、携帯電話ゲームの主戦場はガラケーで、スマホの普及率はまだ数十%程度でした。弊社もガラケー向けゲームとスマホ向けのブラウザゲームを扱っていました。そうした状況の中で、スマホがこれから標準的なプラットフォームになってくる。すると、求められるようになるのはおそらくネイティブ(端末内のCPUが直接処理を行うタイプ)のコンシューマゲームのようなリッチな表現を盛り込んだものだろうと考えました。そこで、スマホネイティブのゲームを作るためにKuma the Bearというチームを作り、業界的にもいち早く取り組んだので今の我々があるのだと思っています。

(※)Kuma the Bear開発本部:『白猫プロジェクト』、『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ』などを開発・運営している

――そういう意味では、VRにいち早く取り組む今のコロプラさんの姿勢は、スマホゲームの開発を始めたときと同じということなのですね。

森先
Kuma the Bearは新しいものに挑戦していくチームですから。今、我々がスマホゲームに取り組んだ時と同じ流れがきていると思っています。OculusRiftなどのVRヘッドマウントディスプレイはスマホと同じように、おそらくプラットフォームになるのではないかと。その時に良い物を出していけるようにようにしたい、ということで今から準備をしています。スマホネイティブのゲームを作ろうとした時のKuma the Bearをもう1回やろう、そんな気持ちです。

頭を使ってアイデアをひねり出していかねばならない

――実際の取組みとして昨年公開された『the射的!VR』や『白猫VRプロジェクト』といった既存ゲームの移植について伺います。それぞれのタイトルを選んだ理由はあったのでしょうか。

森先
『the射的!』は僕が選びました。『the射的!』はカメラが一人称視点なので、親和性が高いと考えました。カメラをOculus Riftに変えればそのままVRで体験できますので。それは間違ってなかったと思います。

image09『the射的!』

image13『the射的!VR』

――確かに元々1人称視点だとVRにしやすいですね。白猫プロジェクトのVR化を提案したのも森先さんですか?

森先
白猫を選んだのは馬場(代表取締役社長)です。馬場から「白猫の世界に入ってみたい」という話がありまして(笑)「(白猫プロジェクトには)3Dのアセットがいっぱいあるので、それを使ってやってみてよ」という感じでしたね。

image03『白猫プロジェクト』

image11『白猫VRプロジェクト』

――『白猫VRプロジェクト』ではマウス操作、ゲームパッド操作に加えて、スマホを使って操作する「Colopad」(※)の操作がありました。スマホ向けの『白猫プロジェクト』と同じように操作できるので非常に使いやすかったのですが、「Colopad」も馬場社長のアイデアですか?

(※)スマホ向け『白猫プロジェクト』では、移動や攻撃、必殺技等のアクションを指一本で快適に操作できる「ぷにコン」が採用されていた。VR版『白猫VRプロジェクト』では、手持ちのスマホに専用アプリ「Colopad」をインストールすることでスマホをコントローラーとして使い、スマホ版と同じような直感的な操作でプレイできるようになった。

森先
「Colopad」はVRの開発チームから出てきたアイデアです。「白猫プロジェクトのVR化なので、スマートフォンで同じように操作できたほうがいいんじゃないか。」という話が出てきて実装しました。また、手元が見えないHMDでも快適に操作できることも実装した理由の一つです。

――実際に既存のスマホゲームをVRに移植していく作業は大変でしたか。

森先
コロプラではUnityを使ってゲーム開発を行っているので、キャラクターの動きなどの部分はそのまま使えて比較的簡単でした。(※)スマホゲームをVRの中に持って行くにあたって一番苦労したのは、画面に配置されていたメニュー等のUI(ユーザーインターフェース)をどうするか、でした。スマホだとボタンを押せばいいのですが、VRで遊んでいると360度のプレイ画面にはボタンを置く場所がない。それでも周りにボタンを置くのか、何かアクションをするのか、そもそもポーズ(一時停止)ってどうやってやるのか……と考えた結果、最終的には、「プレイヤーが上を向くとゲーム中で一時停止し、メニューが開ける」という、ジェスチャーによる操作を採用してみようということになりました。

