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業界動向 2020.02.17

2019年、VRは大きな転換点を迎えた

(本記事は、2月12日にRoad to VRに掲載されたThe VR FundのTipatat Chennavasin氏の寄稿を翻訳したものです)

Oculus Questの効果で、VRの普及は加速しています。100本以上のVRタイトルが売上100万ドルを達成し、VRソフトウェア市場は2019年の3倍の規模となっています。収益トップのVRタイトルは売上1,000万ドルを突破しており、ヘッドセットの普及状況を考えると6,000万ドルまで到達する可能性があります。まだ規模の小さいものですが、開発者にとってVRは、成長中で、今後も継続するプラットフォームです。

コンシューマー向けVR市場の正確なデータを入手することは困難です。ヘッドセットの売上が注目されがちですが、数値を公開しているのはソニーだけで、大半は推計です。一方、我々が把握できる中で重要なデータが、ソフトウェア売上です。ソフトウェア売上により、その製品がプラットフォームとプロダクトどちらの性質なのか区別することができます。もしOculusが1億台のVRヘッドセットを販売したとしても、サードパーティのデベロッパーが1社も売上100万ドルを達成できないのであれば、プラットフォームとは言えません。Oculusにとっては成功した製品と言えるかもしれませんが、デベロッパーが成功するエコシステム構築のための、重要なプラットフォームとは呼べません。

2019年9月のOculus Connect 6にてOculusは、同社のエコシステムに関する多くの公式発表を行い、VRは製品以上のものであることを示しました。イベントの中で、Oculusは同社のプラットフォーム向けVRソフトウェア売上が1億ドルを超えたと明らかにしました。そのうち2,000万ドルが、わずか4ヶ月前にリリースされた一体型VRヘッドセットOculus Quest向けのソフトウェアでした。

VRが成長中で今後も継続するプラットフォームである、というシグナルはこれだけではありません。

VRソフトウェアの売上追跡

アプリのレビュー数と売上本数には、強い相関関係があります。どのVRアプリストアでもレビューの件数を確認することが可能なため、エコシステムの”健全性”を追跡することができます。

以下の分析は、メジャーな全VRアプリストア(Oculus Rift、Oculus Quest、Steam、Playstation Network)の、一定期間のレビューを網羅して売上を推計したものです。また多くのVRゲームスタジオから提供された売上データのおかげで、信頼性の高い分析ができました。

Oculus

我々の推計に基づくと、最初の数年間ソフトウェアの売上は比較的小規模なものでした。転換点となったのは2019年です。前年と比較し、およそ10倍ものソフトウェア売上の飛躍的増加が見られます!これは、新たなハードウェア、Oculus QuestとOculus Rift Sの発売によるものだと考えます。また「Asgard’s Wrath」のような複数のヒットゲーム、そして「Beat Saber」の好調が続いている点も寄与しています。Questはリリースの4ヶ月後にOculusのソフトウェア売上の20%を占めていました。そして7ヶ月後には、40%近くまで比率を伸ばしています。

全主要VRストア


我々の推計では、2019年に市場全体で大きな転換点を迎えました。全プラットフォーム合計で、年間利益が約3倍、3億ドル近くまで増加したのです。主な要因はOculusの成功ですが、「Beat Saber」や新作VRゲームのヒットによる、PlayStation VR(PSVR)コンテンツの顕著な伸びも寄与しています。

純粋にソフトウェア売上だけを見た時、Oculusについて興味深いのは、過去からどの程度成長しているかです。ソニーは2020年1月、PSVRの売上台数は過去4年間で500万台だと発表しました。我々の推計では、2019年のソフトウェア売上は1.1億ドル近くです。OculusはQuestの出荷台数を公表していません。ただしインストールベースよりも大幅に少ないと考えると、2019年にソフトウェア売上が6,000万ドル近かったというのは印象的です。

デベロッパーにとってどのような意味があるのか

新興のプラットフォームにとって、ソフトウェアタイトルが売上100万ドルに到達できる時期は、重要なマイルストーンとなります。下記のグラフは、売上100万ドルに到達していたVRタイトルの本数を約半年ごとに集計したものです。
100万ドルを突破したタイトルが複数あるプラットフォームは”健全である”と言えます。なぜなら繰り返し成果が出ており、より多くの開発者が参入する余地があるためです。

集計したデータによれば、2017年末時点で100万ドル以上の売上を達成したタイトルは約40本です。そしてこの2017年、トップのVRタイトルは1,000万ドルを売り上げました。2018年末時点、100万ドルのマイルストーンを記録したタイトルは60本まで増加し、トップタイトルの売上は2,000万ドルを超えました。そして2019年末現在、100タイトル以上が売上100万ドルを超え、少なくともトップタイトルの1つは、年間売上が4,000万ドル以上となりました。

