Home » 【体験レポ】ライゾマティクスと振付家MIKIKOによる公演「border」。現実と虚構が交じり合う新たな体験


イベント情報 2015.12.06

【体験レポ】ライゾマティクスと振付家MIKIKOによる公演「border」。現実と虚構が交じり合う新たな体験

12月4日〜12月6日スパイラルホール(東京・青山)でRhizomatics Reseach×ELEVEN PLAY の公演「border」が公開されました。

この「border」は、メディアアーティスト真鍋大度氏・石橋素氏らが主宰するRhizomatics Reseachと演出振付家のMIKIKO氏が率いるダンスカンパニーELEVEN PLAYのコラボレーションによる空間そのものを体験させるインスタレーション作品です。

この作品の楽しみ方は2通りあります。一つは実際に「border」を「体験」をしながら自分も動くことで、体験者が舞台の一部となること。そしてもう一つは、観客として、体験者を含むステージの様子を客席から鑑賞するということ。観客には正面の大画面に体験者の視点が表示されて、何を見ているか分かるようになっています。

今回の「border」で体験者が使用するデバイスはVRヘッドマウントディスプレイのOculus Rift DK2、そしてHMDを透過して外の世界を立体的に見ることができるOvrvisionのような装置などを組み合わせています。さらに、体験者はHMDを被った状態で車いす型の自動制御のパーソナルモビリティWHILLに乗って、HMD内に流れる映像を見るだけでなく実際にWHILLに動かされてダンスに参加することになります。

image201512071215062クレジット: Muryo Homma(Rhizomatiks Research)
image201512071215041クレジット: Muryo Homma(Rhizomatiks Research)

体験者は一度の公演で10人、体験時間は約10分です。他の観客が見ている前でWHILLに乗りこみOculus Riftを被ってヘッドホンをつけます。次にスタッフから手足を動かせないようにベルトを装着し、黒い大きなエプロンのような布で体を包まれれば準備完了です。このときに不具合があるのが分かれば対処してもらえます。デバイスを多く使うためか機材トラブルは時々起きていたのは避けられない課題ですね。

ここからは実際にどのような体験だったのかを、レポートしていきます。VRのコンテンツは往々にして感覚的ですが、この「border」は特に感覚的な体験です。

スタートしてまず見えるのは、VR空間。VR空間はCGで作られています。背景が黒く、現実にステージ上にあった白い柱のような大きな箱が同じ位置に置かれています。壁、床、照明等は白い線のみで描かれているので、まるで昔の3Dゲーム空間みたいです。

白い箱が動き、「border」というタイトルが表示されるととCGだけのVR対応にちょっと薄暗いHMDを透過して見える現実の映像が見えてきます。目の前には手招きしている無表情のナースがいて、自分が引き寄せられていくのが分かります。周りを見渡せば同様に動いていく参加者が見えます。

image201512071215063クレジット: Muryo Homma(Rhizomatiks Research)

ナースは踊りながら参加者や箱をまるで魔法のように手を触れず動かしていきます。身動きできない体験者とは対照的です。

前半は現実の映像とCGだけのVR空間が交互に切り替わります。VR空間に戻ると床がうねうね波打ったり、箱は透明になったり、黒くなったり、動いたり、星空のようなものが見えます。現実では、ナースと他の参加者が見えます。その中を自分が動いていくのが振動でも分かります。また、VRで誰もいないのに触られた感触があるとかなり不気味です。目で見ても誰もいないのに確かに誰かが存在する感覚です。

image201512071215045クレジット: Muryo Homma(Rhizomatiks Research)

中盤は現実の映像にCGでキラキラした光などのエフェクトや物体が加えられてます。ナースも現実のナースとCGのナースが同時に存在します。目の前で踊っているのはCGのナースですが、手が伸びてきて筆者の膝や肩や胸元に当たると実際に触られた感触がある(現実でも、同じ瞬間にナースが自分に触れている)など、だんだん現実とVRが曖昧になっていきます。

完全なCG空間でもないが現実そのものでもない。見ている映像はどこまでが現実なのか。動いているナースはCGに見えるが本当にCGだけなのか疑わしくなってきます。

後半はこの感覚がさらに強まります。自分では、現実の映像を見ていると思っていたのに、現実にはダンスをしているナースが筆者には動かなくなってうずくまっているように見えるという、CGで改変された世界の方を現実だと認識していました。

image201512071215046クレジット: Muryo Homma(Rhizomatiks Research)

体験した後はステージより高い観客席に座り、自分が体験したばかりのパフォーマンスを他の人がしているのを鑑賞することができました。中から見ていたものを外から見て、何が現実で何が作られた映像だったかを答え合わせできます。

観客席から見るとステージの上に体験者が見ている映像が映り、実際体験しなくても、VRと現実が曖昧に思えてくる映像を同時に見ることができます。

この作品が現実とVR以外に一体どういった「border=境界」を描いているのかは見ている人により感じ方はそれぞれだと思います。しかし今まで確たる認識だと思っていたものに疑問を感じることでしょう。

この『border』は、2016年2月27,28日に山口県のYCAM(山口情報芸術センター)で再び公演が開かれます。

(参考)
border公式サイト
http://www.rzm-research.com/border/


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード