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PlayStation VR 2017.09.01

PSVR『サマーレッスン』数分の技術デモからじっくり遊べる製品化への道のり【CEDEC 2017】

8月31日から3日間にわたって開催されたCEDEC2017ではVRに関するさまざまな講演が行われました。
今回は、株式会社バンダイナムコスタジオの山本 治由氏と小関 一正氏により行われた「技術デモだった「サマーレッスン」がご家庭で遊べるようになるまで ~あなたの技術デモは製品化できますか?~」についてレポートしていきます。

最初は技術デモだったサマーレッスン


『サマーレッスン』はPlayStation VR(PSVR・プレイステーションVR)専用ソフトとしてPSVRの発売と同時に販売されたローンチタイトルの一つです。


初めから販売を目標にしたタイトルではなく、最初はProject Morpheus(PSVRの開発コード名)の技術デモでした。2014年に行われたSONYのカンファレンスで初めて発表され、その話題性の高さから当初予定していた東京ゲームショーでの展示を中止し、クローズドの体験会を開催するに至ったという経緯があります。


体験会ではデモを体験した多くの人から高い評価を頂いた。しかしながらクローズドな体験会では体験できる人数に限りがあり、より多くの人に体験してもらいたいという思いから製品化に至ったと小関氏。

技術デモとは?

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続いて技術デモの話に移ります。「技術デモ」とは新しいテクノロジーや製品が登場してきた際にそれらの魅力を伝えるために作られるソフトを指す名称であり、最近はVR以外にもIoTなど新しい技術が多く登場してきており他社との違いをアピールするためによく使われる風潮があるとのこと。

技術デモの条件としては「短時間でそのデバイスの特徴を体験できること」が大事なポイントであり、デバイスの着脱や内容の説明の他、万が一プログラム停止してしまった際の対応などはアシスタントが行うためソフト的な安定性が重視されることは少ないと述べていました。



技術デモのムービーを制作する際は特徴を伝えるためにデバイスの説明を入れること、かつVRの場合はプレイしないと伝わりづらい部分があるため実際に体験した人のコメントを載せてどのような体験ができるのかをアピールする必要があるとも述べていました。

技術デモ「サマーレッスン」 体験内容ご紹介ムービー


サマーレッスン技術デモの概要としては、着脱込みで1人あたりの体験時間は7~8分程度であり、ゲームの進行や内容のサポートはコンパニオンの説明員が行っていたとのこと。また、ゲーム内容的な部分ではVRコンテンツという面での「実在感」・サマーレッスンという面での「近さ」を重視し、文字の説明を省き簡略化して首振りと注視のみのUIを入れた内容で制作したと小関氏。

製品版とは?


製品版(家庭用)の条件としては家でプレイすることを前提に考えできるだけ長く遊べること、かつ安定性を重視してバグが起きない物を目指し有償で提供することが重要であるとのこと。

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技術デモから製品化する際に「ウケたデモのコンセプトを変えてはいけない」、「デモと同じではダメで新しさが必要」という2点が課題になったとのこと。

「ウケたデモのコンセプトを変えてはいけない」に関しては「教師と生徒」・「キャラクターが近くまで来る」というコンセプトがデモで提供できていたにもかかわらず、製品版で
同じキャラクターが出て来る全く別のゲームにしてユーザーから「あのデモは良かったのに」と言われないようにすることが大事であると述べていました。一方で「デモと同じではダメで新しさが必要」という部分では、デモと同じ物を製品として出した際にユーザーの期待の上を行くことが出来ずに結果として新鮮味が薄れてしまうので、コンセプトは意識しつつも新しさが必要になります。

製品版のサマーレッスンの目指す方向性としては「技術デモでウケた要素は維持しつつ、新しさがあって家庭用としても迷いなくじっくり遊べてかつお金を頂くクオリティ」としたと小関氏は締めくくりました。

製品版への試行錯誤

ここからは山本氏に変わり、上記の方針を受けて製品化するにあたって実際に行ったことについて語りました。

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製品化において一番の課題は「じっくり遊べるVRコンテンツ」であったとのこと。「じっくり遊べる」は、何らかのトライアンドエラーができれば面白いとなったものの、「VRコンテンツ」として体験の凄さを伝えることが難しく、世間一般から見ると「VRって何?」「話題になっているけど得体が知れない」という状況だった。これに対してはゲームとして理解してもらおうという考えに至ったと山本氏。