(※)Unityは、ユニティ・テクノロジーズが開発したゲームエンジンで、3DゲームをVRでプレイするためには、作ったゲームの構造を作り直す必要がなく移植がしやすい。

image02『白猫VRプロジェクト』では、上を向くと一時停止になってメニューが開く

――なるほど。ボタンを置く場所がないがために、代わりにジェスチャーでの操作を採用するなど、移植のために考えていかなければならないことが多かったわけですね。

森先
普通にスマホでできていたことをVRでやろうとするには、頭を使ってアイデアをひねり出していかねばならないという必要性を感じました。

――両作品とも、Oculus VRの公式共有サイトOculus Shareで公開されましたが、反響はありましたか。

森先
海外からの反響だと、Youtubeなどでプレイ動画を結構あげてもらいました。そして、反響とは違うかもしれませんが、OculusVR社から「ぜひもっと色々やってください」というお話をいただきました。ちゃんと注目してもらえた、という実感はありました。

VRで体験するゲームの正解を求めて

――2作品の移植を経て、次はVR専用タイトルに注力されているという話を伺いたいと思います。次のタイトルが、移植ではなく専用タイトルを目指しているのはどういう理由なのでしょうか。

森先
『白猫VRプロジェクト』を出してみて、出来が悪いとは思いませんが、まだ正解には至っていないと感じています。CrescentBayのデモを見て感じた「物がある感覚」とか「世界に入る感じ」をもっと追求しよう、と。

――その正解を求めたいということで専用タイトルの開発を進めてらっしゃるのですね。

森先
そうですね。次のゲームは、これまでのゲームらしいゲームにはならないかもしれないと思っています。まだ正解がどういうものかは分かりませんが(笑)こうかなあと思うものはできてきました。しかし、それを作る過程でまた別のことを思いついたりしていますのでまだ分かりません。今はまだOculus Riftユーザーがあまりいない状態なので、どういう物が求められているものなのかも分からない状況です。VR専用タイトルの開発で、移植している時とは違う手応えは感じています。

――現時点では、VRのコンテンツでずっと遊んでいられるものはまだあまりありません。長い時間遊んでいると、人によっては酔いが強くなってきたり、長時間遊ぶ際にはまだ課題がありそうです。長時間遊べるVRコンテンツづくりに向けた工夫はいかがでしょうか。

森先
もちろん酔いは防がないといけません。カメラをあまり動かさないとか、酔い防止のためにどういった対策が必要かは徐々に分かってきました。

――『白猫VRプロジェクト』もやや酔いやすいという声がありました。

森先
プレイヤーが意図しない動きをカメラがしてしまうからですね。キャラが攻撃したときに前進すると、その動きに合わせてカメラも付いて行ってしまったり。そういうことが重なると酔いやすくなってしまうので、改善していかなければならないと思っています。

――酔い防止以外にも、VRコンテンツの開発で重要なことはありますか。

森先
もう1つ工夫しなければいけないと感じているのは、3D空間内に作らなければいけないアセット(素材)の量が多くなる、ということです。3D空間で裏側から覗き込めるようにするためにはアセットも裏まで作らないといけません。長く遊べるだけの量を作ろうとすると大変になってくるので、量に頼らない設計をすることも重要だと考えています。例えば、プレイヤーは動かなくていいなど。そういう意味では、自分は動かずに動いてくる物を打つ「the射的!VR」のような形はあり得ると思います。場所は止まっているけど飽きずに見ていられる、といった工夫をしてコンテンツを作る必要があると感じています。

――自由に動き回れるコンテンツを作るとなると、膨大な時間(工数)がかかってしまいますものね

森先
工数をかけて大規模に作れたらいいんですが、すごい規模のものを作るのは厳しいので、まずはアイデアでやっていこうと。

――プレイヤー側の懸念としては、VRヘッドマウントディスプレイ(VRHMD)自体がかなりの勢いでハイスペック化している状況があります。Oculus Riftの製品版を動かすには、かなりハイエンドのPCが必要となってしまい、プレイできる人が限られてしまうかもしれません。

森先
もちろんその懸念はあります。ただ、そこまで悲観はしていません。日本はそうでもないですけど、海外ではPCゲームが主流なので、ゲーミングPCを持っている人が多いですよね。であれば、その人達はプレイできるかもしれません。また、Project MorpheusのようにPS4の上で動くVRHMDであれば、PS4を持っている人はプレイできるので、その心配も不要です。また、Gear VRのようにスマホ用のVRHMDでも心配はいらないですね。

