建設現場でARを活用することで壁の向こう側を透視

本記事は「Redshift 日本版」とのライセンス契約を結んだ転載記事であり、ザック・モーティス氏の執筆した原稿を翻訳したものを、オートデスク株式会社の許諾を得てMogura VRに転載しています。

読者自身が新たなオフィスビルの建設クルーだと想像してみよう。その建設のプロセスも半ばとなり、いまは現場で冷暖房空調設備(HVAC)設置の検査を行っているところだ。読者は奇妙な形の工事用ヘルメットを被ると、作業用エレベーターから降りる。上を見ると、ちょうど吊り天井が取り付けられているところだ。その裏側がどうなっているのか、確認できないだろうか?

ヘルメットのバイザーでビルディング インフォメーション モデル(BIM)を呼び出すと、それが視野に重なる形で即座に投影される。暖房ダクトや送水管、制御盤などが表示され、廊下を歩いていくと、それらも視点に合わせて移動していく。モデルのレイヤーを剥ぎ取れば、ビルの鉄骨構造や断熱、材料の加工や表面処理も確認できる。まるで漫画に出てくる透視能力のようだが、それが近いうちに、近隣の建設現場でも実現するかもしれない。

[提供: DAQRI]

この魔法の帽子のようなヘルメット、DAQRI Smart Helmet は、製造業界を対象に開発されたウェアラブル AR(拡張現実)システムで、特に建築・建設業向けの仕様となっている。建築業者やエンジニア、デザイナーが BIM モデルを建設現場に持ち出し、ヘルメットを付ければ、その BIM モデルをフルスケールで没入感のある 3D 環境として体験可能だ。

マルチレイヤーされたビルディング インフォメーションへのアクセスが提供されることにより、建設作業員が空間の関係をより良く理解し、MEP(機械・電気・配管)の干渉をより早期に突き止め、より確かな情報に基づく決定を行うことでエラーを低減できるようになる。DAQRI の最高製品責任者であるロイ・アショク氏は「上司の確認だけのためにシフト終了まで待つことなく、現場で決断する能力が提供されます」と語る。「末端の建設作業員にも、力を与えることができるのです」。

DAQRI は、Mortenson Construction やオートデスクとの共同研究を含めた、このヘルメット(開発初期段階である現在の単価は 15,000 米ドル)の短い試用期間を開始しており、建築現場に少しずつ浸透し始めている。Mortenson は概念実証試験の一環として、このヘルメットをミネアポリス州ヘネピン郡メディカル・センターの建設に使用した。

Mortenson プロジェクト ソリューション部門シニア ディレクターのリカルド・カーン氏は、「BIM モデルは、第一段階です」と述べている。「モデルがもたらす価値は、実際には 25% 程度に過ぎません。残りの 75% の価値は、フィールド チームをプロジェクトのその他の情報にコネクトできる点にあります」。

[提供: DAQRI]

AR ウェアラブルには、あの大きな失敗のイメージが付きまとうが、Google Glass とは異なり、DAQRI は産業向けの用途に正面から焦点を合わせている。この土俵では、滑稽な帽子のような見た目のヘルメットでも問題なく受け入れられ、プライバシーに関する懸念もそれほど大きくない。

ハードウェア的には 3 種類のカメラが搭載されており、それらが連動して空間内の特定の位置にユーザーを位置付けすることで、ユーザー周辺の形状を解釈する。166度のワイドアングルのグレースケール レンズは、環境内でのユーザーの位置を 1cm 単位の精度で定義可能だ。

さらに、奥行き認識カメラである Intel RealSense が空間の形状とその中のオブジェクトを解読し、「これは扉、これは窓、これはテーブル」といった具合にユーザーへ示す、とアショク氏は述べる。この認識機能により、バーチャルなコンテンツの配置とモデルの変更が可能だ。このカメラは、作成された各部屋の「マップ」も記録する。「ほぼ地図作成機能です」と、アショク氏。3つ目の温度カメラでは、3D でレンダリングされたオブジェクトにユーザーが測定温度値をマッピング可能だ。

「ビジュアル走行距離計測システムによるユーザー位置と、ユーザーの周辺環境を組み合わせることで、知っておくべきことのほぼ全てを把握できます」と、アショク氏。

[提供: DAQRI]

DAQRI ヘルメットのソフトウェア デザインは、建設現場という、比較的危険度の高い独特な環境での機能性へ配慮して決定されている。当初のアイデアは、手信号を使用するものだった。その信号をヘルメットのカメラで読み取ってメニュー項目を選択するというアイデアだが、それはうまくくいかなかった。

「理由は主に 2 つあります」と、アショク氏。「ひとつは信頼性です。このテクノロジーは 99.99% の信頼性を持つほど十分には成熟していません。それに、疲労にもつながります」。しかも建設現場は、取り付け前の照明器具の位置を、手を振り回して示すのに適した場所とは言えない。そう、2 つ目の懸念は、手信号の使用に関してだ。

建設現場には火花や回転刃、剥き出しの配線、吊り下げられた膨大な数の鉄骨などがあり、作業員は作業中のタスクと実世界の物理的な周辺環境に細心の注意を払う必要がある。「現場で周辺の状況から意識をそらすと、危険にさらされることになります」と、カーン氏。

こうした懸念に対処するため、DAQRI チームはヘルメットを完全にハンズフリーで操作できるものにすることを決断し、エンジニアたちが「注視制御システム」と呼ぶアイデアに落ち着いた。視界上に配置される十字線がユーザーの頭の動きに合わせて移動し、「マウスやカーソルのように動作します」と、アショク氏は説明する。メニュー項目やハイパーリンク、モデルのレイヤー上に数秒間重ねると、それを選択。このヘルメットには Autodesk BIM 360 が同梱されるが、この製品は広範に使用できるため、(DAQRI に対応する)独自のカスタム ソフトウェアを作成するかどうかは、ほぼ各企業に委ねられている。

[提供: DAQRI]

DAQRI ヘルメットは、プロジェクトの建設段階で使うのが最も直感的な利用方法に思えるが、アショク氏は「デザイン段階の初日」に建設現場へ持ち込むことにも価値があると話す。建築家は作成したモデルを現地で、建設が始まる前にエンジニアや建築業者に見せることができ、またエンジニアや建設作業員は、問題となりそうな箇所を指摘できる。着工前であれば間違いの修正もずっと簡単で、コストも抑えられる。このシステムの分かりやすいビジュアル インターフェースにより、残工事のリストをはじめ、現場検査チェックリストや竣工後時間が経ってからのメンテナンスのために、建設作業員へ段階を追って示した手順を提供することもできる。

「AR は、社会が環境という文脈で情報をやりとりする手法に大きな影響をもたらします」と、カーン氏。「建設業界にとって、これは「ジャストインタイム」に関連する現場作業員の安全意識の向上など、幅広いビジネスの問題を解決するために必要な変革だと考えています。よりクライアント向けの価値としては、顧客が AR を活用することにより、施設の運用や管理を劇的に向上させることができます」。

現行の DAQRI は、ビル建設の手法を変えるものになりそうだ。だが依然として、ビルの静止バーチャル モデルをインポートして、そのモデルを実際の物体に重ねる必要がある。DAQRI の次のステップは、視界から隠されている要素を、モデルに含まれているかどうかに関係なく検出し、それをユーザーへダイナミックに示すことのできるデバイスの作成になるだろう。それは、本当の意味で AR が透視機能となる幕開けとなり、建設業界を、材料の全てが瞬時に理解できる世界にするのではないだろうか。

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