こうしたタイトルの大半は、大規模なAAAコンテンツのスタジオの作品ではありません。小規模なインディースタジオによるものです。我々の知る限り、このようなインディースタジオには、投資家からもプラットフォームメーカーからも資金供給を受けていないところもあります。自己資金で制作し、自ら成功を納めたのです。「Beat Saber」制作元であるBeat Gamesは、リリース年に2,000万ドルを売り上げ、初めて100万本以上を販売したVRゲームとなりました。
参考に、多くの人がモバイルゲームで初の大成功を収めたタイトルとみなす「Angry Birds」と比較してみると、「Angry Birds」は、初年度の売上が715万ドルでした。

我々は、VRにおけるインディーデベロッパーの成功こそ、正真正銘のプラットフォームのサインだと確信しています。これは同時に、モバイルやPCゲーミングといった過去のプラットフォームで確立していたリーダー達には、既存のコンテンツが持っているアドバンテージはない、ということでもあります。VRに対する”万人のためのゲーム”という認識は、より多くのデベロッパーをエコシステムに引き寄せます。そしてOculusや他のメーカーが消費者へのVRヘッドセット普及を進めることで、より多くの収益を上げられるチャンスがあります。

インディータイトルの場合、初期の開発予算は少なく、(必要だとしても)マーケティングコストは多くかかりません。そのためユーザーの自主的な発見や、Oculus、PlayStation、その他プラットフォーム主導のマーケティングによって人気を博せば、より早く利益を上げることができます。

成功しているゲームとその理由

どのゲームが売れているのか見てみましょう。収集したデータによると、下記が全プラットフォーム通じての売上トップ20のVRゲームです。そのすべては400万ドル以上を売り上げており、中でも上位7タイトルは1,000万ドルを突破しています。

勝者に共通する要素を探ってみます。明らかにVRネイティブのタイトルが、すでにPCゲームで出ているコンテンツや、IPを利用してリリースしたものに先んじています。たとえその作品が、「Fallout」や「Skyrim」のようによく知られたコンテンツだとしても。もちろん、上位作品には多くのPC向けゲーム発のものが含まれています。

新しいプラットフォームでよくあるように、そのプラットフォームネイティブで制作された作品が一番成功しています。ゲームとはインタラクティビティであり、インプットで規定されるものです。そしてVRにとってのインプットとは、複雑なジェスチャーでのインタラクションを行う1対のモーションコントローラーです。初めてプラチナ級に売れたVRゲームである「Beat Saber」と「Job Simulator」は、これを示す完璧な事例です。「Robo Recall」、「Boneworks」といったトップレベルのVRシューティングゲームでさえ、対象とのリアルなインタラクションといったVR特有のゲームプレイを活用しています。

売上上位7作品は、複数のプラットフォームでプレイできるクロスプラットフォームのタイトルです。これはデベロッパーにとって、潜在的なプレイヤーを最大化できるクロスプラットフォームのアプローチ検討が、いかに重要かを示しています。すべてのプラットフォームで同時リリースを行ったタイトルは1つもありません。上位20作品中、単独のプラットフォーム向けにしかリリースしていない、つまりそこだけで十分なユーザーが存在し、ヒットを支えた、というタイトルがごくわずかにあります。こうしたコンソールゲームと似た、あるプラットフォーム限定の作品はエコシステムにとって大事な存在です。

我々を勇気づける材料として、毎年多くのVRゲームの流行が見られます。これはVRゲームが常にフレッシュであり、同時に新たなリリース作品が成功していることの現れです。またエコシステムが健全であること、新規参入者や新たなIPができており、既存のブランドやIPと、この新市場で競争できること、を示しています。

興味深いことに、上位のゲームタイトルは世界各地で制作されています。「Beat Saber」はチェコ共和国、「Arizona Sunshine」はスペイン、「Job Simulator」はオースティン、「Super Hot」はポーランド、「Moss」はシアトル。成功がどこでも、誰の手によっても獲得できるのは素晴らしいことです。

新たなプラットフォームについて考えるとき、サードパーティのデベロッパーが100万ドルの売上を獲得できるペース、を気に留めるのが重要です。3年半の期間で、コンシューマー向けVRでは100以上のタイトルが売上100万ドル超えを達成しました。そして驚くべきことに、トップのVRタイトルは2年間で6,000万ドル以上を売り上げ、いまだ減速する様子はありません。インストールベースの推計1,000万台という数字も、ペースを上げながら伸びています。

新しいプラットフォームの始まりや、インディーデベロッパー、スタートアップの新たな成功を目にするのは素晴らしいことです。このペースでいけば、来年の今頃には、1億ドルのマイルストーンを記録する最初のVRタイトルが登場するのも難しくないでしょう。こうしてVRは新興のプラットフォームという段階を卒業し、誰もが注目すべきプラットフォームになるのです。

(参考)Road to VR
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