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テック 2016.08.29

【CEDEC2016】VRの ”面白さ”とは?企画のヒントが詰まったVR ZONEの知見

8月24日から3日間に渡って開催されたCEDEC2016ではVRに関するさまざまな講演が行われました。

今回はバンダイナムコエンターテイメントの小山一朗氏と田宮幸春氏により行われた「VR ZONE Project i Canの知見、全部吐き出します!」についてレポートしていきます。

VR ZONEはどういう人に来て欲しかったか?

VR ZONEのきっかけは、「さまざまな理由があるがVRエンターテイメントで世の中の人達をあっと言わせたかった」と小山氏。

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対象として設定したのは、最先端技術が好きでVR体験会などによく行くような人達ではなくVRに関心のない10代後半~30代の男女。いわゆる「リア充グループ」と呼ばれるような人たちに体験してもらい、VRのすごさを知ってほしかったとのこと。

今後VRを発展させていく上で利益を生むためには有料にしたいが当時は無料のVR体験会がほとんどだったため有料化はリスクがあった、と田宮氏。

当初は、VR体験をしたことがない層が体験した時に何が起こるか予測できないため、90分間で20名ほどの完全予約制にしてオープン。人数に関しては徐々に増やしており、現在は1回で40名ほどが体験する状態になっています。

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「VRに関心のない層に予約制の店舗に来て3000円以上利用してもらう」という設定は、1年前の状況からしてみると考えられないことでした。しかし、この条件を達成すれば社内の取締役の人達もVRのエンターテイメントの可能性を無視できなくなるということから設定。

場所と目標価格が決まると、具体的にどのようなコンテンツを提供するかという議論に。コンセプトは、「やりたくてもできないことを実際のように体験できる」こと。大人になると子供の頃に夢見ていたものはやれないと諦めてしまうが、VRだったら可能になるのではないかというコンセプトにしたと田宮氏。ゲームでもなくアトラクションでもないため、提供するものも「VRアクティビティー」という名称にしたと言います。

「VRはすごい」というのを伝えるのは難しく、若い社員に体験させてその動画を他の人に見せた時に初めて面白そうという反応がありました。口で説明するよりも体験している人間の感情の方が伝わることが分かったので宣伝用のPVはアクティビティの一つ『高所恐怖SHOW』を体験している様子をおさめたものになりました。

https://www.youtube.com/watch?v=Sik2Fsphe80

実際に運営してみて

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来場者アンケートの結果、対象としていた20代の客層が多かったとのこと。オープン当初の平日は報道関係者やVR開発者が多く、土日にファミリーやカップルが多いという状況でしたが、今では平日でもファミリーやカップルが来場するようになったとのこと。

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収入に関しても90分間で一人辺り3,000円。遊園地が一日5,000円、ゲームセンターが
一時間1,000円というのを考えるとそれなりに上手く行った数字が出ているのではないかと小山氏。

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人気に関しては1位が『高所恐怖SHOW』、2位が同率で『脱出病棟Ω』と『アーガイルシフト』、3位が『SKI RODEO』と続きます。1席当たりの収入では、筐体の数や一度に体験する人数に違いがあるため、2位が『装甲騎兵ボトムズ』、3位が『SKI RODEO』と変化します。

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このような順位になった理由としては、「さあ、取り乱せ。」というキャッチコピーに対し本能的に叫んだりしてしまう『高所恐怖SHOW』や『脱出病棟Ω』といったタイトルに人気が集中したためではないかと考察しています。

Project iCan流のVRの解釈

ここからは「Project iCan流にVRの解釈をまとめてみた」というさらに深い考察にうつります。

「怖い!」「怖くない!」個人差のワケ

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地上200mにある板の上にいる猫を助ける『高所恐怖SHOW』では、怖がって一歩一歩進む人もいればスタスタと進んでいく人もいます。なぜこのような個人差が生まれるのかを考えていきます。

クロスモーダル現象による錯覚で実在感を演出

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VRは「現実そのものではないが本質的には現実」という定義があります。それを、VRの実在感は全てを再現しなくても重要なポイントだけを厳選して再現することで感じることができると解釈しています。「意外と人間の認識力はいい加減でそれで騙せている部分もある」と田宮氏。

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仕組み的にはその場に居るという実在感の発生から始まります。以前放送されていたNHKの「クローズアップ現代」では、ホストが実際には感じるわけではない女子高生の吐息をVR体験中に感じたという話が取り上げられました。これは「クロスモーダル現象」と呼ばれ、入力されていない感覚を感じるという現象。VR ZONEにあるスキー体験『SKI RODEO』でも雪景色と白い息、送風で寒いと錯覚する人がいるとのこと。

