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テック 2017.09.15

実写VR制作の問題点・解決策とは? ソニー・ミュージック『anywhereVR』制作事例【CEDEC2017】

 CEDEC2017三日目には、ソニー・ミュージックによるショートセッションが行われました。「anywhereVR」というVRコンテンツを題材に、実写VR制作における問題点やその解決策についての講演です。 

目次

1.酔い問題
2.ひと問題
3.天敵問題
4.ノイズ問題
5.ループ問題
6.まとめ


登壇したのはソニー・ミュージックエンタテインメントのプロデューサー阿部達矢氏、LandSkip代表取締役下村一樹氏のおふたりです。

阿部氏はソニー・ミュージックにおけるVRへの取り組みについて話します。「弊社では動画配信用のVR展開、PS4用のソフトウェアとしてのVR展開、ロケ−ションベースのVRなど、かなり早い時期から複数のVRプロジェクトを走らせていました」

そして阿部氏は「徹底した映像制作を行った」という「anywhereVR」(2016年12月発売)についての説明に移ります。


「anywhereVRのコンセプトは、VR空間に日常を持ち込み、新しい日常を提供するということ」と阿部氏。具体的にanywhereVRでは、スマホをVR空間内でいじる、VR空間内でゲームをプレイする、ツイッターのタイムラインを表示するなどができます。「つまりanywhereVRは究極の『ながらVRコンテンツ』です」と阿部氏は主張します。

「“ながら”というからには長時間使っていても苦にならないことが重要ですが、VRは長時間の使用に適さないと言われています。anywhereVRは『ながらコンテンツ』をどう成立させたのでしょうか」と阿部氏は観客に問いかけます。「我々は、撮影技術と編集技術をもって問題をクリアしました」と結論を述べ、実制作にあたったLandSkipの下村氏にマイクを渡します。

下村氏はLandSkipの紹介から始めます。「LandSkipは、その場所へ行かなくてもその空間、その風景の中にいられるようなVRを作っている会社です。VRを始める前は、主に風景を映像にして配信するなどしていました。本日は、どうすれば長時間見続けられるVR映像になるかについて、実際の撮影を通して気づいた点を皆さんと共有できればと思います」と下村氏は言います。なお、anywhereVRの撮影に使用したのはSonyのα7S2を4台、編集はKolor系(Autopano)で、Final Cutで仕上げているとのことです。 

1.酔い問題

下村氏はまず酔い問題に触れます。「酔いは移動する景色と自分の視点の移動にズレが生じたときに発生しますので、anywhereVRは三脚にカメラを固定して撮っています」とのこと。三脚に固定していても風が吹くとカメラは若干のブレを生じ、それはHMDから見ると激しくブレるので酔いにつながります。そこで三脚には重りをつけ撮影したとのことです。「ところでカメラの高さですが、立ったまま撮影すると、映像を見る人が酔うことがあります。VRは座ってみる場合が多いので、カメラの高さは人が椅子に座った状態よりも気持ち低めの、80㎝から100㎝の高さで撮影すると、実写VRの酔いをかなり減らせます」と下村氏は言います。

2.ひと問題


次に下村氏が話したのは「ひと問題」についてです。撮影したVR映像に人が映っているとぼかす場合がありますが、それをVR空間内で見ると一気に没入感がなくなります。「anywhereVRでは没入感を高めるために、360度完全無人にこだわりました。撮影をした私はこの画像でいうと船の陰に隠れています。このようにちょっとした工夫で完全無人のVRを撮影することができます」と下村氏。隠れきれないときには、時間をずらしながら一台で撮っていくパノラマ撮影形式と撮影法を使い分けていたとのことです。

3.天敵問題法

「実写系のVRで悩まされたのが天敵の雨や虫」だと下村氏は言います。「普通の撮影であれば雨が降っていてもカメラに傘を差すなどすれば撮影できますが、VRはカメラがむき出しの状態ですので、一滴の雫でも画面は水で濡れ映像は使えなくなってしまいます。虫が横切ったりとまったりしても、その映像は使えません。対抗手段としては、祈ること、そして雲の動きを予測することです」。下村氏が紹介したのは気象庁のGPVという無料でWeb公開されている仕組みです。30分後の雲を予測できるので、時間をずらしたり撮影ポイントを変えたりできるとのことです。「虫はカメラの下にファンを用意して風を送ることで追い払っていました」と下村氏。

4.ノイズ問題

プラネタリウムやアクアリウムのような、暗い場所を舞台にしたVRは没入感が高いので、人気があります。しかし安易には作れないと下村氏は言います。「暗い場所を撮影するときに問題になってくるのが、黒潰れとブロックノイズです。皆さんも暗いVRを体験した時に、ブロック状の黒いノイズがチラチラチラと出てくるのを、見たことがあると思いますが、チラチラされると没入できない。しかし映像で撮るとブロックノイズはどうしても出てしまうので、弊社では静止画を一枚一枚合成してVR映像を作りました」と振り返ります。

5.ループ問題

「長時間見ても苦にならない、の長時間とはどのくらいの長さの事でしょうか」と下村氏は聴衆に問いかけます。「長時間」が仮に30分だとするならデータ量は30ギガになり、ユーザーに負担がかかります。下村氏が言うには「anywhereVRは30秒という短い映像を継ぎ目が分からないようにループさせて、30分でも1時間でも見られるようにした」とのことです。

6.まとめ

下村氏はまとめに移ります。「長時間見続けられるVR映像のポイントは、いかにニセモノ感をなくすか。ブレをなくす、ノイズもなくす、違和感なくループさせる。こういう細かいところをやっていくことで、ユーザーさんが増え、いい映像になっていくと思います」と下村氏は共有した理由を語り、話を終えました。

最後にソニ-・ミュージックの阿部氏がanywhereVRの映像の評価を紹介しました。「anywhereVRは昨年の文化庁メディア芸術祭ではエンターテイメント部門の審査員会推薦作品に選ばれました。また高く評価してくださった企業からタイアップの話もいただいておりますし、海外からも配信してほしいという要望が来ておりますので、準備を進めております」とのこと。クオリティの高い映像を作ることで高い評価を得られること、展望も開けることを伝え、ショートセッションは終わりました。


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