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テック 2016.08.31

【CEDEC2016】デバイスを使わないVR 子供たちが屋内で砂浜を体験するには

8月24日から3日間に渡って開催されたCEDEC2016ではVRに関するさまざまな講演が行われました。

バンダイナムコスタジオの本山博文氏は、バンダイナムコが国内で展開している『屋内砂浜 海の子』というコンテンツ制作から得た知見の発表を行いました。なお、本講演で使われたスライド資料はCEDiLにて公開されています。

『屋内砂浜 海の子』とは

『屋内砂浜 海の子』(以下、屋内砂浜)とは、バンダイナムコが全国のショッピングセンターなどに展開している遊びスペース。白砂を敷き詰めた一角に、上からプロジェクターで映像を投影して屋内で「海遊び」が体験できるようにしたもの。開発期間は半年で、2015年10月29日に1箇所目がオープン、現在全国8店舗で運営中です。

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屋内砂浜でできること

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屋内砂浜にあるのはひんやりとした白い砂だけ。しかし、映像の投影などの技術によって、さまざまな海遊びが可能となっています。専用の器を使えば魚すくいができ、水の上で足踏みをするとバシャバシャと水しぶきがあがります。砂浜全体は一定時間で浅瀬・引き潮・大波・クジラジャンプとシーンを変え、それぞれにさまざまな種類の海の生き物が登場します。

屋内砂浜の製品概要

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砂浜のみならず壁面もスクリーンとなっており、クジラのジャンプなどの演出をダイナミックに行うことが可能となっています。

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以上のような『屋内砂浜 海の子』の紹介があった後、本山氏より開発を通して得た知見の発表がありました。本記事では以下の順でそれぞれ紹介していきます。

ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を使わないVRについて
多人数で気軽に楽しめること
コンテンツの中に入る「第一歩」の重要性
「現実の物」を使って実在感を上げる
全身でリアリティを獲得すること
まとめ(子供とバーチャルリアリティについて)

子供とVRについて

床に敷いた砂に映像を投影することで「海」を構築する『屋内砂浜』は、HMDの装着しない体験です。両眼立体視を使わないため、子供でも遊べるコンテンツである、と本山氏。

また、スペース全体を「海」という空間に仕立て上げるため、「砂浜」で遊ぶ子どものみならず、周りで見ている親などを含めた家族全員が同じ体験を共有できるという特徴もあります。

さらに本山氏は「子供たちは砂の上で寝ころんで泳ぐマネをする、波から逃げようとするなど、通常の砂遊びでは見られない、海遊び特有の振る舞いを見せます」と報告しています。

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2.多人数で気軽に楽しめること

「奥行4.5m、幅6.5mという広さは、親を含めて20名程度が同時に体験可能な広さであり、子供たちがはしゃいでもぶつかり合わないような安全も確保されている」と言います。

広さに加えて、コンテンツの設計にも「始まりと終わりがない」という工夫がされています。こうすることで、本物の海遊びと同様、自分の好きなタイミングで入って、好きなタイミングで出て行くことができるのです。

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3.コンテンツの中に入る「第一歩」の重要性

一般にVRコンテンツでは、実在感(自分が本当にそこにいるという感じ)を高めるために、導入部分の演出は特に大切だと言われることが多々あります。

『屋内砂浜』で導入の役目を果たすのは、海辺であるという視覚情報に加えて、砂浜に踏み出す第一歩で感じる「冷たい砂の感触」である、と本山氏は言います。

靴を脱いで裸足になる、ある種の”儀式”を経て『屋内砂浜』に入ると、真っ先に砂の触感とひんやりとした温度を子供たちを迎えます(砂は冷たく感じる程度に冷えているとのこと)。「海辺」の視覚情報と「海水は冷たい」という過去の体験・記憶が、現在の『屋内砂浜』体験とリンクし、「本当に海にいるのだ」と思いこませる導入の役目を果たすのです。

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4.「現実の物」を使って実在感を上げる

本山氏は、「現実の物を使うことで、リアリティを上げることができる」と言います。『屋内砂浜』では水こそ使ってはいないものの、砂は本物であり、魚すくいをする際に用いるのも現実の器です。
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5.全身でリアリティを獲得すること

『屋内砂浜』では、見える波、足に伝わる砂の触感のみならず、サラウンドシステムでリアルな南国の波音を再現し、この聴覚刺激によって体全体でリアリティを感じられる仕組みになっています。バンダイナムコスタジオが開発するVSSSと呼ばれるサラウンドシステムで、空の音、足元の波の音、遠くから聞こえる音など、各種の音を立体的に配置することで、よりリアリティを上げています。

