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活用事例 2017.07.03

報道でのAR活用 シリア内戦の惨状をARで伝える『Holograms from Syria』とは

VRが報道に用いられる事例が増えていますが、ARを報道に取り入れる取り組みもなされています。

シリア内戦の現状をARによって伝えるプロジェクトである『Holographic from Syria』が、米国バーモント州ベニントン大学において展示され、学生たちによる反響を得ました。

米国で活動するMRアーティスト、デザイナーである1RICが開発したこのプログラムは、VR/ARが報道にもたらす新たな可能性を示唆してくれます。

『Holograms of Syria』について

『Holograms from Syria』とはMicrosoft社のARヘッドセットであるHoloLensを用いて、シリア内戦の現状を写した写真を実寸大でAR表示することによって鑑賞するプロジェクトです。

戦争の犠牲者や戦闘中の兵士の姿を実物大で鑑賞することによって、現地から遠く離れた人が戦争の現状をより身近に感じることを目的として製作されたプロジェクトです。

制作者”1RIC”について

制作者はパキスタン出身のAsad J. Malik氏。現在は米国に在住している彼は、1RICという名義でARアートの製作をしています。彼はハリー・ポッターの魔法をMRで体験することが可能なアプリを開発したことでも有名ですが、今回のプロジェクトによって安全地域に暮らす人々の意識改革を促すために本プログラムを製作したとのこと。

彼の出身地であるパキスタンは2011年、アルカイダ最高指導者であるオサマ・ビン・ラディンが米軍特殊部隊によって殺害された地域であり、彼が生まれた病院からビン・ラディンの隠れ家からは「5分で行ける距離」だったそうです。

「(ビン・ラディン殺害時)TV画面に映っていた街や風景は、かつて私と家族が住んでいた場所とまったく同じでした」

パキスタンは9・11同時多発テロ事件によって引き起こされた一連の戦争によって大きな影響を受けた国です。戦争が身近な存在である彼にとって、スマートフォンの小型スクリーンに映る戦争報道では現地の状況を語ることができないと感じ、それが『Holograms from Syria』の製作の動機に繋がったと語っています。

「ニュースフィード画面に映し出されるのは猫の動画やトランプに関するミーム情報、美しいデザインのマットレスなどが雑多に垂れ流されています。シリアではアメリカ軍は現在戦争状態にありますが、ここには戦争がありません。ここには攻撃型ドローンはいないし、公共空間で身の危険を感じることもなく、隠れる必要もないのです」

バーモント州ベニントン大学にて展示

『Holograms from Syria』はバーモント州ベニントン大学にて展示され、同校の一学部であるVisual and Performing Arts Centerの、往来の激しい入り口に展示されました。計6つのホログラム写真をHoloLensを装着して鑑賞するというもので、施設内のソファの上には内戦で死亡し、トルコの海岸で遺体が発見された3歳の少年、Alan Kurdi君のホログラム写真が置かれました。


他にも、アレッポ市内を走る戦闘中の兵士の実寸大の写真が階段に設置され、これらの写真を見た学生によると、HoloLensを外した後も、写真が展示されたソファや階段を見るたびにこれらのホログラム写真をどうしても思い出してしまう、と語ったそうです。

VRだけでなくARのジャーナリズムへの活用

現在、CNNも報道に360度動画を取り入れるなど、メディアでVRを使用する取り組みも多くなされており、鑑賞者の感性に、従来のメディアよりも強く希求するというVRの特性は、報道においても大きなポテンシャルを発揮しそうです。

同時にARも認知度が上がり普及率が高まるにつれてメディアのツールとして取り入れられ、『Holographic from Syria』のように、戦争や災害の状況を、まるで自分が今いる場所に存在するかのように体験できるようになるかもしれません。

(参考)
VR Scout / ‘Holograms from Syria’ Merges Snapshots of War with Daily Life (英語)
https://vrscout.com/news/holograms-from-syria-hololens/

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