まず最初に行った試作では家庭教師と生徒という観点からコミュニケーションに重点を置いた物にしたとのこと。上半分がキャラクターのパラメーターで、下半分がプレイヤーのセリフになっています。

この試作を試した所パラメーターが上にあるため「教え子の顔を見る必要がない」、セリフ等の専有面積が大きく「UIで視界が遮られる」、セリフを選択してボタンを押してるだけなので「プレイヤーが発言している感じがない」といった問題が浮上したと山本氏。


様々な問題が浮上したため次の試作では一旦コミュニケーションから離れ、家庭教師として教える部分を重視した物にしたとのこと。こちらでは上半分は同じくキャラクターのパラメーターで、下半分はレッスンの残り時間や勉強の進捗具合を示す物になっています。

この試作では教えている感がありそれなりに遊べる物になっていたが、パラメーターなど情報量が増えたことによりゴチャゴチャした感じになってしまったと述べていました。


これらの試作で分かったこととしては、突き詰めて行けばゲームらしい見た目や試行錯誤をすることはできるが、反面技術デモで良かった実在感やキャラクターとの近さといった要素が失われていってしまったと山本氏。

また問題点として「キャラクターとUIの共存の難しさ」があり、キャラクターのパラメーターを数値化しても生きていると感じることは難しくなります。UIは、キャラクターとの間にUIを挟むとプレイヤーとの距離がどんどん離れてしまいデモで良かったキャラクターとの近さが失われ、魅力が減ってしまいます。

製品化への考え方として、得体の知れないVRコンテンツを遊んでもらうために「今まで遊んで来たゲームと同じ手法で作られたものである」ことを理解してもらうこと、そして技術デモでウケた要素である「キャラクターの実在感」という2つのポイントは絶対に外すことのできなかった、とのこと。

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製品版のUI表示は最低限にし、できるだけテキストの量を減らすことで専有面積を減らしています。また選択後は一度プレイヤーの方に寄ってきてからキャラクターの方に飛んでいくアニメーションになっており、自然とキャラクターの方に目線がいくといった視線誘導のテクニックも使われています。


一方でゲームらしさを見せるために、キャラクターのいないシーンで表現することに決め、喫茶店のシーンではUIを多く表示。「ゲームらしさ」を全面に押し出した物にしたとのこと。

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VRコンテンツは従来のゲームと比較した場合に視覚と聴覚に対する情報量が多くなります。デモは教え子の部屋という狭い空間だったので、視覚という面では開けたシーンを追加し、聴覚の部分では波や風切り音など環境音が聞こえるといった要素を追加した、と山本氏。喫茶店のシーンではレッスンの内容を決める手順や一日のリザルト表示をすることで、キャラクターのとコミュニケーションではなくゲーム的な要素を体験する場所という認識を強化しています。


プレイヤーへの説明をするためには、プレイヤーからの入力待ちの際は必ずテキストでの説明を入れるようにし、追加でコントローラーのモデルを表示してどのボタンを押せばいいのか丁寧に表示しています。デモに無かった暗転してシーン遷移する部分では帯状のUIで状況を説明するようになっています。

じっくり遊べるという要素に関しては、ゲームらしく試行錯誤ができるものの、攻略サイトを見て遊ぶほどのレベルではなくシンプルにして、エンディングを設けることでゲームらしさを高めています。


様々な試作を行い要素を追加していくことで無事技術デモから製品化することができ、当初の目標であったより多くの人に体験してもらうことができたと山本氏。


製品化をする際に行ったことのまとめとして
・技術デモでウケた要素を維持するためにコミュニケーションとゲームらしさを分けた
・新しさとして視覚と聴覚を意識して画面を大きく変えるシーンを追加した
・家庭で遊ぶことを考慮し、適切なガイドを表示した
・長く遊べるように試行錯誤ができるようにした
・全体的なクオリティアップ
という5点を挙げていました。

最後に山本氏は「デモが手元にある人はこれを参考に製品化を目指して欲しい。また、体験会では長蛇の列で体験できない物も多く製品化して世に出ることでより多くの人に体験できるようになって欲しい」と述べ、セッションは締めくくられました。


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