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遊具とデジタル技術をミックスした新たなゲームデザイン

本山氏は最後に、遊具とデジタル技術をミックスすることで見出した、ゲームデザインの新たな方向性について報告しました。

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遊具は世界共通言語

CEDEC 2009で本山氏が行った講演(リンク)で、氏は「面白いゲームはどこの国の人でもすすんで遊ぶことため、ゲームは世界共通言語である」と述べました。

今回本山氏は「ゲームを遊具に置き換えても同じこと」として、遊具を使った遊びは世界共通の面白さを持つ製品になる可能性があると述べました。
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アナログとデジタルの遊び

『屋内砂浜』は、実はもともとナムコで人気コンテンツとしてあった『屋内砂場』にデジタル技術を組み合わせて作られたものです。既存のアナログコンテンツにデジタル技術を乗せることで、特に「都市生活では海に行くのは手軽ではない」という不便さを解消するという価値を生み出すことに成功した、と言います。

「プリミティブな気持ち良さ」が遊びの記憶を呼び覚ます

『屋内砂浜』は、雨上がりに子供が水たまりで遊んでいた様子から着想を得て、もともとはリズムゲームとなる構想でした。「水しぶきを上げてバシャバシャやる」というのが、プリミティブな気持ち良さに訴えて楽しさを感じられると考えたそうです。自然image12と行ってしまう動作で「楽しさ」を感じることで、繰り返し遊んでもらうことを狙った、と本山氏は言います。
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『屋内砂浜』でできる魚すくいでも、現実と同じようにすくう必要があるなど、「遊びの記憶を呼び覚ます」ような設計がなされています。

ただ、「遊びの面白さの本質を見極めるのが大切」だと本山氏は言い、以下の体験をもとに注意を促しています。

『屋内砂浜』の魚すくいでは当初、リアリティを追及して現実の魚すくいのステップを全て完全再現しようとしていました。しかし、開発を進めるうちに、「魚を次々とリズミカルにすくうことこそがプリミティブな気持ち良さを引き起こす。それこそが遊びの記憶に繋がる」ということに気が付き、魚すくいの仕様を大幅にカットしたそうです。本山氏は、魚すくいのステップを思い切って簡素化したことで驚くほど遊びが活性化した、と報告しています。

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飽きることを許容したゲームデザイン

『屋内砂浜』では、浅瀬・引き潮・大波などのシーンは、それぞれ時間で強制的に移り変わることで、一つの遊びを延々と遊べないような仕組みになっています。これによって子供の競争欲や収集欲を無暗に刺激しない効果が得られるとのこと。

ひとつの遊具に飽きたら次の遊具、それに飽きたらまた次……と遊んでいく子供の振る舞いは
「回遊行動」と言います。飽きることを許容したゲームデザインにすることで、子供たちにだらだらと遊ばせないようにし、常に元気いっぱい、新鮮な遊びのある、活気ある場所を作りたかったのだとか。

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デジタルコンテンツ消費からの脱却が実在感に繋がる

「こういうコンテンツは、見ている親にもプレゼンス(実在感)がないとだめ」と本山氏は言います。『屋内砂浜』では、スコアなどのゲーム的な遊びは緩く排除し、南国の海遊びを徹底的に追い求めています。ゲーム性が垣間見えるコンテンツにしてしまうと、「遊んでいる子供や見ている人にとって、それは海ではなく、巨大なゲーム機に見え、プレゼンスが一気に損なわれる」と言います。

海遊びの追求をすることで、「海遊び」に必要ないものは作る必要が無くなるため、開発工数も減らすことができた、と本山氏は言います。『屋内砂浜』が半年で開発完了に至ったのは、そういった背景もあるとのことです。

まとめ

本山氏は以上の話から、「プレイグラウンド(あそび場)ゲーム」というゲームデザインの方向性を示しました。本山氏はプレイグラウンドゲームを、「世界中の誰でも楽しめるアナログ的な遊具にデジタル技術を付け加え」、「飽きることを許容して回遊することで楽しむ」、「プリミティブな気持ち良さで遊びの記憶を呼び覚ます」、「ゲーム的要素を排し、実在感が損なわれないようにした」もの、と定義しています。

VRヘッドマウントディスプレイを使うVRコンテンツではありませんでしたが、”体験のデザイン”というVRのコンテンツ制作にも活かせる知見が得られる講演となりました。


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