――Oculus Rift以外に対応したゲームも出されるかもしれないということでしょうか。

森先
当然興味は持っています。モバイルVRに関しては、ポジショントラッキング(※)が使えないなど制限もあるので工夫が必要です。

(※)ポジション・トラッキング:外部カメラ等を使ってプレイヤーの前後左右上下の動きを認識する機能。しゃがむ動きやあとずさりなども認識されるので没入感はさらに深くなる

――海外だとゲーミングPCも多いということでしたが、次のタイトルも『the射的!VR』や『白猫VRプロジェクト』のように全世界に公開するということでしょうか。

森先
その予定です。リリースのタイミングもまだはっきりと決めているわけではありません。

――OculusVR社とはやりとりをしているのでしょうか。

森先
ゲームをOculus Shareに公開しており、技術的に聞かないとわからないことがあったときなど、アドバイスをいただくことがあります。

「VRで遊ぶゲームとは何か」を考えていきたい

――VRが実際に普及していった場合、ゲームの体験はどう変わっていくと思いますか。

森先
スマホと二極化していくのかなと思っています。外ではスマホ、家ではHMDとVRとなっていくのではないかと。現在の、家庭用とモバイルの関係に近いですね。僕はOculus Riftをつけてしまったら、もう外には出たくないです(笑)

――分かります(笑)そんな中でコロプラとしては一歩、先に進んでおきたいと。

森先
製品版が出た時に面白いコンテンツを出せるようになっていたいですね。

――ゲーム以外のコンテンツの制作も考えているのでしょうか。

森先
今のところはっきりとゲーム以外を考えているわけではありません。どちらかというと、今までのゲームづくりの考え方を変えようとは思っています。僕らはゲームを作るときに、「ゲームってこういうもんだよね」という頭で考えがちです。しかし、VRの中で作るものにゲーム性以外のルールは必要ないと思っています。ゲームとはこうだという考えは全て忘れて、「VRで遊ぶゲームとは何か」を考えていきたい。

――VRの登場がゲームに関する考え方を転換するきっかけになるということですね。

森先
大きくハードが変わるときが、ゲームの考え方を変える転換期だと思います。家庭用からモバイル、というのも1つの転換期でした。転換期には、それまでと同じ考え方だと良い物はできないと思います。

――最後に現在の社内の開発チームについて、話を伺いたいと思います。今のところ、社内でVRの開発チームは何人程度いらっしゃるんですか。

森先
プログラマーと3Dデザイナーが数人ずつと、チーム自体はまだ小さいです。すごく楽しそうに開発していますよ。頭を使わざるを得ないので、楽しいんだと思います。ゲームづくりって頭を使わないと面白くないんです。ガワ替えを何度も繰り返すだけだと、楽しくなくなってきてしまいます。先ほどのUIの話もそうですが、これまで誰もやったことがないVRのゲーム開発は考えなければいけないことばかりなので、楽しいですよ。

――そんな中、VRのコンテンツ開発の人材を募集してらっしゃいます。

森先
チームを増やそうと思い、採用を続けています。基本的にVRは3Dのみですから、3Dでの開発が出来る人に、是非来ていただきたいと思っていますが、ゲームづくりの経験が全くない人とも一緒にやっていきたいと思っています。ゲームを作っていた人は、既存のゲームの作り方が頭の中に強くありがちです。(全く新しい発想でゲームを作るためには)全く別業種の方でもいいのかなと思っています。研究員の人や脳科学をやっている人などと開発するのも面白そうです。

――VRのコンテンツ制作を仕事にしたいという声はしばしば耳にします。

森先
そうですね。仕事になる時代がすぐに来るのではないでしょうか。今はまだ開発段階なのでビジネスにはならないですが (笑)。

――そんな中、コロプラは会社としてVRに先行投資をしている、ということですね。

森先
はい、そうです。VRに将来性を感じて、会社として開発を進めるという決断をしています。やりきりますよ。やりたい方はぜひコロプラで、おもしろいVRコンテンツを一緒につくりましょう。

スマホゲームでは注目作を次々とリリースしつつ、VRという未知の領域に将来性を感じいち早く進もうとしているコロプラ。森先氏が語るVRに懸ける想いは、会社としても、そして個人としても期待のこもった熱いものでした。今後、国内外のVRのコンテンツ開発は一層活発になると思われます。コロプラのさらなる展開にも注目です。

※本インタビューは2015年3月に行ったものです。

インタビュー by 久保田瞬(すんくぼ)


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