VRヘッドマウントディスプレイの普及において、鍵を握っているPCパーツGPU。PCの中で描画処理を担当しています。Oculus RiftやHTC Viveといったハイエンドの高品質なVR体験を行う際には、極めて多くの描画処理を行うことになり、ハイエンドなGPUでもなんとか動作するというほどのものでした。
この春に登場するOculu Rift、HTC Viveとも、推奨しているGPUはハイエンドのGPU。PCに組み込もうとすると追加で数万円がかかることになります。
このGPUの性能が向上し、安価に高性能なモデルが普及するようになったら……高品質なVRはもう少し身近なものになるかもしれません。
世界を代表するGPUメーカーのAMDはVRへの対応を掲げて積極的な姿勢を示しています。今回は、来日していたVR担当ディレクターのダリル・サーティン氏に話を聴きました。
ダリル・サーティン氏
AMD, Radeon Technology Group, VR Director
ミズーリコンビア大学でコンピュータ工学、電気工学を専攻し、現在はAdvanced Micro Devices(AMD)社(1969年創業)のRadeon Technologu GroupにてVRビジネスのディレクターとして、 HTCViveやOculusなど世界中のVR HMDメーカーとの協業、欧米でのVR/AR業界団体の運営を推進中。
VRはもっと幅広い用途で使われるようになる
ーー昨年(2015年)あたりから、AMDは新製品発表会でも柱としてVRを挙げるなど積極的な姿勢を示しています。AMDのVRに対する基本姿勢を教えて下さい。
- ダリル・サーティン氏(以下敬称略):
- VRは一過性のものではなく恒久的なトレンドになって広がっていくと思っています。そのインパクトは全ての産業に及びます。今後10年前後のうちには、より高品質なVR体験が求められるようになり、GPUの需要は高まっていくでしょう。今でこそハイスペックなPCを必要とするコンテンツが多くなっていますが、長い目で見ると今後は、低スペックなPCでも動くような新しいコンテンツも登場してくると思います。ゲームにもハイスペックなPCが必要なものとそうではないものがあること同じです。きっともっと安くVRを体験できることが求められます。そうして色々なコンテンツが登場することでマーケットは広がっていくでしょう。
ーーそうなるとAMDとしては、ハイスペックとロースペックといった幅広いラインナップのGPUでVR対応を進めていくということでしょうか。
- ダリル:
- はい。ただし、現時点では、より高いパフォーマンスと低電力消費が求められています。VRの市場は、よりハイパフォーマンスでより良い体験を求めているところです。市場が成熟するにつれて、より幅広い使用方法が開発されていくでしょう。AMDとしてはこうした全ての使用方法を想定し、対応を進めていきたいと思っています。
ーーより低スペックのPCでも描画処理を一気に落とすフォービエイデッド・レンダリング(※)のような手法も登場していますね。より安価に良いVR体験ができるようになりそうです。
※体験者の視線を認識することにより、中心部を高解像度に、周辺野を低解像度にする手法。人間が現実を認識する際は、このようにして見ており、極めて自然な視覚を実現するとともに、全てを高解像度で描画する必要がなくなるため、処理負荷が一気に低下すると言われています。
- ダリル:
- そうですね。ただ低スペック・安価という点だけに注目しているわけではありません。フォービエイデッド・レンダリングのような技術によりローエンドのGPUでのVR体験が可能になります。一方で、ハイスペックなGPUでフォービエイデット・レンダリングを行えば飛躍的に高品質なVR体験が実現することにもなります。
シリコンレベルでのVR対応も研究中
ーー現在、AMDのGPUでのVR対応はどのようなことをしているのでしょうか。
- ダリル:
- GPUというハードウェアでどうすればVRの描画が最適になるのか、色々な研究をしています。それこそプロセッサの基本単位となるシリコンベースでの研究も含め、膨大な研究をしています。そしてソフトウェア。ハードウェアは研究開発に非常に時間がかかります。ソフトウェアはもっと速く開発が進みます。我々はオープンであることを重きをおいていきたいと思っており、マイクロソフト、OSVRといったプラットフォームにも提供しています。
ーー現時点のAMDのラインナップでVRに最適と謳われているRadeon R9 Fury XやR9 nanoなどのGPUは今おっしゃっていただいたハードウェアレベルでVR対応が行われているのでしょうか。