クロスモーダル現象の原因は、人間が認識や判断を省略したがる傾向にあります。生き物は生き残るために反応を最適化したがります。例えば天敵の足音がした時に素早く反応できるように同じパータンを何度も経験することで反応が早くなっていきます。騙される状況では、その人が得てきた経験や知識によって感じ方が変わってくることがあります。それゆえ、「いつものパータンという錯覚が起きる」と田宮氏。

キーワードは「VR共感力」

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ここで個人差を説明するために「VR共感力」という言葉が紹介されました。VR共感力には増やす力と減らす力があり、元自衛隊の落下傘部隊や高所で作業をしていた人は高所の恐怖を知っているため『高所恐怖SHOW』で扉が開いた瞬間にギブアップ。これは「実際に経験豊富」という部類のVR共感力を増やす力に当たります。更には「妄想で経験豊富」というのもあり『装甲騎兵 ボトムズ』などのIPやロボット物のお約束を取り入れた『アーガイルシフト』など、こういったシチュエーションが好きで脳内シミューションを過敏に行う人はそれだけで楽しむことができるため、VR共感力を増やす要因になります。

逆に減る要素というのは「VR擦れ」と表現されるもの。VRの経験が豊富な人ほど体験中に理屈でこうなるんだろうなと考えてしまうことを指します。「楽しむ心、信じる心」で体験している人はVR開発者でも反応が大きいとのこと。

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田宮氏は、「ファンタジーな世界でもモンスターが炎を吐いてきたときに熱いと感じたり、スターウォーズを知らない人にライトセイバーを持たせて地面に差して焦げる演出を入れるなど、前提となる共通認識を体験中に与えることで実在感が上がる」と述べ、VR共感力を意図的に増やすことも可能との考えを紹介しました。

「ゲーム」と「VR」の違いの本質

ここからはゲームとVRの違いの話に。ここでは「ゲーム」=従来のビデオゲーム、「VR」=3DCGで作られたVRゲームと定義します。

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ゲームを「旅番組を見る」と例えるとVRは「旅行に行く」ことそのものであり、ゲームは「三人称で感情移入して感動」、VRは「一人称で体験して感動」という違いがあると説明。

感情移入や感覚を表現するために使われてきた手法には注意が必要です。今までのゲームでは「お約束表現」として使われていたHPゲージ制をはじめ揺れる「カメラワーク」、雰囲気を出すための「BGM」とった表現は逆に実在感を減らす要因になってしまうとのこと。

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『脱出病棟Ω』は元々HPゲージがあり高速回転するノコギリがプレイヤーに当たるとHPが減るという演出を入れていたとのこと。実際やってみると、当たるまでは騒いでた人がノコギリが当たった瞬間に「あれ、痛くない」と思い一気に現実に引き戻されてしまった、という事例があったとのこと。

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ゲームでレバーを傾けるやボタンを押すといった動作は「意思を伝える」という操作でした。VRでは、自分の身体で「自ら行動する」ことになります。でただ歩けたり、見回せるだけでもすごく驚く、ことも可能になります。

VRは自分が動くことによる「強烈な体験、経験そのもの」を感じることでき、ゲームは「作者の狙い通りの感動体験をした気分」を感じるという差がある、とも説明していました。

VRでなくても面白いよね?

「VRでなくても面白いよね?」と言われるようなVRゲームはしばしばあります。それはルールが面白いだけで、VR体験がどうこうというものではありません。

逆にVRで面白いものとはどういう体験でしょうか。
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「去年の東京ゲームショウでOculus Touchを使う「Toy Box」を体験して抜群に面白くて、今までゲームのルールを作って人を楽しまさせてきたことがアホらしくなるくらい楽しかった」と田宮氏。

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「VRの面白さ」というのは「ゲームルールの面白さ」と同じではなく体験そのものに面白さを出すことが重要なであり、VRとして何が面白いのかを考えるべきと述べていました。

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たとえば、実物大のガンダムがお台場に設置されたときに、多くの人がお台場に足を運んで目で見ることでスゴいと言われることがありました。日本はコンテンツが豊かで、そのことに慣れてしまっていますが「実際にその場にいたらすごい」という視点で一度見直す必要があるのではないか、と小山氏は述べます。しばしばVR体験について言われる「百見は一体験に如かず」という言葉はVR未体験者だけではなく開発者がコンテンツ製作の時に肝に銘じておくべき言葉だということ。

最後に、そのヒントとして、「リアル体験でないと得られない感動とは何かを中心に据えてコンテンツ制作をするべきではないか」という示唆を述べて本セッションは締めくくられました。

ロケーション型のVR体験ではありますが、VRの企画を行う上で、非常に参考になるヒントがぎっしりと詰まった講演となりました。CEDEC2016ではVR ZONEでのサウンドの演出についても知見が共有されていますので合わせてお読みください。

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