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活用事例 2017.09.04

VRの災害活用 ゲームエンジンの“嘘の表現”をどこまで取り入れるか【CEDEC 2017】

この記事はCEDEC2017で株式会社ポケット・クエリーズ、佐々木宣彦氏と株式会社竹中工務店、片桐岳氏によって行われた「ゲームエンジン活用による災害事象解析データの可視化技術開発(VR複合災害シミュレータ適用事例)」のレポートになります。

このセッションではUnityを使って3年間開発を続けているVR災害シミュレーターについて、どのような工夫があったのかが話されました。

災害事象の統合・可視化

これまでの災害や避難の予測解析は、地震、家事・煙、水害といった各災害ごとにその災害の専門家が個別にシミュレーターの開発や実施を行なってきたため、統合的に可視化、体験することができませんでした。

そのために開発したものが災害事象の統合VRシステム『maXim』です。
災害はその事象をイメージして備える必要があるため、VRといった没入できるシステムは非常に“良い”イメージを与えられるとのこと。また、災害事象のみだけでなく、避難なども想定してシステムを構築しています。

特に対象としてはこれからビルを建てようとしているユーザーや、街全体の災害シミュレートなどがあげられていました。

建築CGに求められる精度

ビルは安くても数億円するなど決して安くはありません。しかし、基本的には完成を待たずに購入してもらう必要があり、3DCGを体験することのできるVRはそういった場面での活用が期待されます。

建築業界や建設業界が求めるVRは当然ですが、お客様に嘘をついてはいけないため、建築向けCGソフトであるBIM(Building Information modeling)を使った繊細なモデルであり、かつ原寸モックである必要があります。正しく、それでいて販促ツールである必要があります。

統合と可視化

現在までの災害シミュレーターは縦割りで使われていることがほとんどであり、プロ向けでした。SimTreadという災害避難シミュレーターというものが使われていましたが、これはモニター上の二次元で災害の様子をシミュレートするものです。

火災に関してはFDSというツールを使用し、熱で屋根が溶けないかなどを計算。水害に関してはツールを使用することで、津波が建物に侵入するケースなどが表現できるようになったが、計算に2週間もかかってしまった、と言います。

こういった既存のツールは一般のユーザーには総じてわかりにくく、災害現像ごとにバラバラの結果になります。そのため連鎖的複合的災害をシミュレートするのは非常に困難です。

そこで地震、火災、水害を重ね合わせて、逃げられるのかシミュレートする『maXim』を開発した、とのこと。

『maXim』ではオブジェクトのデータを時系列順にテキストデータに分割し格納しており、人だけでなく綺麗に大量の物を動かすという工夫をしています。

また、災害データや人データ、建築データを簡単にUnityにインポートするというところをめざしており、何回でもインポートをして災害事象を統合的に見ることを目標にしているとのことです。

物件の受注段階だけでなくシミュレーションをして顧客に見せたり、製作後に災害被害がどの程度あるかを確認することもできます。

ゲームエンジンの嘘

科学的に正しいだけでなく光なども正しいものが求められているシミュレーターをUnityを使って開発するとき、情報をどうやって入れるかという点もネックになります。

ゲームエンジンのもつ物理挙動計算の仕組みをどこまで信用して組み込むか。例えば光の表現だけでも、光源・反射・陰影など、ゲームエンジンが持つ“嘘の表現”をどこまで実務表現に取り入れるかが問題になってきます。

ブルームやSSAO、ライトプローブなどは使えるのではないかと考えているそうですが、リフレクションプローブを使うとことにより綺麗な反射面の作成などができる反面、残念ながらこれはかなり嘘になってしまいます。

建築CADの課題

建築用のCADソフトで設計した3Dデータをゲームエンジンで利用する際には数々の問題が発生します。

建築のデータはかなり多くのメッシュデータになってしまうため重くなってしまったり、サーフェスが重なってしまったり、足りなくなってしまうことがあります。

ゲームエンジンはどんどん機能が進化していて、簡単に開発ができるようになっていますが、それ以上のことをやろうとしているため独自のシステムを作る必要があり、ゲームエンジンの裏側を動かして行くような仕組みが今後も必要になってくるとのこと。

現在、人を押しのけるとマナーの数値が下がってしまったり、壁にぶつかるとHPが減ってしまうようなゲーム性のあるものを用意するとのことで、TGS2017でも展示予定とのことです。


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