- ダリル:
- いいえ。現時点で出しているモデルは、高品質なVRの体験を可能にするパフォーマンスを発揮するモデルです。VRヘッドマウントディスプレイは高解像度で一定のフレームレート(描画速度)が必要です。私たちは、全てのGPUでテストを行った結果、快適なVR体験ができるだけのパフォーマンスを発揮できるものを推奨しています。
ーー現在、VRHMDを動かすのはデスクトップ用のGPUのみサポートされています。ノートPC用のGPUでの対応はどのように考えていらっしゃいますか
- ダリル:
- もちろんノートPC向けのソリューションには強い興味を持っています。具体的な部分はお話できませんが、今後VRが広がっていくのはデスクトップPCでの体験だけではありません。ノートPCやモバイルといった様々なデバイスでVRを体験するようになるでしょう。我々もサポートしていきたいと思っています。
AMDの中で重要性を増すLiquid VR
ーーソフトウェアの面での取組ですが、Liquid VRという枠組みを昨年(2015年)3月のGDCで発表していますね。
- ダリル:
- はい。フレームレートを維持して快適な体験を実現するには、GPUだけでなくハードウェア(VRHMDそのもの)、ドライバー、ゲームエンジン、ソフトウェアといった全ての要素が絡んできます。Liquid VRは、VRコンテンツの開発するためのSDKです。
ーー今後、アップデートはあるのでしょうか。
- ダリル:
- 今度のGDCで詳しい話をする予定です。この1年でLiquid VRはAMDにとって非常に戦略的な意味を持つようになりました。そういった戦略的な観点からの発表になりますので楽しみにしていてください。
ーー先ほどPCでのVRの体験には様々な要素が絡んでくるというお話がありました。各VRHMDメーカーやゲームエンジンなどとも連携はしているということでしょうか。
- ダリル:
- VRHMDメーカーともともゲームエンジンとも緊密にやっています。グラフィックカードで最適なパフォーを出すためのドライバ提供や、開発用のSDKへの組み込みですね。ゲームエンジンと連携をとらないとパフォーマンスが出ませんから。
ーーゲームエンジンにも次々とLiquid VRが組み込まれていくということでしょうか。
- ダリル:
- そうですね。Liquid VRには鍵となる機能が4つあります。組み込みはUnity、UE4、CryEngineなど行っていきます。4つの機能が全て組み込まれるか、一部かというのはエンジンによって異なります。今後はLiquid VRだけでなく、OpenGL, DX12にも対応する予定です。
Liquid VRの4機能
- Latest Data Latch(最新データの受け取り)
- Asynchronous Shaders(非同期シェーダ)
- Affinity multi-GPU(高効率なマルチGPU活用)
- Direct-to-Display(ディスプレイへの直接表示)
ーーソフトウェアメーカーとの連携はどうでしょうか。Crytekの”Back to Dinasour Island 2』や『GE Neuro』などはAMDも開発に協力したことが知られています。どういった形で連携しているのでしょうか。
- ダリル:
- コンテンツ開発者がゲームエンジンに組み込まれたGPU周りの新機能をいきなり使いこなすことは至難の業です。開発者はエンジンの既存機能には詳しいが、私達がエンジンに組み込んでいる新技術には詳しくありません。そこで、AMDのエンジニアがサポートする形で開発に協力しています。
ーーGDCでどういう発表を予定されていますか。また、日本のVR開発に携わる方々にメッセージをお願いします。
- ダリル:
- そうですね、GDC前ですから言えることが少ないですね(笑)我々はプロダクトを提供するだけではなくて、産業全体を支える存在としてVR業界に貢献していきたいと思っていますので期待して欲しいです。さらに、今年はGDCだけではなく、通年でVRに関する様々な発表をしていきます。各国の開発者の皆様のソフトウェア開発においての最適化をお手伝いし、グローバルで広げていくお手伝いができればと思います。
ーーありがとうございました!
AMDはGDC開催期間中の14日19時(日本時間15日午前8時)よりプレスカンファレンスを予定しています。VRに主眼を置き、OculusやHTCも登場するとのこと。その様子はライブストリーミングで配信されるとのこと。どのような内容が発表されるのでしょうか。
Mogura VRでは現地より速報でお知らせする予定です。