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活用事例 2017.08.07

人間の無意識に挑む VRで生体反応を集めてビジネス活用

 

TVCMを中心に映像制作を手がける株式会社AOI Pro.は、VRを体験する人の生体反応を取得して、それをビジネスに活用するサービスライン「VR Insight」を展開しています。

VR体験者の視線情報や脳波から、人間の無意識領域を究明する

AOI Pro.は、体験型コンテンツをクリエイトする「体験設計部」を設立し、2016年からVRコンテンツの開発を行っています。プロ野球の球速を体感できる『VR Dream Match – Baseball』や、女性と手をつないで美しい風景の中を歩行できる『Wonderful World – VR Private Tour』といったVRアクティビティを制作する際、同社では体験する人の心の動きに注目し、脳波や心電心拍などを測定していたそうです。

こうした知見を通じて同社は、VRでの生体反応をトラッキングすることで、人間の行動(意志決定)に影響を与える「無意識領域=インサイト」を究明できると考えました。それをビジネスに活用可能なサービスとしてシステム化したものが、今回発表された「VR Insight」です。

生体反応の取得にVRを利用するメリットしてはまず、高精度な視線情報の取得が可能になる点が挙げられます。「VR Insight」では、視線追跡型のVRHMDである「FOVE 0」が使用されており、視野角1度以下という高精度でアイトラッキングできる同機の性能が、大いに役立っているとのこと。

またVRの没入状態で脳波を計測する際には、外的なノイズの影響を受けにくい点もメリットになっているそうです。

今回の発表では、「VR Insight」の第1弾サービスとして、TVCMのオンエアテストに応用する「VR ON AIR TEST(VR OAT)」のプロトタイプが披露されました。

オンエアテストとは、完成したTVCMを被験者に見てもらい、その反応を集計するもの。「VR OAT」では、映像のどの部分に注目しているかといった生体データを取得することで、被験者の反応を科学的に把握できます。

今回披露された「VR OAT」は、「VR Insight」のサービスをAOI Pro.の得意分野であるTVCMのジャンルに応用したものであり、「VR Insight」が持っている可能性は、決してこれだけではないという点が強調されていました。たとえば、スポーツ・トレーニングの習熟度をVRで測定し、より効果的な練習を考案するといった具合に、さまざまなビジネスの可能性が考えられているそうです。

AOI Pro.では「VR Insight」の仕組みとシステムについて、現在特許出願中とのことです。

「VR ON AIR TEST」でTVCMを視聴する人の心の動きを可視化

発表会場には「VR ON AIR TEST」(VR OAT)のプロトタイプが展示されており、テストの流れを確認することができました。

テストの被験者はタブレットで事前のアンケートに回答したのち、VR内に用意されたブルールームと呼ばれる視聴室で、TVCMの映像を視聴します。視聴後にもう一度アンケートに回答することで、CMによる消費行動の変化がわかるわけです。

ちなみに、視聴室がVR内に用意されるため、無機的な作りのブルールームだけでなく、家庭の室内や街頭といったシチュエーションを自由に設定することも可能だそうです。


VRでTVCMを視聴する際は、頭に「FOVE 0」のHMDと脳波センサーを装着します。現在はHMDと脳波センサーが別々に分かれていますが、将来的には一体化して、より手軽に装着できるようにしたいそうです。

また同時に、心電心拍や圧力、体温などを測定できるセンシング機能が搭載されたコントローラーを手に持って視聴する形となります。

視聴中に各種のセンサーによって取得された生体データは、モニター上でリアルタイムに表示されます。こちらの画面では、VR内での視線情報のほか、脳波や心拍数、まばたきの回数といった多彩な種類のデータを確認することができました。

VRで取得された生体データやアンケートの回答はすべて、クラウド上に蓄積されます。自動集計で解析されたこれらのデータは、ブラウザ型のレポーティングダッシュボードで参照できます。

生体データはCM映像のフレーム単位で記録されており、時間を追って変化する様子をグラフで見ることも可能です。また、被験者が映像のどの部分を見ているかという視線情報は、映像の上に直接重ね合わせて可視化されています。

これらのデータは、クラウド上からリアルタイムで呼び出されているため、集計されたデータを性別や年齢別といった条件を変えてソートすることで、視線情報やグラフがどう変化するかを確認することもできます。

「VR Insight」の開発にはAOI Pro.に加えて、アルティテュード株式会社、株式会社 BlueMeme、FOVE, Inc.、ニューロスカイジャパン株式会社、アップフロンティア株式会社、株式会社ブライセンがパートナーとして参加しています。アプリケーション開発やクラウド管理システム、生体信号センサーなど、各社の強みを活かして協力し合うことにより、プロジェクトの始動から約3カ月という短期間で、「VR OAT」のプロトタイプを完成できたとのこと。

VRをビジネスの世界でどう活用するのかは、多くの企業が考えていることですが、VRと生体データを組み合わせて人間の無意識領域を究明するという「VR Insight」のアプローチは、非常にユニークなものです。それだけに実用面から研究面まで、さまざまな応用が期待できます。VRの新たな可能性を開くものとして、これからの展開が楽しみです。


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